逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた   作:ちぇんそー娘

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4.国辱の猛炎 1

 

 

 

「おはよう親友! 今日は漏らしてないかい?」

 

 朝からリエンの頬にハイタッチ(ビンタ)しようとしてそれを止められつつ、俺は机に白紙のノートを広げ、現状を整理していた。

 

 もうエアの事はある程度理解した。まぁ、俺がこうして人生二週目になってるんだからデウス・グラディウスという金髪碧眼天才イケメン騎士様が才能そのままにロリ巨乳美少女騎士様になってることもあるだろう。そういうことにしておかないと俺の一番欲と性欲がぶつかり合って大変なことになる。

 

 改めて思い返してみると、エア・グラシアスはとんでもない美少女だ。元々デウスが美形だったから当然だろうが、それに加えてあのこじんまりとしているのにどこか雄大な大地を感じさせる包容力とか、おっぱいが大きいこととか、色々と俺の好みすぎるが、奴に性欲を向けると俺の中の何かが壊れる。

 

「朝から何難しい顔しとるん? もしかして腹痛いの我慢しとる?」

「一応聞くけど俺が漏らしたって風評広めたのお前じゃないよな?」

「俺が広めるんやったらもっと情けない噂にするやろ」

「それもそうだな」

 

 まだ出会って一日なのに、リエンという生き物のクソっぷりは何となく理解したというか、多分こいつ本当に俺の師匠と気が合うんだろうなぁとどこか遠い目で親友を名乗る不審者を眺めていた。

 

 本当なら俺はこういう奴は嫌いなはずなんだが、何故かこうしてコイツが近くにいるとなんだかんだで落ち着くというところがある。これは多分、今世では親と過ごした時間より師匠と過ごした時間の方が長いことも影響してるのだろう。なんだかんだ言いつつあの人は凄い人だから、一緒にいると安心するのだ。

 

「……ジョイ。俺のことじっと見つめるのはええけど、他の女の顔を思い浮かべながら俺を見るのは、さすがにその……キモイ」

 

 ナチュラルに思考を覗いてくる所もよく似ているな。今度師匠に血縁居ないか聞いておこう。前に結婚してるかどうかを聞いた時は何故か顔を真っ赤にされてはぐらかされたからな。

 

「お、おはよう二人とも」

「おはようさんアーリス。アンタもどや、情報交換でも。ちなみに俺が出せる情報は、ウチのクラスの魔術基礎担任がちびっ子教師で有名なマグノ先生やってことやで」

「それ私も何か言わなきゃダメ……えっと、えーっと……わ、私の今日の下着の色は」

「OK。俺が悪かった。アーリスはどうか、そのまま()()を知らぬままでいてくれや」

「俺を見ながら汚れを強調するな」

「ズボンは汚れとるのに?」

「お前ホントいい加減にしろよ?」

 

 遅れてやってきたアーリスも会話に加わり、席が近いこともあってか完全に俺も巻き込んで『三人組』という雰囲気が出来上がっている。

 それ自体は悪くない。むしろ前世では色々と余裕がなくて友達がほぼゼロだったし、なんだかんだこうして話を出来る奴がいるのは楽しい。

 

 

 ただ問題は……今やってきた瑠璃色の髪の毛のこの少女、アーリス・イグニアニマについてだ。

 

 

 

 

 

 アーリス・イグニアニマは優秀な騎士を代々輩出してきたイグニアニマ家の長女で、確か3学年には兄のアロー・イグニアニマがいたはずだ。

 

 申し分ない家柄に相応の実力。

 女性ながらも勇ましく戦い凛々しく佇むその姿は同性からも人気であり、人望もあった。本人の努力については俺が知る由もないが、間違いなく恵まれた人間ではあったはずだ。

 

 

 そんな彼女は将来的に自らの兄を斬り殺し、突如として人類の全てを裏切って『魔女』の側へと寝返った。

 騎士団の中でも次期騎士団長候補と言われていて、既に相応の権力を与えられていた彼女の裏切りは戦局に大きく影響し、更に『魔女』による強化を受けた彼女の炎は、剣を一振しただけで視界の全てを焔に染め上げたと聞く。

 

 最終的に彼女を倒したのはデウスで、俺はその場にいなかったから詳しいことは知らない。

 だが、聞いた話によれば彼女の最期は壮絶なものだった。手足の腱を切り裂かれ、どう考えても絶命した肉体に自らの炎を流し込んで無理やり動かしながら、死んだ後ですら延々と怨嗟、呪いの言葉を吐き続けて、その肉体が完全に塵になるまで近づくことが出来なかったと言う。

 

 

 

 

 

「ん、なんやアーリス。教室で朝飯食うんか?」

「朝と昼の間のご飯。朝ごはん食べてから教室に来るまででお腹減っちゃわない?」

 

 そんな未来の『猛炎(フレア)』は何も考えてなさそうな顔で俺の昼飯よりも量がありそうな弁当箱を開けて物凄い勢いで食べ始めていた。

 本当に、コレがアーリス・イグニアニマで間違いないのだろうか? 顔のパーツはそっくりだが、印象と何よりもイグニアニマ家の特徴でもある赤色の髪の毛が、彼女の場合真逆とも言える瑠璃色の髪の毛になっている。

 

「ジョイくんも食べる? お腹が減ったら、授業に集中できないよ?」

「俺は朝はあんま食べないタイプだからいいや」

 

 炎系に適正が高い者は大食いの傾向があると風の噂で聞いた事があるが、それでも限度があるだろう。

 とにかく、やはり目の前の瑠璃色大食い気弱女のアーリスが俺の中で将来『国辱の猛炎(フレア)』なんて呼ばれる紅の騎士と結び付かない。

 

 何か、一応調べておいた方がいいのだろうか。

 でも正直俺は『魔女』に関することにあまり知識がない。故にそこら辺に下手に干渉するのは危険だと思ってるし、師匠からも暗に関わるなと言われているし、やはりそこは考えすぎずに今は普通に学園生活を送っておくべきか。うーむ。

 

「ご馳走様っと。そうだジョイくん、もし良かったらの話なんだけどさ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやーまさか俺の親友二人が争うことになろうとは。これも因果か」

 

 闘技場の控え室にまで侵入してきてケラケラ笑ってるリエンを無視して、俺は精神統一を続けていた。

 

 

『まだ模擬戦の予定とか組んでないんだったら、私と一回勝負しない?』

 

 

 あんなに弱気なアーリスからその提案をしてきたことに多少面を食らったが確かに一応友人と呼べるくらいの関係ではあるであろう相手を最初の相手にしたいという気持ちは分からないでもなかったし、何より断る理由が特に思いつかなかった。

 

「でもいい機会かもな。なんだかんだ、アーリスはあのイグニアニマ家の御令嬢さんや。彼女を倒したとなれば、漏らしたなんて言う風評被害は収まるかもしれんしな」

 

 ……リエンの言う通り、それもちょっと思ってる。

 正直割とマジで辛い。学校のどこに行ってもヒソヒソヒソヒソ、漏らしたの漏らしてないのってめちゃくちゃ見られるし、トイレに入ろうものなら笑い声まで聞こえてくる。栄えある騎士学校のくせにあまりに陰湿だ。こんな学校生活は楽しくない。

 

「さて。じゃあ俺はそろそろ観客席に戻るから、頑張れ〜」

「呼んだ覚えないんだがな」

「まぁまぁ。せっかくこの会場に()()()()()()()()()()()んやから、ちゃんと結果出してくれんと無駄な出費になってまうから」

 

 そう言い残してリエンは控え室から飛び出して行ってしまった。

 アイツ、なんだかんだで俺の『漏らした』という風評被害を減らす為に今日一日ずっと遠回しに噂のすり替えやら手回しやらをしていてくれたのを俺は知っている。

 性格は悪いが、悪い奴ではないのだろう。いや性格が悪い奴は悪い奴かもしれないけれど。少なくとも、そばにいて居心地が悪くない変な奴だ。

 

 

「愛弟子〜! ジョイの初試合だから応援に来たよ〜!」

 

 

 そして入れ替わりで似たような性格の奴が入ってきてしまった。どうしよう。もうマジでめんどいから追い出してもいいんだけどそれやると後日マジギレされるかもしれないんだよな。

 

「師匠……。今は事前に集めた情報とか整理したいし、集中したいんですよ」

「だからこそ私が検査に来たんだろう。言っておくけど、私が君と過ごした10年で授けた『切り札』は切るなよ? アレは負担も凄まじいし、何より君の目標がグラシアスくんのような生徒であるならば、一度見せれば『切り札』ではなくなる」

 

 そこのところについては心配は全く必要ない。

 俺と師匠の切り札であるアレを使うつもりは全くない。むしろ、こんな言い方は失礼だがアーリスに切り札を使ってしまってはまずエアには勝てない。

 

「心配しないでください。アレがなくたって、俺には師匠と積み上げた10年がある。3倍の時間にしても、それよりもずっと濃厚で大切なあの時間が」

 

 実際、俺の30年近くの前世よりも師匠との10年の修行の日々の方が実りあるものになったと思う。多分今の俺と前世での全盛期の俺が戦ったら今の俺が勝つと思えるくらいに。

 加えて俺にはアーリスの、イグニアニマ家の『切り札』である『猛炎(フレア)』の情報がある。

 

「──────絶対に負けません。だから、安心して治療の準備していてください」

「……ふん、治療の準備もしなくていい、くらい気の利いた事を言え若造」

 

 俺なりに感謝と敬意を込めたつもりだったが、師匠のお気には召さなかったようでろくに顔を合わせずに師匠は出ていってしまった。

 一応、切り札の検査とかしてもらいたかったけれど問題があったならあの人が見逃すはずがないし大丈夫だろう。

 

 

「よし、行くか」

 

 

 いよいよ俺のやり直しが始まる。

 緊張してるかしてないかでいえば確実にしているが、リエンと師匠のおかげで多少は解れた。

 俺の努力は天才達に通じるのかとか、いらない心配が頭を過ぎって全部吐き出してしまいたい気持ちもあったが、それ以上に楽しみで口角が吊り上がっていた。

 

 今度こそ、俺は絶対に一番になってやる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場に入ってみれば、既にアーリスは準備万端……なのだろうが、足を震わせて顔面蒼白で立っていた。

 

「その、大丈夫か?」

「ふふふ、大丈夫に見える? 緊張と後悔で思いっきり吐きそうだよ」

 

 それすると多分、俺よりも色んな意味で有名になるだろうから俺としては助かるけど、女の子に付き纏う話題としては最悪の物が付き纏う学園生活を送ることになるから我慢した方がいいだろうな。

 

「なんでそんなに嫌そうなのに、自分から俺に勝負を申し込んだんだよ」

「知ってるだろうけどさ。私、イグニアニマの人間だから。兄さんは一日目すぐに快勝の報告してきたぞって、お父さんからね……」

 

 ごめんね、と何に対して謝っているのかも分からないまま、申し訳なさそうにアーリスは紙を丸めたみたいな笑顔を見せた。

 

「一応言っておくと手加減とかはしないからな? 俺は一番になるためにこの学校に来たんだから」

「もちろんそれでいいけど……私は、何となく知ってる人と最初は戦いたいなーって。もしも蓋を開けてみたらグラシアスさんみたいなの飛び出してきても怖いし」

「あんなもんがポコポコ飛び出してくるんならもう世界はおしまいだから安心しろ」

 

 嫌だわエア級の怪物が闊歩するような学校。

 だがエアには及ばずとも決して劣らない天才がそんな風にポコポコ現れるのがこの学校だ。そしてアーリスも間違いなくそのうちの1人に入るだろう。

 

 試合開始の合図と共に、両者剣を抜いて向かい合う。

 

「……ごめんね。私を知ってる人なら、油断してくれるかなって」

 

 

 瞬間、視界の全てが赤色で覆われた。

 何が起きたか。そんな判断をしている余裕は一切ない。全ての魔力を防御に回しながら、全力で後ろに跳んだ。だがそれが間違いだったことには足を地面から離した時になってからようやく気がついた。

 

 炎を切り裂くように、その内から飛び出してきた赤色の柱が横薙ぎに俺の体を殴打した。身を捩ってどうにか勢いを殺そうとしてもそんなことが出来るサイズや速度ではない。メキボキゴキ、と聞こえちゃいけない音が体内で響くのを聞きながら体が吹き飛ぶ。

 

 

「……っぅ、は、は? え、何? 何?」

 

 

 あまりに情けないそんな感想が漏れてしまう。

 ようやく視界が元の色を取り戻して対戦相手の姿が見えた時、そこに立っていたのは瑠璃色の髪の毛の少女ではなかった。

 

 

「弱気でビクビクしてる私を知ってるなら、油断してくれるだろうなぁって。だってジョイくん、お人好しだろうからね」

 

 

 

 赤色の毛を靡かせ、他人を食い殺すような凶暴な笑みを浮かべるその少女。

 背中から炎の翼、イグニアニマ家相伝の固有魔術である『猛炎(フレア)』を起動させたその姿。

 

 前世での俺のイメージが良く似合う、アーリス・イグニアニマがそこには立っていた。

 

 

 ……別に騙されたつもりは無いんだよな。

 普通に警戒してたけど、今の一撃は反応が追いつかなかっただけだ。と言うかなんだこの魔力量。勢いに任せてあんな放出しといて余裕綽々で立っているなんて、多分この学校での平均でもその10倍以上はあるだろう。

 

 加えて、今の一撃で右腕が痺れて上手く動かない。

 

 

 うん。

 

 

「これ、勝てるか……?」

 

 

 

 改めて、本物の天才を前に俺の頬を伝ったのは身を焦がす炎熱によるものでは無い、己の内の焦りから生じる汗だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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