ダ=ダイワスカーレットのトレーナー
グ=グラスワンダーのトレーナー
ネ=ナイスネイチャのトレーナー
ウマ娘。
それは異世界に存在する(以下省略)
これはそんなウマソウルを受け継ぐ少女、ウマ娘を指導する男トレーナー3人が居酒屋でダベるだけの話である。
ダ「彼女が欲しい」
グ「いきなりなんだよ」
生を一気に煽りながらボソりと呟いたダイワスカーレットのトレーナー(27歳彼女無し、以下ダスカトレ)に突っ込むグラスワンダーのトレーナー(29歳彼女無し、以下グラストレ)。そんな二人を見ながらナイスネイチャのトレーナー(26歳彼女無し、以下ネイチャトレ)は日本酒をお代わりする。
ダ「いや、欲しいだろ!? 来る日も来る日も担当のトレーニングして、書類仕事して、レースプラン考えてミーティングして、オフは部屋でウマツベ見るかウマッター見るかこうして男3人で飲みに行くか!」
グ「そりゃ潤いっていうか、浮いた話は無いけどな」
ダ「だろうグラスの! 俺らはそりゃあ、華やかな世界に居るさ。女子学生のコーチングをして金を貰う、世の人間からすりゃ天国のように見える職業さ。だが、現実はそんなに甘くない!」
グ「担当に手ぇ出すわけにもいかないしな」
ダスカトレとグラストレはそこでネイチャトレをじっと見る。
そしてため息をついて声を合わせた。
ダ&グ「「一部を除いてな」」
ネ「てめぇら、何でこっち見んだよ!」
怒りのあまりお猪口をテーブルに叩きつけるネイチャトレ。
でも他二名は鼻で嗤いながら酒を飲み始める
ダ「べっつに~、ネイチャのは手は出してないもんなぁ」
グ「そうそう、手を出されて陥落寸前ってだけだもんな~」
ネ「ちげぇよ!!! あれはマセてて、年上の男が良く見える時期なんだよって何度言わせんだ!!!」
この会話、3人で週2くらいでしているが延々と擦り続けている。
ダ「まぁだからさ、ネイチャのはともかく、世の中イチャつくトレーナー多いしさ~、見てて悲しくなるぜ俺」
グ「俺からすりゃネイチャのもダスカのも十分イチャついてると思うがな。あ、ポン酒おかわり」
ネ「俺もおかわり、あとパリパリキャベツも」
テッテッテッテー(場面転換の音)(走るネイチャの影)
ダ「つーか、堂々とイチャつくトレーナー多すぎだろ! 弁えろよ、相手学生だぞ!?」
グ「ほんそれ。いくらなんでも風紀乱れ過ぎだろ。だから『トレセン学園は婚活会場』とか言われんだよ」
ネ「まぁ……思春期の女学生の中に、良い歳の男が幾人か混じるわけだからなぁ、そりゃモテるよなぁ」
ネイチャトレも苦笑しながら認める。
余談だが、男トレーナーの退職理由第一位は「寿退職」である。大体3年間絆を育んだウマ娘とそういう事になる確率は非常に高い。トレセン学園が専属トレーナーではなくチームトレーナー制度を推進する切っ掛けでもあった。
ダ「だろ!? ったく人の苦労を知れってんだ! こちとら中1相手にどんだけ気を使ってトレーナーやってると思うんだ!」
グ「いや、お前も十分イチャついてないか……?」
普段妙にツンケンしている割に、トレーナーには目いっぱい信頼を示すのがダイワスカーレットというウマ娘だ。それに、見る限り随分と距離が近い。
ダ「……だから困るんだろうが。身体は高校生以上に成長してんのに、距離感が中学生そのまんまなんだよ。危なっかしくて俺が危ない」
グ&ネ「あぁー……」
ボソりと言うダスカトレに、2人は心の底から同情する。そりゃあの身体で、中学生の距離感で迫ってこられたら色々と溜まるだろうなぁ……
ダ「だから俺は彼女が欲しい! スカーレットに妙な気を起こす前に、きちんと大人のお付き合いをして余裕を持ちたい!」
グ「そんな『大事な女の子を守りたいから彼女欲しい』とかいうおたんこニンジンな男に彼女出来るわけないだろ」
ダ「正論で刺すのやめろ! おねーさんポテトちょうだい!」
完全に酔っ払い仕草をし始めたダスカトレの気を逸らすべく、話を転換する
ネ「じゃあダスカのは、どんな女性が好みなんだよ」
ダ「えぇ……どんな、って」
グ「例えば、身近なとこで言うと?」
ダスカトレ、暫く考えてから
ダ「たづなさん?」
ネ「あ~、たづなさんなぁ……」
グ「良いよなたづなさん、まさに大人の女性」
ダ「たづなさんが彼女か、そりゃ良いよな~」
た「お疲れ様でした、トレーナーさん」
ダ「オフでまでトレーナーさん、はないでしょ、たづな……さん」
た「……やっぱりまだちょっと恥ずかしいですね」
ダ「これから慣れていけば良いでしょう、少しずつ」
ダ「とか、そういう感じにさぁ」
グ「良いな、大人の雰囲気の中に潜む初々しさ。お互いぎこちないながらも、少しずつ打ち解けていって……」
ネ「もちろん、2人で出かけるとすれば……」
ダ「じゃあ、今日は……」
た「はい、今日は秋の大一番、天皇賞の日ですね!」
ダ「……え?」
た「さあ行きましょう、もちろんメインレースだけでなく第1レースから見逃せません! しっかりと走る皆さんの姿を見て、大いに語り合いましょうね!」
ダ「え、あ……」
た「トレーナーさんはどう思いますか!? 私は第1レース、この2番の子が良いと思うんです! 彼女はストライド走法のしっかりしたフォームをしてて、府中のターフにはぴったりの……」
ダ「……なんか、これ仕事じゃね?」
グ「大人のデート、というか休日出勤では……?」
ネ「やめだやめ、たづなさんは無し! 72時間戦えますかのブラック労働になる!」
ダ「んじゃ次、グラスの。お前は付き合うなら誰が良い?」
グ「俺か……そうだな、同期の桐生院トレーナーとかは、ちょっと良いなと思うな」
ネ「同業じゃねぇか、たづなさんとおんなじ結果になるぞ」
グ「いいや、たづなさんとは違ってあの人は名家の箱入り娘。つまりだな……」
桐「えっと、見聞を広める、ですか?」
グ「ええ、お互いトレセン学園という狭い世界で仕事をしていますから。休日くらいは、トレセン学園ではなく、広い世界を見る事が必要かと」
桐「なるほど、確かにそうです……私も無趣味で、ずっと勉強ばかりしてきましたから。今日はご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願いします!」
グ「……そんなに気負わずに。俺達は――恋人なんですから」
桐「は、はい……」
グ「こうやって、オフで少しずつ俺色に染め上げる――これよ」
ダ「な、なるほど……!」
ネ「大人だ、大人の恋愛だ……!」
桐「素敵です、こんな世界があったんですね」
グ「君が喜んでくれて良かったよ」
桐「……本当にありがとうございます」
グ「……葵」
桐「閃きました! このアイディアはミークとのトレーニングに活かせそうです!」
グ「え」
桐「すぐに試さないと、それでは!」
グ「……あれ?」
ダ「また仕事になってんじゃねぇか」
ネ「まぁトレーナーってそういう人種だよな……デートのたびにお互いがトレーニングのネタ思いついて、ロクに恋愛になんねぇよ」
グ「クソが!」
ダ「次だ次、ネイチャの! なんか良い案出せ!」
グ「担当に手ぇ出すのはダメだからな!」
ネ「だから出してねぇよ! ……ならあれだ、樫本代理。俺ならあの人が良いね」
ダ「たづなさん以上の仕事の鬼じゃねぇか」
グ「もうオチまで見えただろ、教育プログラム云々で終わりだよ」
ネ「だからお前らは女心が分かってないんだよ、良いか、つまりな……」
樫「――こんな事は、あなたにしか話せませんね」
ネ「良いんですよ、俺だけには話してくれれば」
樫「トレーナー……」
ネ「樫本代理……理子は、自分の中に貯め込みすぎなんだ」
樫「しかし、私は!」
ネ「俺にだけは、弱い所を見せて欲しい。俺は……あなたを支えたいんだ」
樫「あぁ……」
ネ「普段強気で徹底的な管理主義の鉄の女が見せる脆い一面……弱い女性を支えてこその大人の男ってもんよ」
ダ「……なんつーかさ」
グ「ネイチャのって、本当、ネイチャのだよな」
ネ「二人揃ってなんだよその目ぇ!?」
ダ「まぁ良いから、続けてどうぞ」
樫「手を……握ってくれますか?」
ネ「あぁ、良いよ。一晩中でも握っていてあげる」
樫「あと……おぶってもらえますか?」
ネ「……ん?」
樫「実は、緊張しすぎてヒールが折れて……」
ネ「あ、あぁ、うん、任せて」
樫「あとすいません、足が腫れてしまったので帰りに湿布を……」
ネ「…………」
グ「……大人の恋愛というより」
ダ「……介護?」
ネ「やめだやめ! 俺達に恋愛なんて無理だったんだよ!」
ダ「クソが! おねーさんおかわり! あとモツ煮!」
グ「きゅうりの一本漬けも!」
延々と妄想を続けた結果、もう終電近くだった。
三人は会計をお姉さんに頼む。
姉「お会計9750円でーす……皆さん、トレセン学園のトレーナーさんですよね?」
ダ「あぁ、そうだけど」
姉「わー、すごーい! 皆さん彼女募集中なんですよね、私立候補しちゃおっかなー。私生活は私のトレーナーになって下さい、なーんて」
おどけたように言うお姉さんの言葉を聞いて、三人は顔を合わせる。
ダ「あー、ごめん。俺らそういうのはちょっと」
グ「お気持ちはありがたいんだけどさ」
ネ「ちょっとね。俺らさ……」
三人「なんだかんだ言っても、担当が一番だから」
あっけにとられるお姉さんからお釣りをもらい外に出るトレーナー達。
夜の街をふらついて歩きながら。
ダ「あー、彼女欲しいー!」
グ「諦めろって」
ネ「もう一件行くかー」