逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた   作:ちぇんそー娘

5 / 43
5.鍍金

 

 

 

 

 

 それなりに強くなった自信はあったのに、その自信が一撃でへし折られた。出力から何から何まで桁が違う。これが『猛炎(フレア)』の称号を与えられた最高峰の騎士になる予定である怪物、アーリス・イグニアニマという事だろう。

 

 そして一撃目を何とか凌いだ俺を見て、アーリスは深紅の色に染った髪をかきあげながら魔力を昂らせた。

 

 ……こっちが素なんだろうか。

 同じ人物とは思えない豹変ぶりに確かに面を喰らいはしたが、それよりもどっちが素なのか割と気になりはする。なんてったって、もしもこっちが素ならあのオドオドした態度が全部演技だということだ。だとしたら騎士なんかより舞台役者とかの方が向いてるだろう。

 

 そして逆に普段が素で、こっちが何か別のものなら……。

 

「いや、どうでもいいか」

「何考えてるか知らないけれどそうだよ。今ジョイくんが考えるべきなのは、どうすれば出来るだけ痛くなく私に負けられるか、ってことだけなんだから」

 

 前世で知る凛々しいアーリスでも、最近知り合った弱気なアーリスでもない。凶暴でどこか俺を見下す仕草を見せるアーリスの背中から吹き出した炎が一対の翼の形で固定される。

 

 固有魔術。

 通常の一般的な学問として広まった魔術ではなく、それは初めから何かの形でこの世界に存在し、様々な発動条件を課すことにより出力を高めた秘技。

 わかりやすいもので言うと、特定の血族にしか使えない。髪の色が決まったものにしか使えない、特定の日に生まれたものにしか使えない、みたいな条件。それに加えて扱いも難しく、学術的な魔術とは別の位置にあり相伝する一族にすら取扱説明がない場合もある。

 

 だが、その分それは単体で戦況を覆すことすらも有り得る極大破壊現象になり得る。まさに英雄等が振るうに相応しい力。

 

 

「さぁ、灰にならないように頑張ってね! 『猛炎(フレア)』!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君、自分が天才だと思ってるよね? その思い込み捨ててくれない? 見てて痛々しい」

 

 未来ある若者に対して、師匠はなんの遠慮もなくそう言ってきた。

 全く失礼だ。俺以上に自分を天才だという思い込みを思いっきり地面に叩き捨てた人間なんてそうそういないって言うのに。

 

「違う違う。君がどんな人生を経てそうなったか知らないけどさ……変な言い方になるけどジョイは動きのイメージの理想が高すぎるんだよ」

 

 普通の人間は実際に体を動かす時に、知らないことをイメージするのは難しい。だからこそ、誰かから教わって経験を重ねていくのだと師匠は言った。

 

「理想と現実なんて噛み合わないものだけど、君はその典型。君は自分を客観視することができてない。自分の非力さを容認できてない」

「さす、がに……泣きますよ俺で、もっ……けほっ」

 

 あまりにも酷すぎる評価に抗議をしてやりたかったが、今まさに師匠にボコボコにされたばかりの俺は血反吐を吐くばかりでろくに抗議の言葉を吐き出すことが出来なかった。

 

「君は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。だからそれが邪魔してるんだよ」

 

 確かに、肉体的にはそりゃあずっと鍛えたからと言って子供の俺と大人の俺では身体能力に差が出る。魔力による強化だって限界がある。

 しかし後者については納得出来ない。俺はあんな動きをできると微塵も思っていない。

 

「……憧れてるのさ君は。手が届かないから、憧れるしかないって諦めてる。君の心は、決定的にどこかで折れている」

 

 なんですか。

 じゃあ諦めろって? 一度折れてしまったら、もうどうにもできないとでも師匠は言いたいのか。俺は魂の底から、自分を打ちのめした天才達に敵わないと、屈服してると言いたいのか。

 

「ああそうだ。君は豊かな想像力で自分が負けることをイメージしてしまっている。だから、発想を逆転しろ」

 

 倒れ込んだ俺の胸ぐらを掴んで、師匠は俺を無理やり立たせる。足腰に力なんて入らないし、正直目を開けてるのもしんどいけれど、その真っ直ぐで真っ黒な瞳に見つめられては倒れることもできやしない。

 

 

「君は心が折れても、魂でここに立っている。だからイメージしろ。自分が敗北するイメージを。そして抗え。それに絶対に負けないと!」

 

 そうすれば君は、自分以外の誰にも負けない。

 いつも胡散臭い笑みを張りつけ、巫山戯たことを言っているアルム・コルニクスがその時だけは口角をピクリとも上げずに、何かに怒るように俺にそう説いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うん。

 だからと言ってそれがイメージできるまで『全力で』俺をぶちのめし続けたのはやり過ぎだとは思うけれど。

 

 でも、それのおかげで想像力は随分と豊かになった。特に、圧倒的な格上に容赦も情けもなく負けることの。

 俺の前に立っているのは、『国辱の猛炎(フレア)』。全盛期のアーリス・イグニアニマだ。俺のような凡人では逆立ちしても勝てないような、本物の天才の一人。

 

 なんだ、そう思えば随分と想像よりも。

 

 

「遅いじゃねぇか、第4位!」

 

 

 実際相手の速度は何も変わっていない。

 だが、俺のイメージするアーリス・イグニアニマの速度と比べたらそれは()()()()()。体が反応するかどうかは別であるが、心構えさえあれば無理やり動かすのはお手の物。こちとら内臓が殆ど潰れても最善の動きが出来るように、師匠に常に叩きのめされ続けてきた。

 

「これも避ける……? ならこれなら!」

 

 アーリスは炎の翼を地面に差し込んで、魔力を一気に流し込んだ。瞬間、膨張する爆炎に耐えきれなくなった地面が捲り返り、俺とアーリスはその勢いのまま空中に打ち上げられる。

 

 大丈夫だ。想定よりも()()()()()! 

 

 

「空中なら、これは!」

 

 

 上下逆転。

 平衡感覚の揺らぐ上昇と落下の急動作の中でもアーリスは正確に俺の位置を特定して螺旋巻く炎の翼を打ち込んでくる。さらに加えて周囲に暴風を吹き荒らして瓦礫を吹き飛ばす。これでは瓦礫を足場にして避ける、というのも簡単ではない。

 

 炎と風の二重属性の精密操作。さらに劣悪な状況でも揺るがない判断力。さすがは第4位。

 

 でもまだまだだ。

 俺の知っているお前なら、もっと()()

 

 自分の脳内では既に俺は左右から挟み込むように迫ってきた炎の翼に対処しきれずに、貫かれている。だが現実ではまだ翼は俺に到達していない。

 当然だ。今目の前にいる彼女は幾ら強くても俺が『見たことのある』全盛期の彼女ではない。

 

 

 

 

 俺の師匠であるアルム・コルニクスは人体、思考、そして生死の概念を専門にする魔術師だった。

 師匠は言った、思い込めと。お前は自分の理想の動きを、相手の最高の動きを思い込めと俺に何度も教えながら、自分の魔術の最奥の全てを見せつけた。

 

 相手を知り、己を知る。

 単純だが一番重要なこと。相手の限界を見定め、己の限界を見定め。相手の限界に対処し、己の限界を打ち破る。

 皮肉なことに、敗北のイメージを誰よりも強く持ってしまった俺だからこそ、それは逆に揺るぎない勝利のイメージへと繋がった。

 

 得られるのが勝利であるならば、そこに至ることが楽しみであるのならば。ジョイ・ヴィータは諦めない。星の光に目を焼かれようとも、決して立ち止まらない。

 

 

 

「輝け、鍍金(アルデバラン)!」

 

 

 

 俺の脳内での速度より一段遅いなら、それだけ思考に余裕が生まれる。対処出来ない速度が、限界を振り絞って自分の限界を少し超えれば対処出来る速度になる。

 

 思っていたよりも一段遅く、一段弱い左から迫りくる炎の翼に向けて、俺は全身全霊で最大出力の魔力障壁ごと刀を叩き付ける。

 

「は? 自滅する気!?」

 

 ぶつかった瞬間衝撃で左肩の感覚が消し飛びかけながら、何とか剣を握り込む。足場もなく自由落下。渦巻く炎に体を持ってかれないように全身の筋肉に力を込めて、真正面から炎を受け止める。

 しかしそれでは右から迫ってくる炎の翼に対処出来ない。だから、渾身の力を込めて炎の螺旋に抗い、ほんの少し、ほんの少しだけその勢いをズラした。

 

 僅かに俺の横をすり抜けていく左からの炎の翼が、右から迫っていた炎の翼と正面からぶつかり、反対方向に巻き込むような炎熱の暴風はぶつかった衝撃で、爆ぜた。

 

 爆風と熱で体が削られるのを防ぐことはしない。

 この風は俺の勝利への道を作り出してくれるから。

 

 空中で、2枚の翼は爆発を起こし制御不能。加えてこの位置。俺が吹き飛んだ先にいるのは。

 

「私の『猛炎(フレア)』の爆発を、推進力に!」

「悪いな、すげぇ威力だから使わせてもらったぜ」

 

 左手は先の一撃でろくに力が入らない。何とか感覚の戻ってきた右手で剣を握りこみ、爆風に押されながら俺はアーリスへと切り込む。

 多分ヒビが入ってるのかめちゃくちゃに痛むが痛いだけ。痛いだけなら我慢出来る。

 

 アーリスも剣を構えて応戦しようとするが遅い。あれだけの大規模で緻密かつ、二重属性の暴威だ。当然ながら意識を大きく割いて、一瞬で近づかれないように気をつけるに決まっている。だからこその隙。大規模魔術を使えるものだけに存在する意識の穴。

 

「取った!」

「取ったのは、こっちだ!」

 

 アーリスが剣を突きの構えにした。瞬間、刃が岩で覆われて急速に伸びる。あぁ、そうだ。アーリスは天才だった。

 

「私の適正は炎と風、そして土属性なの。隠していてごめんね」

 

()()()()()()()。お前が努力家で、天才で、強いことを」

 

 そうなんだよな。

 普通、一属性だけを極めるのが魔術の基本、多くても二属性でやりくりする。それ以上の複数属性を使うのは限られた天才で、しかもアーリスの場合は『猛炎(フレア)』が超高等な火と風の二重属性なのだから。

 

 それでもコイツは第三の刃として土属性の魔術も多く修得している。

 でも俺は知っていた。『猛炎(フレア)』で相手を一方的に削り倒し、弱ったところにこの土属性の巨刀を叩き込む。

 第4位、アーリス・イグニアニマが完成させた戦闘方法を知っている。この学校で散々、それに負ける自分をイメージしては絶望していた。

 

 

 準備していたから。

 何とかギリギリで身を捻って躱す。でもその際に右腕が掠めて肉が抉り取られてさらに力が入らなくなった。わかっていても避けられない速度だから仕方ないが、それにしても掠めただけでこれとか直撃したら治療の暇もなく即死しているかも知れない。

 

 だが避けた。

 残ったのは刀身に岩を纏わせた為に満足に振ることが出来なくなった剣から手を離し、急いで『猛炎(フレア)』を解除して防御態勢に入ろうとするアーリス。

 

 あとは俺が剣を振り下ろすのが速いか、アーリスが対処するのが速いか。地面に落下していく中で俺は右腕に力を込めて剣を──────。

 

 

「──────あ」

 

 

 剣が、すっぽ抜けた。

 もう右手に握力がほとんど残ってなかったのか、急に右手が軽くなる。

 

 それを見てアーリスはすぐさま防御ではなく、攻撃の準備に入った。『猛炎(フレア)』を再構築して、この至近距離で爆発させるつもりだろう。この距離ではたとえ魔力障壁を使っても吹き飛ばされるし、これで俺は詰み。

 

 

 

 ……だと、アーリスからは見えたのだろう。

 俺は()()()()剣から手を離して、最後の力を振り絞ってアーリスに接近した。

 コイツが防御に回るなら、俺はそれを叩き割れない可能性があった。この期を逃せば俺は負けだ。もう着地する体力も残ってないし、受身を取ってもそこから立ち上がれなくなる気しかしない。そしてそうなれば、まだ体力が有り余ってるアーリスに勝てる可能性はゼロだ。

 

 だからここで確実に決める。

 己の誇りである剣を囮に、奇しくも何処かのロリ巨乳野郎が見せた戦法と同じように。意識を剣に向けた相手が、それを見て生まれた油断に。

 

 

「俺の、勝ちだ!」

 

 

 アーリスの顔面に思いっきり頭突きを叩き込む。

 お互いに電気でも浴びたように目をチカチカさせて、そのまま俺とアーリスは揉み合いながら地面に叩き付けられた。

 

 

 やったか? やったよな? 

 視界の端に移るアーリスは立ち上がる気配は無い。渾身の頭突きに加えて着地の瞬間に引っ掴んで受身を取らせなかったから、相当ダメージを受けたはずだ。

 

 

 10秒ほど経っても、アーリスは立ち上がらない。顔は角度的に見えないが、浅い呼吸を繰り返すだけで殆ど動かない。

 まぁ俺もそれは同じだ。両腕ともまともに力が入らないし、無理やり動かした体は筋繊維が引きちぎれて悲鳴を上げている。そんな死に体を何とか立ち上がらせて、歓声と審判の声に耳を傾けて。

 

 

 なんともカッコ付かないが、どうやら勝てたようだ。何とか憧れに、少しだけ近づけた。

 

 

 

 それを確認してから、俺は地面に倒れ込んで意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








・『鍍金(アルデバラン)
アルム・コルニクスがジョイに仕掛けた暗示の仮名称。
1つ目の効果は自身の理想の動きを再現する為に、肉体への負荷を無視するリミッターの解除。
もう1つは相対する相手の戦力を把握することで、『自分が勝てない相手』をイメージする。敗北を予測し、ただその未来に抗うために1つ目の効果をより強く発動させる。それだけの力。


・『猛炎(フレア)
イグニアニマ家相伝の固有魔術。
炎の翼を生み出し、操る術式であり属性としては火と風の二重属性。純粋に爆発を引き起こし広範囲を攻撃するだけでも強力だが、翼は炎が高速で渦巻くミキサーのようなものであり、シンプルに叩きつければ超高速回転で対象をぐちゃぐちゃに引き裂く破壊力もある。ただし、制御がかなり難しく反対方向二回転する2つの翼を接触させると制御不能になり爆発を起こして一時的に術式が使えなくなる弱点がある。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。