普段何もしてない奴が実は最強ってロマンだよね!(周りは気が気じゃありませんが) 作:イベリ子
本当にびっくりするほどの反応で驚きが隠せません。こんなに飴を貰ったら書かねばという感じで続きましたが、元々一発ネタだったということを込みで過度な期待はせず読んでいただければなと思います。
あと、今作でのダラ・アマデュラの全長はそれぞれの想像にお任せしようと思っているのですが、一応作者の中のざっくりとしたイメージでは瘴気の谷の古代種より一回り大きいくらいです。
ファフニールさんの言葉に呆然としている私の意識を戻したのは、地面からダラ・アマデュラに向かって放たれた熱線。見覚えのある、トールのものだった。
そうだ。衝撃的な話だったけど、こんな所で呆然としてる場合じゃない。早くトールを助けてあげないと!
「あの、ダラ・アマデュラさんが凄いのは分かったよ。でもこのままトール一人で戦わせるわけにはいかない、誰かトールを助けてあげてくれない!?」
「助ける? 違うな、俺達がするべきことはあの馬鹿に加勢することでは断じてない」
立ち上がりそう叫んだ私にそう行って厳しい目線を向けたのは、ファフニールさんだった。初めて出会った時と同じくらい、殺気を感じる眼。薄く瘴気が放たれていて、眼と合わせて私の口をつぐませる。
「見れば分かるだろう。あれはたかだかドラゴン数匹が集まったところで打倒出来る存在ではない。俺達がすべきことは、あの馬鹿を連れ戻した後、ヤツが進行を始めるまで待ち、そのルートから外れた場所へ逃げるしかない」
そう言って私から視線を外し、一人闘うトールを見つめるファフニール。エルマとイルルもその言葉に悔しそうな顔をしていても、動く気配はない。カンナがこちらに近づいてきて、私の上着の裾をぎゅっと握ってくる。……どうしようも、ないの?
「そんな……もし日本に来たらどうするのさ」
あの人は、私を見て日本人と言っていた。彼女の娯楽という言葉の意味は分からないけど、アスファルトや摩天楼に覆われた日本、指差して喜んでいた朧塚が無関係に、無事に終わってくれるとは思えない。そうしたら、私達は、
「滅びるだけだ。……仕方のないことだ。あちらの世界では何度も繰り返されたことで、こちらの世界でははじめてのものだから受け入れ難いまでだ。『蛇王龍』がいる以上、いつかは必ず起こることと納得するしかあるまい」
「納得出来るわけないじゃんか!」
あくまで冷静、静かな口調で語るファフニールさんの口調に反射的に返してしまう。でも、だって!
「いきなり出てきた知らないドラゴンに、今からあなたの家とか、会社、町、それ全部破壊しますって言われて、仕方ないから諦めろなんて。そんな理不尽、納得なんて出来るわけない!」
いきなり近所の人たちとか知り合いが皆死ぬかもしれないなんて、そんなの嫌に決まっている。仕方ないなんて思いたくない。誰も悪くないけどそういうものだから仕方ないとか、そんな理屈今どき子供だって騙せないでしょ!
そう返した私に反応して振り向くファフニール。さきほどまでの取り繕うような冷静さは消えて怒りが見える。
「煩わしいぞ人間! ……チッ、一人の感情だけでどうにかなるようなものではない。俺達に出来ることは──」
「いや、小林さんの言うことは正しい」
ファフニールさんの言葉を遮るように、私の側に立ったのはエルマだった。皆からの視線を受けながら、さっきまでの悔しそうな表情はなくなって私へと笑みを向けた後、ダラ・アマデュラへと向き直る。
「彼──彼女? に悪意が無いことは分かっている。滅ぼそうとしているわけでもないし、支配しようとも崇められようともなくて、ただ動いているだけ。そして彼女の進みを止められないのなら、諦めるしかないって理屈も。
でもそうだよな、小林さんの言う通りだ。いつか壊されることが決まっているなんて、そんなの認められるわけない。あちらの世界の人たちは皆、それが当たり前だって生きていた。家や国に価値を見いだせなかったり、彼女が神で、彼女に裁かれることが至高だって人もいた。
けど……そんな常識は正しくない。帰る家があって、壊れない国があって、美味しいものがいつでも食べられる、そっちの方が良いに決まってる」
誰に言うでもなくそう言って、三叉槍を固く固く握りしめるエルマ。そして、顔を上げたエルマの瞳は輝き、まっすぐにダラ・アマデュラを見据えていた。
「私は、トールに加勢する。この世界を護る」
「エルマ……」
行ってくる、そう言ってぐっと足に力を込めて飛び去って……行こうとしたエルマの槍の柄を横から伸びた手が掴む。ぶべ! と込めた力の勢いそのままに床、というか浮かんだ魔法陣に顔から突っ込んで間が抜けた声が出た。……キメきれないんだなあエルマは。
「おぉい何するんだ! 危ないじゃないか!」
「せっかちだなあエルマは。僕も行くよ」
エルマを止めたのはルコアさんだった。彼女はいつも閉じている眼を薄く開いている以外、いつもと同じような笑みを浮かべているように見える。けれど、その言葉にドラゴンの皆は少なからず衝撃を受けたようで、目を見開いて驚きを顕にしている。
「彼女とは昔からの付き合いだからさ。彼だと思ってたけど、話したことも何度かあるし、少しだけど弱点も知ってる。……話した時と同じくらい、知り合いとか国も亡くなってね。一回だけ闘って、話して、もう闘わないって約束してたんだけどさ。闘うだけ無駄だなーって思ってたんだけど……翔太くんがいるこっちの世界まで危害が及ぶのは、さすがに嫌だね」
まあこっちの世界に来るなんて僕もぜーんぜん聞いてなかったし! 最初に約束破ったのはあっちでしょ!
そんな言葉で茶化すようにしているルコアさん。でもルコアさんが気持ちを語った言葉は真剣で、彼女が手助けしてくれると思うと胸の中に安堵が広がった。
「私も。才川と、小林と、学校のみんな、守りたい」
「……あたしだって。まだこの世界のこと何にも知らないんだ、知らないままで壊されたくなんてない」
「二人とも……!」
ルコアさんの言葉に続いて、カンナとイルルもぎゅっと手を握り、一歩前に進んで意気込む。
どうしようもないという言葉に皆が立ち向かってくれている。良かった、と胸をなでおろす。何も解決したわけじゃないのは分かってるけど、この世界のために力を貸してくれることが嬉しい。それと同時に、自分で何もできない無力を痛感する。すると、
チッッッ
「愚かにも程があるな。馬鹿は馬鹿らしく死んでこい」
ファフニールさんの大きな舌打ちが響く。彼は言葉の通り協力してくれるつもりはないようで、どこかへと飛び去ってしまった。……彼には私が、またドラゴンの力を利用しているだけに見えたのだろうか。正直、返す言葉が無いな、と思ってしまう。こんな風に皆を頼って、自分の力でどうにかならないような高望みはしないなんて言えないよな。
「まあまあ、大丈夫だよ小林さん」
「え? 大丈夫って?」
少し凹んだ私にルコアさんが声をかけてきてくれる。彼女の開いた瞳はファフニールさんが去っていった方を見上げていて、そのままこう続けた。
「一番彼女を嫌いなのはファフニールだから。とりあえず僕たちは、僕たちで出来ることをしようか」
あれえ、声聞こえてないのかな? めちゃくちゃ声量上げて落ち着いてーって言ったつもりだったんだけど、トール全然止まってくれないんだけど。というかドラゴン体に戻ってめっちゃ本気モードなんだけど。なんで??
ううん、どうしたもんか。鼓膜破れちゃったとか? もしくは言葉通じなくなった? なんかこっちの世界だと通じないとか……いや人型の時は普通に喋れてたし違うな、ええとなんでやろ。ううーん……いや熱いわ! いくら炎に強くても完全ノーダメージってわけじゃないんだぞ! オラ!
あっ避けてないやべ
《トール! 無事か!》
《……ええい! 来るのが遅いんですよエルマ!》
っとセフセフ。危なく爪当てるところだった、さすがに知ってる娘殺すのはちょっと嫌だから助けに入ってくれて助かったあ。ええとあれは……エルマかな?
《……よし、今私の千里眼の視界を分け与えた。この場に私とお前以外にカンナとイルルの二人がいるから、とりあえず攻撃を受けないようにしながら立ち回るぞ》
《は? 分け与えるって、あなたそんな器用なこと出来ました?》
《ルコアが全部やってくれてる。直接参加すると『終末の蛇』が本気出すかもしれないらしいから、裏方で指示を出してくれてるぞ。ついでにテレパシーを維持してるのもルコアだ!》
蛇みたいなドラゴン、多分エルマとトールが向かい合って、少ししてから分かれた。え~何眼と眼で分かり合っちゃってるんですか? エモじゃん。テレパシーいらずってかガハハ……うん? テレパシー……あ。
もしかして余の鳴き声意味届いてない? あっ絶対そんな気がする、ていうかそうだそもそも翻訳してもらわなきゃじゃんやっべ。ケツァルコアトルに言われたこと完全に忘れてた。
どうしようあばばばば、ん、なんか自分の混乱以外に何か感じるな、電撃か?
《こっち向いた。多分火より効いてる》
《うん、僕の識ってることは活かせそうだね。強力な物理的な衝撃か、電撃と冷気が一応彼女の弱点のハズだ。かと言って倒せるわけじゃない、どうにか向こうの世界に戻ってもらえるように……僕の時間遡行でさっきまで取ってたっていう人型に戻して空間転移させたら完璧。
でも彼女は魔力なんてないくせに、中のエネルギーだけでほっとんど魔法の効果をレジストしちゃう。そのレジストをどうにかするために気を引いてエネルギーを別方向に使ってもらうか、ある程度消耗させるのがゴール地点だ。逆に本気にさせたらマズイけど、多分怒らせるような致命傷は君たちじゃ与えられないと思うから安心だね!》
《舐めてんですかお前!》
《事実だ……認めようトール》
《まだあたしは撃ってないぞ! ぶっ飛ばしてやる!》
《がんばれー》
あ、ふさふさのちっちゃな白いドラゴンがいるな。カンナかな、かわいいー。ン? よく感じてみたらもう一体……いや、二体か? 構えてるドラゴンがいるけど……あれかな、トールが余に喧嘩売ってるからやめろって止めに来てくれたのかなわばば。爆破属性ですかなにこのブレス。
《くそ! こいつ本当に生き物か!?》
《ハッ、やっぱり全然ダメじゃないですか!》
《……んー、いやいいかも。カンナ、次イルルが撃った場所に電撃当ててみて貰える? そしたら皆危ない! 》
いやというかトールじゃなくて余にうつんかーい、という意を込めて尾で周囲を薙ぎ払う。えー、というかそうか、トールじゃなくて余に撃つってことは余がこの姿になったの臨戦態勢だと思われてるな? 違うんですよ、こっちの姿の方が手加減出来るかなーってなっただけで……ていうかあれか、人型戻ればいいんじゃないか? そうしよっか。
《……糞、直撃してないのに結界貫通してぶっとばされた……! 皆無事ですか!?》
《私は大丈夫だ! ただすまん、少し波を操作する時間をくれ! このままだと世界に津波が行ってしまう!》
《ぐ……あたしも、大丈夫だ。頭がぐわんぐわんするが、まだ戦えるぞ!》
《ごめん、カンナが意識を失ってしまってる。僕が今追いついたけどすぐには動けなさそうだ》
うし、えーと人型……えーと……どうするんだったっけ。いや、どうというかあの時は無我夢中でエネルギー集めてたらなれたんだった。……はああああああああああああああ!!!!!
《! 嘘でしょ、何だそのエネルギーの溜め方! 僕も見たことがないほどのエネルギー……マズイ!》
うおおおおおおおおお人型人型人型人型!! そうだこれこれ、こうやって胸部にエネルギーが集中していく感じ! おらあああああああ人型になるぞおおおおおおおお!!!
「調子に乗るなよ蛇王龍。お前を世界で最も殺したいのは、俺だ!!」
あ!!???? 痛っっっっっっっっっt
その長大な尻尾で海上のものを全て薙ぎ払い、その衝撃が空気を、海面を通して轟音と共に過ぎ去っていった後。周囲のドラゴン達をまるで蝿のように吹き飛ばし、また尾を自らの足場とする島に巻きつけた蛇王龍は、先程までの攻撃を意に介していないかのように身を落ち着かせた。そして──
「フン……癪に障る光だ」
見覚えがある光を見て、ファフニールは思い出していた。まだ己が若く、蓄えている財も少なかった頃。『蛇王龍』にはじめての住処を踏み潰され、財宝と己ごと蹂躙されたことを。
思い出す度に屈辱と憎悪で気が狂いそうになる過去。その衝動のまま『蛇王龍』に挑んだことも多々あったが、己の性分と異なることを延々と続けることに耐えられなくなり、いつしか仕方がないことと蓋をした過去。その過去が、今まさに自身の前に立ちはだかっている。
ファフニールは口の端が堪えきれないほどに弧を描いていることに気づいた。くつくつ、と声が出る。あの光はまさしく『蛇王龍』が図体以外を武器にする合図。奴の持つ過剰なエネルギーを集め、放出しようとすることを表している。
そしてそのエネルギーを、どこに溜めているのかも。
ファフニールは、明るい場所が好きではない。己の性分は薄暗い洞窟の中で引きこもり、財に囲まれながら世界に呪詛を投げ続けるだけのものだと思っているから。
しかし、今日だけは、性分を捨て、ここで真の姿を見せることに躊躇いがなかった。なぜなら──
「調子に乗るなよ蛇王龍。お前を世界で最も殺したいのは、俺だ!!」
憎い憎いあの蛇に報いる、絶好の好機だからだ。
単眼が左右に三対並んだ眼と、横に開いた牙の並んだおぞましい顎部から吐き出された、溜めに溜め込まれた呪詛の洪水。それは真っ黒な光線のように飛んでいき────『蛇王龍』の胸部に触れると同時、青白い燐光をまとっていたエネルギーを真っ黒に染め上げ、爆ぜた。
【部位破壊】ダラ・アマデュラ胸部
ダラ・アマデュラは怒り状態になった!
ごめんね、この作品主人公最強なのです。