我ら思う、故に我らあり 〜Twintail with GHOST CAT~   作:春風駘蕩

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化猫少女と謎のおっちゃん

 にゃははは! 引っかかった引っかかった! 美味しいりあくしょんをどうもありがとー。

 

 そーじの背中に張り付いたまま、わたしはさっきのてんしょんを捨ててけらけら笑う。

 あーおっかしー。

 予想以上のりあくしょんしてくれるんだもん。

 

 いや〜……だだ滑りしなくてよかった。

 

「な、なんなんだお前は⁉︎ ていうかマジでやめてくれ、マジで離れてくれお願いします‼︎」

「いやああああああああ付いて……憑いてきてたああああああああああああああ⁉︎」

「しっ……信じません信じませんよ‼︎ そんな今時幽霊なんてそんなあり得ませんだってあり得ないんですから‼︎」

 

 不意をついて現れた不可思議な存在に完全にぱにっくに陥ってる三人。

 あぁ、無駄だよご主人様。霊体相手にそんなに暴れたって離れるわけないし。おいあいかとおっぱい、お前らこういう時だけ仲良さそうに抱き合うのね、ちょっと妬けるぞ。

 

 んー、最初はちょっと楽しかったけど……いい加減収集つかなくなってきたかな。

 

「むー、ちょっとこの反応はしつこいかなー」

「ひっ……」

 

 そーじにひっついたまま、思わずずじと目であいかを睨みつけていると、あいかの目が焦点が合わなくなってきた。

 あ、これやばい。

 

「そ…………そーじから離れなさいよォォォォォォォォォォォォォォォォ‼︎」

 

 熊さえ仕留められるあいかの拳が、私の顔面に思いっきり振るわれる。手加減なしの一撃は、まっすぐに私の鼻っ柱へと吸い込まれるように打ち込まれた。

 

 いや、意味ないんだけどね。

 今の私には誰も触れないし。

 

「もー、いい加減落ち着きなよ」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ⁉︎」

 

 まんがみたいにめりこむんじゃなくて、あいかの拳が私の顔をすり抜けて後ろまで貫いている。

 すぐ横のそーじの目には、あいかの拳が人の顔を貫いているような大変しょっきんぐな光景に映ってるみたいだな。ちょっと悪い事した。

 まぁ、あいかならほんとにいつかやりかねないけど。

 

「う、嘘でしょ⁉︎ あたしの拳が効かないなんて……まさか本当に……⁉︎」

 

 ずぼっ、と拳を引き抜きながらなんか戦慄するあいか。やらせた私がいうのもなんだけど、本物かどうかの判断基準がそれでいいのか。

 

 うん、本当に収集つかなくなってきた。

 そーじはしょっきんぐな光景のせいで白目剥いて固まっちゃってるし、おっぱいはぶつぶつ小難しい事を呟きながら頭抱えてるし。

 

 ……どーしよ、これ、私のせいだよね?

 

 と、思ってたら、なんかあわあわ言ってたそーじがはっと目を見開いて、私の顔をじっと見つめてきた。……なんか照れるね。

 

「……まさか、そらか?」

「お! せいか〜い♪」

 

 やーやー、よかったよかった。ちゃんと気付いてくれたね、ご主人様。

 わかってもらえなかったら、流石に私も泣いてたぞ。わはは。

 

「ちょ、ちょっとそーじ! 本気で言ってんの⁉︎」

「は……ちょ、えっ、え⁉︎ そらって……あの、もしかしなくてもあの猫の事ですよね? いえ、総二様、流石にそれは……」

 

 おっと、あいかとおっぱいはすぐには受け入れられなかったか……まぁ、無理もないけど。見た目がぶっちゃけ原型とどめてないしな〜。

 

 信じてもらわないと話進まないから、さっさと色々見せるか。

 

「疑ってるとこ悪いけど、私はそらだよ。観束家の飼い猫、もう二人とは長〜い付き合いのお猫様だよ。どう? びびった?」

「びびったっていうか……いや! いやいやいやあり得ないって! 確かに今日エレメリアンだとか変態だとか色々あったけど! いきなりこれはない! 急すぎ! 受け入れられない!」

「んー、だったらどうすれば信じてくれるかなー……とりあえず戻るか」

 

 ぼわん、と私は宙返りをして、私は猫の姿に戻る。ついでにもっかいそーじの膝の上に乗る。定位置は譲らないぜ。

 

 びっくり仰天した顔で固まるそーじとあいか、そんでおっぱいの前でぐにーって伸びをして、欠伸もしながら三人に向き直った。

 

「───はい、この通り。信じてくれた?」

「……! ほ、本当に、そらだ……この毛並みは間違いない」

「そんな…!」

「で、でも、いや、だって……!」

 

 んー、目の前でわざわざ変化してあげたのに、ま〜だ疑ってるのか。

 どうしよう、何言えば信じてもらえるかな。本人しか知らない秘密でも暴露すればいやでも信じるかな……やめとこ。あいかに殺されかねん。

 

「なぁ、そら。お前、いつからそうなっちまったんだ? 昔は……俺が覚えてる限り、お前は普通の猫だったはずだろ。いつから、その、化け猫? に……」

「あー、うん。どっから説明したものかねぇ……」

 

 そーじが恐る恐る聞いてくるから、私は説明しようとしたんだけど……どの辺から話したらいいんだろう。

 ()()()はほとんど一気に色んな事が起こった時だったからな……どれかを説明しようとすると、いちいち全部を説明しなきゃならなくなるし。

 

 

 

「ま、気になるのは当然だよね〜?」

 

 

 

 私がちょっと悩んでると───いつのまにか、あいかとおっぱいの間でお茶を飲んでた誰かがのんびりした声をあげる。

 そーじ達は一瞬固まって、しばらく経ってからぎょっと……声を出した変な格好の人間に、おれんじ色の和服っぽい格好をした、長い白髪のおじいちゃんに気付いて、ざざざって後ずさった。

 

 あ、おっちゃんだ。おひさ。

 最近見ないと思ったら、急に出てきたね。……何年振りだっけ?

 

「んん⁉︎」

「誰よあんた⁉︎」

「ん? なんだつみはってか。そうです、わたすが仙人のおじちゃんです」

「何このノリの軽いおっさん⁉︎ 仙人とか言ってるくせに威厳とかまるでないんだけど⁉︎」

 

 なんか当たり前みたいな顔で座ってたおっちゃんに、みんなでものすごい驚きと疑いの目を向けている。

 

 おっちゃんってば、神出鬼没だからな〜。

 いっつもこういう感じでいきなり出てきて話しかけてくるから、結構心臓に悪いんだよね……とっくに動いてないけど。

 

 そしたらおっちゃんが、身構えてるそーじ達に呆れた目を向けて、溜息交じりに話し出した。

 

「文句の多い連中だな。せっかく俺が直々にこいつの力の説明をしてやろうというのに」

「説明…⁉︎ それってまさか、あの謎の属性力を用いたガジェットは…!」

 

 おっちゃんの呟きに、おっぱいがはっと我に返って身を乗り出した。

 

 あー…私のこれが気になってるっぽかったしな。なんだろ、科学者のぷらいどとか意地とか、そういうの?

 ちょっと違う気がするけど、作った奴が出てきたから見逃せなくなったのかな。

 

「こいつにドライバーを渡し、ゴーストにしたのは俺だ」

幽霊(ゴースト)……⁉︎」

「じゃあやっぱり、本物の化け猫ってことに…⁉︎」

 

 さっきからずっと青い顔のままのあいかが、がたがた震えながら私を見てくる。うん、もう暴れないでね?

 殴られても触れないから痛くないんだけど……家族に拒絶されると心にくるんだよ。

 

 そーじにまでそんな目を向けられたら、多分しばらく、いや今後ずっと立ち直れなくなる気がする……けど。

 

「教えてくれ、爺さん。お前達は……何者なんだ? そら、お前に一体……何があったんだ?」

 

 だけどそーじは……さっきの怯えをどこかにやって、真剣な眼差しを私に向けて尋ねてくる。

 

 疑ってるとかじゃない。私を私だと、観束家の飼い猫そらって受け入れたまま、私から話を聞こうとしてくれてる。

 そういうとこだぞ、ご主人様……そういうとこが大好きになったんだよ、このやろー。

 

「えっとさ、わたしもなんでかあんまりよく覚えてないんだけどさ。……わたしが迷子になった時のこと覚えてる?」

 

 まずは、そこから話そう。

 力とか、人間に化けられる事とか、えれめーらとか……そういう小難しい話をする前に。

 

 

 ───私という存在の終わりと再生について、きちんと話しておこう。

 

 

「あ、ああ。散々探してたのに見つからなくって、かあさんに慰められながら泣いてたのは覚えてるよ」

「うん、そーじがものすごく落ち込んでたあの時、よね? ていうかあんたがよく覚えてたわね」

「にゃははは……まぁ、忘れっぽいのは自覚してるけど。まぁ言いたいことはそのことじゃなくて」

 

 これ言っちゃうと絶対そーじの表情が曇りそうだから、すっごい言い辛いんだけど……でも、私は覚悟を決めて、重い口を開いた。

 

 

 

 

 

「……私はね、その時一度死んじゃったんだ」

 

 

 

 

 

<◉>

 

 昔……そーじ達がちゅーがくせーだった頃かな。

 

 私は昔から散歩が好きで、あっちこっち……街中とか河原とかを歩き回ったり、入ったことのない建物の中を探検したり、まぁ〜結構やんちゃしてたんだよね。

 日が暮れてから帰ってきてそーじ達にばちくそに怒られたり……でも、夜になる前には必ず家に帰ってた。

 

 最初は叱ってたそーじ達だけど、私が全然冒険をやめないから、そのうちやれやれって顔で、帰るのを待っててくれるようになったよね。

 それで汚れてきた私をそーじがお風呂で洗おうとして……私が濡れるの嫌いだから暴れて、一緒にびしょ濡れになったりしてさ。

 

 ……うん、話が逸れたな。

 まぁ、とにかくいろんなところに行くのが好きだった私は、ある時思い切って山までお散歩に行ったんだ。

 遠くから見えた紅葉が綺麗でねぇ。近くで見たくなって、ちょっっと遅くなるくらいのつもりで、頭の上と足元の赤色を楽しみながら登ってた。

 

 だけど、調子に乗って奥まで来すぎちゃってね……あたりがもう暗くて、急いで帰らなきゃまずいって時間になっちゃってた。

 

 大慌てで山を駆け下りようとしたのが悪かったのかな。

 山の中の道路に出た私は……車に轢かれて、死んじゃったんだ。

 

 …そんな顔しないでよ。もう痛くもなんともないから。

 全然そーじ達のせいじゃないよ。私がばかだっただけなんだし……あぁもう、あいかってば泣かないでったら。おいこらおっぱい、お前まで戦慄の表情浮かべんなよ、調子狂うだろ。

 

 えっと、それで、轢かれた私はそのまま川に落ちて、どんぶらこってどこか知らないところに流されちゃって。

 ……だから泣きそうな顔しないでったら。

 

 あー……んんっ!

 とにかく! 私はその時命を落とした!

 

 

 それで───不思議な場所に流れ着いたんだ。

 

 

 そこは、何とも言えない……本当になんて言ったらいいのかわかんないんだけど、神聖? 厳か? みたいなこう、人間の気配を全然感じない、すごい静かで綺麗な場所だった。

 

 広い森に囲まれてて、大きな滝があって、私はその滝壺の端っこに倒れてた。

 

 全身ずぶ濡れで、だけど全然寒くなくってね。それだけじゃなくて、痛みも苦しみも、何にも感じなくって。

 ……あぁ、私死んじゃったんだな……って、そこでやっと気付いたんだ。

 

 私はそこでしばらく悩んだ。死ぬ気なんて全然なかったし、夜になったらそーじ達も心配するだろうし、何より私が死んだなんて知ったら悲しむだろうし。

 だけど、どうやったら帰れるのか全然わからなくて、ただただ……同じ事ばかり祈ってた。

 

 

 ───もう一度、会いたい。

 

 

 お別れも何もなしにあの世なんて行きたくないし、っていうかそもそも死にたくなんてなかったし。

 どうすればいいんだろう。どこに行けば帰れるんだろう。そんな事ばっかり考えて、でも何にもできなくて、霧のかかった空を見上げる事しかできなかった。

 

「───それがお前の望みか?」

 

 その時にね、おっちゃんと出会ったんだ。

 

 びっくらこいた。いきなり目の前に立ってたもんだからさ。

 滝の前の岩の上に立ってて、最初は逆光で全然顔が見えなかったんだけど、なんでか、笑ってるのだけは見えた。

 

 あ、あとこの変な格好も見えた。

 こういう派手な明るいおれんじ色の色の着物? みたいなごっちゃごちゃした格好で、すっごい目がちかちかした。

 

「そりゃあそうだよなぁ! 誰だって死にたかない、死ぬ時を予測なんかできない! 死は突然に、だがしかし誰にでも平等に訪れるもんだ!」

 

 私、ぽかーんとしちゃってさ。

 死後の世界? みたいなところにいきなり現れて、すっごいうるさいてんしょんで話しかけられてさ。

 

 普通、警戒するんだろうけどさ。

 いい加減、よくわからないところに一人でほったらかしにされてるのが寂しくなったんだろうね。ちょっと考えてから話しかけたんだ。

 

『……あんたは誰?』

「わしか? わしは……誰でもあって、誰でもない」

『んん? じゃあ神様かなんか?』

「いやいや! そこまで偉くはない! そう名乗るのは流石に気がひける」

『……結局、おっちゃんは何?』

「おっちゃんだぁ? それはないだろ、こいつめ。俺を誰と心得る! 生と死の境目に立ち、冥府へ旅立つ者を導く仙人だぞ。巫山戯んな馬鹿野郎!」

『笑いながら怒られた!』

 

 聞いてみたけど、よくわかんなくってね。

 ……あいか、落ち着いて。じゃあ今聞くかっておっちゃんに拳構えるのはやめて。話進まないから。

 

 んんっ、で!

 首を傾げてたら、勝手におっちゃんが説明してくれたの。

 

「───お前さんは死んだ。可哀想になぁ、気の毒な話だ。まだまだ人生……いや、猫生これからだってのに!」

『……もしかして、生き返らせてくれるの?』

「バカモノ! そんな都合のいい話があるか……だが、()()に流れ着けた奴は珍しい。少しなら手を貸してやろう」

 

 正直この時、えーって思った。

 すっごいかっこつけて、仙人とか名乗りながら出てきたもんだからなんかすごい事ができんのかなって思ったら、全然そんな事なくってさ。

 

 え? 手ぇ貸すだけで良心的?

 けち臭い事言わないでよ、おっちゃん。

 

「猫の中には九つの魂を持つ者がいる……不思議なものでなぁ、生と死を繰り返すごとにその猫は妖力を増し、優れた存在へと進化していく。この世のどこかで、そいつらは何かに化けてひっそりと暮らしているんだ」

『……私がそれって事?』

「素質はあるな。だが、まだまだひよっこも同然だ」

 

 ふーん、って私は頷いた。正直実感なかったし。

 まー確かに? 他の、そんじょそこらの猫とは違う特別な感じ? は心当たりがないって言えば嘘になるけど? けっこー賢いしね、私ってば。

 

 ……おいご主人、言いたい事があるならさっさと言え。怒らないから。

 

 あ、んんっ! また話が逸れた。

 そんで私が首を傾げてたら、おっちゃんが私の前にしゃがんで、指を一本立てて見せてきたんだ。

 

「お前は今、一つ目の魂を使い切った。二つ目の魂を使えば、お前は別の猫として生まれ変わることになるだろう。そうなれば、お前がお前として家族のもとに帰ることは永遠にできない」

 

 この辺はなんとなくわかった。生まれ変わりってそういう事だもんね。

 やっぱりこのままそーじ達を悲しませたままお別れするのは嫌だったから、おっちゃんの話をちゃんと最後まで聞いたんだ。

 

「だが、もしその二つ目の魂を使わずに置くことができれば、お前はお前のまま存在できるだろう」

『…そこ、よくわかんない。魂を使わないでおくって、どうやって?』

 

 反対の方に首を傾げたら、おっちゃんは私に向けて手をかざしてきた。

 

 そしたらおっちゃんの手のひらにふわ〜って光が集まって、丸くて白い、目玉みたいな物が現れた。

 私またびっくりしてさ、その場で毛がぶわってなって、目玉から飛び退いちゃって。だっていきなり目玉渡されたんだもん、目玉だよ目玉。

 

 でもそれが……そーじ達もわかってるだろうけど、すっごい重要な物だったんだよね。

 

「その()()……それは眼魂(アイコン)というものだ。そいつにお前さんの魂を封じ込める。取り敢えずはそれで、生まれ変わりは防げる」

『またそーじに会えるって事?』

「そうだな。だが、まだ不完全だ。完全に生き返るわけじゃない」

『……じゃあ、どうすれば生き返られるの?』

 

 私が聞いたら、おっちゃんはよくぞ聞いた!って感じでにやって笑って、一冊の本を私に見せてきた。偉人録……って書いてたんだっけな。

 

「この世には、人間の魂が籠められた眼魂がいくつも存在する。籠められているのは───世界各地の歴史に名を残す、英雄の魂だ。そいつを十五個集める事で、どんな願いが叶う」

『十五個も⁉︎ 多くない⁉︎』

「まぁ簡単な事じゃないね、世界中に散らばってるから。でもね、願いを叶えるってそれぐらい大変なの。大丈夫? やれる?」

 

 急にてんしょんが変わったおっちゃんに聞かれて、正直答えに困った。

 

 だってさ、十五個だよ? 手掛かりもなんもないこんな小さいものを世界中から十五個も探すんだよ?

 どっかの漫画の竜玉なんか七個だよ? その倍以上だよ? 条件厳しくない?

 

 砂漠で一粒の金を見つける〜……とかいう例えあるけど、ほんとに大体そんな感じだよ⁉︎ えぐくない⁉︎

 

 しかもその後のおっちゃん、無茶苦茶不安になる事言ってくるしさ!

 

「それにね───眼魂を探す事は、おそらく困難を極めるだろう。お前の目の前にはいくつもの障害、お前の邪魔をする敵が立ち塞がる。だからお前は、戦う力を手に入れなければならん。その、眼魂を使ってな」

『えぇ〜……戦うのぉ? やだぁ……ってか、戦うって誰とどうやって』

 

 そんな探すのくそ面倒臭そうなもの、欲しがる奴他にいるの? ……って聞きたかったけど、おっちゃんは答えてくれなかった。

 

 ていうかそもそも、質問させてももらえなかったな、そういえば。

 

 

 

「論より証拠じゃ! ハ───ッ‼︎」

『ふぎゃ────────────────────────────っ⁉︎』

 

 

 

 まだうんともはいとも言ってないのに、おっちゃんは私に向けて、またあの光を掌から出して浴びせかけてきた。いや本当にまだ何も言ってなかったのに!

 

 でも状況は勝手に変わってった。

 私の胸の中からぽ…って白い光が漏れ出て、私の前に転がってた眼魂の中に吸い込まれてった。

 

 そしたら眼魂が黒くなって、黒目も入って、なんじゃこりゃーって驚いてる間に、今度はいきなり私の体が眩しい光に包まれた。

 

 その光の中で、私の小さな体は膨らんで、形が大きく変わっていった。

 手足は長く伸びて指がわかれて、腰はくびれて胸と尻が……ちょこっとだけ膨らんでいく。

 おれんじ色の猫の耳と尻尾はそのままに、顔も猫の時のとは大きく変わっていって、全身の輪郭はほとんど人間のものに変わる。

 

 最後に何も着てない、すっぽんぽんだった私の体に光が集まって、和服みたいな服装に変わってまとわりついた。

 

「うにゃっ⁉︎ に、人間ににゃった⁉︎」

「まだまだぁ! ハァッ‼︎」

 

 もう、その時点でぱにっくだよ、ぱにっく。

 でもおっちゃんは全然止まんなくて、次は人間の姿で慌ててる私の腰に手をかざして、あの光を当てた。

 

 そしたらなんか変な……おばけの顔みたいなのがついたべると? が私の腰に巻きついてきた。

 おっちゃんはべるとを勝手にいじくって、黒い眼魂を開いたべるとの中に入れて、横っ側についてたればーを私に握らせたの。

 

「さぁ、妖娘よ叫べ! 変身と! 今からお前は〝ゴースト〟だ‼︎」

「うぇ⁉︎ へ、変身⁉︎」

 

 もー何が何だかって感じだったんだけど、おっちゃんの妙なてんしょんが怖くてびびっちゃって、言われるがままにべるとのればーを引いて押し込んだ。

 

 後はもう、そーじ達が一回見た……あ、全部は見れてないのか。

 まぁいいや、今度ちゃんと見せるよ。

 

 とにかく、私の全身は黒い靄に包まれて、その上にぱーかーがごーすとみたいに覆いかぶさってきて……〝変身〟しちゃってたわけだ。

 

 

「うにゃあああああああ⁉︎ にゃんか来たっ、にゃんか来たああああああ‼︎」

カイガン・オレ! レッツゴー・覚悟・ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!

 

 

 これが私の───記念すべき初変身の瞬間になったわけだ。

 

<○>

 

「───てなわけで、わたしは晴れてごーすととなり、もう一度そーじのところに帰ってきたというわけなのです」

 

 いえー、ぱちぱちー。

 

 ……って感じでおちゃらけてみたんだけども。

 駄目だ、全っっっ然そんな明るい雰囲気じゃないわ。

 

「なるほど元凶はお前か…………‼︎」

「うちの愛猫に何してくれてんだ……‼︎」

「待って待って! 暴力はいけない! 平和、平和が一番! でしょ⁉︎ ね⁉︎」

「「やかましい‼︎」」

 

 もんのすごい怒りのおーらを背負ったあいかとそーじに取っ捕まったおっちゃんが必死に弁解してる。うん、あれほっといたら本当に殺られるわ。

 怒ってくれるのは嬉しいけどそれ以上はまじでまずいよ。やめよ? 落ち着こ?

 

「もー、そーじもあいかもおっちゃんをいじめちゃだめでしょ。別にいいよ、もう気にしてないし……そりゃあ、最初は驚いたけどさ。それに、おっちゃんのおかげでこうしてそーじとまだ一緒にいられてるわけだし」

「……お前がそう言うなら、いいけど」

「……なんかムカつくのよね……!」

 

 あいかさん、すていすてい。掴んでるおっちゃんの首がめきめきいってるから。

 そのうち、がるるる……って唸ってるあいかをおいて、そーじが私に向き直って、私の脇を持って持ち上げて、見つめてきた。おいおい照れるじゃないか、そんな真剣(まじ)な顔。

 

「そら、お前が普通の猫じゃなくなったのはわかった……ごめん、お前がそんな大変な目に遭ってたなんて、知らなくて」

「いいよぉ、別に〜……むしろこっちがごめん。あの時のそーじめっちゃ泣いてたし、私が帰ってからずっと離さなかったよね。心配かけたね」

 

 すっげー男泣きされたの覚えてるわー……しばらく家から出してもらえなかったし。まぁ、その分存分に甘えられたからいいけど。

 

 ん? おっぱいがなんか難しい顔で見つめてきてる。なに?

 

「……事情は、納得はできませんが理解はしました。あなたは、その、世間一般で言うところの妖怪、というよりは……特殊な力で改造され生まれた非物理的な生命体、というべき存在と認識しても?」

「んー、よくわかんないからその辺は任せるよ」

「改造って……そんな、どっかの秘密結社の怪人みたいな言い方」

「ですが、そう考えた方が私は納得できます。魂が七つだとか、輪廻転成だとか、宗教的概念を持ち出されるよりはずっと」

 

 やれやれ。無駄に頭がいいと、変に物事を受け入れるのが難しかったりするんだね……あほっぽいのにそっち方面は考え方が固いんだから困ったもんだ。

 

「ちょっとあんた! そらに勝手な事して……っていねぇぇぇ⁉︎」

 

 腹の虫が収まらないっぽいあいかが、もう一回おっちゃんに凄もうとしたけど、いつの間にかいなくなってて怒りの咆哮だけが虚しく響く。

 ご丁寧に丸太で身代わりの術なんかして……ふざけてんだかまじめなんだか、おっちゃんってば。

 

「あ、あんのジジイ……中途半端なところで勝手にいなくなって! 次見つけたら絶対ふんじばって聞きたい事全部聞き出してやる‼︎」

「……確かに、重要な事は何も聞けなかったな」

「まったくです。ここは私が総二様に注目されて、重い過去と覚悟から徐々に意識され慰められるシーンだったはずなのに、完全に出鼻をくじかれましたよ!」

「そんな鼻引っ込めてろ!」

「ぶるどっぐ‼︎」

 

 おっぱいが顔面に丸太を食らって吹っ飛ばされた。それ、そう使うの?

 

「あぁ、もう! あのジジイがいなくなっちゃった以上仕方ないわ! そら! あんたあのジジイから何か他に聞いてないの⁉︎ その……眼魂? だとか英雄の魂だとか、気になる事いっぱい言われてたでしょ⁉︎」

「知らね」

「「「知らんのかい‼︎」」」

 

 うお、あいかとそーじだけななくておっぱいからもつっこみがきた。

 いや、だっておっちゃんの説明ってちょいちょい抽象的っていうか……わかりにくい言い方が多かったし。どっかの誰かみたいに。

 

「ちょ、ちょっと! あんたはその眼魂を集めないとちゃんと生き返れないんでしょ⁉︎ なんでもっと色々聞いておかなかったのよ⁉︎」

「えー、そういうのはいいよぉ。別に生き返れなくても、そーじのそばにいられればそれでいいんだもーん」

 

 幽霊は幽霊で便利だし、別にこのままでも何も困んないも〜ん。

 っていうか、そんなどこにあるかもわかんないもの探すのめっちゃ面倒臭いし〜、そんなんするくらいならそーじに甘えてたいし〜。

 

 そう言ったら、あいかが頭抱えて黙り込んじゃった。なんで?

 

「……なぁ、トゥアール。そらが今どういう状態かとか、調べられないか?」

「そうですね……属性力は確かに検知できるので、可能だとは思います。ですが、私もこの世界に来たばかりで準備も急拵えでしたので、検査には相当時間がかかるかと。テイルギアの事もありますし」

「それでもいいよ、家族の為なんだ。そらの事を助けてくれるなら、俺はいくらでも君に協力するから!」

「本当ですか⁉︎ でしたら存分にお使いください未使用のこの体───」

 

 ここまでずっと、しりあす顔で考え込んでたおっぱいがよだれ垂らしてそーじに詰め寄った。そんであいかに投げ飛ばされた。

 

 えー、検査って何ー?

 注射か薬とか、そういうの全部大っ嫌いなんだけどな〜。

 

「そーじ! 自分を安売りすんのやめなさい! 本気で信用する気、この女⁉︎」

「頼れるのは他にいないだろ? それに……あんな話聞かされて、黙っていられないしな」

「だからって…! あぁ、もう! そら! あんたもそんなふらふらしてるから変な奴に目ぇつけられんのよ!

 

 失敬な。そーじほど危うくはないと自負してるぞ、私は。

 おっちゃんは確かに謎ばっかだけど……悪人ではないと思うよ。多分。実際助けてくれたし、あれしろこれしろって命令してきた事とかないし。

 

 まぁ、あいかの心配もわかるよ……この女、まだ隠してる事があるみたいだし。

 

「…そんでー? あんたこれからどうすんの?」

「あたたた……と、とりあえず、今後迅速な対応をしていく為に、こちらの地下に拠点を、具体的には基地を作らせていただきたいのです。テイルギアの整備や武器開発、その他多くの作業をする為にも設備が圧倒的に足りないので」

「き、基地⁉︎」

「おぉ〜、なんか漫画とか特撮みたい」

「……ええ、特にあなたの力を解析するのに必要になりそうですし」

 

 お〜っと…? 信用されてないのは私も同じだったか。

 別に私に隠してる事はないんだけどなー……うん、まぁ、お互い様って事でいいか。

 

「ちょっと……地下に基地とか、大丈夫なんでしょうね? うちの家隣よ? 一緒に沈んだりしないか不安だわ」

「ご心配なく! 愛香さんお一人ならともかく、ご家族を巻き込むのは本意ではないので」

「よし、沈め」

「タイタニック‼︎」

 

 あいかに床に叩き潰されるおっぱいに、だんだんそーじも反応しなくなってきた。慣れてきたのかな。

 いや、単に別の事を考えてて、見てる暇がないって風の顔だな、あれは。

 

「基地とか設備とか、そういうのはもう任せるよ……とにかく今必要なのは、この先の事を母さんにどう説明したものか、って事だ」

「あぁ……そうね、おばさんを巻き込めないもんね」

「それもある。が、俺が不安なのは母さんが嬉々として巻き込まれにきそうだって事だ。母さん、時々子供っぽいところあるしさ」

 

 あぁ、うん。みはる、こういう話好きそうだもんね。

 ただなんていうか……子供っぽいっていうより、別の言い方がある気がすんだよね。

 

 ……………………あとさ、そーじ。

 

「悩んでるところ悪いけど、手遅れだと思う」

「え?」

 

 不思議そうに私を見つめてくるそーじに、私はそーじの膝から降りて部屋の入り口に近づく。

 それで、ちょいって扉を押すと……なんか腕を組んでぽーずをとったみはるがどやっ! って顔でこっちを見てきた。

 

「話は聞かせてもらったわ‼」

「聞いてんじゃねえええええええええええええええええええええええええ‼」

 

 ばーん! ってのりのりで笑うみはるに、そーじが頭を抱えて吠えた。

 うん、ごめん。気配はちょくちょく感じてたんだけど、言うたいみんぐが見つからなくてさ……みはるもかっこつけてたし、言いづらくって。

 

 ていうか、まじでこの人いつからここにいたんだろう。

 

「いつからだ! いつから聞いてた⁉︎」

「そーちゃんたちが部屋でどったんばったんおおさわぎしてた時からかな?」

「割とどのタイミングでもそうだったからどこか全くわかんねぇ‼︎」

 

 ほんとにね、ほんとにどのたいみんぐだろうね。

 あと、みはる……そんなどこぞのふれんずみたいな微笑ましい感じではなかったよ。がちで仕留める気満々な蹂躙だったよ。

 

 ていうか、どしたん? なんか遠い目になってるけど。

 

「……ついに、この時がきてしまったのね」

 

 こう、訳知り顔で黄昏ちゃってるけど……何? 何を知ってる顔なのそれは。

 え、まさか、うそ。

 

「まさか、母さん…! 俺が戦う事……こうなる事、わかってたっていうのか⁉︎」

「ううん、全然」

「じゃあその思わせぶりな態度やめろよまじでびびるんだよぉぉぉぉぉぉ‼︎」

 

 平然と首を横に振るみはるに、そーじが思い切り叫ぶ。

 みはる……わりとまじで世界の危機なんだから、そういうおふざけはやめようよ。

 

 ……ていうか。

 

「ちなみにみはる〜、どんくらい理解してる?」

「そーちゃんがこちらのお嬢さんの科学技術でツインテールの力で戦うヒロインに変身して、謎の仙人の謎技術で化け猫少女に変身できるようになったそらちゃんと一緒に空果に現れた属性力っていう人の心の(エネルギー)を狙う異世界からの侵略者の戦士をやっつけたんでしょ? 是非とも現場で見たかったわ〜」

「なんで一回説明されただけの内容を全部理解してんだよぉぉぉぉぉぉぉ⁉︎」

 

 うわぁぁ、これまでの話がしっかりだいじぇすとで纏められてる。

 私も覚え切れてないのに何でこの人わかっちゃってんの?

 

「……夢、だったのよ」

「何が…⁉︎」

「母さん、学生時代の気持ちを損なわないまま大人になっちゃった人間だから……SF的な未知との遭遇とかリリカルマジカル的なボーイミーツガールを今でも諦めきれなくて、銀色のカーテンとか魔法の小動物とか街中で探しちゃうくらいの重症中二病患者としてこれまでを生きてきたわ」

「待て、やめろ、それ以上聞きたくない」

「そして、亡くなったあの人もそうだった」

「やめろって言ったじゃん! 聞きたくないって言ったじゃん!」

 

 あー、そういえばみはる、時々お店閉めてどっかほっつき歩いてたな。

 お散歩の途中でよく見たわ。確かになんか探してたわ。

 

 そっかー、そーだったのかー……真剣そうでどこか諦めた風にあちこち見渡してたけど、そういう事だったのかー、ははははは。

 

「昔、あの人とよく言い争ったわ……私が主人公と敵組織の女幹部との禁断の恋が理想だったのに対して、あの人はその真逆。何度も喧嘩別れしそうになった」

「おい、マジでやめてくれ! グレるぞ! そんなん聞かされて正気のままでいられる男子高校生世に一人もいねぇぞ⁉︎」

「何度も妥協しようとして、でもやっぱり二人とも譲れなくて、私達の関係ももう終わりだと思った……そんな時に、そーちゃん、あなたが私のお腹にいるってわかってそんな暗い未来は回避された」

「散々しょーもない理由で喧嘩していがみ合って結局デキ婚⁉︎ なに、俺の心にそんなに傷を残したいの⁉︎ すでにズタズタで血反吐吐きそうなんだけど⁉︎」

「子は鎹とはよく言ったものね……それからの母さんとあの人はそれはもう仲睦まじかったわ。そして二人の思いは、夢は、臍の緒を通してそーちゃんに受け継がれたの」

 

 もしかして、そーじがちょくちょく残念な思考と発言をしちゃうのはそのせいなんじゃ……やめよう、闇が深そうだ。

 

「そーちゃん。そーちゃんの名前にどうして二が入っているのか、不思議に思った事はない?」

「……まさか、俺には生まれるはずだった兄が……⁉︎」

「ううん。夫婦二人とも、厨二の頃が一番楽しかったなーって思い出を込めるつもりでそーちゃんに二って文字を贈ったの」

「その真実なんで墓場まで持ってってくれなかったんだお母様あああああああああ‼︎」

 

 やばい、そーじがまじでだーくさいどに堕ちそうになってる。

 正義の変身ひーろー……じゃねーや、ひろいんになったばっかなのに、自分で世界滅ぼしそうだ。母親が厨二病って発覚して闇堕ちするって意味わかんねぇな。

 

「ここまで聞いて、部外者でなんていられないわ。必要なものがあるなら存分に使いなさい」

「いや、あの、そーじがさっきから息してないんで勘弁してあげて欲しいんですけど」

「改造くらいどんとやりなさい! むしろガンガンやっちゃって!」

「おばさんってば!」

 

 のりっのりだな、みはるってば。

 はー……このてんしょん、どうやって落ち着かせたものか。

 

「それと、そら」

 

 ん? なぁに、みはる。

 あれ、急に真剣な表情しちゃって、どしたの? え、何で近づいてきてんの?

 

 ……えっと、なんか急に抱きしめられたんだけど。

 

 みはるの胸、あったかい。そーじの次に好きな、柔らかくて優しい胸の中。

 あぁ、そうだ。あの時迷子になって、うちに帰ってこれた時も……こうやって抱きしめてくれたっけ。

 

 すごく怒られたけど……本気で、心配、して、くれて。

 

「……おかえりなさい。そして、ありがとう」

「未春……」

 

 ……私は、馬鹿だ。

 気付かなかった、忘れてた。私、この人達をこんなに心配させてたんだ。

 

 死んでるけど、死んでないから、ここにいるからいいや、なんて。

 そーじやみはるからしたら、家族が普通じゃなくなって、大丈夫なのかって不安になってるのに、私はずっと能天気に、何も考えてなくて。

 

 私……最低だ。親不孝者だ。

 

「そーじ、みはる……ごめ」

「ありがとう……ありがとうっ! お母さんの願いを……妖怪の使い魔と少年が織りなす笑って泣けるファンタジーが見たいって夢を叶えてくれて……‼︎」

 

 一瞬で涙が引っ込んだ。

 そーじもあいかも、なんかすっごい微妙な顔でみはるを見てた。

 

「お母さんはね……お母さんっ……‼︎ ホラーテイストな特撮もイケるのよ‼︎」

 

 帰って来なきゃよかったと、思ってしまった。

 ひゅるーって、胸にでっかい穴が開いてそこを冷たい風が吹き抜けてく感覚……なんだろ、この、どうしようもないくらい虚しい気持ちは。

 

「……ちょ、ちょっとおばさん! こっち、こっちきて!」

「あらあら、なに? どうしたのよ愛香ちゃん」

 

 くわって目を吊り上げたあいかに手を引かれて、みはるが部屋の外に連れてかれる。ついでにおっぱいも外に引きずられてった。

 

 そーじの部屋にそーじと残されて、なんか変な気分になる。

 どーしよ、さっきの飄々とした感じが維持できない。みはるが変にしりあすな雰囲気混ぜた所為だ。どうしよう。

 

「……えっと、なんかもうグダグダになっちまったけど。これだけは言っときたいな」

「……うん」

 

 いつまでも目を逸らしてられなくって、私はそーじに向き直る。

 怒られるかな、叱られるかな。なんだろ、悪い事は……してるか、ずっと隠し事してたんだから、そりゃ怒るか。

 

 でも、そーじは全然怖い顔じゃなくて……困り顔で、私の頭を撫でてくれた。

 

「……おかえり、そら」

「ん。ただいま」

 

 な、なんか照れくさいな。いつも顔合わせてるはずなんだけど、久しぶりに再会したみたいな……な、なんだろこの、んん〜?

 

 ま、まぁとにかく!

 ……今の私を受け入れてくれて、良かった。何より、嬉しい事だ。

 

 

 

 

 

 ───な〜んて、いい雰囲気で終われば一番良かったんだけどなぁ。

 

「……それはそれとして、あれどうする?」

「……俺は何も聞いていないし何も見ていない」

 

 そーじをちょいちょいっと手招きして、声が聞こえるところに呼ぶけど、そーじってば頑なに来てくれない。

 現実逃避しても仕方ないと思うんだけどねぇ。

 

 

「ちょっとおばさん! 本気ですか⁉︎ 自分の息子を思いっきり性的に狙ってる痴女が家の中に上がり込もうとしてるんですよ⁉︎」

「構わないわ。そーちゃんが誰の手で男になろうと痛くも痒くもないもの」

「あんたそれでも母親ですか⁉︎」

「親よ。もちろん、息子の幸せを願ってる一人の母親……だからこそ、童貞を食いたくてムラムラしてる節操なしの異世界巨乳美少女に食ってもらいたいと心から望んでいるの」

「いいこと言ってる風で最低な事しか言ってませんけど⁉︎」

「美春様! きっと、きっとそのご期待に応えてみせます! 必ず……必ずや! ですからどうぞ、私をここに置いてください!」

「期待しているわ! 遠慮なんてしないで? もうあなたは私の家族、そう思ってくれていいのよ!」

「お義母様…!」

「オイコラァ‼︎」

「それと童貞を狙ってムラムラしているのは確かですが、私はあくまで総二様一筋です! 純愛ですよ純愛‼︎」

「変態の分際で純愛を語るな脳内真っピンク‼︎」

「ももっ⁉︎」

「だってぇ〜、私だってお隣の幼馴染との付かず離れずの関係が進展するの眺めてたかったのに〜、全然そう言う雰囲気にならないんだもの〜」

「な、ななななななな⁉︎」

「それになんか新勢力出てきてくれちゃったし〜? いやーどの子と大人の階段登ってくれるかお母さん楽しみで楽しみで仕方ないわー!」

 

 

 部屋の外から聞こえてくる、あいかとみはるとおっぱいの会話。

 会話っていうか、みはるとおっぱいのやりとりにあいかが突っ込みいれたり翻弄されたりしてるだけなんだけど。

 

 ていうか、あの、すげぇ内容があれすぎて、そーじがめっちゃ落ち込んじゃってんだけど。

 

「……俺、泣いていいかな」

「胸、貸そうか? あいつみたいにおっぱいないけど」

「……お腹がいい、猫ん時のモフモフの」

「ん、わかった。……おいで」

 

 ぼわん、…って、私は本来の姿に戻ってそーじに抱っこされる。

 役得……とは、今は思わない。あんまりにも哀れだから。

 

 猫かふぇなる場所で癒されると笑うおーえるさん達の言いたい事が分かる気がした。

 みんな……辛いんだね。苦しみと悲しみと虚しさとやるせなさを抱えて、いまこの時だけ現実から目をそらしてるんだね。

 

 私のお腹に埋もれたそーじの顔から漏れ出す嗚咽の声と震える肩が……ただひたすらに、どうしようもなく、切なかった。

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