ああ、来ちゃった上弦が。ガチでマジで。
わたしと猪頭の子は向かった。三太郎のもとへ。多分鬼滅主人公の事だ。
きっと今猗窩座が『鬼にならないか』って誘って、炎柱が名台詞言ってると思う。ちょい、うん、生で聞きたかったなぁ。
着いたら丁度猗窩座が術式展開してた。炎柱も技で応戦、目で追えないくらい迫力あった。二人のぶつかり合いは地面を揺らし、炎に舞っている。
あれが上弦、あれが柱。初めて目の当たりにしてわかる圧倒的な強さにわたしは全身が震えた。
特に鬼は今までの雑魚鬼と違って、明らかな強さを肌で感じる。
「動くな! 傷が開いたら致命傷になるぞ! 待機命令!!」
炎柱が向けて行ったのは、主人公へだ。
「弱者に構うな杏寿郎! 全力を出せ、俺に集中しろ!」
猗窩座の攻撃が炎柱に当たる。それを受けて飛ばされるけど、堪えて猗窩座へと向かう。
わたし、ううん。わたしたちは動けなかった。炎柱に助太刀しようにも、二人の間に入る隙がなかったからだ。入ったって邪魔になるだけ。てかそもそもわたしは、チート血使わなきゃ主人公や猪頭の子と違って戦力外。
「あ!」
主人公が声を出した。炎柱の左目に猗窩座の攻撃がヒットしてしまったのが見えたから。出血してる。きっと潰れてしまったに違いない。
「破壊殺 乱式!!」
「炎の呼吸 五ノ型 炎虎!!」
猗窩座による近距離乱舞技が放たれ、炎柱は刀を大きく振るった。まるで炎の虎みたいなエフェクト。技と技がぶつかる。
凄い。息を呑む。炎柱は次々と技を繰り出すけど、それでも猗窩座は強かった。
「そんな……」
隣で主人公が悲痛に呟く。炎柱の身体は限界だった。左目は潰され、肋骨は砕け、内臓は傷つけられている。肩でしてる息は荒かった。
「生身を削る思いで戦ったとしても無駄なんだよ杏寿郎」
猗窩座は物悲しく言う、『人は脆い』と。
「鬼であれば瞬きする間に治る」
何故かわたしの胸が痛んだ。
「どう足掻いても人では鬼に勝てない」
ああ、このままじゃ。
「俺は俺の責務を全うする! ここにいる者は、誰も死なせない!!」
炎柱のビリビリとした気迫、その身は熱く炎に包まれた。
「素晴らしい闘気! やはりお前は鬼になれ杏寿郎! 俺と永遠に戦い続けよう!」
動けない。どうしよう、どうしよう、どうしたら。何して良いかわからない。実際目の当たりにしちゃったら何にも出来ない。
わたしは本当にわからなくて頭の中がパニックを起こしてた。このまま見てたら映画と同じ。炎柱は死ぬ。
救済? 出来る? どうやって入る? 無理じゃない? わたしが入る隙絶対的に無くない?
おかしいでしょそんな流れ。煉獄さん死んで主人公たち悲しんで、そっからさ、そっからさ……。もしかしたら立ち上がってさ。
でもここで勇気振り絞ってお節介しても助けに動いたら変わる? 変われる? 生かしたら『無粋な事しやがって』って怒られる? それか主人公を問答無用で全回復させてみんなで特攻する? いや説明も無しに気持ち悪いって飲むの拒否られるわ。ねえ、誰か、誰か。わかんない、わかんない、わかんない。ああああああああああ。
「術式展開 破壊殺────」
「炎の呼吸 奥義────」
わたしがパニックに陥ってる間に、柱と上弦は技をぶつけ合った。
「滅式!」
「玖ノ型 煉獄!!」
大きな爆弾が落とされたみたいな衝撃波が来て目を瞑った。土煙りで姿が見えない。目を凝らしてやっと見えたと思ったら、猗窩座の右腕が炎柱の身体を貫いてた。
「死んでしまうぞ杏寿郎! 鬼に、鬼になると言え!」
脚がガクガクって震えてきた。恐いねマジで。あー、猗窩座が言ってる『お前は選ばれし強き者』っつーて。
「ハハ……、同じだ」
流れがもう一緒過ぎて逆に笑けるし唇まで恐怖で震えてきた。
「オオオオオオオーーー!!!!」
炎柱が最後の力を振り絞って猗窩座の頸に刀身を振った。そしてやっと気づいた陽光にびびって猗窩座が焦りを感じてからの流れが来るはずなんだけど、外は思っていたよりも若干まだ暗くて、原作や映画よりも夜明けが遅い様に感じた。僅かに東から陽の光が見えるか見えないかしてる。だから猗窩座がまだ焦ってない。
「まだ諦めないのか? 惜しい、惜しいぞ!!」
猗窩座はもう片方の手で炎柱にストレート決めようとしたけど、炎柱はその猗窩座の拳を自分の左手で押さえて止めてた。
もう立ってるのがやっとなのに、絶対頸を落とす迄は諦めない。その強い思いがこっちまで伝わってきて涙が流れ出る。
「炎柱が……、煉獄さんが死んじゃう」
わたしが泣きながら言ったら主人公が『煉獄さん!』って叫んだ。
『いずれその能力を外の人に使う時が来るかもしれない。その時助けられる命が直ぐ側にあるのなら、迷ったりしちゃ駄目』
お母さんの言葉が過った。
そうだけどもさぁ。ってまだ迷ってたら右目に激痛走る。痛い。そして悲しくて胸が痛い。
「動け伊之助ーーーー! 煉獄さんの為に!!」
主人公と猪頭の子が走った。あ、怒られてもいい覚悟でだ。
「動けえええぇーー!!」
猗窩座に斬りかかろうとした二人はあっという間に蹴り飛ばされた。何が何でも離さないと押さえ込んでいた炎柱から、猗窩座が蜥蜴の尻尾切りみたいに自ら両腕を切り離して瞬時にムーンソルトしたからだ。
「弱い者が出しゃばるな!!」
あれ、なんかちょっと違う。主人公と猪頭の子は地面に倒れて苦しんでるし、炎柱も仰向けに倒れている。
知らない。何これ。
炎柱の折れた刀身の半分を頸元に刺したまま、猗窩座が横たわる三人からわたしへ目を向けた。涙は引っ込んだし、目の痛みも無くなった。
ちょっと待って聞いてないんですけど。
震える手で刀の鞘を抜いて構える。猗窩座は直ぐに再生させた手で頸の刀身を抜き捨て、わたしへ歩み寄ろうとした。恐い……!
「ぐ……っ」
主人公が呼吸を整え、身体を蹌踉めかせて起き上がり、再度攻撃をしかけようと猗窩座の背を狙い定める。
「ああ、こんな時にくそがッ」
やっと射してきた陽の光に気づいた猗窩座は苛立ちと焦りの顔をし、太陽とは反対方向の森林の中へ走り去った。
「逃げるなぁああああ!!」
さっきの意味わかんなかったけど、そこからは一緒だった。主人公が自分の刀を投げ刺したシーン。そして聞くのも辛い台詞を叫ぶんだ。
「ギョロギョロ目ん玉ァ!」
猪頭の子の声で我に返る。ああそうだ煉獄さんが。わたしは震えながら炎柱へ走り寄った。猗窩座の残した右腕がまだ急所に刺さったまま、炎柱は仰向けになって虫の息だった。
「しっかりしろ!!」
炎柱のそばで猪頭の子が身体を震わしてる。主人公は猗窩座が去って行った方向で膝を付きながら大声で泣いていた。
死んじゃう。
わたしは死にかけの炎柱を間近で見てその場で崩れ落ちた。陽は上がり始め、完全な朝になろうとしている。
迷ったから。迷ってしまったから。迷わなければ助けられたかもしれないのに。
「ううっ、うう!」
止まってた涙が再度溢れ出た。何で悩んだりなんかしちゃったんだろわたし。
「ご、ごめんなさい……っ」
わたしが泣いて謝ると、炎柱は虚な片方の眼でわたしを見た。ひゅーひゅーというか細い呼吸だけで、彼が喋る気力さえないのがわかる。
夜じゃなければ血の回復なんて無理だ。地面に額を押し付けてわたしは泣いた。
『────ナツ』
ヒメミコさまの声がして顔を上げたら、目の前で不思議な事が起こった。わたしから溢れ出た涙が硬い砂利土の地面へと落ち、そこから百合の花が一輪咲いたのだ。
ヒメミコさま。わたし。
わたしは何かに取り憑かれてしまったかの様に、炎柱に顔を近づけて目を合わせる。
「炎柱──いいえ、煉獄杏寿郎。あなたは生きたいですか?」
「お前ぇ急に何言って!」
猪頭の子がわたしを変に思って止めようとするけど、わたしはそれを無視をした。だってもう時間が無いから。
「あなたの答えを聞く前にわたしが今からする事、あなたを生かす事、どうか許して下さい」
本来なら答えを聞いてからそうするべきだったかもしれないけど、待ってはいられないから。わたしは自分の唇を深く噛み切り、その出血した口で炎柱の口を塞いだ。手首噛みちぎって口へ流しても良かったけど、慌てて大量に入れて詰まって吐き出されても困るし、ていうか血を与えるのがそもそも異常。
「ぐっ……!」
喉が動いて暫くすると、虫の息で動けなかった炎柱が目を見開いて心臓を押さえる。わたしはやっと彼から唇を離した。刺さっていた腕は朝日と共に消え落ちて穴が開いていたけど、徐々にその穴が閉じられていく。
もしかして、治ってる?
「炎柱!」
わたしは炎柱に声をかけた。
「ぎょ、ギョロギョロ目ん玉アァ! おいモン次郎! 来いよ!」
唖然としていた猪頭の子は、慌てて主人公を呼んだ。
「れ、煉獄さん!」
必死で駆けようとして脚がもつれそうになる主人公は、大粒の涙を流しながらこっちへ走って来る。そして穴が完全に閉じられると同時、炎柱は瞼を少しずつ閉じていった。
「煉獄さん!!」
「オイ! 死ぬな! 死ぬんじゃねええ!」
二人が炎柱に縋り付いて身体を揺らしたので急いで止める。
「ま、待って」
さっきまであんな弱々しかったのに。炎柱の呼吸はゆっくりと正常取り戻し、安らかな表情ですうすうと寝息を立て始めてた。
ああ、やった。良かった間に合った。
「生きてる。炎柱、生きてるよぉ……!」
張り詰めてた緊張の糸が切れる。わたしが喜びの涙流してたら、二人が大泣きで炎柱に抱きついた。
「うあああああ! 煉獄さあぁぁん! 良かったぁ、うええっ! 生きてるうううわあああん! 煉獄さああああ……っ」
「ギョロギョロオオオオオオオ、目ん玉ァっ、オオオオオオオン!!」
三人で炎柱を囲んで大泣きしてたら、到着した隠の人たちと包帯された黄色頭の子が急いで走って来た。
「う、嘘だろ? ……炎柱死んじゃったの?」
わたしたちがあまりにも大泣きしてるもんだからてっきりそうだと勘違いした黄色頭の子は、唖然茫然となって主人公が背負ってた箱をゆっくりと地面へ置いて項垂れた。
「違う、違うよ善逸っ。煉獄さん、生きてる! 生きてるんだ!」
「え! 生きてんの?」
「ウオオンっ、オイ! 早く、お前ら早くなんとかしやがれ!」
「え! 伊之助ガチ泣きしてる」
「五月蝿え泣いてねぇえ!!」
「いや猪の被りもんから尋常じゃないくらいの涙染み出してんじゃん」
炎柱は生きてるけど、まだ完全に治ったわけじゃない。時間的にもわたしの血は足りなかったし、死に至る致命傷だけはなんとかなっただけだ。
「すみません、お願いします」
炎柱の状況に隠の人たちも焦りの表情で現れ、迅速に対応して担架で彼を運び出した。
隠によって運ばれて行く炎柱を見送り、地面に生えた一輪の百合の花に手を合わせて目を瞑る。
ありがとうございます、ヒメミコさま。
「誰この超絶美少女は!」
「え、俺は知らないなぁ。伊之助は知ってる?」
「あ? 俺だってよく知らねーぞ!」
百合の花に手を合わせてから三人へと顔を向けると、特に黄色い頭の子は頬を真っ赤に染めてわたしを見つめていた。
「は、初めまして! わたしは八重野ナツです」
ちょっとだけ緊張した。だって、やっとこの三人とまともに対面出来たんだもん。
怒涛だった今までの流れから突然だけどね。
「初めまして! 俺は竈門炭治郎といいます!」
「お、俺は我妻善逸です!」
「俺は嘴平伊之助様だ! オイお前! さっきのは何だ!」
猪頭の子、嘴平くんがビシッとわたしに指を指す。『さっきの』とは、多分炎柱を助けた時のわたしの行動の事だと思う。彼だけがあれを見たからだ。
「おい伊之助、急にどうしたんだよ?」
「そうだぞ! お前だなんて八重野さんに失礼じゃないか!」
「俺様は見たぞ! お前何で自分の口でギョロギョロ目ん玉の口を塞いだんだ!」
「え!?」
黄色頭の我妻くんがそれを聞いてわたしを凝視した。一方で主人公の竈門くんはというと、その意味がよくわかってなかったのか『それが一体どうしたんだ?』って嘴平くんを不思議に思ってる。
わたしはめちゃくちゃ気不味くなった。
「あの、それはね──」
何て言ったら理解してくれるのかな。彼等三人にわたしの血の事を説明してあげようとしたら、タイミング良いのか悪いのか、カァカァ鳴いて弁天ちゃんがわたしの肩に降りて来た。
「ナツ、オ館様ガ御呼ビヨ! 至急、急ギナサイ!」
お館様がわたしを。呼ばれた理由はわたしの血の事か。それとも別の事か。女性の隠がわたしのもとへ走って頭を下げる。
「八重野……芍薬の君、今から私がおぶってお連れします!」
いやもうツッコまない。わたしは隠に目隠しをされ、彼女におぶさった。
「オイ! 教えろ百合女!」
なんつー呼称よ。
「ごめん! 説明はまた会えたら言うね!」
次はいつ会えるかわからないけど。わたしは隠におんぶされたまま、彼等がいるであろう方向に大きく手を振った。
────あ。
これからの説明なんてしよって考えながら、物凄く肝心な事を思い出しました。
悲報。わたし、鬼滅の刃を無限列車編までしか知りません。