逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた 作:ちぇんそー娘
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魔王現象。
魔術や魔力のルールを超えて、単体で国を相手取れる理性のある災害。『枝』、『孔』、『白夜』。時代によってその現象に付けられる名前は違うが、俺達の時代に現れた時代のソレの名前は『魔女』だった。
詳しく知っている訳では無い。
優れた魔術師であるということと、放っておけば世界を滅ぼす厄災であること。それだけしか分からない。
それだけ分かれば十分な程、それは強大であった。
言葉巧みに人を操り、都市を落とし、国を蝕み、多くの人を殺した。そして、俺も一度下半身を吹き飛ばされて見事に殺されてしまった。
「魔女の魔力……アーリス、お前は……」
「契約したの。私の願いを叶えてくれる代わりに、あの方に全てを捧げるって」
目の前にいるのは間違いなくアーリス・イグニアニマだ。
けれど、彼女の中に渦巻く出自不明の強大な魔力。そして俺と彼女を閉じ込めた結界は間違いなく『魔女』のものだ。
一体どうして、彼女ほど優秀な騎士が魔女の手に落ちたのかなんて考えていたがどうやら前提が逆だったらしい。俺達がよく知る彼女というのは、最初から魔女の手の内にあったのだ。それをさも優れた騎士が魔女の手に落ちたかのように演出するとは、どいつもこいつも戦いなんかやってないで仲良く劇団にでも身を転じてくれれば世界は平和になるってものだ。
「言っておくけど、今の私はさっきまでとは違うからね? 確実に、君を
紅の髪が風になびき、背より出る翼が生き物ようにうねりながら俺へと向かってくる。
「クソッ! こっちは疲れてるってんだろ!」
どうにか『
アーリスの言葉に嘘偽りはないようで、彼女の『
「──────あ」
強力な自己暗示が示す未来。触れれば防御なんて意味無く、削り取られて炎で焼かれて消し炭になる。回避出来る速度ではない。
明確に敗北のイメージと現実が重なってくる。こうなってしまっては、もうどうしようもない。
「ごめん、師匠」
「……んー? あれ、今のどうやって避けたのかな? 凄いねジョイくん。君本当に平民かな?」
肩で、なんてものでは無い。
全身の筋肉を使ってどうにか酸素を肺に取り込みながら、顔を上げると、俺が先程まで立っていた場所は抉れ、溶解しアーリスは嬉しそうに、楽しそうに笑っている。
使わされた。
師匠から対エアに備えて2人で作り上げた最後の『切り札』。一瞬だけの使用であったため反動も少なく、相手も何をしたかを理解していない様子だが、2度目はない。アレは俺が万全で何とか起動できる代物だ。今の状態では半端に使って自滅が関の山。
どうする、どうする!?
幾らなんでも魔女なんて、魔女の手先なんて、完成されたアーリス・イグニアニマなんて、俺には荷が重すぎる。二度目の人生で、死ぬほど努力して、何とか俺はこの学園に来てすぐのろくに経験も積んでいないアーリスに辛勝出来る程度の実力なんだぞ!?
そんな奴に『魔王現象』に侵された相手をどうにかしろなんて、出来るわけねぇだろ。『
「ねぇジョイくん。私が怖い? 私が強く見える? 私を畏怖してる?」
「当たり前だろ。怖くて怖くて、仕方がない。今だって、結界が無ければ糞尿漏らしながら逃げ惑ってるさ」
「ふふ、うふふ、そう、そうだよね! 今の私、強くて素敵だものね! あの方が作ってくれた、
あの子と違ってね、と言って。
誰かを嘲る笑みを浮かべながら翼が動く。もう後はない。生き残るためには、一か八かで『切り札』を起動するしかない。
「やってやるよ……俺に負けた分際で偉そうにしてるんじゃねぇぞ!」
「負けたのは私じゃない。今の
何を、と言いかけて足元から迫ってくる熱にギリギリのところで気が付いた。
視界の端、地面を抉っていた炎の翼。いつの間にそれを伸ばして地下を溶かし、掘り進めていたのか。確かに精密性も破壊力も速度も、俺と戦った時とはレベルが違う。
そもそもこれは回避出来るか? 『
「づぅ──────」
そんなここ一番で、治りきってなかった足の骨のヒビが傷んで踏み込みが遅れた。足の裏にジリジリとした熱を感じ、本格的に自分の終わりを感じ取る。
一度目が魔女に殺されたように、二度目も遠回しに魔女に殺されることになるなんてさすがに笑えない。絶対的な死の予感と、裏付けされる足に迫る灼熱と焼け始めた足を見ながらそれでもまだ、諦めずに回避しようとした時だった。
「アレ、なんで……? ……! まだ、残ってたか
ギリギリのところで、アーリスの『
アーリスの髪の色が、僅かに瑠璃色に戻っていた。
イグニアニマ家相伝『
それに加えて彼女の反応。恐らく、魔女の支配からほんの少しであるが解放されている。
「ぅ、ジョイ、くん……。ごめん、ごめんね」
「アーリス、お前、すげぇな……」
こんなこと言ってる場合じゃないのに、教室で最初に出会った時の弱々しい雰囲気に戻った彼女に、俺は素直に感嘆の言葉を漏らしてしまった。
間違いなくアーリスは『魔女』の魔術によって支配されている。恐らく人格から意志まで、全て掌握か、変更されているはずなのに。その中で自我を貫くことの凄さを俺はよく知っている。
「巻き込んじゃって、傷つけて、騙して、本当にごめん!」
「わかった許す! 許すから待ってろ! もう少し耐えて──────」
「ごめんなさい……早く、私を殺して!」
そう叫ぶアーリスの髪の色が、徐々に赤に覆われていく。
「いきなり諦めんな! 主導権奪って結界解いて、そうすりゃ俺の師匠がどうにかしてくれる!」
「これは、明確な契約に従った結果なの。私が、あの声に願ったの! 誰かに必要とされたいって……ここに居ていいって、認められたかった!」
瞳から大粒の涙を零しながら、顔をぐちゃぐちゃにして虚ろな目でアーリスは何とか俺を見つめながらそう叫んだ。
「私が弱かったから、魔女にその隙を突かれた。だから、これはもう私の命でしか終わらせられない。お願いジョイくん。私は私を抑えるので精一杯で……」
だから殺してと、そう言える強さを、瑠璃色の少女は持っていた。
「本当なら、私は消えていた。でも、君が認めてくれた! 私は強いって、アーリス・イグニアニマはここに居るんだって! 認めてくれた! だから私は──────最後まで、君に言ってもらったように、強い自分でいたい」
魔女の力は強大だ。
軟弱な意志を持つ者が、魔力に当てられただけで傀儡になったのも見てきたし、一度魔女の手に落ちた者で自力で戻れた者は1人としていなかった。
けれど彼女はほんの僅かにであるが、自我を取り戻した。契約という一方的なものではなく、子供の心に付け込んだものであろうと両者合意のルールを意志の力で捻じ曲げて、魔女の楔に打ち勝った。
「だから殺して。こんなことお願いするなんて最低だって、自業自得だってわかってる。それでも、君を殺したくない」
「嫌だ」
「……え? 待って、話聞いてた!?」
「嫌に決まってんだろ。人殺しなんて」
魔女に操られた仲間を殺したことはあるが、アレは嫌な経験だった。命を奪う感覚はまったくもって、驚くべきほど
そんなこと俺がしたいと思うのか?
そんなわけないだろう。ジョイ・ヴィータという人間は、己が楽しいと感じる事のために動く人間だ。
「楽しくねぇ。全然! 楽しくねぇ! そんなこと誰がやってやるか! おいアーリス!」
焼け爛れた足を無理やり動かして、目を丸くしている彼女に近づく。
頭を引っ掴んで、涙で滲む瑠璃色の瞳を真っ直ぐ見つめる。怯える彼女を何処にも逃がさないとばかりに。
「いいか、お前は強い! 俺が知ってる中で……2番目に強い!」
「2番目なの!?」
仕方ねぇだろ一番があまりに不動過ぎるんだよ。
「実質1番だから安心しろ!」
「安心出来ないよ! そもそも何の話!?」
「お前は強い。だから、
誰もできなかった偉業を成し遂げてみせた、目の前にいる泣き虫な瑠璃色の少女は間違いなく、魔女によって生み出された赤色のアーリスよりもずっと強い。
「でも、無理……! もう、意識が……」
「それでも自分の強さを信じられないなら、俺を信じろ! 俺がこれだけ強いって言うアーリス・イグニアニマに勝った、この俺を信じろ! お前は絶対魔女に勝てる!」
もう自分でも何をしてるかわからなかった。
殺した方が手っ取り早いし安全とか、そんなことは全部置き去りにして。とにかくこうするのが楽しいと、アーリスをここで殺すのは楽しくないと、こんなに『強い』人間が、こんなところで消えてしまうことが心の底から楽しくなくて、心の底からブチ切れながら叫んだ。
「お前は強い! 強い! 強い! 復唱!」
「ぇ、私は……私は強い! 強い! 強い!」
そう話している間にも彼女の髪の色は徐々に赤に侵されて、背中からは『
「アーリス・イグニアニマは強い! お前なら魔女に負けない! まだ負けてねぇ! 敗北なんて認めるな!」
「ひぐっ、負けてない! 私は、負けてない! 私はここに居る!」
果たしてこの意味のわからない行動で稼げたのは何秒程度だったのか。
涙でぐちゃぐちゃの顔で、申し訳なさそうにでは無く嬉しそうに笑うアーリスの顔を最後に見て。
「──────ありがとう。ジョイくん」
アーリスが剣を抜いた。
そしてその剣先を俺の腹に押し当てて何かを呟くと、刃が岩に覆われて急速に伸びる。元からボロボロの俺は抵抗も出来ず、その延長の勢いに吹っ飛ばされて結界の端まで転がされて、その数瞬後にアーリスの周囲を炎が包み込んだ。
「けほっ、アーリス!」
「うん、私を呼んだかな。ジョイくん?」
炎が晴れた時、そこに立っていたのは真っ赤な髪と炎の翼を携えた魔女の眷属だった。
唇を噛み締め、反射的に殴りかかろうとしたがもはや距離を縮めることも出来ずに地面に倒れ込むことになった。
「
上から目線で俺を馬鹿にするその態度。
前世の俺には腹が立つ。俺はこんな奴に負けたのか。こんな奴を憧れの目で見つめてしまっていたのか。あまりに目が曇り過ぎだ。こんな奴よりも、ただ『
「最後の土属性の魔術は君を庇ったのかな? それとも、私に殺されるくらいなら自分で殺そうとしたのか。どっちでもいいか。すぐに君も同じところに送ってあげるから、答え合わせは直接聞くといい」
「……最後に、いいこと教えてやるよ」
俺を完全に見下している奴は、負け犬の遠吠えを聞く感覚だろう。何を言っても未来は変わらないからと。慈悲と言うよりは嘲笑で耳を傾けた。
「俺とアーリスの勝ちだ。バーカ」
始めから、時間を稼げれば良かった。
アーリスが意識を取り戻した時点でそれを長引かせることが俺達の勝利条件だったのだ。
だって、この学校にはアイツがいる。
俺が実際に魔女本人と戦った時、結界に閉じ込められた俺を助ける為に、どれだけ強力な魔術を叩き込んでも破壊できないこの結界内に侵入した男がいた。
とぷん、と。
水に石が落ちるように結界が歪んだ。
魔女の結界は高密度の魔力の渦。侵入や退場を試みるモノを弾き、無理やり出ようとするのならばその高密度の渦で削り取る攻勢結界。
例えるならば高速で回転する刃の海。その中を悠々と泳いで現れたのは、黄金の騎士だった。
「なんで……魔女様の結界を、どうやって」
「……なるほど」
現れた騎士は状況を一目で確認し、倒れている俺に一言声をかけた。
「よく耐えたね。君は本当に凄いよ」
「その言葉は、アイツに言ってやってくれ」
「わかった。ちょっと、助けてくるね」
耳に届いた声があまりに可憐で儚い声だったから、そういえばと思い出した。
そいつ、今は女だったな。
「私を……私を無視するな! 私は誰よりも強くて、誰よりも認められるんだ!」
赤い髪の女はその会話を、自分が無視されていると捉えたのか炎の翼を俺達に向けて放った。高熱と暴風の掘削機。俺に対しては手加減していたようにすら感じるそれを見て、黄金の騎士──────エア・グラシアスはただ一言。
「遅い」
物質を溶解、切断する死の嵐に対して真正面から剣を叩きつける。
魔力障壁も使わず、そんなことをすれば剣は溶け肉体は切り裂かれ待っているのは避けようのない死である、はずなのに。
殺されたのは、そんな死そのものの方であった。
「……何? 私の『
呆然とする赤い髪の女に一息で距離を詰めたエアは、その腹に剣を刺して、碧の瞳を大きく開いた。
アイツの瞳は少々特殊な構造をしている。
本人から聞いた話によると、目に見えない魔力という概念がその視界の中では『カタチ』を持っているのだと言う。
目に見える、カタチがあるなら叩いて壊せる。カタチがあるなら切って消せる。そんなバカげた理論で、あらゆる魔術を切り裂く魔術文明に対する最強のカウンター。
人の形をした文明の否定者。
それこそがエア・グラシアス。
『
「見つけた。その
そう言ってエアはほんの少し刃を動かした。
ただそれだけで、魔女の支配が物理的に断ち切られる。意識を失って倒れる。その時の彼女の髪の色は、夕日よりもずっと眩しい瑠璃色だった。
……これにて一件落着。
うん。
それはそれとしてめちゃくちゃ悔しい。
だって、これ100%エア頼りだったし。エアが来るまでの時間を稼ぐ、あまりに情けない。
でもまぁ、今日のところはいいだろう。
いつか絶対に、実力的な話でもエアに追いついてやるとして。
素直に誰かにあんなに褒めて貰えたのは嬉しかった。そんな風に俺を褒めてくれた誰かを救ってくれた。
「ありがとな、エア」
それだけ呟いて限界が来て、俺は本日二度目の気絶へと落ちていった。
・アーリス・イグニアニマ
幼少期に魔女と契約し、魔女の理想通りに動く仮想人格を承諾の上で生成。『前回』ではデウス・グラディウスに圧敗し、その際に更なる力を求め対価として元の人格は完全消滅し、魔女の傀儡として潜伏し続けていた。
父親からの虐待同然の教育と環境から承認欲求を拗らせており、自己評価が異常に低いが入試の成績は実はジョイよりも高い。魔女の与えた仮想人格も戦闘技術等はアーリス本人のモノを借り受けているのでセンス面で言えば普通に天才であり、魔術の三属性適正も本人の努力の賜物なのだが、それを自分の努力と認められない精神性が魔女に利用された。
・『
デウス・グラディウスとエア・グラシアスが所有する先天性の生態的特徴、魔眼の一種。
魔力を可視化し、物質として捉えることで本来魔力でしか干渉出来ない現象を物理現象に貶める瞳。魔力そのものを切ったり破壊することで魔力によって発生した現象を一方的に破壊する。また、デウス(エア)は魔力の流れを察知して相手の行動を先読みしたりもする。
この世界は大半のものが魔力を纏っている。そんな世界で魔力を可視化する瞳を持つ者が見る世界は常人とは全く異なった世界となる。
・『切り札』
師匠とジョイくんの決戦兵器。使うとジョイくんが次の日丸一日動けないことが確定するが、アルム曰く「クソザコナメクジのジョイでも天才を食い殺せる可能性を生み出す」技。