転生した世界で鬼の末裔が生きていくもん   作:あまてら

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無限列車の車窓から

 

 

 

 

 前世のわたしが最後に観た映画って、無限列車編だったんじゃないかなぁ。

 

 春です。桜の季節です。

 鬼滅主人公って今何やってる頃なんだろって思うこの頃。任務終わり、たまたまそよ婆の家から近かったので久しぶりに顔見せで寄ってみました。

 

「お久しぶりですお師匠様っ。近くなんで寄っちゃいました」

 

 玄関先で薄汚れたわたしが笑顔を見せていると、そよ婆は呆れた表情で奥へ引っ込んだ。戸は閉められなかったということは入っても良いってことよね。

 

「……で、何しに来たんだい?」

「用は特にありませんよ。お師匠様に会いに来ただけですから」

 

 そよ婆は小さく息を漏らすと、『ナツお前、常中はどうした?』って訊かれる。ひぃ。

 

「えー、あ、つい忘れちゃいました! しますっはい」

 

 慌てて常中モードに切り替えると、『弛んでる』って睨まれた。

 

「任務で生き残れてるのは良いとして、日頃の鍛錬を怠ってやしないかい?」

 

 するどい。チート能力持ちってわかっちゃってから、なんか『イケる』って調子乗ってサボり気味になってんの直ぐバレちゃったな。

 

「アタシは調子乗らせる為にお前の育手を引き受けたんじゃないよ。鬼狩りを舐めるな」

「はい……。すみませんお師匠様」

 

 しょぼんってして反省顔。顔だけじゃないよ、中も反省したよ!

 

「お前のこの先が心配だね」

 

 お母さんに言われた事をそよ婆にも言われて胸がグッてなった。

 

「安心して下さいお師匠様! わたし無茶な事はしてませんので!」

「鬼狩りになったんだから無茶は承知しときな!」

「えー!」

 

 そよ婆はまた溜め息を吐く。

 

「お前に友は?」

「い、いるかも!」

「いないね」

「ぐぅっ!」

「信頼出来る人間……もいない」

「ぐううっ!」

 

 何さっきから心抉られるんだけど。そしてそよ婆めちゃくちゃジト目ぇ。

 

「お前は近くに叱ってくれる人もいないのかい」

「わたしにはお師匠様がいるじゃないですか」

「いつまでもアタシに頼るんじゃない。他に見つけな」

「わたしを叱ってくれる人なんてお師匠様くらいですよ。褒めて(美を)くれる人ばかりですから。だから今後もお願いしますね!」

「ああァ? 随分と生意気な事言うようになったもんだねぇ。ここに来たばかりの時はぴーぴー直ぐ泣いて怯えてただけだったのに」

 

 わたしだって多少は成長するんです。もう17なんでって若干得意げに返したらデコピンもらった。いたー。

 

「もう充分だろ。暗くなる前にさっさと出て行くんだね」

「ご飯無いんですか?」

「無い!」

「えーー」

 

 額を押さえたままわたしは口を尖らせた。マジでそよ婆冷たいなぁ。

 

「じゃあまた来ますね!」

「もう来なくて良いよ」

「絶対来ますね! 次はお師匠様のご飯食べに来ます!」

 

 そよ婆は台所に立ってわたしに背を向けて返事もしてくれなかった。

 何よーって思ってそよ婆宅を出ようとしたら、そよ婆が咳をしてた。

 

「大丈夫ですか?」

 

 気になって振り向いたわたしが問いかけてみるけど、そよ婆は背中を向けたまま『久しぶりに風邪ひいちまっただけさ』って言う。そういえばそよ婆が咳したのって見た事ないし。

 

「あ、あの」

 

 今までそよ婆に黙っていた血の能力を打ち明けようと思いついた。今な予感がしたから。わたしの血を飲んでくれたら風邪なんて一発よ。

 

「出て行きな。此処にはもうお前の居場所は無いよ」

 

 冷たい言葉だけど、いつもの怒鳴る声じゃない。静かに返して来た。拍子抜けってやつ。

 

「お師匠様わたし──」

「いいから出てお行き!!」

 

 くわっとこっちに顔を向けたそよ婆の鬼顔は毎度お馴染みだった。

 ひぇ。わたしは条件反射の様にして慌てて外へ出る。したらぴしゃりと戸が閉められました。わたしの打ち明けお流れ。まあ、告げたところで信じてもらえるかわからなかったけどね。つーか血飲ませるとか正気の沙汰じゃないわな。

 

「……お師匠様、手紙書きますね。それじゃあわたし行きます。お身体お大事下さい」

 

 返事は無くてわたしはマジしょんぼり感。仕方なく道中、そよ婆の咳する姿を気にしながら宿へと向かうしかなかった。

 それから一週間後にお元気ですか手紙連発したら、『元気だから同じ手紙何度も送るんじゃない』ってお怒り返って来て少しだけ色々と安堵しました。

 

 桜散って初夏。強敵過ぎる鬼に遭遇する事なく、日々を任務で過ごしていたある日だった。

 

「ナツ! 任務ヨ! 西南方向、鬼ニヨル複数ノ被害アリ! 無限列車へ乗車シナサイ!」

 

 昼ご飯食べ終わって次は甘味処へ行こかなって時、飛んで来た弁天ちゃんからの伝令内容に目が点になった。

 

 え、え、え。待って待って。今【無限列車】って言ったよね?

 

 聞き間違いじゃないよねって弁天ちゃんにもう一回訊いたら『チャント聞イテナサイ! 無限列車ヨ!』って怒られた。ガチか。

 こういうのはもしかしたらわたしの知らない裏で行われてるんだろうなって思ってた。だって現に鬼滅主人公とは一度も会った事なかったし。

 まさかあの『無限列車編』の任務へ行けるなんて。って感動もありつつ、炎柱こと煉獄杏寿郎という人物が、上弦の鬼によって命を落とすという悲しい結末が控えてるのかと過って胸が痛んだ。

 先を知ってる任務って最悪よね。よくある救済しよって一瞬考えてみたけど、実際それが出来るのかわからない。イレギュラーだもん、わたし。

 行って何か変わるのかさえもわかんないけど、任務だから。先ずは無限列車を目指そう。わたしは弁天ちゃんの案内で西南方向へ走った。

 

「左曲ガッタ先ヨ!」

「ありがとう弁天ちゃん!」

 

 駅に着いた頃には夕暮れだった。道案内してくれた弁天ちゃんにお礼を言ったわたしは、駅前で立ち止まって辺りを見渡した。割りと大きな駅だ。

 此処に無限列車が……。

 心臓がドキドキする。汽車に乗るのは二回目だな。初めての時はわからなくてめちゃくちゃパニクった思い出。さて切符買おう。って駅員のいる窓口へ行く。刀は自作した専用の収納袋に仕舞ってる。無くしても良いように何種類かストックあるよ。因みに鬼殺隊は政府公認じゃないから、刀持ってたら警察か憲兵来ちゃう。

 

「よし」

 

 買った切符に記入されてる文字の【東京夢限】で少しテンション上がる。で、停車中の無限列車が目に入って更に興奮した。

 わあ、聖地巡礼来たみたい。もう作品のファンなら涎もの。プレートに【無限】って実物見て『本物だ』ってつい呟いちゃったわ。

 ホームには勿論人もいて、無限列車へ乗車する人が沢山さんいたり、弁当売ってる女の子いたりした。

 お弁当買おうかな。夕ご飯まだだし。って思って声をかける。

 

「すみませんー。そのお弁当一つ下さい」

「はい! 上等弁当36銭です」

「後、お茶も」

「はい!」

 

 お金を渡して駅弁ゲット。牛鍋辨當って書いてる。弁当って字難よね。そよ婆に合間に字習ってて良かったぁ。

 ん、これもしかして炎柱が食べてたやつかも。さっさと乗車して食べたいなって思いながら、近かった最後尾出入り口に片足を乗せた時、真ん中辺りでドーンってぶつかったみたいな音がした。

 その際に『猪突猛進』って聴こえた気がしたけど、多分気のせいだろう。わたしは早くお弁当食べたくて急いで乗車した。

 

「いただきます」

 

 窓側の席に座って駅弁夕ご飯。蓋を開ければ美味しそうな匂いがして堪らず喉がなった。さて一口目。

 嗚呼、美味でございます。何この味噌と醤油と砂糖と酒の絶妙な塩梅は。しみしみの葱と柔らかい牛肉。幸せ〜。美味しさを噛み締めながら一口、二口食べた時、出発を知らせる汽笛が鳴った。

 む、やっと出発か。外はいつの間にやら闇に染まっていた。

 

「ごちそうさまでした」

 

 食べ終わってお茶の入った汽車土瓶で流し飲む。

 はぁー、食べた食べた。満足満足。

 ゴミや汽車土瓶は座席の下に置いて、何となく窓の外へ目を向けて見た。外は真っ暗、ガラス窓には自分が反射して映ってる。──暫くずっと物思いに沈んだ。

 このまま何も起こらなかったら、ただわたしが無限列車の旅を駅弁食べて楽しんだだけになるな。

 なら平和じゃん。

 

「切符、拝見致します……」

 

 そうはいかないのかやっぱ。一気に嫌な気分になる。車掌さんが切符を確認しに来たからだ。

 

「はい」

 

 窓へ顔を向けたまま切符を渡せば、車掌さんはそれを受け取りパチンパチンって切り込み入れてた。

 

「拝見致しました……」

 

 わたしはチェックされた切符を会釈して受け取り、先頭車両方向へ歩いて行く辛気臭い車掌さんを横目で追った。

 確かあの車掌さんが皆んなを眠りの世界へ誘ってたよね。鬼に従って。

 わたしは警戒した。鬼の血鬼術を。今度こそかかっちゃうかも。眠っちゃうかも。で、どんな夢見せられるんだろうかって。

 

「…………」

 

 あ、なんか眠気来たわ。段々うつろうつろしちゃいまして、すぅって眠りに落ちました。

 

「……んがっ」

 

 あっぶなー。涎出てた。お腹膨れて普通に眠気来て寝ちゃいましたわ。どのくらい寝てたんだろ。わたしは慌てて席を立った。周りを見れば最後尾の他の乗客は皆んな眠ってる。きっと今頃、鬼滅主人公たちや炎柱も眠らされてるのかも。

 

「てか、起きてるよね、わたし?」

 

 この今の状況、血鬼術で夢見せられてるのかと疑った。確認しようがない。でも夢は幸せなやつ見せるんだっけ? 

 でも全然夢見てないし。多分、ううん、絶対かかってないや。

 

 勘です。

 

 ていうかわたし、鬼殺隊だけど忘れられてないよね? 最後尾にいるからって。主人公たちみたいに縄付けた相手とかも居ないし。僅かに不安になりました。

 確認しに行こうって思った。寝てたら起こしてあげるとかさぁ。

 あー、えーと先ずは。収納袋に入れてた刀を取り出して鞘から刀身を出す。もうこの汽車って鬼と融合してんだったかな。

 

「ヒュゥゥゥゥ」

 

 全集中。したと同時、車両の天井やら床らやからがなんか染み出たっていうか、粘膜の様なキモイものに覆われた。

 

「え、キモっ!」

 

 こうなったという事は、主人公起きて鬼と戦ってるんだ。それがわかってちょいホッとした。でも同時に油断出来ない。ミミズみたいな腸みたいなのが数本出て来て、眠っている乗客に襲い掛かろうとしてるからだ。

 

「水の呼吸 壱ノ型 水面斬り!」

 

 斬る、斬る、兎に角斬る。でも全然終わらない。イタチごっこ。

 

「しつこい!」

 

 前車両の方から微かにピリっとした音がした。皆んなこれとやりあってんのね。

 そうだわたしの血。ふと冷静になる。チート血を此処でキモ粘膜にかけたらイケるでしょって思いつく。よし、そうしよってしたら轟音して車両全体が波打った。

 

「わっ!」

 

 揺れの衝撃が来てわたしは後方に転げた。後尾扉に頭ぶつけたけど、ばいーんってなって痛くはなかった。今のは炎柱だな。

 その場で起き上がり、再度技でキモミミズを斬ったわたしは、爪を立てて左手を力一杯握り締めた。

 

「……ッ」

 

 痛い。立てた爪が掌に突き刺さって血が滲み出る。よし、ってなってぶよぶよ床に数滴垂らし始めた時、熱い炎と共に彼が最後尾に現れた。

 

「──あ」

 

 炎柱と目が重なる。わたしたちは数秒見つめ合った。きっと炎柱は心の中で思ったに違いない。『もう一人隊士おったんかーい』って。

 わたしの血がぶよ床に滴り落ちて直ぐだったと思う。耳を劈くような鬼の悲鳴と、汽車が生き物みたいにうねって激しく横転したのは。

 下弦の鬼にも血が効いたのか、もしくは主人公が頸斬ったのかな。気付いたら地面の上に寝っ転がってた。ぶよぶよのお陰もあってか怪我は無い。髪を留めてた紐が切れたらしく、わたしの長い髪がさらりと解けた。

 乗っていた車両は派手に脱線してバラバラに倒れてる。

 

「だ、大丈夫ですか?」

 

 車両から飛ばされて出た人、怪我をしてる人が目に入ってわたしは駆け寄った。

 

「う、うう……」

 

 軽症の人が多い。安堵していると、近くで『大事ないか? しっかり!』って炎柱の声が聴こえた。ああ、煉獄さんも無事か良かったってなる。

 

「キミ! 此処へ来て手伝ってくれないか?」

「は、はい!」

 

 炎柱も気付いたらしく、外れた車両扉の下敷きになってる人の救出にわたしを呼んだ。

 

「俺が持ち上げるから、キミは彼を引っ張り出してくれ」

「はい!」

 

 炎柱が扉を持ち上げ、わたしは下敷きになってた人を引っ張り出した。

 

「怪我は?」

「左足が痛いです」

 

 この人もそこまでの大怪我じゃなさそうで良かった。

 

「俺は向こうを見てくる。キミはこの人達を頼む」

 

 此処にいた乗客の状態を確認して無事だと知るや否や、炎柱は先頭車両側へと走ってった。うん、的確判断。

 

「皆さんこちらへ! 直ぐに救援が来ますから安心してください!」

 

 数十名の乗客を危なくない場所へと誘導していたわたしは、この時完全に気が抜けていたというか忘れてたというか、もう直ぐやって来る上弦の鬼の事など隅にも無かった。

 

「オイ! しっかりしろ! 起きやがれ!」

 

 線路の上で斜めに倒れかかってる車両の横に何かの生き物、被り物した人を見つけた。

 ん。あれは、猪頭の子じゃん。地面に倒れているのは黄色い頭の子と主人公妹だ。うわー、主要メンバーだ。わたしは彼等のもとへ向かった。

 

「大丈夫?」

 

 わたしが来ると猪頭の子が『お前ぇダレだよ!』って言って来たから、『同じ鬼殺隊の八重野』って答えた。

 

「君たちも任務で乗ってたんでしょ? わたしも一緒の任務。最後尾にいたの」

 

 気絶してる黄色頭の子の顔に近づいて耳を澄ませてみたら息を感じた。頭を打ってるけど、今は気絶してるみたい。主人公妹は眠ってるのかな。

 

「コイツ死んだのか?」

「死んでないよ生きてる。頭打ってるからあまり動かさない方が良いかもしれないけど、危ないからこっちへ連れて行ってあげましょう」

 

 転がってきたら危ないからって事でわたしと猪頭の子は、黄色い頭の子と主人公妹を完全に倒れてる、もう何両目かもわかんない車両を壁にして、二人の背中を持たれさせた。

 

「君は、怪我は?」

「何ともねぇ! 俺よりも三太郎が!」

「三太郎?」

「三太郎は三太郎だ!」

 

 三太郎なんていたっけってなる。

 

「アイツ腹刺されて────」

 

 猪頭の子から三太郎の説明を受けている時だった。

 猪頭の子が指差す、三太郎がいる方向。ドォンという地面を揺るがした音と共に、何かがやって来たのだ。

 

 上弦の鬼、猗窩座が現れた。

 

 

 

 

 

 

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