我ら思う、故に我らあり 〜Twintail with GHOST CAT~   作:春風駘蕩

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変わる日常、明かされる癖

 ふゅむむみゅにょん

 もげろっぱ

 けぱーけぱー

 ぷぇもょりゃぷぁりぇうゃん

 

 てぃほーてぅふぁーてぉーん

 

 

 

 うるっっっっっっっっっっっっっっっっさ。

 

 何この脳みそを破壊してくる音は。

 嫌がらせ? 嫌がらせでしょこれ?

 

 おっぱいが地下で基地を作るって言ってから、何時間か経ってるけど……おいまさかこれ一晩中続くんじゃないだろうな。

 人間より耳がいいから耳塞いでも聞こえてくるんだよちくしょう…!

 

 なんなの? なにをどう作業したらこんな音がなるの?

 こんなんなるんだったらあいつがうちに居候するの認めなきゃよかった…!

 

「うぅ……そら、お前も眠れないのか」

「んにゃ……そーじも?」

 

 もぞもぞと、私が潜り込んでる布団の中をそーじが覗き込んでくる。かわいそうに、眠そうなのに全然寝られてないよご主人も。

 だよね、あんなもん延々と聞かされて寝れるわけないよね。気ぃ狂いそうなんだけど。

 

「何がどうなってるんだろうな、地下では」

「気にはなるけど……見に行ったら多分、正気を失う気がするんだけど。どこぞの邪神みたく」

「クトゥルフかよ」

「詳しくは知らにゃい」

 

 見たら発狂するってどんなんだろうね。猫のお化けの私が言うのもなんだけど。

 

 ……ていうか、そーじと猫状態で話すの初めてか。いつもは話せない振り、っていうか猫語しか使ってなかったしな。

 普通に話しかけてくるあたり、そーじも慣れたか……いや、妙ちきりんな事ばかりが起きすぎて感覚が麻痺したのかな。不憫な。

 

 

 もょもょりゃねゅぴょりぁぷぬむ

 ふりぁるろぬむむゃ

 ひょぽぽぽぽぽぽてゃきょん

 

 

 うぁぁぁぁぁむずむずするぅぅぅ寝たいのに寝られなくてめっちゃむずむずして気持ち悪いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。

 今すぐ作業中のあのおっぱいの顔面引っ掻きまくって黙らせたいぃぃぃぃぃ。

 

 私が布団から飛び出して、おっぱい抹殺計画を実行するかどうか悩んでいた時だった。

 

「……なぁ、そら。お前、この先どうするんだ?」

「にゃ?」

 

 不意にそーじに話しかけられて、私の苛立ちがちょっと薄れた。

 

 ……え、何かなご主人。そんな真剣な顔をして。

 ごめんだけど、周りの音のせいで全然しりあすになれないんだけど、その表情で何聞く気?

 

「お前、眼魂を手に入れないと生き返れないって、あのおっさんに言われてたろ? お前は平気だって言ってたけど……死んだ、っていうか、化け猫のままで大丈夫なのか?」

「あー、んー、どうだろ。あんまし深く考えてないんだよね」

「おい……自分の事だろ、しっかりしろよ」

「だって今のところ困ってないし、むしろただの猫じゃなくなっていい思いしてるし〜」

 

 そーじは心配性だな〜、別に大丈夫だって。

 それにさー、一回死んだのに天国とか地獄とか行かずに済んでる時点で、とっくにありがたく思ってるんだよこっちは。

 

 これ以上望むのは、むしろばちが当たるかもよ?

 

「そーじみたいに人間の姿になれて……そーじと話せて……そーじと一緒に戦って……そーじの力になれて、私は十分嬉しいんだよ」

「そら……」

「私にとって、そーじは神様なんだよ。ひとりぼっちで泣いてた子猫を助けて、家族にしてくれた優しい優しいひーろーなんだから……私は、そーじが一緒にいてくれるだけで幸せなんだよ」

 

 覚えてるよ、今でも……冷たい雨の中をひとりで歩いていた時、そっと拾い上げてくれた温かい手。

 

 

 野良猫の子に生まれて、事故で死んだのか捨てられたのか、いなくなった親を求めてあてもなくさまよい歩いていた私。

 鴉に追い回されたり、他の野良猫に追い出されたり、悪がきに虐められたり、ぼろぼろで流離っていた私。

 

 お腹がぐーぐーなって、濡れた体は冷たくて、虐められてついた傷はずきずき痛くって。

 苦しくって苦しくって、ずっと泣いてた。

 

 でもそんな時……今よりずっと小さなじが、そんな私を見つけて拾ってくれた。慌てた顔で私を見下ろして、傘もほっぽり出してあどれんしぇんつぁまで連れてってくれた。

 みはるを説得して、ちゃんと世話するからって何回も願って、約束して、飼い猫として迎え入れてくれた。

 

 食べさせてもらった最初のごはんは、そーじが一生懸命に作ってくれたみるく粥みたいなもの。

 今でこそ色々ばりえーしょんが増えたけど、なんだかんだであれが一番思い出に残ってる気がする。私を救ってくれた、一番の想いが籠もったご飯。

 

 何年経っても……絶対に忘れない。絶対に忘れたくない思い出。

 それをくれたそーじの事が……この世の何よりもずっとずっと大事。

 

 そーじとずっと一緒に居る事が、私の願い。

 それが叶うんなら、他の事はどうでもいい……あ、みはるとあいかの事も一応大事だよ? 他にも結構友達とか知り合いとかもいるし。

 

 ───でも、一番はやっぱりそーじ。

    これだけは絶対に、譲れない。譲らない。

 

 

「人は……生き物はいつか死ぬよ。必ずその時が来る。私も、そーじも、みはるもあいかも、あとあのおっぱいも。私がここにいるのは、おっちゃんが力をくれたから。何より、あの時そーじが助けてくれたから……単なる偶然。それがなきゃ、とっくにあの世逝き」

 

 っていうか、おっちゃんのあれに関してはほぼ強制だったな……私やだって言ってたのに、問答無用で変身させられてたし。

 

 そういえばおっちゃんも結構謎だよね、何者なのか結局知らないし。

 なんだって私なんかにこんな力を与えたんだか。えれめりあんと戦わせるため? ん〜、謎だなぁ。

 

 ……まぁ、いっか。

 そーじの腕の中あったかくて気持ちい〜……もう他のこととかどーでもいいわー。

 

「こうしてるのが、一番幸せ…♪」

 

 ぐりぐりと、布団の中でそーじの胸に頭を押し付ける。

 そーじの体温が伝わってきて、ほわほわした最高の気分になる。またたびでも触ったみたいにとろんてなる。

 

 そーじから呆れた溜息の声が聞こえたけど、気にしない。

 明日はそーじは学校だから……せめて、朝まで……ずっと……こうして───

 

 

 

「ラブコメのフラグを折りに来ましたよ泥棒猫がァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 

 

「おわーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

「ふぎゃーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」

 

 あばぁぁぁ!? び、びびび、びっくりしたびっくりした!!

 

 え、何? 急に何!?

 なんかものすごい勢いでおっぱいが部屋の扉を蹴り破って入ってきた!!

 

 おまっ……地下で作業してたんじゃないの!?

 

「な、なにしてんだお前……」

「ビビッと来たんですよ! 標準装備のトゥアールラブコメセンサーが強烈な電波が受信したんですよ! 私を差し置いて男に発情するとは、油断も隙もない化け猫ですね!!」

 

 どういう機能? 何に使うための道具?

 

 ふらぐを折りに来たとか、訳わかんない事言ってたけど……まじで何?

 ていうか発情とか言うな、下品な。

 

「酷いじゃないですか総二様ぁ! 私夜通しで工事を終わらせようと頑張ってたのに、よりによってこのケダモノとイチャイチャ好感度上げに勤しむなんて!!」

「飼い猫と飼い主のすきんしっぷの何が問題なんだこら」

 

 常に下半身でもの考えてるお前と一緒にすんな。こっちは家族だぞ。

 長年隠してた秘密を明らかにして、より絆を深くしたばっかなんだよ。ちっとは空気読め無駄肉。

 

 ぽっと出の色物がしゃしゃり出てくるんじゃないよ。

 

「あなたの境遇には流石に同情しますがね、所詮あなたは猫! 越えられない種族の壁というものがあるのです! いいえ、そもそもあなたは死者……生物の括りからも外れています! そんなあなたが、年頃の童貞男子である総二様の迸るリビドーを解消して差し上げることができますか!? できないでしょう!!」

「余計なお世話だ」

 

 腹立つ!! ひたすらに腹立つこいつ!!

 

 ていうかそーじにそういう欲望を期待してどうする。思考の全てにおいてもれなくついんてーるが先行するそーじだぞ、お前の駄肉を鼻先に突き出しても、ちょっと恥ずかしがる程度だったんだぞ。

 

 ……その点、今の私ならそーじの欲を叶えてあげられるかもだし。

 

「ふんっ」

 

 ぼふん、と私は猫の姿から人間の姿に変わる。

 

 おれんじ色のふわふわした髪をついんてーるにして、鈴の髪飾りでまとめたそーじやあいかと同じくらいの歳の見た目。

 格好はいつの間にか着ていた和服っぽい服で、おっぱいはあいかとどっこいどっこい……いや、ちょっと勝ってる、かな?

 

 でも、ついんてーるなら割と自慢できるものが生えてる!

 現に今、そーじの目は私のついんてーるに釘付けになってるし! なんならちょっと手がわきわきしてるし! 情けないぞご主人!!

 

「みはるにはなんか気に入られてたけど、私はまだ認めない。私はもうそーじと10年近く付き合ってきてるんだ、どけと言われてどくほど軽い想いは抱いてない!」

「くっ……幼馴染属性は愛華さんだけではなかったようですね、迂闊……!」

「あのー、お前らさっきから俺をほったらかしにしすぎじゃ……

 

 そーじが寂しそうにしてるけど、ごめんちょっと待ってて!

 こいつをこのままの話にしておくわけにはいかないんだ! 具体的にいうと、気を抜いた途端そーじの貞操が風前の灯!!

 

 おっぱいは冷や汗を垂らしながら私を見つめて、やがてふっと不敵な笑みを浮かべ出した。

 

「わかりました、そちらがそういう気なら勝手にルートを変更させていただきます! ───総二様ぁ、私もう疲れちゃったのでぇ、隣で添い寝させてくださぁい♡」

「は、ちょ、まっ!?」

「おいこら何してんだぁ!!」

 

 あっ、こいつとうとう実力行使に出て来やがった!!

 是が非にでもそーじの初めて奪い取る気だな!?

 

 認めにゃい! 認めにゃいぞ人間!

 相手は私じゃなくてもいい! ていうか私じゃ無理かもしれない!

 だが! あんたに渡すぐらいなら私が貰い受ける! そのくらいには想ってんだよこっちだって! 積み上げてきた年月が違うんだよ!!

 

 え? あいか?

 肝心なところでへたれるつんでれの事は知らないよ!

 

「どきなさいメス猫…! ここでひいては……女が廃るぅぅぅぅ……!!」

「いいやどかないね! あんたには! あんたにだけはやれないんだよぉぉぉ!!」

「……いや、お前ら人を間に挟んで喧嘩すんなよ!!」

 

 そーじがなんかごちゃごちゃ言ってるけど聞こえない!

 

 どけ! 私はお猫様だぞ!!

 なんとしても……いかせてなるものかァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!

 

 

 

 

 

 

「うるせェゴラァァァァァァァァァァァ何やってんのよ色ボケ共がァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 うげ! あいか!?

 

 ものすごい怒号が聞こえたから振り向いたら、あいかが鬼の形相で窓枠を乗り越えてきた!!

 まさか二階から飛び移ってきたの!? まじか!!

 

「あ……愛華さん!? 何故ここに!? 邪魔ができないよう下は施錠しておいたはずなのに!!」

「あんたがなんか企んでるだろうと思って、あらかじめ開くようにしておいたのよ! そしたら案の定……いい加減にしなさいよ痴女共!!」

 

 ……あれ、もしかして私も標的になってる?

 

 ちょ、ちょっと待ってあいか!!

 私敵じゃないよ!? むしろこのおっぱいの暴走止めてる側だよ!?

 

「ふっ、いつまでもやられっぱなしの私じゃありませんよ! 負け犬の幼馴染さんには、このメス猫よりも前におねんねしていただいて───」

「やかましいわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ひぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ永遠の眠りに落とされるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!」

「俺の部屋がぁぁぁ!!」

 

 どかーん、ばたーん、ぐしゃーん。

 

 近所迷惑、って絶対後で怒られる音がなりまくるそーじの部屋で、私は猫の姿に戻ってそーじの胸の中に逃げ込んだ。あいかの殺意がおっぱいに集中していたからできた避難だった。

 

 あいかの怒号とおっぱいの悲鳴が響き渡る中……私は必死に、布団の外の大騒ぎが収まるのを待った。

 

 

 

 あいかこわい。

 

<○>

 

「まったく……最初から最後までふざけ倒して、あの女!」

 

 通学路を歩きながら、ぷりぷり怒ってるあいかがぼやいてる。

 

 おっぱいは割と善戦してたけど、最後は絞め落とされて簀巻きにされた状態でそーじの部屋に放置された。

 一晩中騒いで流石に怒るかなって思ったけど、起きてきたみはるは全然怒ってなかった。なんか残念がってたなぁ……あとなんかおっぱいと変な事を話してた。

 

 けいかくはじゅんちょーかー、とか。

 かならずおやくめをはたしてみせますー、とか。

 

 なんかめっちゃ不気味だったけど、詳しく突っつくの嫌だったからほっといた。あいかがなんでかぎりぎりしてたけど。

 

「そーじ! あんたももっと気をつけなさいよね!? いっそのこと溶接しちゃいなさい!」

「それ俺が出られねぇじゃねぇか!! しかも木製のドア溶接しろって無理だろ! 普通に火事になるわ!!」

「そこはあんたがうまくやりなさいよ!」

「理不尽すぎるだろ!!」

 

 朝から元気だねぇ……私はずっとそーじの肩ですやすやしてるだけから楽だけど。相変わらず乗り心地がいいねぇ。

 

「ていうか愛華、お前なんかトゥアールに対して当たりきつくないか? そりゃあ……色々と反りが合わない部分はあるかもそれないけど」

「あんた今どこ見て言った?」

「どこも見てません! すいません!!」

 

 今ちらっとあいかのおっぱい見そうになったな?

 拳をごきっと鳴らした瞬間にものすごい勢いで謝ったそーじに、あいかはふんって険しい顔で鼻を鳴らした。

 

「……そーじ、そら。あんた達も気をつけなさい。あの女……何か隠してる」

「え?」

 

 ……だろうね、あいかも気付いてたんだ。

 

 あいつが事情を全部話したわけじゃないってのは、なんとなく察してた。

 そーじはお人好しだしなぁ、一回助けてもらったからって全部を信用しそうになってたみたいだけど、世の中そう甘くはないんだよ。

 

 人間の悪意は、そう簡単に表に尻尾を出したりしないのさ。

 

「隠してるって、何をだよ」

「……とにかく、あいつに気を許したりしないで。あいつの言った事がどこまでほんとでどこまで嘘かわからないけど、疑いは持っておいて。いざって時には、あたしが責任持って始末するから」

「お前のはシャレにならないからやめてくれ。前科だけはやめろ」

「……異世界人に地球の法律って適応されるの?」

「そらぁぁぁ! お前まで恐ろしいこというのはやめろぉぉ!!」

 

 冗談だよ、冗談……半分は。

 

「……ていうか、そら。あんたどこまで一緒に来る気?」

 

 難しい顔で何か考えてたあいかが、不意に私の方を見て聞いてきた。

 あぁ、いつもは家から見送ってたもんね。こんなところまでついてきたのは今日が初めてか、忘れてた。

 

「がっこーの前まで来たら離れるよ。昨日の事件がどんな風に伝わってるのか、人が多いところで聞き耳立てておこうかなって思ってさ」

「そうね……まぁ、小騒ぎにはなってるでしょうね」

 

 大騒ぎ、ではないよね、絶対。

 

 てれびの中に出てきそうな怪人が暴れて、そいつが人形を持ったちっちゃい子にはぁはぁしてて、それがついんてーるを狙ってる……なんて話も、誰がまともに耳を貸すものか。当事者達も多分今でもぽかーんってしてるかもだし、何せ目的が目的だから。

 でも写真とか動画とか撮ってる人はいたから、都市伝説的な扱いでざわざわするくらいかなぁ。

 

「朝の新聞の三面にちょっと出てたくらいか……危機感が足りないと思うのは、現場を知ってる俺達だからか?」

「さぁ、どうだろうねぇ」

 

 ……おっと、そろそろ離れないとまずいかな。

 適当なたいみんぐで、私はそーじの肩から近くの塀の上に跳び移った。

 

「じゃ、私はがっこーの近くで適当に時間を潰してるから、また後でね?」

「え、あ、あぁ」

「車に気をつけるのよ」

 

 あっはっはー、昨日の話のせいであいかがえらく心配した顔になってらぁ。

 わかってるわかってる、同じ轍は二度は踏まないよ。

 

 

 

 ……………………そう思ってた時期が、私にもありました。

 

 

 

「おぉ〜! さすが漫研! そっくりだ!!」

「これぐらいは当然だろ、何せモデルが最高だからな!」

「かわいいなぁ、かわいいなぁ! どっちもマジでかわいいなぁ!」

 

 私は今……がっこーに生えた木の枝の上にいる。

 そーじのくらすの教室を覗ける高さの枝で、ちょっと頑張ったら窓を通って入れるぐらいの距離にいる。

 

 そんでそーじの教室は……やべー事になってた。

 黒板いっぱいにちょーくで女の子の絵が描かれてて……その絵が、変身したそーじと私なんだ。

 しかも上手いし……それ見てめっちゃでれでれしてるし。

 

 あっれー?

 なんか、思ってたよりも大きな話題になってにゃい…?

 

「お…お前ら何でテイルレッドとテイルゴーストの事を……!?」

「ん? あぁ、観束か。これだよこれ!」

 

 教室に入って、異変を目の当たりにしたそーじはしばらくの間呆然としてたけど、そのうち我に返って黒板の前の男達に詰め寄る。

 訊かれたまんけん?の男の子は、自分のすまほを手に持ってなんかをそーじに見せた。

 

 なになに…? 『謎の変身ヒロイン、現実世界にデビュー!?』……?

 

 うわぁ、昨日の事件が思ってた以上に詳しく載ってるぅ。

 写真とか動画もきっちり撮られてるみたいだな……変態ともけもけに意識取られてて全然気付かなかった。

 

「今朝ネットニュースのトップに出ててさ、もうその瞬間から俺はこの子の虜だよ」

「マジで可愛いよな、テイルレッドたん!」

「俺、巨乳派だったけど目覚めたわ」

「お、俺はゴーストたんがいいな」

「小悪魔的な眼差し、男心をくすぐる甘えたな喋り方、たまらん!」

 

 尻尾がぶわってなった。多分そーじも生えてたらおんなじ事になってる、そんぐらい真っ青な顔になってる。

 ひぃぇぇえ……あの男の子達の目ががちすぎて寒気が止まらないよぉぉ…!

 

「よし、決めた! 今日から俺がテイルレッドたんのお兄たまだ!」

「馬鹿言うな! テイルレッドたんのお兄様になるのはこの俺だ!」

「やるか? にいにいの座をかけて決闘だ!」

 

 お前らがはぁはぁしてる幼女、お前らの目の前にいるよ。

 しょっく受けすぎて、もう何も言えなくなってるけど……あいかも思いっきり引いてるし。大丈夫? 心の病院行く?

 

「テイルゴーストたん……ご主人様って言って欲しい……」

「いや、むしろ呼ばせて欲しい。俺は今からゴーストたんのペットだ!」

「小馬鹿にした顔で甘えてくれ…! 後生だ!」

 

 こっちにはまじで心を病んだ奴らがいるし……ぺっとって何? 馬鹿なの?

 

 どうしよう……情報収集するつもりで来てみたけどもう帰りたい。

 これ以上ここでこいつらの話聞いてたら、絶対こっちの頭までおかしくなる……帰りたい。帰ってそーじの胸の中に逃げたい。

 

 怖いよぉ……昨日の変態よりこいつらの方がよっぽど怖いよぉ。

 

「もう我慢できない! ん〜……」

「ぎゃあああああああああ何やってんだお前えええええええええええ!!?」

 

 ついには、すまほに映ったそーじ……じゃねぇや、ているれっどに自分の唇を近づけようとする奴まで出て来た。そーじが慌てて引き剝がしてる。

 

 お前がちゅーしようとしてる幼女、目の前にいるよ。

 

「何すんだよ観束!」

「おまっ……恥を知れよ恥を! そんな小さい子相手に何考えてんだ!?」

「恥などとうに捨てた! 捨てた上でここにいる! 俺は何に臆する事もなく、この愛らしい少女を愛すると決めたのだ!」

「人間の尊厳まで捨ててんじゃねぇよ!!」

 

 必死だな、そーじ。そんなに嫌か。

 ……うん、嫌だよね、嫌に決まってるよね。

 

 そこに映ってるの、自分だもんね……真実知ったらあの男の子とか他の奴らとか、どうなるんだろ。すっごい顔で地面に崩れ落ちる気がする。

 

「……あ、なるほどなぁ。お前ツインテール大好きだもんな、俺にテイルレッドたんを取られるのが嫌だから必死になってんだろ? 残念だったなぁ、お前じゃそもそも脈なし───」

「違が───────────────────────────う!!!」

 

 そーじの魂の叫びが、教室に響き渡った。

 そりゃ嫌だろ、画像とはいえ自分の唇が男に奪われそうになってるとか。

 

 やべーなぁ。正体云々はおいといて、そーじの同級生達が総じてあほすぎる……もしかしたら人間社会、もう手遅れなのかも。

 いっその事、このままあるてぃめぎるに滅ぼされた方がいいんじゃないの? 本気でそう思いかけた時だった。

 

〈お知らせします。これより臨時の全校集会を行います。生徒は直ちに体育館に集合して下さい〉

 

 

 

 急な放送に、そーじのがっこーの生徒達はすぐにたいいくかんに集まった。

 

 そーじのがっこーって結構大きいとこだったみたいで、広いたいいくかんに生徒達が大勢集まってる。

 私は端っこにある窓際に乗って、みんなの様子を伺う。あ、そーじとあいか見っけ。

 

「……みなさん、急な集会でしたがご出席いただき、ありがとうございます」

 

 そんでそーじ達と生徒達みんなが見つめる先……壇上って言うんだっけ? そこに一人の金髪の女の子が立った。

 せーとかいちょー、って言うんだっけ? 生徒が代表になって色々決めたり話をしたりする凄い人だって、そーじとあいかが前に話してた。

 

 あぁ、そうそう。そーじが入学初日にやらかす原因になった人なんだっけ。

 あのひとのついんてーるに見とれてぼーっとしてたせいで、にゅーぶきぼうしょに変なこと書いちゃったんだったっけか……ふーん。

 

 けど、ん〜? あの子、どっかで見た気がするなぁ……周りにいるめいどさんもどっかで。

 ……ていうかなんでめいどさんががっこーにいるの?

 

「…もうご存じの方もいらっしゃるでしょうが、昨日この街は未曾有の危機に直面しました。未知の怪物たちが暴れまわったのです」

 

 ざわざわっ、て生徒のみんながざわつき出した。

 まぁ、いきなり漫画とかあにめとか映画とかみたいな話切り出されたらそうなるか。

 

 しっかし、ちっちゃい会長さんだな。変身したそーじとどっこいどっこい……って、あれ? なんか今引っかかったぞ?

 

「実はわたくしも現場に居合わせ、狙われた一人です」

 

 ……あ、思い出した。

 あの女の子、私とそーじの初陣前についんてーる奪られてた子じゃん。

 そうだそうだ、そーじがおおとかげをぶった斬ってついんてーる属性を取り返した時に、あのかいちょーさんがお礼を言いに来てたんだった。

 

 ってか、うわっ。

 生徒のみんながすっごい声で騒ぎ出した、何事?

 

「会長を狙うなんて……許せねぇ!」

「上等だバカ野郎! こうなりゃ戦争だ! 誰かタマ持ってこいやぁ!!」

「誰か俺にダイナマイト巻いてくれ! こうなりゃカチコミだオラァ!!」

 

 どこに突っ込みに行く気なの?

 

 血気盛んな生徒達だねぇ、そんだけかいちょーさんが慕われてるって事なのかな。

 ……よく見たら壇上で話してる姿にほっこりしてる人達いるし。あぁ、そういう扱い? ますこっととかあいどるとか、そういう扱いなの?

 

 そっちはまぁいいとして……向こうではぁはぁしてる奴らは絶対近づけない方がいいと思うよ。このがっこーってあんなんばっかなの?

 

「皆さんの正しい怒り、嬉しく思います。それもわたくしの様な未熟な先導者の為に……しかし、狙われたのはわたくしだけではありません。この中にも同じ目に遭った方がいらっしゃるでしょう。学外に目を向ければ、更に多くの何の罪もない女性達が、その毒牙に晒されるところでした」

 

 毒牙……うん、まぁ、毒っちゃ毒か。性癖という名の。

 そういやかいちょーも妙な事やらされてたな。見た目ちっちゃい子に見えるから、ぬいぐるみ持たされてそふぁに座らされてたっけ。

 

 ……今思い出しても、全然しりあすになれないあほくさい事件だったのに、よくあんな真面目に語れるな。

 

「わたくしは無事、ここにいます。他の方々もです。テレビなどでは情報が少ないですが、ネットなどで知った方もきっといるでしょう。あの場に颯爽と駆け付け、怪物を倒した……正義のヒーローを!」

 

 びくっ! ってそーじの肩が震えた。

 大丈夫大丈夫、ばれてないから大丈夫落ち着いて。

 単にかいちょーさんが目をきらきらさせて興奮してるだけだから。

 

 ……実際ばれたらどうなるんだろうな。みんな、女装してちっちゃくなったそーじにはぁはぁしてたって知るわけでしょ? 血ぃ吐いて死んじゃわない?

 

「わたくしは、あの少女達――テイルレッドさんとテイルゴーストさんに心奪われました!!」

 

 かいちょーさんがそう告げた直後。

 

 どっ!!!

 

 と、たいいくかん中からものすごい雄叫びが迸った。

 いやだからうるさいんだっての!

 

「うぉおおお! これが、これがこの世の正義だというのかのぁあああ!!」

「あぁ……時代は今、オレに追いついたんだ。ちっちゃい子にハァハァするオレは……ただ、時代の先駆者というだけだったんだ」

「ちっちゃい会長が、ちっちゃなヒロインに憧れる。そうか、これが真理だったんだ!!」

「まさに、我が世の春が来たぁああああああああああああああああ!!」

 

 ……もうやだこのがっこー。

 

 周りに隠れてはぁはぁしてた連中が堂々とはぁはぁし始めた。そういうの見たら女の子もどん引きしちゃうよ?

 ……とか思ってたのに、よく見たら大体おんなじくらいの人数の女の子もはぁはぁしてた。主にかいちょー相手に。

 

「お前らそのノリなら、俺の昨日のやらかしも見なかった事にしてくれてもよかっただろ!?」

 

 そーじの突っ込みが飛ぶけど、当たり前みたいに誰も聞いてない。

 そうだね、ついんてーる好きをかみんぐあうとしたそーじが霞むくらいに大騒ぎしてるね。あぁ……あいかなんて白目剥いてるし。

 

「こちらがその、正義のヒーロー達です!!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」」」」」

「「オア─────ッ!!?」」

 

 かいちょーがなんか合図したと思ったら、壇上の奥になんかでっかい写真降りて来た。

 ってか、あれ私とそーじ!? いやーっ! 盗撮ーっ! ねっとりてらしーっ!!

 

 そんなん見せたらこのがっこーの変態達が余計に元気になっちゃうでしょうがヤダ──────ッ!!!

 

「神堂家はこの方々を全力で支援すると決めました。皆さん、新時代の救世主を応援しましょう!!」

 

 雄叫びと、喝采と、拍手と、荒い息遣いがたいいくかん中から聞こえる。

 

 やっべぇ、頭痛ぇ。

 応援されるのはまだいいとして、これから先あの変態共が毎日私達を見て騒ぐって事じゃん。辛すぎんですけど。

 

 あぁ……そーじもあそこで絶望して……あれ!?

 なんか真っ赤な顔でびくびく痙攣してない!? なんで!? 何に目覚めかけてんのあんた!?

 

 

 ご主人ーっ! 戻ってこ─────い!!?

 

<○>

 

「……地獄、だった」

「お、おつかれ」

 

 よろよろしながら、帰り道を歩くそーじ。それをあいかがなんともいえない顔で見つめてる、こっちも超疲れてる顔してるけど。

 特に何にもしてないはずなんだけどめっちゃ辛そう……まぁ、私もだけどね。

 

 あの後も大変だったよねぇ……朝にきょーしつではぁはぁしてた男子達が、もっと堂々とはぁはぁするようになってたし。

 すまほとかたぶれっとに映した私とれっどのほっぺに頬ずりする奴とか、水着っぽいあの服のきわどいところをひたすら見つめてでれでれしてる奴とか、がちでお兄ちゃんになった気で他の自称お兄様と決闘し始めた奴とか。

 

 ……日本、ってか人間終わったな。

 

「ねぇもうこのままあるてぃめぎるほったらかしにして地球滅ぶの待たない?」

「闇堕ちすんの早過ぎるわよ!?」

「それは駄目だ…! それじゃツインテールを奪われる……それだけは!」

「あんたはブレなさすぎ! 譲れるところは譲りなさいよ!」

 

 あいかが突っ込み入れてくるけど、ぶっちゃけまじでやだ。

 がっこーから解放されてほんとに安心したよ……敵も味方も変態ってどういう事なの? 助ける気失くすんだけど、ねぇ。

 

 帰りてぇ……帰ってただひたすらにそーじの膝の上でごろごろしててぇ。

 

「あれがこの先ずっと続くんだと思うと憂鬱すぎる……マジで誰か代わってくれないか」

「代われる人がいるならね……ってか、代わりたくないでしょ」

「好き好んで誰が変態と真正面から付き合うかって話よね」

 

 みんなで一斉に、ふっかいふっかい溜息をついて肩を落とす。

 でも、やらなきゃなんだよなぁ……いっぺん喧嘩売られて買っといて、次から逃げるってのも性に合わないし。

 

「まぁ、言っても昨日の今日ですぐ次の奴が出てくるってわけでも───」

 

 あ。あいか……それ、ふらぐ。

 

 

 

【この世界に住まう全ての人類に告ぐ! 我らは異世界より参った、選ばれし神の使徒〝アルティメギル〟!!】

 

 

 

 ほら〜〜〜〜〜〜あいかが変な事言うから釣られて出て来ちゃった〜!!! お約束って言葉があるでしょ〜!?

 あーもーあーもー、来ちゃったもんはしょーがないけどさー。

 

 っていうか……なんじゃありゃ。

 お空にでっかい半透明の化け物が浮かび上がってる。

 

 えっと、ほろぐらむ? とかいうのだっけ。

 でっかい…なんだろ、とかげ? くわがた? とにかく角生えた強そうな奴が偉そうに吠えてる。あ、あれか、龍とかどらごんとかいうやつか。

 

 あの感じは……あるてぃめぎるの中でも特に強くて偉い奴、かな。知らんけど。

 

【我らは諸君らに危害を加えるつもりはない。ただ、各々の持つ心の輝きを欲しているだけである! 一切の抵抗は無駄である! 抵抗しなければ命は保証しよう!】

「ねぇこれ……家の中からも聞こえない?」

「まさかあいつら、世界中の電波をジャックしてるのか!?」

【だが、どうやら我らに弓引く者達がいるようだ。もう一度言う、抵抗は無駄である! それでもなお抗うというのならば受けて立とう! 存分に相手をしてくれる!!】

 

 どらごん男の演説は、そこら中の家から聞こえてきた。全部が一緒のたいみんぐで、一つたりともずれる事なく私達の耳に届いた。

 

 ほっほ〜う……これはまた派手に喧嘩売って来たねぇ。

 失われかけてたやる気が今、ものすごい勢いで蘇って来てるよぉ? そーじ、あんたもそうみたいだねぇ……そりゃそうか、こんだけ馬鹿にされて怒らない男の子はいないよねぇ。

 

「上等だ…!」

「あぁ…許せねぇ…! もうこうなりゃやけだ、幼女でも変態相手でもなんでもいい! お望み通り、俺達が相手になってやる!!」

 

 ぼわんっ、と人間の姿になって、そーじと一緒に天に浮かぶどらごん男を睨みつける。

 待ってろこの野郎共、お前ら全員ぶっ飛ばして、この世界から追い出してやっからな!!

 

 

 

【我が名はタトルギルディ! ドラグギルディ様の仰るとおり! 一切の抵抗は無駄である! 今より、綺羅星の如く輝く――〝体操服(ブルマ)〟の属性力をいただく!!】

 

 

 

「「…………」」

 

 あ、だめだ。

 またやる気しぼんだ。


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