仮面ライダーアトリエ   作:青ずきん

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初めましての方は初めまして。そうでない方はご無沙汰してます。青ずきんと申します。

前作に引き続き、仮面ライダー二次創作界隈の末席を汚させていただきます。
どうぞよろしくお願いします。


第1話 正義→好奇心のちヒーロー

「痛いっ! 痛いよ……お願いだからもうやめてっ!!」

 

 片手で数えられる程の数しかない街灯が照らす、夜の住宅街。高層ビルが立ち並んでいるわけではないが、普段の昼の様子との差異がこの街を都会のように見せている。ゴミの詰まった袋等が投棄されている薄暗い路地裏には、怯える少女を取り囲む3人の小さな少年達がいた。

 

「ははっ、やめてだとよ」

「誰がやめるかば〜か」

「ひっでぇww」

 

 あまり丁寧な手入れがされていないボサボサな髪、外の空気とは裏腹に寒さを感じさせない半袖半ズボン、極めつけは成熟していないことが見てとれる低身長。いかにも『悪ガキ』というような様相を醸し出す男子3人は、1人の少女を相手に暴行を加えていた。

 2人が少女の両腕を掴み、残った1人のボス格が少女の腹目掛けて正拳突きを繰り出す。

 

「あぐっ……!」

 

 急所に入ったのか、少女は痙攣しながら唾を吐いた。胃の中身すら吐き出してしまいそうなほど逼迫したその状況で、少女は蚊の鳴くような声で助けを求めた。

 

「誰か…………助けて…………!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこまでだよ!」

 

「…………えっ?」

 

 砂埃が舞う程の勢いで、『それ』は空から降ってきた。

 左右にレバーとリフトのようなもの、中央に金魚鉢のようなものが取り付けられたドライバーを腰に巻いた、謎に包まれた戦士。灰色の、体全体に液体が流れ落ちているかのようなアーマーと頭部、黒い素体。

 夜の闇に溶け込む色合いではあったが、少女の瞳には間違いなく救世主として映っていた。

 

「寄って集って女の子をいじめる卑怯者は、私が許さないよ!」

 

 堂々とした佇まいに、只ならぬ覇気を感じさせる声。それは、少年達を威圧するには十分すぎるものであった。

 興が醒めたのか、はたまた戦士の圧に怯懦したのか。どちらなのかは分からないが、後退りを始めた少年達は眉を(ひそ)めて口を開いた。

 

「……何コイツ。行こうぜ」

「……チッ」

「今度こそとことん殴られてもらうからな!」

 

 口々に捨て台詞を吐き、蜘蛛の子を散らすように深夜の路地裏を後にした。

 それを見届けてから戦士は少女の方へと振り返り、手を差し出した。

 

 

「大丈夫?」

 

 

 

 

 

「……はっ!?」

 

 間抜けそうな声を上げ、少女───シャリア・ヒアラルクは起き上がった。

 肩甲骨に届く程の、そして右目の上に黒いメッシュの入った金髪に、水色の右目、黒色の左目というオッドアイ。ほんの少しだけ尖った耳に、学校という場には似つかわしくない白と黒のゴスロリを纏い、白い靴下と爪先の青い上靴を履いている。

 辺りを見回すと、同年代の少年少女、そして教師と思わしき男性がこちらに注目している。

 黒板の半分を埋め尽くす白い文字に、燦々(さんさん)と輝く陽の光が射し込んでくる窓。木目調の床に壁に天井、後方の壁に引っ掛けられたリュックの数々。

 どうやら、授業の最中だったらしい。

 

「……あはははは……」

 

 誤魔化すための乾いた笑いは、余計に教師の呆れを誘った。

 

 

 

 

「……はあ〜、また寝ちゃったけど……でも、また『あの夢』を見れたのは良かったなぁ。出来ればもう一度みたい」

 

 授業終わりの昼休み。先程のことを振り返りながら、シャリアは廊下をなんの気無しに歩いていた。

 シャリアが通っているのは、惑星『ディスパル』の新生エルフ都市『アルカディア』の中心に位置するアルカディア最大級の魔法学校『パラノーマル魔術学院』。

 地球からは30光年ほど離れた位置にあるが、おおよそ地球と同じような生態系が完成した。しかし異なる点も当然存在する。その最たる例がエルフだ。

 

 現状、ディスパルという星で実権を握っているのはエルフという種族だ。人間よりも早く進化した知能を得て、人類を支配することに成功した。

 エルフが台頭したこの世界では、魔法陣を描くことで発動する魔法が普及していった。魔法を全く扱えない人類にとってはいい迷惑でしかなかったが、そんな人間達の意見は世界の主導権を持つエルフに消されてしまっている。

 

 そんな中、アルカディアに魔法学校『パラノーマル魔術学院』が設立された。

 四大元素の操作や結界の展開などを学ぶ『普通魔法科』、精霊などを召喚する魔法を学ぶ『召喚魔法科』、詠唱することで効果を発揮する魔法を専門的に扱う『詠唱魔法専攻科』、パラノーマル魔術学院随一の偏差値を誇る魔法学科の最高峰『上位魔法専攻科』などなど……様々な魔法の教鞭を執ることを売りにした結果、僅か数ヶ月で生徒数7000を超えるマンモス校となった。小学校の内容から大学で習う内容までカバーする、16学年が同じ校舎で学ぶ一貫校であることも、人気の理由なのかもしれない。

 

 その中でシャリアはというと、錬金術を中心的に学ぶ『錬金術科』、その初等部4年生である。普通魔法科で履修する内容を全く勉強しないわけではないが、その名の通り錬金術を主教科として学ぶために、他の学科と比べて異質な雰囲気を纏っている。

 錬金術というのは、その昔地球でも行われていた研究の一つだ。()(つま)んで説明すると、それは鉄を金へと変貌させるという極めて無謀な研究であった。当然そんな研究が成功するはずもなく、地球の人類は実質的に錬金術を究めることを諦めた。

 

 しかし、錬金術科で教鞭を執る教師達をはじめとして、惑星ディスパルの住人の一部は錬金術を──鉄を金に変えるような芸当を、成功させてみせた。

 

 だが、“この世界”ではあまり受けが良くなかったらしい。エルフ達が使える魔法に比べると地味であり、尚且つ魔法陣を描くだけで済む魔法と違ってかなり手間がかかる。そんなこともあって、錬金術はあまり普及しなかった。世界広しとは言えど、錬金術を教える学校はそうそう無い。

 

 そうして錬金術科は、いつしか他学科から蔑まれるようになっていった。やれ『陰キャの集い』だの、やれ『落ちこぼれ学科』だの。

 

 シャリアが二度見される理由の一つは、錬金術科としてのオーラが無意識の内に放たれているからかも知れない。

 

 

「こう、シュバっ! シュバっ! って感じで、悪党を倒すのかっこいいよねぇ。それを臨時体験出来るんだから、夢というのは素晴らしいものだよねぇ。夢を見るように私たちを作ってくれた神様に感謝! だね」

 

 人目を憚らず、シャリアは次々と奇妙なポーズを取る。周囲から憐れみの目を向けられていることはつゆ知らず、いつまでもダサいオノマトペが広々とした廊下を(こだま)している。

 

 

 

 3人の少年が少女に暴行を加えている現場に、ヒーローとして現れる。シャリアが、幾度となく見た夢だ。シャリアには、この夢にこだわる理由が一つある。それは、『自身の記憶喪失の謎を解明するため』だ。

 

 シャリアには、ここ数年近くの記憶が一切存在しない。代わりに、少女を助ける夢を毎日のように見ている。これが失われた過去の記憶……そして自分ではないかと、シャリアは考えている。しかし、なぜ自分は記憶を失ってしまったのかという疑問に対するアンサーは、未だに見つかっていない。

 

 今は分からなくても、いずれ答えが見つかるはず。それまでは、ただかっこよく少女を救う夢の中の───ヒーローとして皆を救う自分の栄華に陶酔していよう。

 そうして、シャリアはこれまでの毎日を過ごしていた。

 

「てっ」

「あっと! ご、ごめんなさい」

 

 夢にトリップしきっていたシャリアは、男子生徒とぶつかったことでようやく意識がこちら側に戻った。ぶつかった相手は緑色のネクタイと白いシャツを覗かせる銀鼠色のブレザーとズボンを着用していた。短く濃い金髪に、緑色の瞳。清潔感のある容姿に、シャリアの罪悪感が少し増す。

 

 シャリアが謝ったのを聞き、相手の生徒もこちらこそすみません、と頭を下げようとした。が、相手の生徒はある事に気が付いた。シャリアが、“制服を着用していない事”だ。

 

 シャリアは全く気付いていない……というか、恐らく知らないのだろう。

 パラノーマル魔術学院では、基本的に中等部から制服を着用する決まりになっている。男子ならブレザー、女子ならセーラーという具合だ。しかし一つだけ、初等部でも制服を着用する例外の学科がある。その名も……

 

 『上位魔法専攻科』。

 

 初等部と中等部では、そもそもとして教室が存在する階が違う。……つまりだ。シャリアがぶつかった相手は初等部の……それも、『落ちこぼれ学科』と揶揄される錬金術科とは正反対の、ヒエラルキーの頂点に位置する上位魔法専攻科の生徒なのである。

 

 まるで別人かのようなしかめっ面に変わり、相手の生徒はため息を吐いてから馬鹿にしたような声で喋り始めた。

 

「……はあ。誰が相手かと思ったら、上位魔法専攻(同じ)科じゃないのか。謝って損した」

「えっ、ちょっ……流石にそれは酷くない? 確かに、私は何も考えてなさそうに見えるかもしれないけど、人並みに傷つく心は持ち合わせてるよ?」

 

 相手の生徒はもう一度ため息を吐いてから呆れたように目を瞑り、若干怒りが混ざったような声色でシャリアに問いかける。

 

「……所属は? どこ科?」

「夢クリエ◯ション錬金術科っ!」

 

 両手を腰に当て、鼻高々というように言い放つ。対する上位魔法専攻科の生徒はというと、最底辺とも言える学科に所属しているという事実を自慢げに話すシャリアに呆れたのか、右手で両目を覆い隠している。

 

「……よりによって『落ちこぼれ学科』かよ。最悪だ」

「最悪って……そこまで言わなくてもいいじゃん! 誰かを傷つけるようなことは言っちゃダメだってお母さん言ってましたー」

「知るかよ。もう二度と関わんな」

「話聞いてた!? 誰かを傷つけるような───」

「うっせぇ低脳。それ以上俺に話しかけんな。馬鹿がうつる」

 

 それだけ吐き捨てると、上位魔法専攻科の生徒はそそくさと立ち去っていった。シャリアは、頰を思いっきり膨らませたままその様子を見届けて教室へと戻っていった。

 

 

 

「んーっ……やっと終わったぁー!」

 

 一日の全ての授業を終えたシャリアは、チャックの閉まっていない青いリュックを背負って背伸びをしたまま天井に向かって叫ぶ。溜まっている疲労のせいで長時間腕を上げることは出来ないが、それでもこうすることで一日の疲れが取れる気がするということで、シャリアは日課のように行なっている。

 

 昇降口まで続く天井はガラス張りになっており、傾きかけた陽の光が射してくる。今は、地球では『春』と呼ばれる時期だ。まだ前節の寒気の残滓があり、陽の暖かさを阻害している。

 昇降口までたどり着き、運動靴へと履き替え終わったまさにその時。学校を、一体の怪物が襲った。

 

 

 

「うわあああ!」

「みんなは早く逃げなさい! 先生が食い止めておくから!」

 

 怪物が現れたのは、下校中の生徒でごった返している校門前。『マテリィ』と呼ばれる怪人の一種───『カースマテリィ』だ。岩のようにごつごつした黒い素体に、禍々しい紫色のラインが身体中に走っている。

 周囲の生徒や教師を手当たり次第吹き飛ばしながら、校舎の方へと前進している。昇降口まで残り数メートルというところで、カースマテリィはちょうど帰宅しようと出てきたシャリアと鉢合わせた。

 

「えっ……うえええっっ!? 何あれ何あれ! きっ、気持ち悪い……!」

 

 無意識の内に本音を零しつつ、シャリアはゆっくりと後退していく。対するカースの方はというと、シャリアの言葉が刺さったのか一瞬身体を震わせ、シャリア目掛けて駆け出した。

 

「うえっ、ちょっ、ちょちょちょタンマ! タンマってば!」

 

 鬼のような気迫で迫り来るカースを相手に、シャリアは思わず背を向けて走り出した。

 もし自分に魔法の才能があって普通科に通っていたのなら、今頃空を飛んで逃げられたんだろうな、と。そんなことを考えながら、必死に怪人との距離を離そうと試みる。

 

 とは言えシャリアの体力は無限ではないし、何より規格外の腕力や脚力を誇る怪物がいつまでも追いかけっこに付き合ってくれる保証は何処にもない。その証拠に、カースは既にもう少し手を伸ばせばシャリアに届く程の距離まで迫っていた。

 

 ……のだが、一つの小さな火球がそれを阻んだ。

 

「……ッ!?」

 

 シャリアへと伸ばしていた手を引っ込めて、カースマテリィは火球が飛んできた方へと振り向いた。そこに居たのは……

 

「……あれ? 君って確か、私のこと馬鹿にしてきた───」

「……ん? お前、まさか昼間の……? 何でまだここに居んだよ、さっさと帰りやがれ。邪魔だ」

 

 昼間にシャリアが出会った、上位魔法専攻科の男子生徒だった。眉の吊り上がった表情で重そうなリュックを背負ったまま、右手で校門の方を指し示す。

 しかしシャリアは話を聞く気などなく、遂には口をすぼめて男子生徒へと反駁を始めた。

 

「あのねぇ、女の子には優しくしましょうって習わなかった? 君が言うところの『落ちこぼれ学科』の私でも知ってることだよ? その程度のことも知らないなんて───」

「よそ見してんじゃねえ馬鹿!」

「うわっ!?」

 

 話の途中で男子生徒はシャリアの元へ駆け出し、力の限りを尽くしてシャリアを突き飛ばした。その衝撃でシャリアのリュックから何かが飛び出したのには気にも留めず、手を引っ込めつつ身体を退け反らせる。

 次の瞬間、カースマテリィは右手を上へと振り上げ、真正面に紫がかった黒色の衝撃波を放った。衝撃波は男子生徒の眼前から数センチほど離れた場所を横切り、静かに地面を抉った。

 

 目を瞑っていたシャリアは何かが近くを通ったような音を聞いただけにしか感じなかったが、男子生徒の間一髪というような表情から自身の置かれた状況を思い出すことができた。

 流石にこれは、命が危ない。直感でそう感じたシャリアは、慌てて立ち上がって校門の方へと身体を向けた。

 

 そこでシャリアは、自身のリュックのチャックが閉まっていないこと、そしてそのリュックから何かが落ちたことに気が付いた。気にしている場合ではないかもしれないが、物によっては明日の授業にも影響を及ぼすかもと考えたシャリアは落とし物に目をやった。

 

「……? 何これ……」

 

 シャリアが落としたのは、よく分からないバックルであった。淡い水色をした逆さ台形の中央には金魚鉢のような容器があり、その横には指を引っ掛けられる白いレバー、そして小さな白いリフトのような物が取り付けられている。

 

 少しの間触れていると、突然バックルのことを思い出した。

 そうだ。これは、父親からお守りとして託された『アトリエドライバー』だ。

 

 

 今は亡き、父親から。

 

 

「おいてめぇ何してんだ! さっさと帰れっつったろうが!」

 

 火球やら何やらを放ちながら怪人に応戦していた男子生徒が声を荒げる。額からは汗が噴き出しており、疲弊しているのがすぐに分かった。

 軽く笑みを浮かべ、立ち上がって怪人の方を向いてシャリアは口を開く。

 

「その必要はないよ。だって───」

 

 

「これから私が、そいつを倒すからね」

 

 誰に教えてもらうでもなく、シャリアは自然とバックルを腰に巻いた。即座に帯が伸び、しっかりと固定される。チャックが空いたままのリュックに手を伸ばし、シャリアは片手で包み込めるほど小さな小瓶──ブランクライダーエキス──を取り出した。口部にはコルクで栓がされており、灰色の液体を閉じ込めている。

 

 笑みを崩すことなくコルク栓を親指で弾き飛ばし、ベルト右側のリフトにはめ込む。

 

【Let's play!】

 

 若い男性の声が発され、ピアノで弾いているようなメロディが辺りに響き渡る。予期せぬ事態に、男子生徒とカースマテリィは呆然とシャリアを見つめていた。それを知って知らずか、シャリアは更に口角を上げて宣言した。

 

「変身!」

 

【Inject!】

 

 叫ぶと共に、リフトの下にあるレバーに人差し指を引っ掛けて外側に引っ張る。すると一瞬のうちにリフトを上へと運び、小瓶の口を金魚鉢のような容器の方に傾けた。

 閉じ込められていた液体が流れ出し、容器に蓄積されていく。全て注がれたのを確認すると、シャリアはレバーから手を離した。自動的にリフトが元の位置へと戻っていく。

 

【サクセスミックス! Let's enjoy,ブッ、ブッ、ブランク!】

 

 完全にリフトが戻るのを待たず、ベルトは中央から小さな灰色の渦のようなものを出現させる。回転数を上げるごとに大きくなっていくそれは、わずか数秒でシャリアの身体を完全に包んでみせた。

 

「何だ……一体何が起きてる……?」

 男子生徒は、その様子を見つめることしか出来なかった。暫く呆気に取られていたが気を持ち直し、再び警戒体勢を取る。

 

 そしてシャリアを包む渦が目にも止まらぬ速さになった頃、渦は弾けて霧散した。

 

 四肢に白いラインが走る黒いアンダースーツを纏い、液体が流れ落ちているかのような形状をした灰色の胸、肩、膝アーマーに覆われた身体。

 灰色の液体が斜めに渦巻いているようにも見える、黄緑色の複眼の光る頭部。

 

 夢にまで見たヒーローの姿に、シャリアは『変身』を遂げた。

 その名も『仮面ライダーアトリエ ブランクMIX』。あらゆる物質を『調合』して新たな物質を創り出し、その力で世界を救う『錬金術"士"(アルケミスト)』だ。

 

「さてさて、良い素材が取れますようにっと!」

 溌剌とした声を発しながら、カースに向かって走り出す。対するカースはというと、アトリエの姿を前にして呆然と立ち尽くしていた。

 そんなカースの様子など知らぬ存ぜぬという風に、アトリエは両腕を無秩序に振り回す。先程までのカースの優勢が嘘のように逆転した。

 

「ほいっとぉー!」

 

 両手を同時に突き出す張り手でカースが吹っ飛ぶ。再び立ち上がったところで、ようやくカースは反撃の意思を見せた。紫のアクセントが入った黒い炎を右腕に纏い、アトリエの左腕目掛けて放つ。

 

「わわわっ! 何これ!? 動かないんですけど!!」

 

 放たれた炎はアトリエの左腕に絡みついた。瞬間、アトリエは自身の左腕から力が抜けていくのを感じた。脳からの命令を失った腕がだらんと垂れる。

 それを狙ったかのように、カースは指を鳴らして増援を呼んだ。

 

 暫くして、空から銅のような金属光沢を放つ背丈の低い戦闘兵『アノード』が飛来した。半分はアトリエ達を無視して校舎の方へと向かい、もう半分はカースと共にアトリエをとり囲む。

 

「ちょ、そっちいっちゃダメだって! ちょっと待って!」

「……チッ!」

 

 戦闘を静観していた男子生徒だったが、アトリエ一人では対処しきれない事態を察知したか空を切るように魔法陣を描き、豪風を発生させて校舎に近づかんとするアノード達を吹き飛ばした。

 

「おお……すごいなぁ。これは私も頑張らなくちゃだね……!」

「……とは言っても」

 

 その様子を視界の端で捉えていたアトリエは静かに称賛し、意識をカースの方へと集中させる。が、360度を隙間なく取り囲まれているこの状況はあまり芳しくない。

 

「うーん……やっぱこの状況だとこれかなぁ?」

 

 両手で腰をまさぐり、アトリエはまた別のライダーエキスを取り出した。軽くもこもこと膨らんだ小瓶の中で、橙色の液体が静かに揺れている。

 先程と同じく親指でコルク栓を弾き飛ばし、ベルト左側のリフトに装填した。小慣れた手つきで流れるようにレバーを外側に引っ張る。

 

【Let's play!】

【Inject!】

 

【サクセスミックス! Let's enjoy,バッ、バッ、バースト!】

 

 ベルト中央から橙色の渦が現れ、またしてもアトリエの全身を包んだ。渦がアトリエを解放すると、そこには橙色のがっちりとしたアーマーを纏ったアトリエの姿があった。

 

 仮面ライダーアトリエ バーストMIXだ。

 肩、胸、前腕、脛。新たに追加された装甲は使い古されたように煤け、煙のように膨らんでいた。側頭部にも、荒々しく削れた橙色の岩石のような装飾が施されている。

 

「うん、いい感じ。それじゃあ……」

 

 橙色に変わった双眸はカースを捉え、火花が散るような視線のぶつかり合いを起こした。先制を取るためにアトリエが駆け出そうとしたその時。

 真後ろから、一体のアノードが攻撃を仕掛けた。が、その蛮行に気付かないアトリエではない。

 

「よっと!」

 

 自身に駆け寄る足音を感知し、アトリエは後ろ蹴りを繰り出す。その足が触れた瞬間、アノードは爆発を起こして吹き飛んでいった。

 

「グヴゥゥッッ!?」

 

 突然の爆発音に全員が音の方向を注視する中、騒音の主であるアトリエは次々とアノード達を殲滅していく。

 ストレートパンチ、横蹴り、チョップ。その攻撃の全てが、命中する度にアノードの全身を覆うように爆裂する。

 

「あとはあなたひとりっ!」

 

 地面を蹴ってカースマテリィに飛び込み、数発殴った後に右足で力強く蹴り飛ばす。両腕を交差させることで致命傷こそ避けたものの、壁に叩きつけられたカースは既に満身創痍の状態だ。

 だが、カースに諦めは見られなかった。荒くなった呼吸を必死に抑え、右腕から黒い(もや)をアトリエに向かって伸ばす。しかしアトリエはそれをすんでの所で回避し、新たなライダーエキスを取り出した。キラキラと輝く、水色のエキスだ。

 

「よし、最後はこれだね!」

【Let's play!】

【Inject!】

 

【フィニッシュミックス! Let's GO!】

 

 コルク栓を外して左側のリフトに残っていた空瓶と交換して装填、レバーを引くと同時に水色の渦が巻き始めた右脚を少し引く。

 

「いっくよー……! せー、のっ!」

 

 アトリエは勢いよく飛び上がり、体ごと捻って回し蹴りを放った。脚に付随する渦はカースを貫き、その歪な様相を醸す体を爆散させた。

 

「あ、う……」

「お〜……ってちょっと待って、誰か居ない?」

 

 爆煙が晴れると、そこには濡れ羽色をした髪の長い少女が倒れていた。そのすぐ傍には、内側に少し水滴が付いた点滴用のプラスチックらしいバッグが転がっている。アトリエは変身を解除し、慌てて駆け寄って少女の体を起こした。

 

「えっ……えっえ、大丈夫かなこれ……どうすればいいんだろ……」

 

「とりあえず、学校(うち)の保健室に連れて行こう」

「……ふえ?」

 

 声がした方向に振り向くと、あの男子生徒が腕を組んで立っていた。少女に近づくと、男子生徒は辛そうに眉を顰めながらも少女をおぶって昇降口の方へと歩き出した。

 

「えっ、大丈夫なの!?」

「大丈夫だ! いいからお前は帰れ!」

 

 そう乱暴に吐き捨てながら、男子生徒は校舎の中へと消えていく。ムッとした表情をしながらも、これ以上何もすることのないシャリアはバックルをリュックにしまい、しっかりとチャックを閉めてから自身の家へと歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

「……シャリアが、再び変身した……」

「変身の仕方も分かってるみたいだったし、もしかして完全には忘れてないのかな……?」

 

 今しがたシャリアが後にしたパラノーマル魔術学院を囲む建造物、その屋上。二人の少年と少女が、小さく声を漏らした。

 

 少年の方は真っ黒な髪に同じく黒のジャケットと白いシャツを纏っており、黒いズボンのポケットに手を突っ込んだままシャリアが帰宅する様子を俯瞰している。

 少女の方は所々にフリルがあしらわれた真っ白なブラウスとロングスカートを身につけており、水色のセミロングを揺らしながら少年と同じくシャリアを目で追いかけていた。

 

「……だとしても、『ユーヴァ』が敗れた以上『作戦』は失敗だ。退いた方がいい」

「……」

 

 下唇を噛みながらやるせない表情を見せる少女に、少年は軽く肩を叩いて口を開く。

 

「心配するな。()()()は完全じゃない。いずれシャリアは俺たちのことも思い出す。そしたら、きっと俺たちのところに帰ってくる。だから……な?」

「……分かった」

 

 会話を終えると、二人は学校から隠れるように反対側の端へと移動し、屋上から飛び降りた。もっとも、少女の方は届くはずのない一言を残してから、だが。

 

「……絶対、助けるから。だから、待っててね…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………お姉ちゃん」





第1話でした。世界観説明が長ったらしくなったこと、申し訳なく感じています。次回からはまだ比較的マシになると思われるので、どうか最後までお付き合いいただければと思っています。
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