逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた 作:ちぇんそー娘
「ジョイ、お前は家族のとこに行った方がええ」
まだ村人の避難が完了してない時に、リエンは唐突にそんなことを口にした。
「俺の家は村の中心部から離れてる。人数から考えても後回しだ」
「あとは俺だけで確認できそうやし、あの範囲火力三人娘のおかげで魔獣もそう数は来ぃへん。それよりも、リィビアがすぐ戻ってこない方がおかしいやろ」
それでも、リィビアに任せるべき理由の方が多い。俺よりもリィビアの方が強く、万が一リィビアが負けるような敵ならば避難を完了させてから俺とリエン2人で相手にするべきだ。
それはリエンもわかっている。その上で、コイツは俺が行くべき理由を語っている。
「……ありがとう。行ってくる」
「なんでお礼を言うんや。あぁ、これ持ってっとき」
「ん……ってうわっ!?」
何かを投げてきたと思ったら、なんとリエンの野郎ナイフを投げつけてきやがった。何とか綺麗に柄を掴んだが、下手すりゃ一大事だったぞ。
「大丈夫大丈夫。俺は狙った的は外さへんし、逆に狙わない的には当てへん。お守り代わりに持ってっとき」
「ったく。んじゃ、遠慮なく行かせてもらうぞ」
「ああ。すぐ行った方がええ。嫌な予感がする。遅れたら、致命的な何かが起きる」
いつになく真面目に語るリエンを見て、俺は迷わず『
ここ最近の訓練で、出力を低下させて安定させ使用可能時間を伸ばすことには成功している。それでも、負担は大きいし起動できる時間が短いことに変わりはない。
それでも、そのリスクを背負ってまで急がなければならない。
リエンの表情と俺の直感はそんな何かを告げていた。
「遅くなったってか、もう遅いだろ馬鹿じゃねぇのか?」
恐らくこの事件の主犯格である男がそう言って、ハピに短刀を振り下ろそうとする。迷っている時間は一切ない。
最高速度で突っ込んで、男ではなくハピを抱える。
「なるほど、速いじゃねぇか」
そのまま
「兄さん……兄さんごめんなさい! 私のせいだ、私が頑張ってれば父さんも母さんもししょーも、ごめんなさいごめんなさいごめ」
「謝るな。お前のせいじゃないだろ。悪いのは、傷つけたやつだ。それに、お前がお兄ちゃんって呼んでくれたから少しだけ速く駆けつけられた。ありがとな」
「……カッコつけてるところ悪いが、ここからどうするんだ」
両親は傷も浅く意識を失っているだけだが、リィビアは顔が青く呼吸も不規則だ。何より、右の手首から先が切り落とされていて出血が酷い。
「リィビア、何があった」
「悔しいが油断したという他ない。あの男、固有魔術持ちだ。条件は恐らく相手を刃物で傷つけること。……だが、それだけなら魔術の理に反する性能だ。何か、他にも条件があるはずだが、とにかく相手からの攻撃は一撃でもまともに受ければ詰みになる可能性がある」
最低限の情報を伝え、リィビアの焦点が少しブレる。この症状は恐らく毒物だ。失血と怪我、毒による意識の混乱で魔術の発動を阻害させる。
それだけならリィビア程の術師なら即座に解毒するだろうが、『魔力単位』での停止と言っていたことから恐らく魔術の発動をそれで阻害され、既にリィビアは毒がかなり回っている。手を翳しても視線で追っている様子はなく、痛みや怪我、毒の効能で治癒や毒物の分解などの複雑な魔術の使用は阻害されてしまっているのだろう。
「ハピ、動けるか?」
ハピは泣きながら首を横に振る。
……これはリィビアでも負けて仕方がない。
動けない人質が3人、大規模魔術の使えない閉所。とことんリィビアのような純魔術師の苦手な戦場。加えて相手は『魔術騎士を殺すのに慣れている』。そうとしか考えられない手際の良さだ。
「ハピ、何か危険が迫ったらとにかく大声で助けを呼べ」
「ま、待って、お兄ちゃんは……」
「あの男を止める」
しかしどんな理由があれリィビアが負けた相手だ。
俺の知っている『魔女の眷属』や、どんな異常な魔力を持った敵かと思ったが……。
本当に、リィビアがアイツ1人に負けたのか?
『
だがやるしかない。『
「お話は終わったか、ジョイ・ヴィータ」
「待っててくれるとは律儀なところがあるんだな」
「そりゃあな。確実に1人生け捕りにして来いって言われたからわざわざ出てきてやったが、俺としちゃあ時間さえ稼げりゃそれでいいんだよ」
発言と魔力の雰囲気からして間違いない。この男が今回の魔女の協力者であり、結界の起点だ。つまり、コイツを殺せば結界は解除される。
「事前通告だ。今すぐ結界を解除し武器を捨て投降しろ」
「おお何だ、騎士学校てのは生徒にまで高潔さを求めるのが流行ってるのか?」
「んなわけねぇだろゴミ野郎。一応言っておかなきゃ後で俺と
「なるほどなぁ。俺、人殺しなんだけど免除とかある?」
「協力的な姿勢によっては、無罪放免とはいかないが死罪は免れるだろうさ。牢屋ぐらしにはなるだろうが」
男はそうかそうかと頷いて笑い、短剣を地面に捨てて両手を上げる。
その様子を見て、俺は構えを解き剣を下ろして──────
「牢屋ぐらしは楽しくなさそうだからな、こうさせてもらうぜ」
懐からまた別の短剣を取り出しながら突っ込んでくる。その動きは
「……うおっと、あぶねっ!」
「ッ!?」
なんの前触れも俺は出さなかった。完全な不意打ち、擬似的な未来予知から繰り出した蹴りを、間一髪で身を捻り、すぐに後ろへと飛び距離を取りながら俺の表情を舐るように見つめてきている。
「……何テメェの方が予想外みたいな顔してんだ? あぁ、予測系の固有魔術持ちか? それともよっぽど自信があったか。騎士学校の生徒ともなりゃ自信家は多いからな。さっきの間抜けな女みたいに」
挑発、こちらの意識の撹乱狙い。
下卑た笑みも所作もこちらを煽るのに効果的だから使っているだけ。相手が今焦っているのか、余裕があるのか、表面から全く読み取れない。
リィビアが負けた理由がようやくわかってきた。
この男は多くの経験を積んでいる。
リィビアは強いが、戦闘を知らない。この男は強さで言えばリィビアと比べれば明らかに劣る。しかし、戦闘というものを何度も繰り返している。
だからコイツはひたすらに厄介だ。
コイツには純粋な経験量からくる判断の速さと選択肢がある。常に戦闘で多くの札を持ち、それを瞬時に使う思い切りの良さ。
戦い慣れている。ただそれだけでここまで厄介になる相手はそうそういない。
今後ろに跳んだ時も、この家の間取りを完全に把握した動きだった。家主の一家である俺よりも、この家の中という戦場はコイツにとって戦いやすい場所になっているだろう。
「挑発にも乗らない、どうやらなかなか賢そうだ。魔女のやつが直接ご指名して殺そうとするのも頷けるな」
「魔女が……?」
早急に決着をつける必要がある。だが、その上で魔女の情報を聞き逃すことは出来ない。
「あぁ。魔女のやつはお前と妹、でいいのか? その2人を殺してあとはリィビア・ビリブロードを生け捕りにしてこいとご指名だ。まぁ俺が相手しなくてもこの結界の中はもう魔獣の巣だ。そのうち死ぬだろうけどな!」
「じゃあなんで相手してんだよ」
「確実に殺しておきたいってのと、1人は生け捕りにしなきゃならねぇ。そして……」
男は短剣を構え直し、床を力強く踏みしめて叫んだ。
「魔女に殺意を抱かれる男との殺し合いなんて楽しそうじゃねぇか! 今世紀最大のエンタメを逃すなんてバカのやることだぜ!」
短剣二刀流での接近戦。
……と思わせて、空気を斬る音が目の前ではなく真横から飛んできた。
「矢、ッ、仲間!?」
矢を剣で弾き、すぐに視線を飛んできた方向に向けるが、そこに人影はなくただ窓の外の木の上にクロスボウが固定され設置されているだけだった。そして、どんな理由があろうと俺の意識は僅かに男から逸れてしまった。
「おいおいおいおい! 余所見されちゃあ妬けちまうぜ!」
相手の短剣よりこちらの方が間合いは上。だから相手は近づこうとしてくるし、俺は近づけないようにする。『
だが、それでもまだ相手の方が速い。
どうなってるんだこの男は。『
「もちっと身長が高かったら、背を無理やり低くされちまってたな」
軟体動物のような膝の柔らかさで転がるように姿勢を低くした男は、手の力で飛び上がりながら短刀を俺の首へと迫らせる。だが、この角度なら腕を盾に短剣を絡め取り、装備を一つ奪える。毒だって『
……と、リィビアからの情報がなければ俺はなんの躊躇いもなく腕を盾にし、詰んでいただろう。隙のある男の攻撃に対してカウンターを行わず、全力での回避行動に出る。
「今の、普通隙だらけだカウンター! ってところだろ。お前本当にガキか? 騎士のオッサンを相手してるみてぇ……いや、剣術は新しい。なのにどうも戦い方に年季がある。師匠が年季の入った騎士か? いや、経験は簡単に引き継げるものじゃねぇし……ったく、面白ぇな」
獲物を見つめる男の目は、薄汚れているがその奥の輝きは芸術を鑑定する鑑定士のような熱があった。
記憶の全てを見られているかのようで、実際に俺の前世での経験などの普通気が付かない部分にも直感的な言葉だが言い当ててきている。
なんだコイツ、得体がしれ無さすぎて怖い。一体、コイツは……。
「何者だ……?」
「ん、あー、まぁお前にならいいか。ダグザ・フォール。ただの盗賊だ」
狭い室内、お互いに間合いを測りながら言葉を交わしていく。
俺は『
上っ面だけの、心を通わせる気のない、無意味な会話。
「アンタ、なんで盗賊なんかやってんだよ。その実力がありゃ騎士団でもやってけただろうし、持ってんだろ? 固有魔術」
「そりゃ俺も思うけどよ。まぁ金も時間も運も俺には何も無かったってだけだ。別にそのことを何か思ってるわけじゃねぇが……こっちの方が楽しいからな」
男は1歩、俺の間合いを測ろうとする目論見を見抜いたのかそれとも本当に自殺でもしようとしているのか。驚く程にその命が散るかもしれない重い1歩を軽く踏み出した。
「法ってのは守る代わりに守られるから成り立ってんだろ? なら明日魔女がぶっ壊すかもしれねぇ世界で、んなもん守ってつまんねぇ人生送るよりは、魔女に殺される前提で好き勝手やった方が楽しいだろ?」
「刹那主義に付き合ってやれるほど短絡的じゃねぇんだ」
「今が楽しければいいんじゃねぇよ。俺は人生を楽しみてぇんだ。誰だってそうだ。これは間違ったことだって批判されなきゃならねぇ事か? 誰かの幸福は誰かの不幸だろ?」
少しづつ、男の足が俺の間合いに近づいてくる。
よく回る舌で話しながら、学のなさそうな顔と声で何年も政治の真ん中に携わった者のような不可思議な説得力のある顔と声で、矛盾に満ちた男が近づいてくる。
ダグザという男の言う通り、誰だって人生は楽しみたい。俺の両親も、リィビアもハピも、俺だって楽しみたい。その過程で誰かが不幸になるのは当然のこと、仕方の無い理。
俺が1位になれば、俺と同じように1位になりたかった誰かが1位になれないように。幸福の絶対数は決まってる。
「でもそんな話今関係ねぇだろ。テメェは傷害罪と殺人未遂、魔女への共謀その他諸々バッチリ罪人なんだよ。明日が来ねぇと勝手に刹那に生きてんなら山奥で動物でも飼って暮らしてろ」
「……ハハッ、そうだそうだ! その通りだ! 意味なんてねぇ! 俺の言葉に今の状況はなんも関係ねぇよ! こんな薄っぺらな盗賊1人の言葉で、お前の世界が変わるわけがねぇ」
たいそう面白そうに笑いながら。
「──────あぁ、そうだ。だから世界は変わらねぇんだ。誰も彼も、俺もお前も無力なんだよ」
「俺が無力かどうかなんて、これから俺が行動で決めることだ。テメェに決められることじゃねぇんだよ!」
相手を否定するように、言葉ごと体を斬り裂かんとする。その攻撃も的確に間合いを読まれ一歩後ろに下がられ、避けられる。さっきからずっとこれだ。
正確に俺の間合いに入らないように立ち回り、俺が間合いを測り損ねて剣を振り隙を晒した瞬間にだけ接近してくる。間合いを詰めようと全速力で接近しようとすれば、刺し違えてでもこちらに攻撃を当てようとしてくる。
ジワリ、と染み込むような痛みが眼球を伝い脳に走ってくる。出力制限をしているとはいえやはり『
「古流アメリア式剣術だろ」
「……ッ」
ダグザの言葉に出来る限り感情を表に出さないようにしたが、隠しきれなかった。
なんでさっきから、騎士学校の上位の生徒でも反応しきれない程である俺の『
「古いし断絶して使い手は少ないがゼロじゃねぇ。今時教えられるやつが残ってたことが意外だがな」
空虚で刹那的、何もかも諦めてるくせに。なんでこいつこんなに博識なんだよクソッタレ!
この男は本当に、自分が楽しく生きて、自分だけ利益を得て今日を生きることだけを考えてきたんだ。だからコイツは空っぽだけど強さに厚みがある。1秒後に燃え尽きてもおかしくない生き方で、今日まで生き延びてきた男だ。安全な道を進んできた人間とは人生経験、それもこと生存策におけるそれは何倍も豊富だ。
人生二週目である俺ですら、コイツの持つ厚みには敵わない。誇ることも無く、光ることも無く、ただ暗闇で人を斬ることだけを目的に研ぎ澄まされたその刃はこと人を斬ることにおいては特殊な機能のあれこれついた聖剣魔剣すら上回る。
だから、コイツに勝つには凡人が天才に勝つ為の賭けにも似たジョーカーでは無い。
「……なんだ、その構え?」
始めてダグザの顔に焦りの色が見えた。さすがにこれは知っているわけがないという安堵と、もしもしっていたらコイツは
あの、遥か遠くから見ることしか出来なかった『英雄』のように。
「大昔、友達に教えて貰った構えだよ」
魔女との戦いの中、アイツは俺に剣を教えてきたことがあった。当時はアイツに教えられるのが嫌で、それでも死ぬのも嫌だからいやいや教わって何言ってるのか全然わかんなくて言われたことの半分も出来なくて微妙な空気になったのが辛かったことばかり覚えていたけれど。
今になると不思議なくらい、あいつの一挙一動が鮮明に思い出せる。まるで今目の前にアイツがいるかのように。
「英雄様の剣術だ。冥土の土産に覚えとけ」
師匠との修行で俺は幾つも新しい技を身につけた。魔術はもちろん、体の動かし方からちょっとした小細工。そして師匠仕込みの剣術。確信を持って言えるが、どっちの剣術を使った方が強いかと言われたら間違いなく古流アメリア式、師匠から教わった方だ。
幼い頃から体に叩き込んだし、師匠の教え方が良かったからこちらの方が使い方として洗礼されているし、前世での俺はアイツから教わった剣術を模倣しきれなかった。
でも、それは決して無駄ではなかった。
総体としての敗北。無意味で無価値だったかもしれない挫折と後悔だけの人生。それでも今、この時だけは、積み重ねてきた時間と手を伸ばし続けた切望こそが、目の前の敵を否定できる必殺の一撃になり得るのだから。
・流派
騎士学校で主流なのはギガト・レムノとその弟子達が積み重ねてきた『ノムト流』と魔術騎士の多くが実戦で発展させてきた『輝剣流』の2つであり特徴として前者は魔術を行使しながらそこに剣を交えることでアーリスなどはこちらの派生、後者は剣術の中で動作に魔術式を組み込むことでの高速戦闘を軸にしており、使用者はアウルなどになる。
リィビアのような魔術騎士ではなく、魔術師の戦い方にも流派はあるがリィビアは天才なので独学であり、クラキアも天才だし武器が固有魔術由来なので独学だし、リエンはなんか独学で、今年の騎士学校1年の生徒は天才が多いので独学が多い。
ちなみに前世でデウスが教えた剣術はジョイが魔女との戦いで生き残れるようにデウスが無理やり教えたものなのでデウスとエアが使う我流とは別物。
・古流アメリア式
ジョイがアルム師匠から教わった剣術。現代ではほぼ失伝している。闇属性の魔術の使い手が飛び跳ねるように使う技であり踏み込むことの出来ない空中での動きや相手の魔術と自分の魔術を干渉させて肉体を動かす方法など、実践的でやや捨て身の傾向。魔力量の少ない人間が高い人間、強大な魔獣などに対抗するために生まれた。これの修得のためにジョイはめちゃくちゃ崖から突き落とされまくった。