ACE COMBAT Ex The Connected Skies 作:一 白
サーペント隊の初任務は周辺空域の哨戒だ。
万が一に備えて、特殊兵装は対空ミサイルを選択せよ。
気を付けて行ってこい。
1994年.長い楕円軌道を描く小惑星群が発見される。それらは木星圏の小惑星『ユリシーズ』に未知の小惑星が衝突してできた、数万個の欠片たちだった。
その欠片たち───『ユリシーズ小惑星群』と名付けられたそれらは、地球との衝突軌道にあることも判明した。降り注ぐ隕石の数は、およそ一万。
全てを迎撃、もしくは逸らすことは到底不可能なため、各国がそれぞれに隕石迎撃用の兵器を建造した。サンサルバシオンやベルカ、オーレリアやシラージなどが金を持ち寄り、技術を共有してそれぞれの国に建造した『ストーンヘンジ』、エストバキアの『シャンデリア』、などなどなど…
だが宇宙の猛威の前に、結局人類は無力だった。
サンサルバシオンのストーンヘンジは隕石の欠片が七番砲付近に落着、機能停止。シャンデリアは内戦により完成が遅れ、未完成のまま放棄。そのほかのどの兵器も、100%で運用されたものは一つとしてなく。
世界は惨憺たる有り様だった。
私はユリシーズ落着の年に生まれ、両親を喪い孤児となった。親の顔など、当然覚えてはいない。
私を疎ましく思ったのだろう親戚の手で孤児院に送られた私は、物心ついたころにはずっと空を見上げていた。
昼は吸い込まれそうなほど美しく、夜は宝石のように輝く星々。いつしか、私は空に魅了されていた。
高校を首席で卒業した私は、オーシア国防大学に入学した。
初めて飛行機を飛ばした時の感動は今も覚えている。鈍重なセスナ機ではあったが、コクピットから見える光景に、子供のようにはしゃいでいた。
幸いなことに友人にも恵まれ、大学卒業後はオーシア国防空軍に配属となった。配属先はオーシア西海岸、パシフィックシティのダヴェンポート空軍基地。
ここは女性ばかりの珍しい基地で、私も友達も、大ベテランの姐さん達にみっちりとしごかれた。
そんな私もついに一人前と認められ、隊を任されるまでになったのだ。
オーシア国防空軍第7航空団第76戦闘飛行隊『サーペント』。
私の同期である友達が部下になるというのは、何とも変な気分だった。
今日はそんな私たちの初任務。何の事はない、ただの哨戒任務だ。
その、はずだった。
2026/5/17/15:02
《タワーよりサーペント1、今日はサーペント隊の初任務だな。》
「はい。気負いすぎないよう、頑張ります。」
私たちサーペント隊に与えられた機体はEF-2000 Typhoon ACTIVE。やや旧式の機体だが、HMD導入をはじめとした大規模改修により、最新鋭の機体とも互角に渡り合えるようになっている。分かりやすいところで言えば、エンジンノズルも旧型のそれから二次元スラスト・ベクタリング/スラスト・リバーシング排気ノズルに変更されて、F-22のように無茶な機動も可能になっているのだから驚きだ。
《その調子だ。滑走路確認OK、一機ずつ…ん?》
「サーペント1よりタワー、どうしました?」
《東部レーダー部隊より通報!国籍不明編隊が接近中!編隊は…どうした!応答しろ!…クソっ!レーダー部隊との通信途絶!スクランブルを下令しろ!》
「サーペント1よりタワー、離陸許可を!」
《…了解、離陸を許可する!寝覚めが悪いから死んでくれるなよ!》
「努力します!サーペント隊、全速で離陸する!各機続け!」
《了解!》
砂漠迷彩を施された私たちのTyphoon ACTIVEが二機ずつ、アフターバーナーを全開にして離陸。ギアを格納して編隊を組みなおし、方位090へ機首を向ける。
《一体全体何だってのよ!簡単な哨戒任務って司令も言ってたじゃない!》
「分からない。けど通信を聞く限り、東部レーダー部隊が攻撃されたみたい。」
《つまり、敵?》
「そういう事。敵機捕捉、速い!ブレイク!」
HMDに緑のコンテナが表示されたのと同時に、UIが緑から赤に変化。ロックオンアラートが鳴り響く。
花が咲くようにブレイクすると、元居た空間をミサイルが駆け抜けた。
「こちらサーペント1!敵編隊はMiG-29とB-1B!目標は基地と思われる!」
《了解、今リザード隊を上げる!協力して撃墜せよ!》
「了解!」
通信を切って敵機の後ろを追いかける。するとHMDのコンテナが緑から赤に変わり、ロックオンした事を知らせる。
「FOX2!」
反射的にミサイル発射ボタンを二回連続で押すと、懸架されていたAMRAAMに火が入り、敵機を追尾し始める。一発目でエンジンをズタズタに切り裂き、二発目が機体に食い込んで爆散した。
〈ぐあぁっ!〉
《隊長ナイスキル!って、ヤバっ!》
〈もらった、落ちろ!〉
《FOX2!サーペント4、よそ見しない!》
4の後ろをとっていたMiG-29を、3が撃墜。そのままロッテを組んで飛び始めた。
《ありがと3、助かった!》
「サーペント各機、単機での戦闘は禁止!二機で一機を仕留めて!」
《了解!》
私と2もエレメントを組み、敵機を追いかける。
すると、レーダーに後方から迫る新たな反応が。
《遅れてすまなかったね、ひよっこ達!》
《遅れた分の仕事はするよ!》
《リザード1!》
《リザード2!》
《エンゲージ!》
純白のF-15が護衛機編隊を引っ掻き回し、次々と撃墜していく。まるで肉食恐竜が逃げ惑う餌を食い散らかすかのように。
〈新手だ、警戒しろ!〉
〈こいつらやり手だ、他の四機より動きがいい!〉
《姐さん!》
《くっ…いつまでも姐さんに頼ってちゃダメなのに…!》
《慣れないうちはベテランに頼るのも、ひよっこの仕事だよ!それにアンタ達は今日が初出撃じゃないか。編隊を組めてるだけでも上出来なのに、そのうえ敵機撃墜なんてね!後で特製の勲章あげるよ!》
《私たちは護衛機をたたく。そっちは爆撃機隊をやれ!》
「了解!リザード隊、援護感謝します!行くよ!」
《はいさ!》
《落とす…!》
《了解!》
「各機、通常ミサイルから特殊兵装に切り替え!」
兵装スイッチを通常ミサイルから特殊兵装の6AAMに切り替える。訓練では何度も使った特殊兵装だけど、実戦となるとやけにスイッチが重く感じた。
「ロックオン開始…OK!」
《ロックオン完了!》
《私も大丈夫。》
《いつでも行けるよ!》
「…発射!」
24本ものミサイルが白煙を引きながら飛翔し、五機のB-1Bに一斉に弾着。脱出する間もなく木っ端微塵になり、地表へと墜ちていった。
《こちらリザード1、こっちも何とか片付いたよ。RTB!》
「了解、こちらも帰還します。各機、RTB。」
十数分後、私たちは基地のブリーフィングルームにいた。
「まずはお帰りなさい。誰も死なずに帰って来られたことに拍手を、と言いたいところだけど…そうもいかない状況よ。副司令。」
「はい。」
副司令がパソコンを操作すると、正面のスクリーンに映像が映し出された。
内容は、ユージア連邦なる組織の決起声明文だった。無精ひげの男が何やら吼えているが、全くもって興味はない。目を閉じて腕を組み、ほんの少しだけ微睡む。
「…この声明がインターネットを通じて発されると同時に、世界各国で大規模な軍事クーデターが発生。ユージア大陸、ヴェルーサ、ユークトバニアの一部、レサス、オーシア・ベルカ・ウスティオ・サピンの四ヶ国を除くオーシア大陸東部、ノルデンナヴィクが武装国家『ユージア連邦』として蜂起。独立を宣言したわ。先ほどの攻撃もユージア連邦のものと考えていいでしょうね。」
司令の言葉にどよめきが起こる。実質世界の半分が敵に回ったことになるのだから、それも当然と言えば当然か。
「これに際し、IUN主導の下でISAF、独立国家連合軍を再結成。ユージア連邦の侵攻を防ぐべく、大規模防衛作戦を展開することになったわ。私たちオーシア軍は難民と共にオーシアに避退してきたエルジア軍およびシラージ軍と協力し、東部戦線・南部戦線を展開。奪われた国々を取り戻すことになります。」
ごくり、と誰かがつばを飲み込む音。
「今回襲来したB-1BやMiG-29は、地理や各勢力圏の関係からみてサンド島から発進した可能性が非常に高い。そのため、次の作戦はサンド島奪還だ。作戦開始は明後日の0000、ブリーフィングは明日の2200より開始だ。」
「副司令、質問よろしいでしょうか!」
「どうした?」
「サンド島って、今は確か基地も閉鎖されて無人のはずですよね?」
「ああ。今回の作戦は、サンド島が敵の手に落ちた可能性があると判断しての事だ。異常がなければ、サンド島基地は西部の前線基地として再稼働させる。この任務は偵察も兼ねているんだ。それを頭に入れておいてくれ。」
『了解!』
「ああそれと、明日の早朝にエルジア軍とシラージ軍の戦闘機隊が当基地に到着します。くれぐれも失礼のないようにね。」
「エルジアとシラージの隊かぁ…どんな人たちなのかな?」
先ほどの戦闘で二番機を務めていた少女、アリシア・テイラーが話しかけてきた。
「さぁ?」
「さぁ…って、気にならないの?」
「気にはなるけど、前情報が何もないし。飛べて戦えるならそれでいいでしょ。」
「もー、ロマンがないなーアビーは。」
言い忘れていたが、私の名前はアビゲイル・ミラー。階級は中尉、金髪碧眼ベリーショートのどこにでもいるオーシア人だ。よくボーイッシュだなんだと言われるが、正直自覚はない。アリス───アリシアは金のロングヘアーでエメラルドグリーンの目をしている。同性の私から見ても可愛いと思えるのだから、かなり可愛い部類であることは間違いないだろう。
ちなみに私以外のサーペント隊員は全員少尉だ。早く昇進してほしいものだが、そうすると私も昇進してしまう。困ったものだ。
「あ、そうだアビー。この間言ってたバー、後で行かない?」
「戦時中よ、私らが行っちゃだめでしょ。」
「ちぇー。せめて基地の酒もうちょっと美味しいの仕入れてくんないかなー。」
「…確かに、あれを酒と認めたくはないね…」
「あんなのただの工業用アルコールでしょ!?バカなのは大統領!?軍上層部!?それとも基地司令の舌!?」
酒について吼えてる褐色黒髪ベリーショートの彼女はシャーロット・ムーア、サーペント隊四番機。いい子なんだけど、ノースポイントの『ギャル』みたいなフランクな性格で、実はかなりの酒飲み。愛称はシャーリー。
そしてシャーリーに同意したのは三番機のハンナ・ロペス。かなり身長が低くて子供と間違われるけど、もう成人してる。オーシアでは珍しい銀髪碧眼で、なんでもユークの血がちょっと混じってるんだとか。
「よう、きょうはお疲れだね。まさか初出撃で初撃墜、しかもうち二人は戦闘機を喰ったとはねぇ。」
「姐さん!」
褐色でウェービーな黒いロングヘアーのこの人はイザベル・ブラウン大尉。私たちの教官役だったベテランパイロットだ。
「お疲れ様です、大尉。」
「イザベルで構わないって言ってるだろう?それより、今ジュリアも部屋にいてね。一緒に酒でもどうだい?」
「ご一緒したいのはやまやまですが、その…」
「この基地の酒どれ飲んでも全部マズいんすよねー…」
「安心しな、全部あたしのコレクションさ。味は保証するよ?」
「マジっすか!?」
「…では、お言葉に甘えて…」
この後シャーリー以上に強かった姐さん達に潰されて、翌日の昼まで爆睡してたのはまた別のお話。
続く
-Result-
侵攻の第一波と思われる敵爆撃機部隊の撃墜に成功。当基地は辛くも守られた。
しかし警戒を緩めてはならない。
今後の作戦はISAFの指揮下で行う。諸君らの活躍に期待する。