逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた   作:ちぇんそー娘

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40.白鴉(スカベンジャー)

 

 

 

 

 

「まったくさぁ。どんな無様を晒して死んでくれるか楽しみにしてきたらこれってさ。さすがの私もちょっと不機嫌になっちゃうよ?」

 

 なにかの見間違え、幻覚の可能性を考えた、考えたかった。それでも何度見ても目の前にいるそいつは現実で、本物だった。

 必死に顔だけ動かして周囲を確認する。まだアーリスやリエン達がこっちに駆けつけてくる。いや、来てはいけない。アイツらが来たところで魔女には絶対に勝てない。

 

「……もっとビビって漏らしたりするかと思ったけど残念。さすがにそろそろ慣れてきた?」

 

 どうすればいい。体はもう動かないし、リィビアも動けないし父さん達も依然意識を失ったまま。

 そもそもなんでここに魔女が来てるんだよ。何か来れない理由があるから、わざわざダグザを雇っていたんじゃないのか? 

 

「とりあえず家族を守る為に頑張ったようで。褒めてあげよう。それじゃ、家族殺すけど誰からがいい?」

 

 誰にしようかな、と。

 文字通りに指先で命を弄びながら魔女は俺を見下ろして嘲笑う。人間では無い高次の存在感を放ちながら、宝物を目にした盗人のように俗物的に笑う。

 

 どれだけ頑張っても、どれだけ努力しても、無駄であったかのように全てを踏み潰しに来る『魔王現象』という形を持った滅び。

 

 

 

「……俺から殺せ」

「…………へぇ」

 

 

 

 

 でも、だからと言って。

 目の前に圧倒的格上がいて、もうボロボロで立ち上がる気力すらなくても。目の前で大切な人達が傷つけられようとして、諦める理由には絶対にならない。

 考えろ、研ぎ澄ませ。魔女は強力な存在だが絶対ではない。なんてたって、俺はコイツを殺した存在を知っている。魔女が真に滅びとして完璧な存在であるなら、殺されるなんてことはありえない。

 デウス・グラディウスという存在が魔女の不完全さを証明しているならば、俺にだってその不完全を切り開くことくらいできるはずだ。

 

「なに? 家族が殺されるのを見たくないから? でも残念、私は貴方のことが嫌いだから、貴方の嫌がることをしたいなって思っててね。第一、君のお願いを聞いてあげる理由もないし、命令される筋合いもない。何か言いたいなら立ち上がって肩を掴んで止めてみなよ」

「お願い? 命令? なにを呑気なこと言ってんだ? ──────忠告だよ。俺を最初に殺さなきゃ、お前死ぬぞ」

 

 どう考えてもただの口から出任せ。動かない体に変わって飛び出しただけの殺意。

 だが、ただそれだけの言葉でも魔女の意識をほんの少しだけ割くことが出来る。この女は性格が悪い。だからこそ、弱者の遠吠えには丁寧に耳を傾ける、傾けてしまう。

 

「お前が俺の家族を殺すなら、その間に俺は回復する。お前は知らないだろうが、俺にはすぐに動けるようになる切り札があるんだよ。さっさと殺さねぇと俺はすぐに動けるようになってお前を殺すぞ」

「嘘を吐くにしてももう少し上手に吐けよ。だいたい、回復したところで貴方じゃ私を殺せないでしょ」

「やって見なきゃわかんねぇだろ。俺の家族やリィビアに少しでも触れてみろ。道連れにしてでも絶対に殺してやる」

 

 ダメだ、まだ足りない。口だけの言葉で魔女を引き止めるなんて、凡人にはあまりに無理難題というものだ。

 

 

「それとも……もしかして、俺の事を直接殺せないのか? なぁ、魔女」

 

 

 明確に魔女の動きが止まる。

 楽しそうだった表情から急速に感情が失われ、石像のような瞳で俺を見下ろしていた。

 

 

「図星、みたいだな」

「だからなんだよ。貴方が誰も守れない雑魚なのは変わらないでしょ?」

「いや、面白いと思ってな。世界を滅ぼす災厄がこんな凡人1人殺せないなんて。そりゃあ、世界を滅ぼす前にアイツに殺されて当然だよ」

「お喋りは終わりだ。まずは父親を殺してあげる」

「ああ、終わりだよ。……俺の役割は終わった」

 

 

 俺の左目、『黒耀(バロール)』は左目に移植された特別な魔術回路という言い方が正しい。

 では、『移植』ということは元は誰のものだったか、なんて疑問は答える必要は無いだろう。

 

 元の持ち主がいるからこそ、俺とその人はこの左目を通して繋がっている。

 俺の身に何か起きれば、あの人ならすぐに気がつく。どれだけ遠くにいても自分の体でもあるその一部の異常に気が付かないわけが無い。そして、たとえ魔女が優れた魔術師であろうとも、その接近に最初に気が付くのはその左目を受け継いだ俺だ。

 

 

 魔女が父さんに向けて翳した左手。

 その左手が、根元から腐り落ちるようにちぎれて地面に落ちた。

 

 

 

「よく耐えてくれた。さすがは私の弟子だ」

「……いえ、また師匠頼りで、もっとかっこいいところ見せたかったのに、情けないところを見せちゃって、すいません」

「いいや。君はかっこいいよ。世界で一番カッコイイ私の弟子さ」

 

 いつの間にか、俺達と魔女の距離が大きく離れていた。そしてその間に入るように女性の姿があった。

 黒のドレスと夜のカーテンのような黒い髪。眼帯を外し、ドレスや髪よりも昏い眼窩に闇を納め。そんな黒一色の中で白衣を翼のように煌めかせた魔術師。

 

 俺よりデカくて、俺よりも強い。

 俺の師匠、アルム・コルニクスの姿がそこにはあった。

 

「久しぶりだね魔女。少し太った?」

「レディヘの失礼な物言い、やっぱりお前由来か。泣き虫アルム」

 

 師匠と魔女はやはり旧知の関係らしいが、今はそれどころではない。確かに師匠は強いが、いくらなんでも単身で魔女を殺すことは難しいだろう。それに、多分この距離だと師匠の全力に巻き込まれる。

 

「『黒耀(バロール)、強制励起』」

「うおっ!? ……あ、体が動く!」

「私の魔力で無理やり動かしてあげてるんだ。後遺症がより辛くなるけど、とにかく今は動いて、できるだけ私の戦闘からみんなを守ってあげて」

 

 師匠の魔力を借りてる状態、らしいが明らかに普段より体の調子が良いのだが。

 そんな疑問を飲み込みつつ、両親とハピ、リィビアを抱えてから魔女と師匠を視界に収めてゆっくりと後退する。

 

 本当なら走って逃げたいところだが、急な一撃が飛んできた時にこうしてないと対処できる気がしないし、魔女以上に師匠の戦いの近くにいるところで()()()()()なんて危険な行為は恐ろしくて出来やしない。

 

「それにしても、また弟子を作るなんて節操がないねぇ。今度はあの子が寂しさを埋めるお人形さん?」

「昔話をするつもりは無い。それに、お前はもう魔女だろう? なら私の姉さん、レヴィの真似はやめた方がいい」

 

 びゅう、と風が吹いて師匠の白衣がたなびいた。そして同時に白い何かが抜け落ちた羽のように空へと舞っていく。

 

 

「原理解放」

 

 

 言葉の重みで世界が軋んだ。

 待て、なんだこれは。これは俺ですら知らない。魔女すらも目を見開き、完全に防御の体制に入っている。

 

洞の聖堂(apocrypha)瓦礫の聖地(apostasy)祈りの終焉(apocalypse)

 

 まるで何層にも分かれた防壁を順番に紐解くように、師匠は言祝ぎのようであり、宣告のようでもある詠唱を紡ぐ。

 

 

「流転の淵源、その三原則。昏き其処()より世を覆う。十把空劫、薪と成れ」

 

 

 いや、これは詠唱ではない。

 自分に語り掛けるものや、相手を威圧するものでもない。自分ではない、全ての隣であり全てから最も離れた何処か遠くへと語りかけるような──────祈りだ。

 

 

 

「──────染めろ、『白鴉(スカベンジャー)』」

 

 

 

 言葉と共に世界が煌めく。

 視界の中で多くの何かが太陽の光を反射し、目が一瞬眩む。数秒経って閃光に慣れた目が映したモノは。

 

 

「鳥……?」

 

 

 比喩なしに空を覆う、という数の鳥だった。

 真っ白で、穢れという概念を知らぬかのように空を羽ばたく鳥。数えるのも馬鹿らしいその大群の視線が、全て魔女へと向けられている。

 

「なんだよ、いきなり全力ってちょっと大人気な──────」

「忠告の続き。レヴィ姉さんは話が長いからね。強者ぶるなら言葉数は少なくした方がいい」

 

 魔女の言葉を、果実が潰れるような音が遮った。

 白い鳥の羽が、僅かに魔女の頬を撫でた。ただそれだけで、魔女の下顎が酷い腐臭を放ちながら腐り落ちたのだ。

 

「空回る口は道化にしかならない。見苦しい死体なら、せめて散り際くらい華々しくしてくれ」

「口の利き方、もう一度教えてあげようか?」

 

 魔女の一工程(ワンアクション)で、師匠の翼の真反対。まるで対抗するように真っ黒な鳥が魔女の周囲に現れる。一体一体が炸裂すれば周囲一帯を焦土に変えるには十分な魔力を秘めた術式。

 

「昔みたいに魔術の撃ち合いといこうか」

「冗談。お前に付き合ってる暇はない。弟子が怪我してんだよ」

 

 白と黒の鳥が、大空で交差する。

 一見してみればそれは互角。ぶつかり合う度に互いが消え、一対一の交換、一進一退の攻防。

 

 だが、理屈ではそれはおかしい。

 あれだけの魔力を秘めた黒い鳥が、ただ消えているなんてことはおかしいのだ。魔力を打ち消すならば、相応の魔力を持って相殺するしかないはずなのに。師匠の白鴉は当然のように黒い鳥を消し去り、そして黒い鳥よりも明らかに多くの数が絶え間なく、師匠が何をする訳でもなくそうであるのが当然かのように白衣から溢れ出てきている。

 

「……兄さん、あれ」

「ハピ! 大丈夫か!?」

「私のことより、アレ、アレは何?」

 

 脇に抱えていたハピが心底恐ろしいものを見るように口を開いた。

 けれど俺にも分からない。『黒耀(バロール)』を通しても、あの白い鳥の正体がこれっぽちも分からない。あの白い鳥は、魔力を一切纏っていないあの術式は本当にこの世のものなのか? 

 

「いやぁ、ふふ。……なんだこれ。おい、アルム。これどうなってんの?」

「教えるわけないだろ。そのまま腐り、大地に還り輪廻に戻れ」

 

 世界を滅ぼすはずの魔女が、一方的に打ち負けている。何か魔術を紡ごうとしているが、それは全て白い鳥の羽が触れただけでかき消してしまっている。

 

 いける、勝てる。

 そう思わずにはいられないくらい一方的に師匠が勝っている。

 

 

「……酷いなぁ。私は被害者なのに」

 

 

 傍から見ればそう見えるのに、魔女は余裕そうに笑い師匠の頬には一筋の汗が浮かんだ。

 

「大切な人を殺されて、悲しみの中で何も出来ず無力に打ちひしがれ、そして私から全てを奪ったやつが楽しそうにしてる所を見せられてる。ねぇ、これって私が悪いの? 教えてよアルム。私が悪いなら、私を否定してみせてよ」

「それは………………」

「おかしいよね。おかしいおかしい間違ってる。だから、全部壊したいこの気持ちに間違いがあるはずがない。なんで私ばっかりみんなから虐められて、なんで私ばっかり不幸になるんだろうね。おかしいよ、おかしい! なんでなんでなんでなんでなんで!? なんで私が不幸でお前達が幸せそうな顔をしてるの!?」

 

 

 言葉を紡ぐ度に魔女の上っ面の威厳が剥がれ、駄々をこねる幼子のような姿が見えてくる。強者としての格も、何もかも投げ捨てて顔をゆがめて泣きじゃくる姿は、本当に、心の底から弱そうだと思った。こんな存在が世界を滅ぼせるわけがないと思えるくらいにはあまりに情けない。

 

 

 なのに、次の瞬間には全身に鳥肌が立ち足が一歩退いていた。

 

 

 魔女の体の中で何かが蠢いている。

 魔力ではない、師匠の白い鳥と同じ何か別次元のエネルギーを纏っているモノだ。

 

「ししょ……」

「来るなジョイ! 死ぬぞ!」

 

 飛び出そうとして、すぐに冷静になる。今ここで飛び出せば確実に死ぬし、そうなれば万が一が起きた時にハピ達を守れる人が居なくなる。でも、ここで何もしなければ大変なことになる。

 

 足を止めたのは数瞬。

 すぐに迷いを踏み切って前へと踏み出す。

 

「んの、馬鹿弟子!」

「師弟揃って判断が遅い。──────『原理か』」

 

 起きるはずの厄災、訪れるはずの死。けれどそれらは起きなかった。

 たとえこの世のものでは無い理論を振りかざそうとも、それをこの世に顕すとなれば話が変わる。

 

 その固有魔術は、斬りつけたものを例外なく停止させる。

 

「おい、契約違反だぞクソアマ」

「……死に損ないの下衆が」

 

 魔女を背後から短剣で突き刺したのは、ダグザ・フォールだった。

 ちぎれかけた腕に無理やり短剣を突き刺す形で持ち運び、体を押し付けるようにして魔女の脇腹に刃を通した。

 

「契約違反はそっちだろうが。私を傷つけていいなんて言った覚えは無いぞ」

「あ? テメェが先だろうが。俺はお前を信用し依頼を受け、お前は俺を信頼して殺しの依頼を与えた。なのに、お前直々に殺しにくるのはおかしいよなァ? こっちは信頼商売なんだ。依頼主に助けられたなんて噂が広まっちゃあ商売上がったりなんだよ!」

「知るか。死ね」

 

 回し蹴り。それでダグザの上半身と下半身は寸断されて内臓を撒き散らしながら飛んでいった。

 だが、その隙に再び白い羽が魔女を襲いその体を腐らせ、魔女の内側から溢れようとしていた何かの励起も収まっていた。

 

「興が削がれた。自分より惨めなものを見ると急に冷静になるよね。帰る」

「逃がすと思ってるのか?」

「やめとけよ。これ以上は、弟子巻き込むだろ。今度は死なせないように頑張れ♡」

 

 張り詰めた弓の弦を断ち切ったみたいな音が聞こえた気がした。明らかに師匠の何らかの逆鱗に触れたのか、見たことも無い顔をして師匠は白衣を翼のように広げて白い鳥に一斉に魔女を襲わせる。

 

 

「じゃあねジョイ・ヴィータ。次会う時は、その顔が無力に歪んでいるように努力するよ。私は貴方が大好き(だいきらい)だからね」

 

 

 すぐに白鴉が魔女に殺到し、その体を覆い隠す。

 しばらくして師匠が術式を解除したのか、全ての白い鳥が消え果てた時にはそこに魔女の姿は無かった。そして、死んだ訳では無いことは俺も師匠もよくわかっていた。

 

「……師匠、ありがとうござ……いだっ!?」

「何突っ込もうとしてるんだ死ぬ気か馬鹿弟子!?」

 

 とりあえずまずお礼、と思った俺よりも先に師匠のゲンコツが飛んできた。あまりの痛みと衝撃に立っていられなくなり、転びそうになったところで誰かに後ろから支えられる。

 

「……兄さんを殴らないでください。兄さんは、私達を、一生懸命護ってくれました」

「あ、ハピ……違くてな。この人が言いたいのは……」

「……いや、その子の言う通りだ。やるべき順序が違っていたな」

 

 師匠は黒い髪のカーテンの内側に俺を引き込むように体を引っ張ってきて。

 両の腕で力強く俺を抱きしめてくれた。少し痛いくらい力が入っていて、師匠の随分と早くなった鼓動と自分の鼓動がどちらがどちらか分からなくなるくらい。

 

「頑張ったね、痛かったね、強くなったね。本当に偉いよ君は」

 

 聞いたこともないくらい弱く、絞り出すような震えた声で。

 けれどその声を、その体温を感じられることがすごく安心できて。俺は随分と久しぶりに涙を流してしまっていた。

 

 

「…………おい、聞こえてるかジョイ・ヴィータ」

「!? は、テメェ生きて……」

 

 

 この距離では吐息がかかってしまいそうで、それが恥ずかしくて息を止めていたせいか。今にも消えてしまいそうなその声が、偶然にも俺の耳に届いた。

 そして、泣いていたのがバレるのが恥ずかしくて急いで涙を拭いて、ダグザ・フォールの元へと近づこうとする。

 

「待て、罠の可能性があるよ」

「さすがに死に損ないです。それに、アイツは魔女の協力者。なにか情報があるかもしれません」

「まぁ、何かしようとしてもすぐに対処出来るように……」

「そっちのババアは近づくんじゃねぇ……来るなら、何も喋らねぇで死んでやる」

「あ? 誰がババアだ。別に死んだ後でも脳みそにお話聞けばいいんだからすぐに殺すぞ」

「やめて師匠。それ精度落ちるでしょう」

 

 機嫌が悪そうな師匠を何とかなだめ、一応警戒しながらダグザに近づく。

 見ての通りというか、俺から受けた傷に加えて胴体で体が両断されている。魔女が蹴りの瞬間に呪いでも刻んだのか、禍々しい魔力を帯びる傷口とは対称的に本人はもう魔力が欠片も残っていない。

 

 多分、もう目も見えていない。放っておいても死ぬし、治療も間に合わない。

 

「聞きてぇこと、あるんだろ……? くたばる前に聞いときな」

「いいのかよ、話して」

「あのアマ俺を裏切りやがった。切り捨てられんのは慣れてるが、信頼を裏切られんのは、ほっとくと食いっぱぐれるからな……クソムカつくぜ。少しでもアイツに迷惑かけて死んでやる」

 

 あんな卑怯な戦い方してたから当然だけど、コイツ性格悪いな。性根がねじ曲がってる。

 

「これ、俺の隠れ家の場所だ。魔女からの依頼の内容を全部覚えて書き留めた内容を纏めた紙を、隠してある。探しとけ」

 

 そう言ってダグザは紙切れを震える手で渡してくる。

 

「ふざけてんのか? どうみたって白紙だろ」

「確認してみろよ。もしかしたらなにかあるかもしれねぇだろ」

「こんな短い紙切れに何を隠すんだよ。細工も何もねぇだろボケ」

 

 悪戯がバレた子供のようにダグザは笑った。考えてみれば魔女にムカついたからって俺達に協力するなんて、そんな真摯な真似をこの男がするわけが無い。

 俺はこの男についてほとんど何も知らないが、戦いを通してそれくらいのことはわかっていた。

 

「その傷じゃお前は助からない。最後に言い残すことはあるか?」

「おいおい、俺を殺すんじゃなかったのか? あんなにかっこよく啖呵切っといてよ」

「あの時は冷静じゃなかった。それだけだ。お前をここで憎いからって怒りのままに殺しても全然楽しく無さそうだ」

「……そうかよ。お優しいね、騎士様は」

「介錯ならしてやるぞ」

 

 いらねぇよ、と言って。ダグザはもう既に光を映さない目で空を仰いだ。

 

「お前ら、アレに勝てると思うのか?」

「勝てる勝てないじゃない。勝たなきゃ、守れない」

「1人じゃ俺にも勝てなかったガキが、よく言うぜ。俺なんて世界のどこにでもいる。そんな相手に手こずったやつが、世界を滅ぼす厄災に勝つだって? 大言壮語もいいところだ」

 

 喋る度に唾の代わりに血を飛ばし、残り少ない寿命をくだらないことにすり減らす。

 でもそれがこの男の生き方なのだろう。死ぬとわかっているからこそ、この男は好きなように、己の楽しいように生きようとした、どこか歪んだ、もしもの姿。

 

「せいぜい俺の虫けらみたいな死に様を目に焼き付けとけ。特別でもなんでもない、有り触れた惨めなこの死に様がお前の未来だ。変な希望なんて持っても疲れるだけだぜ」

「お前の持論なんて知らねぇよ。俺は、みんなを守って一番の騎士になってやる。そうしないと、俺が楽しくないから」

「そうかい、ならせいぜい、テメェが絶望した面で地獄に来るのを、楽しみに待っててやる」

 

 それを最後に、ダグザ・フォールは目を閉じた。

 

 

「ジョイ、そいつは何者だい?」

「……分かりません。でも、めちゃくちゃに強かった」

 

 

 感傷に浸る間もなく、空の向こうから何かが飛んでくる。

 魔力で直ぐにそれがエアだと分かり、同時に脇に抱えられたアーリスとクラキアの様子のおかしさに気が付いた。

 

 2人とも呼吸をしておらず、アーリスは全身血まみれ、クラキアは手足が脆いクッキーみたいに砕けている。先に気がついた師匠が駆け出し、俺もなにか手伝おうとしたが急に体が動かなくなる。

 

 あ、そういえば師匠から魔力借りて動いてるんだった。

 

「ジョイも重傷なんだ。後回しにするが直ぐに治療するから、今はちゃんと寝てろ。下手すりゃ死ぬ怪我だぞ馬鹿弟子」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────村人の怪我人、2名。命に別状なし。

 対応した騎士学校の生徒、4名が重傷。このうち2名は魔女の影響と思われる原因不明の症状を発症。

 死者、犯人と思われる男1名を除いて、無し。

 

 

 長いようで短い休暇は、こうして終わりを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

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