東方弦奏録 〜Phantasmic String’s Rhapsody〜   作:Scarletter

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だいぶ長くなりました(汗)。次回からはそこまで長くならないはずです。

期待している人がいたら申し訳ないのですが、このssでは主人公は戦いません。拝島さんはただの人間です。特に能力とかはございません。

それでは、どうぞ。


第二話 挨拶 〜エルガー「愛の挨拶」〜

 しばらく飛んでいると長い石段の上にぽつんと建った神社が見えた。あれが魔理沙が言っていた博麗神社という神社だろう。魔理沙は鳥居から神社の建物までの間の石畳に箒を着陸させた。

 

「ほい、到着」

 

「ここが博麗神社……」

 

 陽也は辺りを見回した。一見普通の神社に見える。魔理沙は神社の建物に向けて歩いて行った。無論陽也もついて行った。

 

 魔理沙は戸を勢いよく開けた。

 

「よう霊夢!ちょっと面白い人間を拾ってきたぜ!」

 

 建物の中にはちゃぶ台の上のご飯を正座しながら食べる少女がいた。服と袖が完全に分離されているという不思議な服であったが、どうやらこの神社の巫女であるらしいことは色とデザインでわかった。

 

「魔理沙ねぇ……アンタ大体来るのが急すぎるのよ。心臓に悪いわ」

 

 霊夢と呼ばれたその少女は呆れた顔をした。

 

「それはお前の有事に対する心構えが足りないからだ。現に、今は緊急事態だぜ?」

 

「緊急事態って何よ。アンタの言ってた面白い人間のこと?」

 

「そうだ。今後ろにいるこの男のことだ」

 

 陽也は軽く礼をして、

 

「あの、拝島陽也です」

 

と自己紹介をした。

 

 霊夢が陽也へと近づいてきた。

 

「……見たことのない顔ね。外来人?」

 

「ご名答。人里の人間と思わない辺り、流石博麗の巫女だな」

 

「まぁね」

 

 霊夢は一通り陽也をじっと見ると、ちゃぶ台の方へ戻って行き、再び食事を始めた。

 

「まぁ良いわ、そこ座んなさいよ」

 

 霊夢は手で陽也を招いた。魔理沙も上がろうとすると、

 

「アンタはそこで待ってなさい」

 

と制した。「ちぇー」と言って、魔理沙は膨れた。

 

 もともと食事は終わりに近かったらしく、陽也がちゃぶ台の前に正座した時には、霊夢は朝食を平らげて、食後のお茶を飲んでいた。

 

「で、あなたが……」

 

 霊夢が陽也の方を向き、話を切り出した。

 

「拝島陽也です」

 

 陽也は改めて自己紹介をした。

 

「拝島さんね。あなた、ここがどこかはわからないのよね?」

 

「ええ、まぁ」

 

 自分が昨日までいた場所の地名を言っても魔理沙はわからなかったのだ。霊夢だってわからないだろう。

 

「ここは、幻想郷という場所なの」

 

 幻想郷。聞いたことのない地名であった。

 

「あなたの住んでいた所とは地続きの、外の世界、あなたの住んでいた世界のことね、そこで忘れ去られた者たちが行き着く場所よ」

 

 なるほど、そのような場所なら、知人という知人が絶えてしまった状態で生きていた自分が迷い込むのも不思議ではなく感じられた。霊夢は話を続ける。

 

「本来なら外の世界で行き場を失った妖怪や幽霊が行き着くんだけど、時たまあなたのような普通の人間が紛れ込むのよね。私たちはそういうのを、外来人って呼んでるわ。珍し物好きの魔理沙が騒ぎ立てるのもわかるわ」

 

「珍し物好きなのは否定しないが、騒ぎ立ててはないだろ」

 

「人が食事をしてる時にノックもせずに戸を開けるのに?」

 

「うるせー」

 

 二人は軽口を叩き合っていた。言葉で表すなら、悪友という文字がピッタリな人たちだろう。ともかく、魔理沙が自分のことを指して外来人と言っていた理由がわかった。この地、幻想郷においては、自分は完全にイレギュラーな存在なのである。

 

「で、どうするんだよ」

 

 魔理沙が霊夢に問いかける。

 

「基本的にこういう場合は帰ってもらうんだけど……」

 

 陽也は震え上がった。よくよく考えれば当たり前なのだ。自分は元いた場所に帰らなければならない。だが、帰ったところで一体何になるというのだろう。誰も自分のことを知らず、孤独に生きる他無い世界で何ができると言うのか?その世界にあるのはただ空虚のみである。もう陽也の精神は耐えられなくなる寸前に来ていたのだ。また過ごすことになれば、今度は明白に自分の命を絶ってしまうだろう。戻るのはごめんであった。

 

「待ってください」

 

 陽也は口を開いた。

 

「一人は……耐えられない。あの世界じゃ、僕は一人でしかいられないんです」

 

 そして霊夢の方へ向き直り、こう言った。

 

「だから僕は、ここで新しくスタートを切りたい。元いた世界とは違う運命を辿れるように」

 

「えらい詩的ね。でも、困ったなぁ……」

 

 霊夢は苦笑し、うーんと唸って考える素振りをした。

 

 その時、どこからともなく声が聞こえてきた。

 

「その心意気を認めてあげなさい、霊夢」

 

 声のした方向を向くと、お嬢さまとでも言うような風貌をした金髪の少女が文字通り異空間から身を乗り出していた。

 

「紫……アンタってホント呼んでない時に限って出てくるんだから……」

 

 霊夢は呆れた顔をした。

 

「あら、勘がいいとでも褒めてほしいわね」

 

 紫と呼ばれたその少女は、霊夢の言葉をさらっと流す。

 

「どのみちあの外来人は外の世界で忘れ去られてたから、遅かれ早かれこっちに来たわ。それにここまで決意を固めているのに、追い返すのも野暮ではなくて?」

 

 霊夢は少し考え、

 

「まぁ、紫がそこまで言うんなら問題はないか」

 

と言って、さっきまでの様子はどこへやら、あっさりと陽也の幻想郷への残留を認めた。

 

「さて、これでお前も晴れて幻想郷の住人となったわけだ。ようこそ、幻想郷へ」

 

 魔理沙が嬉しそうに言う。

 

「ありがとうございます」

 

 陽也は礼をして、感謝した。これから新しい人生が始まる。そんなぼんやりとした希望が、彼の心の中に現れ始めていた。お礼に自分の弾くヴァイオリンを聴いてもらおうと思い立った。それが今の彼の送ることができる最高のギフトであった。

 

「それでは、お礼に一曲弾こうと思うんですが、かまいませんか?」

 

「弾く?あなた、楽器やるの?」

 

 霊夢が興味深そうに聞く。

 

「ええ。ヴァイオリンを」

 

 紫以外はヴァイオリンと聞いてキョトンとした。紫は「ほほう」とでも言うような顔をして面白そうに見ていた。どうやら幻想郷にはヴァイオリンというものが無い、もしくは珍しいらしい。どうやら、同業者に出会うのは無理そうだ。陽也は残念に思ったが、ケースから楽器を出すと、魔理沙が目を丸くして、

 

「ああ!これをヴァイオリンって言うのか!ほら、霊夢あれだよ、騒霊が持ってたやつ」

 

と言い出した。

 

「ああ、思い出したわ。これね」

 

 霊夢も納得した様子である。どうやら同業者は存在するらしい。もし会う機会があれば会ってみたいと陽也は思った。

 

 チューニングを終え、準備は整った。レパートリーの中からどれがいいかを考える。クラシックに疎い人にもウケるようなわかりやすいメロディーのものが良いだろう。そうすると超絶技巧を剥き出しにしたようなものはダメだ。弾けるには弾けるが万が一ミスをしたときが恥ずかしいというのもある。短調の曲もあまり良くないだろう。明るい曲でメロディーが分かりやすいもの。アヴェ・マリアでも良いが、今はそれ以外を弾きたい。

 

 ああ、あれがあった。久しぶりだが弾いてみよう。暗譜はできている。

 

「それでは」

 

https://youtu.be/ecM7_3rs5gU (エルガー作曲 愛の挨拶)

 

 エルガーが婦人と結婚する際に贈ったという曲で、終始ロマンチックな旋律が奏でられる。音程を取るのが難しかったりするのだが、このような曲の方が陽也にとっては覚えやすかった。幻想郷という新天地への期待、迎え入れてくれたことへの感謝、そしてこれから世話になるであろう魔理沙、霊夢、そして紫への挨拶。それらを込めて、彼はこの小品を全身全霊で弾き切った。ピアノの伴奏が無かったのが、ただ一つの悔いであった。

 

 弾いてヴァイオリンを下ろした後、部屋の中に静寂が広がった。数秒して紫が拍手を始めると、霊夢と魔理沙がハッと気づき、拍手を始めた。

 

「随分とうまく弾くじゃない」

 

 紫が微笑んでそう言った。

 

「いえいえ……自分より上手く弾く人間は掃いて捨てるほどいますとも」

 

「そんな謙遜するなよ。こりゃあ上手いってレベルのもんじゃないぜ。なんというか、上手いだとか下手だとか、そんなんもう超越しちゃってるというか……」

 

 魔理沙がそう言う。褒められること自体には陽也は慣れていたが、聴いていた人から直接褒められたということはあまり無かったので新鮮であった。また、上手い下手を超越していると、彼女は言ってくれた。それを聞くと、彼はどことなく嬉しくなった。どれくらい上手い下手で測られる世界に、彼は疲れていたのかもしれない。

 

「面白い人間が入ってきたもんだわ」

 

 霊夢はお茶を飲みながらそう言った。

 

「じゃあ人里でいい家を一つ見繕うわ。今から人里へ行くから、ついてらっしゃい」

 

 霊夢が立ち上がってそう言うと、

 

「待った!」

 

と言って魔理沙が制止した。

 

「こいつは私が拾ってきたんだ。私の家に置くっていうのが筋なんじゃないか?」

 

 陽也はびくりとした。そしてほのかに顔が赤くなるのを感じた。生まれてこの方女と二人で住んだことはない。父親の留守番で母親と家で過ごしていたことくらいがせいぜいだ。陽也の表情を見て、霊夢ははぁとため息をつき、

 

「アンタの家ってガラクタ屋敷じゃない。あんな家にもう一人住まわせる余裕があるっていうの?そりゃアンタが珍し物好きってのはわかるけど」

 

と言った。

 

「そりゃそうだ。こんな珍しい人間、捨てて置けないぜ!もう一人住む分のスペースは頑張って作る!だから頼むよ、なぁ?」

 

 魔理沙も負けじと反論した。

 

「じゃあ拝島さんに決めてもらいましょ。どうする、拝島さん?」

 

 霊夢が陽也の方を向き、聞いてきた。陽也は自分に甲斐性がないことを、そして自分が美少女と二人暮らしなんてしたら、どうなるかわからないことも知っていた。

 

「魔理沙さんには申し訳ないですが、人里で暮らそうと思います。同じような人間も、見つけてみたいですし」

 

 外の世界で天涯孤独に過ごしていた癖して、陽也は淋しがり屋であった。なんだかんだ言って、人が多い所にいた方が、人と接する機会も出てくるだろう。そう思ってこの選択をした。

 

「ちぇー……まぁお前がそう言うなら仕方ないか」

 

 魔理沙は不満そうである。見かねて陽也が魔理沙に話しかけた。

 

「……その代わりにと言ってはなんですけど、僕の住むところが決まったら、いつでもいらしてください。僕も一人だけで過ごしているのは淋しいので」

 

 陽也がそう言うと、魔理沙は目を輝かせて、

 

「おう、そうさせてもらうぜ!」

 

と調子良く言った。どうやらさっきの不機嫌は吹っ飛んだようである。

 

「それじゃあ、拝島さん、ついてきて。あ、魔理沙は境内の掃除やっといて」

 

「やるわけないだろ。お前らについていくさ」

 

「はいはい」

 

 霊夢と魔理沙が再び軽口を叩き合った。案外面白いところに来たなと、陽也は思っていた。

 

 それは途中で気づかれずに消えたスキマ妖怪も同様である。

 

「色々と楽しいことになりそうね」

 

 紫は誰にも聞こえぬよう呟いた。




愛の挨拶はいいぞ。
調べてみる中で、エルガー夫妻が結構な歳の差のカップルだったことに驚いたり。
ちなみにキャラの口調を考える時には基本的にZUN絵で会話させてます。alphes絵だったりもするけど。
さて陽也君はこれからどんな人や妖怪や何やらに出会って、どんな物語を紡いでいくのでしょうか。

ではまた次回で。
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