サブタイトルは即興気味なので、ちょくちょく変な感じになります。
どうかご容赦を。
「んーっ……あともうちょっと……取れた!」
休暇を使い、シャリアは人里離れた森で調合用素材の採取を行なっていた。陽が差し込む明るい森からは小鳥の
地球に存在する動物達に似た生命もいくらか見受けられるが、例えば宝石のようなものが埋め込まれていたり、例えば地球の個体より腕や足が多かったり。多少の差異は存在するが、知識としてしか地球を知らないシャリアにはその差異に気付くこともない。が、基本的には癒しを与えてくれる存在であるというところはどちらの星でも変わりはない。
「……お前か。そこで何をしてる?」
「……お、この前の……めっちゃ口悪い子」
「誰がだ」
「だって名前知らないし」
「知らなくていい」
シャリアが振り向いた先には、カースマテリィの一件から知り合いとなった上位魔法専攻科の生徒であるダツタ・ホーマが立っていた。休日にも関わらず制服を着用しており、上位魔法専攻科としての意識が窺い知れる。
「……ま、いいや。今ちょっと忙しいから、遊ぶのはあとでねー」
「誰も遊ぶとか言ってねーよ。俺は魔法の練習をしに来たんだよ。分かったら散れ」
「私素材の採取してるんですー私の方が最初に来てましたー」
「うざ」
「うざって何!? 私の方が最初に来てたんだよ!?」
「知らねーよ、さっさとどけ」
子供らしい幼稚な言い合いを繰り広げ、互いに場所を取り合う。そこに譲り合いという言葉はなく、意見を押し付け合うことしか考えられていない。
このまま平行線の言い合いが続くと思われたが、ふと視界に入ったものが気になったダツタは一旦口を止め、謎の解明のためにシャリアへ質問を始めた。
「……なぁ、お前が持ってるそれ、何だ?」
「お前じゃないですー、私にはシャリアって名前がありますー」
「うっせ、そんなのどうでもいい。それより、その手に持ってるものは何だ?」
「これ? 『うに』だけど?」
「『うに』……? 名前だけは聞いたことがあるが、木から採れるのか……?」
「そりゃあそうでしょ。『うに』は木から、『くり』は海から。常識じゃないの?」
「いちいち鼻につく言い方するなこいつ……」
シャリアの手に握られていたものの正体は『うに』であった。かなり万能な素材であり、アトリエへの変身に使用するライダーエキスを除けば大体の調合で使用することができる。故に必要数も多く、こうして定期的に採取に来ている。
「……まあいい。それはそうと、お前に伝えておくことがあったんだ。それだけ聞いたら帰れ」
「だから『お前』じゃないって言ってるでしょー? わーたーしーはー」
「ああうるせぇうるせぇ、分かったから話を聞けよ。この前学校を襲ってた怪物をお前が倒した時、黒髪の女子が出てきたろ? あの子の正体が分かった」
「だから『お前』じゃないってー」
「しつこいぞ。で、その子の名前は『ユーヴァ・スペクトラム』。結構前から不登校になってたらしい。目ェ覚ましたかと思ったらすぐに保健室を抜け出して、お前の名前を叫びながら走り回ってたそうだ」
「私? 何で?」
「俺に質問するな。自分で考えろよ。……これで話は終わりだ。とっとと帰れ、練習の邪魔だ」
「ぶー、傍若無人!」
「お前が使うより俺が使った方が有意義だってだけだ」
頬を膨らませながらも、おおよそ素材の採取を終えたシャリアは不機嫌気味に森を後にする。シャリアの姿が完全に見えなくなってから、ダツタはその場に魔法陣を描いて練習を始め出した。
「……ごめん、今戻った」
整頓されていながらも薄暗い一軒家の一室で、扉を開けた少女は疲れ気味に言う。中に居た少年達三人は全員で迎え、近くのソファに座らせた。
「……失敗……だよね……。ごめんなさい、私のせいで」
「ユーヴァのせいじゃない。俺達だって考えが甘かった。だから、気に病まないでくれ」
『ユーヴァ』と呼ばれた少女を慰めたのは、シャリアが初変身を遂げた際に水色の髪の少女と共に俯瞰していた黒髪の少年だった。申し訳なさそうにするユーヴァの背中を優しく叩き、諭すような声で続ける。
「シャリアがまた変身したのは皆も知ってると思うが、アレは記憶を取り戻しかけている予兆じゃないかと思う。だから、当面の間はシャリアに戻ってきてもらうことを目的にしようと思う。それまでは、実験と戦力の増強を繰り返す」
「異議あーり」
柔らかそうなアームチェアで片肘をついている金色の長髪をした少女が手を挙げ、一身に注目を集める。ダウナー系の出で立ちがウケた経験はあまりないが、
「変にマテリィを寄越すよりも、とりあえず身を潜めておいて準備ができた時点でシャリアちゃんを迎えにいけばいいと思いまーす」
「それもアリだとは思う。だけど…………俺も考えたくはないけど、思い出したとしても俺達の元に戻ってこないかもしれない」
「そんなことない! お姉ちゃんは、わたしのこと、見捨てないし……」
黒髪の少年の意見に反駁し、水色の髪の少女が声を上げる。が、その声は次第に弱まっていく。その場にいる全員が、同じような気持ちだった。
「……俺も、そんなことないって信じたい。ただ、マテリィと戦ってもらえば、改善点も見つかると思うしシャリアが戻ってきた時にまた『作戦』を実行できると思う。今よりも万全な状態でな。だから、それまで皆には我慢してほしい」
「クッソ、実戦が早えぇんだよ……!」
森を照らす陽が降下を始めた頃、魔法の練習を続けていたダツタは全身が鋭く尖った鋭利な怪物に出くわしていた。『シャープマテリィ』と呼ばれるそれは、銀色に輝く身体から絶えず針を放ってダツタを攻撃している。
全く反撃できないまま防戦一方となっていたその窮地に、調合の素材の採取を続けていたシャリアが再び現れた。
「おっ、いたいた……って、まだ居たんだ悪口くん」
「ぶっ殺すぞ」
「だから名前知らないんだって!」
「……ああもう、分かった。ダツタだ、ダツタ・ホーマ。名乗ったから、二度と悪口だの何だのって言うなよ」
「それはいいけど、
「しないんじゃなくてできないんだよ! 危ないからって学校に止められてんだ!」
「ふぅーん。ちゃんと正直に守るなんて偉いね」
「お前は止められてないのか?」
「一応止められてるけど、私しかこのドライバー使えないからね。あと、『お前』じゃなくて『シャリア』」
ダツタと会話をしながらもシャリアは腰にアトリエドライバーを巻いて戦闘の準備を進める。軽快にブランクライダーエキスのコルク栓を弾き飛ばし、ミニリフトに乗せてからレバーを引く。
【Let's play!】
【Inject!】
【サクセスミックス! Let's enjoy,ブッ、ブッ、ブランク!】
「じゃ、今日もレッツ素材採取!」
シャープマテリィの元へ飛び込むと同時に、アトリエは両足を突き出してドロップキックを繰り出す。相変わらず着地のことを考えておらず、背中を打ちながら次の手を考えて起き上がり、軽く汚れを払いながらもう一度シャープマテリィへと突撃する。
「どりゃああぁぁぁーーっ! あっ、痛っっったぁぁぁーーい!」
力任せに殴りかかるが、全身が鋭い針の山となっているシャープマテリィには一切効いている様子はない。寧ろ、拳が針に刺さったことで逆にダメージを受ける始末だ。
「あいつ馬鹿じゃねぇのか……? おい、丸腰で戦おうとするな! 何か武器を持て!」
「そんなこと言われても、『錬成』はまだ習ってないんだよぅ!」
ダツタの声に苦しげに反応するアトリエからは、消え入るような声が漏れた。
彼女の言う『錬成』とは、錬金術によって武具を作り出す技術のことだ。母親から少し教わっているために名前は聞き及んでいるが、パラノーマル魔術学院では錬成の勉強は中等部三年生から始める。調合よりも多少危険が伴うことが懸念されてのことだ。
まだ錬成を履修していない彼女は、武具を作り出すことができないために徒手空拳で戦わざるを得ない状況となっている。
「えーっと、えっと……バーストは触れなきゃだし、フライトもそうだし……どうしよう、何も思い付かない……!」
「ボーっと突っ立ってんじゃねぇ! 針が飛んでくるから避けろ!」
「へ?」
間抜けな声を出してアトリエがシャープマテリィの方へ向き直ると、数えるのも億劫になる程の針が飛んできていた。一つ一つは細く小さいが、非常に鋭利な先端はアトリエの装甲を簡単に傷付けていく。
「痛い痛い痛い! すっごく痛いんだけどこれ!」
「なんか遠距離から攻撃できるやつとかねぇのか!?」
「知らないよそんなの! 遠距離……遠距離…………なにこれ」
アトリエが身体をまさぐって見つけたのは、白い液体が閉じ込められた『シャウトライダーエキス』であった。試験的に調合したものであり、アトリエ自身もその効果をよく知らない。だが、四の五の言っていられる状況ではないことはアトリエ自身が一番よく分かっている。藁にもすがる思いで、コルク栓を弾き飛ばした。
「もうどうにでもなれだ!」
【Let's play!】
【Inject!】
【サクセスミックス! Let's enjoy,シャッ、シャッ、シャウト!】
ドライバーを乱暴に操作し、アトリエはシャウトMIXへと姿を変えた。肩部の拡声器のような装甲と、全身に同心円状に広がっている衝撃波のような意匠が目立つ真っ白なフォームだ。後ろの方では、頭部に巻き付けられた鉢巻が風に
「敵を見ろ! また針が飛んでくるぞ!」
「ちょまままって、待ってってホントに」
「わーーーっっ!!?」
目前まで迫ってきた針に驚いて発されたアトリエの声が、
「うわぁー何これ、もしかしてそういうアレ?」
偶然起こった事態からある程度シャウトMIXの能力に検討をつけたアトリエは、シャープマテリィの方を向いて再び大声で叫ぶ。
その叫びは強風を生み、辺りの生命を破壊する。
「やっほーーー!!!」
「おお、そういう感じのやつだね! 次いくよ!」
「おい待て、俺のことも考え───」
「わっほーーーい!!」
「べろべろばーー!!!」
「あの野郎マジで……!」
観戦していたダツタへの被害は小さくなかったが、シャープマテリィにはそれ以上に響いていた。よろけきって立つことすらままならない鋭利な怪物の前にして飛び上がり、最後の一撃を決める。
【Let's play!】
【Inject!】
【フィニッシュミックス! Let's GO!】
「いっくよーーー!!!」
爆音の衝撃波を円柱状に出してシャープマテリィを拘束、無防備な姿を晒したままの怪物に衝撃波を足に纏ってその身体を貫いた。
金切声を響かせながら、シャープマテリィは爆ぜ散った。ピースサインを天高く掲げ、アトリエはまた白星を一つ増やした。
「あぁ〜……喉がぁ〜……」
「そりゃああんなに叫んでればそうなるだろうな」
日が暮れ出した頃、シャリアとダツタは共に森を抜けて家路を辿っていた。シャウトMIXはシャリアの喉にかなりの影響を与えており、戦闘から数十分経った今でもダミ声が直らない。些少回復していないこともないが、少なくとも明日まではこのままだろう。
「一応言っとくが、俺の耳も大分被害喰らったんだからな。そこのところ分かってるんだろうな?」
「分かってるってぇ〜……」
「……そういやお前、『耳』は?」
「え? どういうこと?」
「耳だよ、耳。他の奴らは髪から飛び出してんのに、お前は見えねぇ。どうなってんだ?」
ふと、ダツタはシャリアの耳が気になって疑問をぶつけた。
一般的に、この世界でのエルフ達の耳は『エルフ耳』と呼ばれる尖った形状をしている。それ故に、髪を下ろしている女子生徒なども髪から飛び出している耳がよく目につく。
しかし、シャリアにはそれが見受けられない。正確にはダツタが気付けていないだけなのだが、僅かにシャリアの髪から耳が覗いている。が、それでも気付きにくいのは確かだ。
その理由は、ひとえにシャリアがハーフエルフであることが関係している。現在の彼女はあまり気にしてはいないが、ハーフエルフである彼女は血・耳・魔力量などなど、何もかもが純血のエルフと比べ中途半端なのである。
だが、その出生あってシャリアはアトリエドライバーを使用することができている。何故アトリエドライバーが純血のエルフに向かない物なのか、それはシャリア自身にも分からない。
ただ一つ分かっているのは、『仮面ライダーアトリエ』としてマテリィを倒し、夢にまで見たヒーローになれるということだけだ。
「色々あるんだよ、色々。それじゃ、私家こっちだから。またねー」
「……」
少しずつ、ほんの少しずつ変化しつつある自身の心情には気付かぬままシャリアを見送り、ダツタもその場を後にした。
3話でした。
ハーメルンの特殊タグによって実現したシャウトMIXお披露目回です。
ただ、本編で描写した通りシャリアの喉にもちゃんとダメージが入るので、活躍の機会は意外と少なそうです。