旧支配者スムマヌスと悪魔ルジャウッドの邂逅。そしてアルク=エプに集ったルシャールの乙女。相反する派閥同士が勢力を高めていく中、また一人イレギュラーな人物がアルク=エプの街を訪れていた。
「私はルシャールの乙女の一人シーヴァ!私とお姉ちゃんたちの目が黒いうちは、悪事は許しませんよ!」
ビシッと擬音が付きそうな勢いで、盗賊ヴィブルとラプームを指すシーヴァ。ちなみに今日は酒場から酒を盗んだ様で、蒸留酒が入った3本の酒瓶をラプームが抱えていた。ヴィブルは路地裏の入り口に立ち、ラプームを先に路地裏に入らせる。
そしてヴィブルも続いて入ろうとしたが、背後から急接近してくる気配を察し、両腕で衝撃に備える。
「─────っ」
ヴィブルは声にならない悲鳴を上げる。腕が折れたのかと思う程の激痛。それが目の前で戦闘態勢を取る少女、シーヴァから繰り出されたことに恐怖する。
シーヴァは自身の武器である白いタクティカルバトンを片手に、ヴィブルからの反撃を鎮めるべく守りの姿勢を取っていた。
野次馬たちは焦げ茶色のツインテールと、栗色のくりくりした瞳から子供っぽい印象を受けていた。実際彼女の背は低く、砂場で遊んでいる子供に混じっても違和感がないだろう。
しかし今、ヴィブルと対峙しているシーヴァが放つ空気に子供の様なあどけなさはなく、一切の不条理を許さない純粋な悪意があった。
「あの子、さっきルシャールの乙女って言ってたわよね」
「ルシャールの乙女が何か知らんが、あのエロい姉ちゃんの実力考えるとこの子も相当ヤバイんじゃ...」
野次馬たちは既にルシャールの乙女を認知していることと、エロい姉ちゃんという言葉に引っかかりを覚えたが、シーヴァはそれを頭の片隅に置くと再度自身の獲物を構えた。
一方、ヴィブルは先程の衝撃のせいで腕の感覚がないことから、戦略的撤退を考えていた。しかしこんな小さな女の子を前に、巨漢の盗賊である自身が逃げれば、プライドもクソもない。ヴィブル滑稽にもヴィブルは女子供に恐れをなして逃げた、と野次馬共が街中に吹聴するのは目に見えている。
「おいガキ!謝っても許してやらんぞ」
ドスの利いた声でシーヴァを威嚇する。しかし彼女は怯むどころか、好戦的な態度を顕にし口角をニヤリと上げた。流石のヴィブルも女子供に手を上げるのは抵抗があった。だから威嚇で怯んでくれれば良い思ったが、そうはいかなかった。戦おうにもダマスカスのナイフはラプームに渡したままであり、ヴィブルは武器を一つも持っていない。しかしふと目の前の少女の武器を見て、むしろ素手の方が好都合であることに気づくと、ヴィブルもシーヴァ同様に好戦的に口角を上げた。