東方弦奏録 〜Phantasmic String’s Rhapsody〜   作:Scarletter

2 / 8
今回は陽也君は弾きません。


第一話 幻想になりし者

 陽也が目覚めた時、彼はベッドの上にいた。おかしい。彼が一発目に思ったことはそれであった。体を起こして辺りを見回してみると、どこもかしこも散らかっていた。かろうじてベッドからドアまでの通路が存在するという感じである。近くにリュックとヴァイオリンの入ったケースがあったのは確認できた。そうすると彼の心の中に少々余裕が出てきた。どうやら自分はこの倉庫のようなところへ押し込まれたらしい。だがベッドには寝かされているから、人間とは認識してもらえたのだろう。そんな風に考えを巡らしていると、腹がぐぅと音を立てた。当たり前である。昨日は何も食べてないのだ。

 

 その直後、ドアが開いた。

 

 陽也は驚いた。入ってきたのは少女だったのである。金髪で、白と黒を基調にした衣装に身を包んだ美少女だ。これにとんがり帽でも有れば魔法使いになるような、そんな格好である。

 

「おっ、目が覚めたか?」

 

 彼女はにこりと笑って陽也に声をかけた。声色や語り口から、はつらつな性格が見てとれる。

 

「えぇ……まぁ」

 

 陽也はぼんやりと答えた。頭が目の前で起こった出来事について行っていなかった。

 

「そうか、そりゃなにより。今なんかご飯持ってくるぜ。お腹空いてるだろ?」

 

 金髪の少女はそう言って部屋を出て行った。まるで電撃のようだなと、彼は思った。

 

 数分して金髪の少女がご飯を運んで来た。

 

「ありがとうございます。いただきます」

 

 彼はそう言って食べ始めた。シャケと野菜とご飯とキノコ入りの味噌汁という、少女のいでたちにしては和風な献立である。元々空腹だったのもあるかもしれないが、彼にはそれが美味しく感じられた。

 

「……美味しい。ありがとうございます」

 

 彼はそう言いながら、感動していた。彼は一人暮らしの時には料理はなおざりにしていた。冷めていようがレトルトだろうがインスタントだろうが、腹がふくれて体を壊さないようにバランスさえ取れていればなんでもよかった。だから、このような食というのは相当久しぶりであった。母が生きていたころ食べた手料理の記憶を刺激したのである。

 

「気に入ってくれて嬉しいぜ。腕によりをかけて作ったんだ」

 

 少女は誇らしげにそう言った。

 

「本当に美味しい……こんな料理、申し訳ないです。あなたが僕を助けてくれたんですか?」

 

「うん、そうだ。お前、森の中でぶっ倒れててな。あのままだと妖怪に喰われるか、瘴気にやられるかで、あまりにも危険だったから私が家に運んで寝かせてやったってわけだ。夜にあんなところ彷徨くんじゃないぜ?」

 

 妖怪?そんなものは迷信ではないのか?この格好と言いこの少女はちょっといっちゃってるのかもしれない。彼はちょっぴりそう思ったが気にせず流すことにした。

 

「妖怪……ですか」

 

「そうだ。妖怪だ。って妖怪を知らないのか?お前」

 

 少女は珍しいものを見るような目で陽也を見た。

 

「え、知りませんが」

 

 陽也はそれが普通だろうと思い、そう言った。すると、少女は「あー……」と言って、困ったような顔をした。

 

「なるほど、全て腑に落ちたぜ。お前、外来人だな!」

 

 そう言うと少女は陽也をビシッと指差した。

 

「が、がいらいじん……?」

 

 何を言っているかさっぱりわからない。

 

「ここがどこかわかるか?」

 

「××県の……○○辺りでしょうか?」

 

「何言ってるか分からん。違う。人里がどっちの方角かわかるか?」

 

「わかりません」

 

陽也はこの一連の質問が何を意味しているのかが分からなかった。少女は腕を組んで頷いた。

 

「やっぱりそうみたいだな。確信したぜ。お前、ご飯を食べたら私について来てくれ」

 

 どこへつれて行こうというのだろう。最寄りの交番とかだろうか?

 

「ど……どこへです?」

 

「博麗神社っていう神社だ。あそこの巫女ならなんらかの解決策を知ってる。準備して外で待っててくれ。」

 

「あ、待ってください!えっと……」

 

「霧雨魔理沙だ。なんだ?」

 

「ヴァイオリンを持って行きたいんです。外出するときはあれがないと落ち着かなくて……」

 

「お前が運んで来たあの小さい棺桶みたいなやつか?構わんが、落とすなよ?」

 

「はい!」

 

 落とすな、という注意を陽也は不思議に思ったが、今自分の置かれている状況を考えると、些細なことであったため、流した。

 

 その後、陽也は文字通り空を飛んでいた。魔理沙と共に箒に跨りながら。

 

「あああああああ!」

 

「五月蝿い!私につかまってれば落ちないから落ち着け!」

 

「でも霧雨さん!僕空なんて飛んだの始めてで……怖いんですよぉ!」

 

「ここじゃ人間が空を飛ぶなんてしょっちゅうだ。飛べる人間はあまりいないがな。じきに慣れる。あと霧雨なんて呼ぶな!魔理沙でいいぜ!」

 

「は……はい……魔理沙さん」

 

 空飛ぶ箒に魔法……陽也の常識では否定されていたものが次々と彼の目の前に現れていた。彼はいよいよ、自分はいわゆる異世界に来てしまったのではないか?と思うようになった。

 

 




次回は博麗神社ですね。陽也君は何か弾くと思います。では。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。