逆行したら天才イケメン騎士様がロリ巨乳美少女騎士様になってた 作:ちぇんそー娘
「……むすー」
「あの、師匠。ほんとすみませんでした」
「別に? そもそも君は悪くないだろう? 襲われた側が何を謝るんだい?」
「だって怒ってるじゃないですか」
目が覚めたらめちゃくちゃ不機嫌そうに俺を見つめている師匠と目が合った。もう、私は不機嫌ですと全身で表して、なんならむすーって自分の口で言って頬を膨らましてるんだから。
「怪我、治したよ」
「ありがとうございます師匠」
「よろしい。本当に、手のかかる弟子なんだから。と言うかなんで? なんでこんなことになるの? あと少し遅かったり、無理してたら二度と戦えなくなってたよ?」
大きく大きく息を吐いて、師匠はそっと俺の頬を撫でた。治りきってない傷があるのか、少しだけ傷んだが手を振り払う程ではない。
「君さぁ。何か変なやつおびき寄せるフェロモンとか出てない?」
「師匠、遂に自分の思考回路が常識から飛び出してることを理解出来アアアアアアア! 俺怪我人!」
怪我人にも容赦のないアームロックにより完全にノックダウンさせられた俺はそのまま師匠にさらわれるように車椅子に乗せられて、何処かへと連れていかれることとなった。
アーリスの一件は、エアの見事な活躍により終息した。
俺が危うく死にかけたし、アーリスもしばらく意識が混濁して危うく自我が崩れるところだったらしいが、二人とも何とか回復した。
元々、未来で魔女の眷属になった彼女が齎していた被害と比べたら本当に最小限の被害で済んだというもの。
俺としては素直に喜びたい状況なのだが、師匠の珍しい真面目な表情からそんなこと言ってられない状況なのはわかる。
あのイグニアニマ家の令嬢まで魔女の手にかかっていることが判明したのだ。
しかも、その子が何食わぬ顔で騎士学校に入学し、誰もそれに気が付かなかった。これは騎士学校どころか人類を揺るがす一大事だ。既に何人魔女の支配下になっているかわかったものでは無い。
と言うわけで、お偉いさん方で重要な話があるそうなのだが。
それは俺が眠っている間に全部終わってしまったらしい。まるまる3日といえば長く感じるが、3日寝込んだ程度で話を終えてしまうとは優秀な上層部だ。
師匠はぷんすこと擬音が出そうな怒り方をしながら部屋から飛び出していってしまったので、仕方なくぼーっと天井を見つめている。
いやぁ、それにしても……。
あんなに頑張ったのに!
全然褒めて貰えない!!!
俺はめちゃくちゃ頑張ったはずだ。魔女の眷属を相手にもう筆舌に尽くし難いくらい頑張ったはずなのに、起きてすぐ師匠に怒られて誰にも褒めて貰えてなかった。
そりゃあ結果としてはアーリスが頑張って、エアが全てを終わらせたというのが正しい。
俺はいてもいなくても変わらないただの被害者。それが結果であるのだが、だからと言って俺が生き残るためにめちゃくちゃ頑張った事実は消えない。
でも何もしてないのも事実だ。結局すげぇのはアーリスとエアであり、今回の事件は俺の凄さは何も関係ない。
……それでも。
そういえばエアは俺の事を褒めてくれた。頑張ったと、言ってくれた。
「……何思い出してんだよ」
無意識にあの時のアイツの顔を思い出してしまう。
本当に英雄みたいで、それがあんな可愛い女の子になってしまっていて、なんていえばいいかも分からないぐちゃぐちゃの感情が喉の奥で暴れている。
えぇい、もう寝よう。まだ疲れが取れてないのか体がひたすらだるいし、これ寝るしかない。
「失礼するぞ。ジョイ・ヴィータだな」
「うー……はい。俺がジョイです、けど……?」
なんとも間が悪いタイミングで来訪者が来た。
誰かと思って体を起こすと、そこに居たのは小さな女の子だった。エアのように年齢の割には幼く見えるとかじゃない。正真正銘、騎士学校には不相応な10歳前後にしか見えない小さな女の子。真っ白な長い髪の毛を2つ縛りにし、強気そうな墨色のつり目で俺を睨みつけている。
だと言うのに、服装は貴族が社交界に出るような上品さと、娼館にでも居そうなほど大胆に腹と背中を見せた深紅のドレスに身を包んでいるのだから何か、不思議なちぐはぐさがある。
「あの、お嬢ちゃん? お母さんとはぐれたり……とか?」
「ッチ。魔力でただの嬢ちゃんじゃねぇことくらいわかるだろ。アルムの野郎どんな教育してんだか」
イライラを隠そうともせず、師匠が座っていた椅子に飛び乗るようにして座ったその女の子は、懐から煙草を取り出して怪我人の前で堂々と吸い始めた。
え、何? この子誰? なんとなく師匠と同類の匂いがする。
「おい、アルムと俺を同類扱いすんじゃねぇぞ? これは見た目煙草だけど周りに害はないし煙も出てねぇから安心しろ」
心を読んでくるあたりますます同類としか思えないのだが、師匠のことを知っているしどうやら師匠が俺を育ててることも知っている。つまりは師匠の知り合い。まさか……。
「師匠の、娘!?」
「とんでもねぇ悪口飛び出したなぶっ殺すぞ!?」
さすがに俺も言いすぎた感じはした。うん、師匠の娘はさすがに誰だって怒るだろう。
何とか怒りを納めた謎幼女は、改めましてと自己紹介を始めた。
「ギガト・レムノだ。まさかこの名前を知らねぇとは言わねぇだろうな?」
ギガト・レムノですか。
そりゃあ当然だとも。『
……同時に、俺の前世では魔女との一騎打ちの末敗れ、その死は人類全体に大きな絶望を与えたのだからよく覚えている。
「で、ギガトさんはどこに?」
「俺。まぁ、見た目と一致しねぇ自覚はあるから今の失礼はなかったことにする」
「んー?」
「俺が、ギガト・レムノだよ」
……はぁ。
もうさぁ、何?
デウスはロリ巨乳美少女だしアーリスは最初から魔女の眷属だし、加えて憧れの超人が目付き悪い変態服装ロリとかさぁ!? 俺の情緒がめちゃくちゃになっちゃうじゃんどうしてくれるんだよもう!
「変態服装で悪かったな。趣味なんだよ、コレが」
そしてナチュラルな思考盗聴はやはり師匠の同類としか思えない。あんまり失礼なことは考えないようにしておこう。
「さて、俺がここに来たのは他でもねぇ。アーリスについてお前にひとつ言っておこうとな」
「ッ! アーリスのこと、ですか?」
「あぁ。アイツが死刑になったことをな」
言葉を失った。
叫びそうになった何かを、グッと飲み込んだ。
まぁ、わかっていたことだ。魔女との契約、殺人未遂。わかっている罪状でも十分過ぎる。それも、彼女の家はイグニアニマ家。魔女の、『魔王現象』の危険さはよく知っていたはずだ。その上で契約をした以上、弁護の余地はない。
「……すまねぇな。俺だって未来ある若者を殺したくはねぇ。だがな、ルールはルールだ。法ってのは自分で身を守れねぇ雑魚ばっかの人間が、それでも社会をより良くして仲良く手を取り合って生きてくために曲げちゃいけねぇもんだ。そこに例外を作れば、ウジが湧くように平和が崩れる」
学園長はかなり口が悪いが、言っていることは何も間違っていない。
今回はたまたま未然に防げただけで、アーリスのやった事は何万という無辜の民を殺す未来に繋がる、その可能性があったことを俺は確かに知ってしまっている。彼女は明確な罪を犯した。
わかっている。
わかっているけれど、あまりにやるせない。アーリス・イグニアニマの本当の強さを知れて、これからだったってのに。あの瑠璃色の少女の意思の輝きに、心の底からワクワクしていたからこそこの報告は全く楽しくなかった。
「……気落ちしてるところ悪いが、ここからだ。これからは魔女の対策に本格的に挑む必要がある。だからと言って、その為に若者の青春まで侵すのは世界が許しても俺が許さねぇだから、頼む」
突然、最強の魔術師である学園長は頭を下げた。
俺のような、今回何も出来なかった1人の被害者に対して頭を下げて、お願いをしてきた。
「お前たちの未来は俺達大人が責任をもって守る。だが、大人は万能じゃねぇ。そこでお前の力を借りたい。ジョイ・ヴィータ」
「お、俺……?」
いや俺今回本当に被害者だったんですが。
あの『
「アーリス・イグニアニマからの証言だ。お前は、アーリスとの接触でいち早く彼女の魔女への影響に気が付いた」
「あ──────」
魔女を直接捉え、その魔力によって殺された経験。
それにより俺はアーリスの中に潜む魔女の魔力をいち早く発見した。だがそれだって本当にたまたま、アーリスがキ、……肉体的に非常に密接な接触を行ってきたからに過ぎない。
「それに推薦があった。既に協力してくれている2人の生徒からな。お前は今は弱くても、必ず強くなる、役に立つとな」
「2人……?」
「あぁ。この件に学生で最初の協力者として名乗りを上げ、今回も俺ですら破壊に手間取ってた魔女の結界の中に一足早く乗り込んだ、エア・グラシアス。そして──────」
学園長の言葉を遮るように、1人の少女が部屋に入ってきた。
何か決めたかのような強い意志を秘めた瞳を煌めかせ、瑠璃色の少女は改めてありがとう、と。
たったそれだけで、頑張ってよかったと思えるもんだから人間というのは安いもんだ。
「アーリス・イグニアニマの死刑
「アルムこそてめぇ弟子にどういう教育してんだ? 中々愉快なガキだったからうっかり叩き潰しそうになっちまったじゃねぇか」
どことも分からない空間で、二人の大人が言葉を交わしていた。
黒い髪と白い髪。人を見下すような高身長と人を見上げる低身長。丁寧ながら他人を嘲る口調と乱暴ながら他者を思いやる口調。正反対の、けれども何処か息の合っているような2人。
「魔女が出たんだ。使えるもんは全部使って抑え込む。それはそれとしてあのジョイとか言うガキを使うってのは俺はどうかと思うが……エア・グラシアスが言うんだから間違いねぇだろうなァ」
「私は反対だけどね。ジョイはそんなこと出来ない。彼に才能なんてないよ」
「テメェのソレには説得力がねぇよ。じゃあなんで、アイツにお前は自身の全てであるその『眼』を託した?」
アルムの眼帯を指差すと、わかりやすく彼女は動揺しコーヒーを白衣に少しこぼしてそれを見てギガトは楽しそうに笑った。
「テメェはそういう奴だ。無才同士、惹かれるものがあったんだろ。今度紹介してくれや」
「……嫌だ?」
「あ? なんでだよ。確かに才覚はねぇが面白いとは思うってのに」
「……嫌なものは、嫌だ」
アルムは何かを誤魔化すように、ただコーヒーを啜った。
「ひとつ言っておくよ。彼には、出来るだけ普通の学園生活を送らせてくれ」
「最初からそのつもりだよ。俺がジョイを誘ったのは他2人の熱い勧誘と、単純に魔女の魔力にいち早く気づいた点だ。先天的なものじゃねぇなアレ。魔力への察知が敏感だ。多分、死ぬ程魔力動作を眺め続けたんだろな。お前の教えか?」
「言わない。ジョイにちょっかいかけないで」
「…………お前、幾つになってもガキだな」
お互い様ね、と。
アルムはコーヒーを口にしようとしたが、気がつけばコップの中の黒い液体は何処にも残っていなかった。その気まずさを隠すように彼女は空間から一足早く抜け出した。
とっちらかった自室。
足の踏み場はあるが、物を置くスペースが無い中途半端な散らかりよう。弟子が居てくれれば掃除してくれたなぁとか考えつつ、アルムは汚れた白衣を魔力で動く自動洗濯機に投げ込んだ。
「魔女。今度は奪わせはしない。お前にも、誰にも私の
どれだけ時間をかけても、どれだけ優秀な技術があっても。
白衣に落ちた黒いシミは少しも落ちそうにはなかった。
一章終了です。