逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた 作:ちぇんそー娘
「ジョイ、どっちの方が私に似合うと思う?」
「両方同じ服にしか見えないと思うんですけど師匠もしかして老がァァァァァァァァ怪我人! 怪我人の関節を固めるな!」
「まったく。私が魔女の後始末でひいこら走り回ってるってのに、世界と来たら平和なものだね。だから嫌いなんだよ社会ってのは。私が居なくても回ってそうじゃん」
「何当然のこと偉そうに言ってるんですか?」
「私が居なくても回る世界とかムカつかない?」
日差しの強い今日、見てるこっちが熱くなるような通気性の悪そうな長い髪の毛に厚手の白衣を纏っているのに汗ひとつかいていない師匠に対して、服やら薬品やら色々と詰め込まれた袋を幾つも持たされた俺は、病み上がりの体には普通にきつくて割と本気で汗が滲んできている。
そもそも師匠、どうせ黒のドレスしか着ないのになんでこんなに服を買うんだろう。
「ん、師匠外でも珈琲飲むんですか?」
「いいや。香りを楽しんでるだけだよ。自分で淹れたのと君が淹れたの以外あんまり飲みたくないし」
「店に迷惑ですからやめてください」
「お金は払ってるもーん」
さすがにもったいないので飲んでおこうとしたが、そうやってカップを手に取った瞬間に師匠は何やら楽しそうに口端を吊り上げた。
「……なんですか?」
「いや、私実は一口飲んだかもしれないなーって」
「…………子供からかって楽しい……んでしょうね。師匠は」
「ちゃんと私の事見てたなら飲んだか飲んでないかくらいわかるはずだけど?」
正直、上の空で師匠のことをあまり見てなかったから残念ながら真実は俺には分からない。だから、何も考えず目を瞑って一気に飲み干す。うん、まぁ店の珈琲だから普通に俺が淹れたのよりずっと美味しいし後味がスッキリしてる。
「で、顔を赤くするくらいなら変なからかいしないでくださいよ。こっちまで恥ずかしい」
「だって……こんな公衆の面前で……ジョイってば私の初めてを奪うところ、みんなに見せつけたいの?」
「声がでかいぞ耳年増、あ、待って、ここ店内だから魔術は引っ込めて」
そんないつも通りのようで、どこか調子のズレた会話を繰り広げて。
ほんの一瞬、あるいは数時間の静寂を置いていくかのように一言口にした。
「急に買い物に行こうだなんて、何か話したいことでもあるんですか?」
「別に、私が買い物にジョイを誘うのがそんなにおかしい?」
「師匠が俺を買い物に突きあわせる時は何か話があるか荷物持ちをやらせたい時。んで、今回は前者」
「根拠は?」
「10年の付き合い」
「……君、相当恥ずかしいこと言ってる自覚ある?」
「俺は師匠に裸どころか体内まで見られてるんですよ。今更恥ずかしいとかある訳ないじゃないですか」
もちろん嘘です。
めちゃくちゃ恥ずかしいこと言ってることにあとから気がついたが、ここで少しでもそんな素振りを見せてみれば死ぬまで弄られるのは確定なので何とか顔に出さないように『
だって師匠、顔だけならとんでもない美人だからな。そんな人とこうして面と向かい合って座って、家族でもなく友人でもない、けれど確かに何よりも近しい関係であることを意識するとなんか、こう、いけない気持ちになってしまう。
「…………あー、もう! 私の負け負け! 前置きとか誤魔化しはやめて本題に入ろう」
我慢の限界のところで師匠が真っ赤になった顔を髪の毛で隠してくれたおかげで根比べは俺の勝ちになり、一息吐きながら少し火照った喉を潤すために珈琲を口に……
「あ、そ、そんなに何回も飲まなくてもいいだろ! 私が悪かったから、見てるこっちが恥ずかしくなるから、間接キ──────」
その事を思い出して、液体が見事に気管に入り込み盛大に噎せた。
まぁそのおかげで、恥ずかしくて顔が真っ赤になっていたのはきっとバレなかったことだろう。
◇
「さて、話したいことってなんなんですか?」
「ジョイは吐くほど間接キッスが嫌な相手から話を聞きたいのかい?」
「たまたま気管に入っただけです。大人なんだから拗ねてないでさっさと話してくださいよマジで」
そう言われて渋々、といった様子で師匠は白衣のポケットから袋に収められた小さな何かの破片を取り出した。
銀色のその破片は、鎧の一部のようにも、あるいは甲虫の体表、爬虫類の鱗の一部にも見えた。同時に、それらのどれでもない何か未知の物質にも見えるような何か。
「これ、なんですか?」
「クラキア・ソナタの
「…………皮膚ですか? これが?」
まず師匠がそんなものを突然出してきたことに驚きつつ、次にその皮膚と呼ばれたモノの奇妙さに驚く。
つついてみると、当然だが皮膚と言うには硬すぎる。金属光沢にも近い輝きもあり、とてもじゃないが人間の皮膚とは言い難い。
「順を追って話していこうか。まず、ジョイはこの前の魔女の襲来事件のことをどこまで把握できてる?」
もう2週間も前になることだが、先日ようやく自由外出が許されるくらいに回復した俺からすれば、つい昨日の出来事のようにも感じる。
死者は魔女の協力者であるダグザ・フォールのみ。
読み取られた彼の記憶から魔女の狙いは俺とハピの殺害、そしてアーリス、クラキア、リィビアのいずれかの誘拐であることがわかった。
とりあえずまず俺としては、意識不明で呼吸も止まっていたアーリスとクラキア、そして腕を切り落とされ毒もかなり回っていたリィビアに加えて俺の両親も無事に治療が終わり元気であることを確認できたことを喜べた。
だが、リィビアと両親とは面会で来たのだがアーリス、クラキア、ハピの3人とは面会謝絶状態で不思議に思っていたのだ。
「ジョイ。ここから先の話は、魔女の狙いに関することだ。だから、君も私の質問には嘘をつかず答えて欲しい」
「俺が師匠に嘘を吐いたことありました?」
「プリン」
「ごめんなさい」
「とりあえず話を続けるよ」
そう言って師匠は指を鳴らす。すると、いつの間にかその肩に真っ白な鳥が止まっていた。しかしそれは生物と言うにはあまりに存在感がなく、魔力で編まれたと言うには少し異質すぎる。
「『
「その原理解放ってやつはなんなんですか?」
師匠が魔女相手に、全力ではなかっただろうにしても一方的にダメージを与えた、魔術を消し去る白い鳥の形をした術式。あの時確かに師匠は『原理解放』という言葉を口にしていた。
「まぁ簡単に言うとね……んー、ジョイって魔女の前の魔王現象のこと知ってる?」
「教科書の知識程度なら。『孔』の魔王現象。600年前に現れて、既存の文明のほとんどを破壊し尽くし、おかげで固有魔術や多くの技術、魔術が失伝し、人類の進歩が400年は戻されたとか言われた」
まともに名前以外がはっきりと歴史に残っている先代の魔王現象でもそれなのだ。だからこそ、人類は魔女という新しい魔王現象を恐れている。かつて滅ぼされかけたという歴史が、細胞単位で人類に絶え間なく恐怖を与えている。
「それ倒したの、私達なんだよね」
「うん?」
「私と、ギガト。そして魔女の3人って姉妹で、そしてもう1人人間の協力者がいて。その4人で600年前の『孔』を倒したの?」
「…………はぁ!? ……え、師匠何歳いづぅ!?」
「他に聞くことあるだろバカ弟子! 聞くにしても最初にそれ聞くか!?」
あまりに唐突に情報の洪水をどっと浴びせられて、最初に浮かんだことがそれだったがために思いっきり脛を蹴られ悶絶する。
でもそれも仕方ないだろう。どうみたって師匠は、出会った時から姿がほとんど変わってないにしても20代の美人、なのだから。600年という月日の中で経年劣化を経て、こんなに美人だなんてこと有り得るのか?
「まぁまず私は人間じゃないんだけど……」
「待て待て待て! 話を進めないで! 薄々気づいてたけど、そう言うのってもっと深刻な感じで話すことじゃないんですか!?」
「何言ってるんだ。君は
「断じて有り得ないですけど……」
「そういうこと。信頼の証と思ってくれ」
「なんかいい感じの雰囲気で言いくるめようとしてません?」
しかしたまにしか見せないような柔らかい笑みでそう言われては、こちらもこれ以上何も言えない。嘲るようにではなく、楽しそうに笑う師匠の顔を見て小さく溜息をつきながら、俺は落ち着いて話を聞くことにした。
「私とギガト、そして魔女の3人は先史文明の秘蔵っ子。人工的に生み出された魔王現象とでも思ってもらっていい」
「ほんとに遠慮なくとんでもないこと言ってくるなぁ」
「さて問題。魔王現象の条件ってのはなんだと思う?」
「え、なんだろう。めちゃくちゃ強い、とかですかね?」
ざっと魔女以外で魔王現象クラスの被害を出した『準魔王現象』と呼ばれる存在を頭の中で思い浮かべる。『疫竜』、『走雷』、『牙』。放っておいたら世界を滅ぼせるくらいの存在であることは間違いないだろう。
「ハズレ。答えは『世界を滅ぼせる』ことさ」
「同じじゃないんですか?」
「違うよ。どれだけ力が強くとも、世界の内側の力では世界は壊せない。だって、その力が『在る』時点でそれはその世界が在ると言うことなんだ」
「つまり……どんなに強いやつもそいつの力を含めて世界だから、強いだけじゃ世界は滅ぼせないってことですか?」
「そういう認識でOKさ。じゃあ、どうすれば世界を滅ぼせるか、その疑問の答えは簡単さ。この世界とは別の世界、
師匠の肩から白い鳥が机の上へと降りる。1歩、2歩と歩いてその嘴で師匠が差し出した紙の切れ端を啄んだ瞬間、紙の切れ端はまるで時を加速したように朽ち果てた。
「これが私の原理、『死』だ。この世界のあらゆる現象を強制的に終了時点の状態に引きずり込む。この原理を攻撃的に使用して世界を滅ぼす可能性こそが『
白鳥の瞳が俺に向けられる。触れただけで俺を殺すのに十分な力と、それを振るうものが目の前に人の形をして存在している。どうしようもない恐怖と拒絶、そしてそれを上回るもう一つの感情が俺を支配した。
「そんな大切なこと、弟子の俺に今まで隠してたんですか? 意外と信用ないんですね、俺」
「……はぁ、もう少し恐れるかと思ったけど君はそういうやつだったね。別に言いたくなかったんじゃない。言えば、余計な戦いに君を投じさせる可能性があったからね。でも、もうそうは言ってられない。1度なら偶然か気まぐれであの女は片付けられる。だが、2度だ。君は2度、あの女に狙われた」
少し嬉しそうにしていた表情を変えて、真面目な表情で師匠はクラキアの皮膚、と称した物体を指でつついた。
「アーリス・イグニアニマとクラキア・ソナタの異変は、簡単に言えば原理を完全に解放している魔女に接近されたことによる原理の暴走だ。彼女たちはまだ体が自分の力に耐え切れるように出来ていないから溢れる力で体が自壊した。そして、リィビア・ビリブロードとハピ・ヴィータは既に
「ハピが、それにリィビアも?」
「あぁ。こればかりは私の検査だけでは分からないことがある。どちらにせよ、この4人が狙われた理由は明白だ。『魔女』は原理という強大な力を持つものを手駒にしようとしている、あるいは排除している。……だが、そう考えたら一つおかしな点があるだろ?」
師匠の指先が、俺に向けられた。
「ジョイ、君は現時点でも原理が目覚める兆しはない。ならばほぼ100%君は、原理保有者では無い。さすがに10年も共に暮らして、左眼まで預けた相手を見間違うはずはない。……君は、何故魔女に狙われる?」
ハピ達が狙われた理由はわかった。そして、それを師匠達が知れば当然次の疑問はそうなるだろう。
魔女と接点はなく、原理とやらも持たない。
何故こんな凡庸な男が魔女に狙われているのか。
ここまで突拍子もない話が出たならば、まぁ前世の話をしてもいいかもしれない。そもそも師匠は俺がそれを口にして、嘘だと切り捨てるような人じゃないだろう。
『
「……すいません。
「…………私にも?」
「師匠が大切だからこそ、言えません」
「わかった。君は私を信じてくれてる。だから、私も君を信じるよ」
意外にも、師匠はこんな曖昧で明らかに含みを持った言葉に何も追求をしなかった。
「いいんですか、その気になれば、師匠は俺に無理やり喋らせることだってできるでしょうに」
「ジョイが魔女の眷属や協力者なのは
師匠の優しさに甘えている。それは頭ではわかっていて、申し訳ないと思う。
でも同時に、師匠にそれだけ信頼してもらえていることが嬉しかった。ちゃんと申し訳ないと思わなきゃいけないのに、どうしても、認めて貰えることが嬉しかった。
「本当に、ありがとうございます師匠」
「私は君の師匠だ。弟子のことを信じるのは当たり前だろ?」
顔を見合わせて、お互いに軽く笑いあった上で。師匠はそういえばと話題を切りかえた。
「もしもだけどさ、君って沖合で遭難して救助用の船に1人しか乗れず、目の前に知らない人が溺れかけてたらどうする?」
「えー……なんですか急に」
「別に。心理テストだよ」
師匠の心理テスト、ハピの一件があったのでめちゃくちゃ怖いし嫌なんだよな。
でも答えないと多分また関節が悲鳴をあげることになるので、とりあえず少し考えてみて答えを出す。
「知らない奴なら、多分見捨てると思いますね。楽しくは無いですけど、自分が死ぬのはもっと楽しくないですよ」
「え、普通に下衆」
「は? 自分の命より大切なものがこの世にあるんですか? 600年生きると命の価値観がズレァァァァァァァァ!」
しまった、あまりに直球な罵倒に思考回路がレスバトルの方向に移り、思ったことをそのまま口にしてしまった。
しかしいくら何でも下衆はないだろ下衆は。誰だって、大切なのは自分の命だ。見ず知らずの他人のために、自分の命を簡単に捨てられるやつはまぁこの世にはいるのかもしれないが。
……少なくとも俺は、多分家族もアーリスとかの学友も、師匠も悲しむだろうしダメだ。
誰かのために命を捨てるなんて、そんな無責任な行動はさすがにできない。
それに、もしもそれが今だったとしたら、だ。
クラキアもアーリスもハピも、原理なんてよく分からないもののせいで魔女に命を狙われることになって。
リィビアだって片腕を失うことになって。
師匠も、俺に疲れを悟らせるくらいに奔走して。
そんな楽しくない思いをすることになって、魔女のせいでそうなって。そんな中で俺だけ誰かを救って死ぬなんて、そんな甘ったれたことしても全然楽しくない。
魔女は必ず、倒さなければならない。そうしないと、俺の周りの人はきっと一生楽しく過ごせない。それは、俺も一生楽しくない。
見ず知らずの他人を1人切り捨てることを、君が選んでくれて本当に良かった。
さすがに君の嫌がることはしたくないから、ここで自分を犠牲にするなんて言い出してたらもう私は『アレ』を使うしか無かっただろう。
でも、君は許してくれた。
自分の命のために、誰かを犠牲にすることを認めてくれた。ならきっと変わらないよね?
1人でもいいのなら、それが《10でも100でも世界の全てでも》きっと変わらないよね?
「私は、君の師匠だよ」
「知ってますよ、なんですか急に」
「ううん、確認したかったのさ」
今度こそ私は弟子を守る。
たとえほかの全てを犠牲にしても、それが君が好きな世界を破壊することになっても。
もう私は失うことに耐えられない。君と出会ってから、君にこの瞳を預けてから、そしてこの学園生活は、私のような枯れた独活には甘い時間過ぎたんだ。
死体喰らいの
「君は、私の大切な弟子だよ」
師匠が弟子を守るのは当然のこと。
そう言い聞かせて、私は自分の歯車がゆっくりと歪むその姿から目を逸らして、見たいものだけを見ることを選んだ。
ちょっとすれ違うこともあるけれどふたりはなかよし。