逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた   作:ちぇんそー娘

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6.国辱の猛炎 2

 

 

 

 

 控え室で目を覚まして、自分が負けたことを理解した。

 体はほとんど万全に近かったが、無責任な救護担当であろう先生の書き置きには「殆ど無傷だったから軽く治したよ。魔力の使用は大きかったから多少だるいかもしれないけどそれ以外は治したから、何か他に違和感があったら保健室に来てね」と書かれていた。

 

 負け、負けてしまった。

 平民に、初めて出来た友達を騙してまで、精一杯やったのに。

 

「負けちゃった……」

 

 父さんにどう言い訳しようとか、まずジョイくんに謝らなくちゃいけないとか、色々と思考が堂々巡りをして。多少後遺症があるのか、ピリリとした頭痛でふと、ジョイくんの言葉を思い出した。

 

 

()()()()()()()。お前が努力家で、天才で、強いことを』

 

 

 鏡に映る自分は酷く醜く笑っていた。

 生まれて初めて肯定して貰えた。アーリス・イグニアニマを、褒めて貰えた。騙し、はぐらかし、罠にはめようとした相手を、彼は強いと認めてくれた。

 

 

 思い出すのは、罵倒の言葉。

 私を産んでから体調を崩し、死んでしまった先代『猛炎(フレア)』の母の事。母が死んでから私を見る目に憎しみを宿し、厳しく育ててきた父の事。

 兄さんは『猛炎(フレア)』を使えず、私も上手く扱えなくて毎日毎日ズタボロになるまで訓練させられて、気が付けばストレスからなのか髪の毛が真っ青になっていて、『猛炎(フレア)』の使用条件である『赤い髪の持ち主であること』を満たせなくなり、父は私をもはや母の仇として見るようになったこと。

 

 

『辛かったんだね。でももう大丈夫。君の願いを私が叶えてあげるよ』

 

 

 そんなある日、誰かが私に語りかけてきた。

 姿は見えなかったけど、とても優しくて、聞いてるだけで泣きそうになってしまうその声は私の味方になってくれた。

 

 私はその声に、認められたいと願った。

 誰かから、存在を認めて欲しかった。

 お前は凄いと、君といると楽しい、落ち着くと。生まれてきてくれてありがとうと、認められたかった。

 

 それから私は戦闘の時に限り、魔力を灯らせると髪の毛を赤色に戻せるようになった。

 そうしてる間は少しだけ、ほんの少しだけ自分が自分でないようで、うじうじしていてそれなのに姑息で、意地汚くて、誰かが大切にしてるものほど欲しくなるような誰にも愛されない自分じゃなくて。強い自分になれているようで嬉しかった。

 

 父さんはそれでも私を認めてくれなかったけど、これならきっと、いつか認めてくれる。母さんのような、『猛炎(フレア)』の騎士になれば、誰かが私を必要としてくれる。

 

 勝って、勝って勝って勝って。

 己の有用さを、己の強さを示していけばいつか──────。

 

 

 

「私って、強かったんだ」

 

 

 

 対戦相手の平民の彼が言っていた言葉を繰り返す。

 控えめに言って彼は、才能が無いのだろう。多分、魔術も基礎的な障壁の展開くらいしか出来ないんだろう。彼にならば勝てると、浅はかな考えで挑んだ自分が恥ずかしくあったが、同時に彼に挑んでよかったと思った。

 

 強かった。

 まっすぐで、目の前の敵じゃなくて遠い星を見て駆け抜けて。私を倒してみせた。その彼に強いと認めて貰えたことがたまらなく嬉しかった。

 

 謝ろう。

 許して貰えなくていい。騙したこと、侮ったこと、全部謝って。また一から始めよう。それからお礼が言いたい。出来れば彼と、リエンくんとはもっと仲良くしたい。今なら私にも友達が作れるような気がした。

 

 世界は広いんだから、どこかで私を認めてくれる人がいる。だから、私は今の私を否定するんじゃなくて、自分を認めて自分の強さを示してやろう。

 

 そう思って、ベッドから飛び降りた時。

 

 いつか聞こえたあの声が聞こえた。

 

 

 

 

『違うでしょアーリス。貴方は誰も認めてくれないのよ』

「……え?」

 

 

 いつもと変わらない優しい声色で、その声は何より強く私を否定した。

 

『貴方は意地汚くて、姑息な女。誰かのモノをいつも奪う。愛した女を、才覚を、奪って無自覚に微笑む。存在するだけで誰かを苛立たせる』

 

 ここにはいないはずの父さんの、兄さんの視線が私を串刺しにする。呼吸が落ち着かない。頭が割れそうだ。鏡に映る私の髪色が、戦い場でもないのに徐々に赤色に侵食されていく。

 

『だから力を貸してあげたの。姑息な欲張りさん。さぁ、本音を言ってみなさい。貴方は認められたいんじゃないでしょう?』

 

 違う、違う! 

 私は認めて欲しかった。ここに居ていいんだと、誰かに言って欲しかっただけなのに。

 

 そうじゃないんじゃないか。

 この声の言う通りなんじゃないかって。

 

 私は、愛されたくて友情を感じて欲しくて敬意を持ってほしくて常に思って欲しくて感じて欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて欲しくて。

 

 

 思ってもらうことが。

 正の感情を向けられるあの快感が欲しくて、自分勝手にそれを望んだんだから。

 

 

「わかってます。魔女様。私は、その為にあなたと契約をしたんですから」

 

 

 

 鏡に映る赤色の髪の毛の私は、とってもかっこよくて。

 きっと誰からも愛してもらえる。何をしようと羨望の的になれる。だから、欲しいものは手に入れるとしようか。

 

 さようなら、臆病な私。

 手始めにまずは貴方が変わろうとしたきっかけを奪ってあげるとしましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのさぁ……。そりゃね? 死んでさえなければ治せるよ? だけどさぁ……両腕の骨がバキバキ、足もバキバキ。力んで歯もボロボロ。内臓シェイクの筋繊維ブチブチ。これじゃあ勝ちって言えないよ」

 

 治療を受けながら、俺は師匠の小言を聞き続けていた。

 俺の、と言うより俺と師匠の『鍍金(アルデバラン)』はあくまで自己暗示。強大な相手をイメージして、その敗北のイメージを達成させない為に限界まで力を引き出す諸刃の剣。

 代償は端的に言えば無理やり使った体への酷いダメージだ。治癒魔術でも疲労と筋肉痛はどうしようもない。下手に筋肉痛の方を治すと成長が止まるらしい。

 

「とりあえず、傷自体は動ける程度には治した。ただ、体力が削れ過ぎてて完治は出来なかったから、明日続きを行うから」

「ありがとうございます……。あと、どんな結果であれ勝ちは勝ちですから」

 

 そう、俺は勝ったのだ。

 師匠曰く、実際に戦場での戦いであれば意識を取り戻したアーリスがろくに動けない俺を殺すから負けだと言っていたが、少なくともこの学校の模擬戦のルールでは俺の勝ち。

 

 今までの努力は無駄ではなかった。

 臓腑を焼かれるかのような激情に耐えながら、この学校でデウス達の戦いを眺め続けていたことも。

 師匠と共に積み上げてきた鍛錬の日々も。何も無駄ではなかった。

 

「師匠、俺……」

「言い忘れてた。おめでとう、ジョイ。君は本当によく頑張った。君が言ってたんだ。楽しい時は、笑うものだろう?」

 

 そう言って、師匠は俺を抱きしめてくれた。

 酷い顔をしているのが、世界の誰にも知られないように。真っ黒な髪の毛のカーテンで世界の全てから俺を隠して、頭を撫でてくれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、そんなこんなで俺は帰路に着いていた。

 リエンはちらっと現れたが、俺の噂が『糞尿漏らし』ではなく、『イグニアニマに勝った男』という方向に流れてきていることを伝えると、さっさと帰って寝た方がいいとだけ告げてどこかに行ってしまった。

 

 多分酷い顔してるんだろうな俺。

 年甲斐もなく嬉し泣きしてしまったし、それ以上に疲労がやばい。立って歩くのも精一杯だし、治りきらなかったであろう左腕が熱を持って痛む。

 一刻も早く寮に戻って寝よう。そうして体力を回復させないと、明日師匠にこっぴどく怒られてしまう。

 

 

「さっきぶりだねジョイくん。……えっと、体大丈夫?」

「アーリス……。見てわかって欲しい。お前がめちゃくちゃに強かったおかげでボロボロだわ」

 

 

 人気の無い寮への道の途中で、俺に話しかけてきたのは先程激戦を繰り広げたアーリスだった。

 髪の色が()()で、強い意志の光が灯ったその立ち姿を見るに、普段の青髪の方が演技であったようだ。

 

「まずはごめんね。騙してたこと」

「別にいいよ。情報収集の時点から勝負だ」

 

 そもそも違和感はあれど、さすがにアーリス・イグニアニマを相手に気を弛めることは俺にはとても出来なかったから効果も薄かったしな。

 

「ところでその髪の色は?」

「赤色だと『猛炎(フレア)』を撃てるってバレちゃうでしょ? これも戦略。()()()()()()()()()

 

 なるほど。確かに『猛炎(フレア)』の使用条件である赤色の髪は有名な話だ。初戦限定であるが、確実に勝ちを拾いに行く為としては賢い手段だろう。

 まぁ俺はその手のフェイクが何一つ効かない特例だからな。なんせ、そもそも3年生になった時のアーリスのことすら俺は知ってるのだから。そうでなかったら絶対勝てなかった。人生二週目でなければ、確実に負けていた。

 

「改めて、今回俺が勝てたのはマグレだ。お前は本当に強い。自慢でもなんでもなく、事実だ」

「そうだね。君が私への哀れみからそう言っているのでは無いのもわかる。私も同じこと考えていたしね」

「……なんだよ。意外といい性格してるな」

「そっちこそ。私達、似たもの同士かな?」

 

 どっちかって言うと師匠とリエンとアーリスみんな似た者同士って感じだよ。俺の周りに来るやつらはなんでこう、ちょっと性格がいい感じなのか。

 そもそもまさかあのアーリスとこうして実力を認め合い、同じ目線で語り合うことになるとは。まだ現実感がなくてフワフワしている。

 

 そのせいか、少し足腰から力が抜けてその場に倒れ込みそうになってしまい、それを情けないことにアーリスに支えてもらってしまった。

 

「ちょ、本当に大丈夫!?」

「悪いな、あんまり大丈夫じゃねぇ。気抜いたらそのまま寝そう」

 

 参ったなコレ、自室まで戻れるか? 変に強がらず師匠かリエン辺りに送ってって貰うべきだったかもしれん。今アーリスに頼むのはなんか厚かましいし、そもそも女子であるアーリスは特別な理由でもなければ男子寮に入れない。いや、模擬戦の疲れで動けないはまぁまぁ特別な理由か? 

 

 

 

 そんなことを考えていると、唇に突然柔らかな感触が伝わってきた。

 声を漏らそうにも、口が塞がれている。目の前にはアーリスの顔だけが映っていて、真っ赤な熟れた果実のように上気したその顔は弱々しさや凛々しさよりも先に妖艶な雰囲気が滲み出ていて、目の前にいる生き物が『女』であることを理解し、そこまで来てようやく現実に脳が追いついた。

 

「おまっ、はぁ!?」

「うわっと?」

 

 慌ててアーリスを突き飛ばしたが、体幹がしっかりしてるのに加えて俺の方がフラフラだったせいか俺が反発に負けて地面に転がる形になってしまった。

 

 いやそれよりも、今何したコイツ? 

 口の中には桃の味、自分以外の誰かの味。柔らかさも匂いも現実離れしていて、それでいて現実だった。

 

「その反応、もしかして初めてだった? ならよかった。ジョイくんの初めて、美味しかったよ」

 

 してやったりと笑うアーリスだが、俺はまだ混乱している。

 いやだって、彼女の言う通り初めてではあったがこんな急に、何? 貴族ってみんなこんな感じなの? この距離感が貴族の中では普通、なのか? ダメだそれよりも考えることとかあるかもだけど、普通に童貞である思考回路が邪魔をしてくる! 

 

「ジョイ・イグニアニマ……アーリス・ヴィータ。うーん、どっちの方が語呂がいいかな? でもジョイくんがこっちに来てくれた方が、色々と便利だと思うけど」

「待て待て待て待て何言ってるのお嬢様!?」

「何って……ジョイくんに私との結婚断る理由がある?」

「そういうことじゃなくてな!」

 

 何言ってんだこのお嬢様は。

 だって結婚って、こう、もうちょっと段取りを踏むものと言うか。

 もっとお互いの距離感を図りつつ、何年かかけて愛を育んでその末に気持ちの確認として言葉を紡いで結ばれる感じのものじゃ、ないんですかね!? 

 最低でも10年くらいさぁ!? 

 

「そっか、ジョイくんは平民だから知らないよね。貴族の女の子は負けた相手と結婚するんだよ」

「そうなの!?」

「そうだよ」

 

 いや、それでもこれは詐欺と言うかほぼ当たり屋だろう。

 幾らアーリスが容姿端麗、成績優秀、家柄も申し分のない女の子だからって……いきなりこれは……断る理由、ねぇな。

 

 いやそうじゃない。落ち着け童貞。

 明らかにアーリスの様子がおかしいだろう。もっとよく観察しろ。ホント人生でモテたことがないせいで頭が茹だってるぞバカ。

 

「ジョイくんは初めて私を認めてくれた。アーリス・イグニアニマを強いって、認めてくれた。きっとこれは運命だから。私は、君が欲しいの」

 

 袋のネズミを追い詰めるように、アーリスは尻餅を着いている俺にまた1歩近づいてくる。

 夕日に照らされるその姿は息を飲むほど美しく、意思が捻じ曲げられるように喉から声を漏らしそうになった時。

 

 

 

 

 

 唇に触れた彼女の唾液から、魔力から思い出した。

 なんで、何故、どういうことだ。鮮明に浮かぶ死のイメージ。人生で最も死を想起し、そして実際に()()()()()()()()()

 俺の肉体を消し飛ばして、血と臓器を体の外に吐き出させて、殺した光の奔流。魔力の結晶。

 

 忘れるわけが無い。

 ジョイ・ヴィータとデウス・グラディウスだけがその魔力の持ち主と真正面から対峙したからこそ、確信を持って言えた。

 

 この魔力の持ち主の名前。

 

 

 

「──────魔女!」

 

 

 

 そう口にした瞬間、世界が閉じた。

 周囲一帯が先程の闘技場の様に円形の空間で閉ざされ、俺の逃げ場はどこにもなくなる。間違いなく、この世界で最も優秀な結界術師が生み出した稀代の大結界。内部と外部を強大な魔力の渦で隔離し、一対一の決闘を強制させる術式。

 

「……残念。アーリスが欲しがってたから、私が奪ってやろうと思ったのに。あの方のことをなんで知ってるのか知らないけど、知る者は全て鏖殺が命令だからね。ごめんね」

 

 そう言って、目の前の少女は炎の翼を出現させた。

 そこに立っているのは学生であるアーリス・イグニアニマではなかった。呪いと死を振りまき、大虐殺を行った魔女の尖兵。

 赤い髪と凛々しい表情。俺が最もよく知るアーリス・イグニアニマの姿がそこにあった。

 

 

 

 

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