転生した世界で鬼の末裔が生きていくもん   作:あまてら

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遊郭潜入

 

 

 

 

 遊郭とは何するとこぞや。此処で説明しなくても様々なところで語られているでしょう色蠢く世界である。

 

「ふざけてんだろ、お前ら」

 

 仲介業者に扮したであろう自称地味めな姿の音柱が、わたしたちの顔を見て口元引き攣りお怒りモード。

 水白粉で真っ白にした顔、眉墨で麻呂眉、ついでに睫毛も細筆バッサー描いて、分厚過ぎんだろ言うくらいに口紅を塗り、頬紅を丸くしたおかめの最強版。あ、わたしだけソバカス追加してます。

 

「え! ふざけてません! 俺たち真剣です!」

 

 竈門くんが自信たっぷりに言う。

 

「竈門くんの言うとおりふざけてませんよ。わたしたち化粧が得意ではないので。そうそう、あのおかめを参考にしました。それに極力目立たないようにって手紙にありましたから。素だとわたし、目立っちゃいます」

 

 雑な三つ編みを右の指でクルクルしながらのビックスマイルでおかめの面を指差すわたしに、音柱の眉がピキピキって攣ってる。ふふふ。自分が超絶美少女ってわかってるから言える台詞だ。音柱は歯を食いしばって『ある意味余計目立つわ』ってツッコミしてきた。

 

「オイおっさん、いつまでこの服着るんだ? 怠ぃぞ!」

「誰がおっさんだ!」

 

 いつも上半身裸の嘴平くんが胸元パタパタしながら催促したら、音柱は頭を抱えて怒りをなんとか抑えてました。

 

「ああクソ。お前らに腹立ってる時間が勿体無ぇわ」

 

 仕方ない。音柱は怒るのを諦めたらしく、わたしたちはこの頓痴気な変装で遊郭へ出向く事になった。

 遊郭までの道程、音柱がわたしたちに遊郭で過ごす間の注意事項とか吉原遊郭の予習復習みたいなのとか、個々にこうしろあーしろみたいな事言ってた。男の子三人には女の子の名前が付けられて、竈門くんが炭子、嘴平くんが猪子、我妻くんが善子。わたしは変わらずナツのままだった。

 

「あれが吉原遊郭だ」

 

 音柱が言う先、遊郭の出入り口である吉原大門が見えてきたじゃないの。

 鉄製の門の上に架けられたアーチには、桜の花の形をしたカバーがつけられた15灯の電球があって、中央には竜宮の乙姫が玉を捧げた装飾も施されてた。

 なんか遊園地の入り口みたい。って一瞬思ってしまった前世脳。因みにこの吉原は周囲を溝や塀で囲んでて、出入口はこの大門だけなんだって。

 その門をくぐって驚いたのはさ、人の多さと煌々とした灯りよ。今世では初めてこんな明るい場所見たわ。

 

「昼みたいに明るい」

 

 竈門くんがキョロキョロしながら言った。確かに確かに。

 

「立ち止まるな歩け」

 

 口をあんぐりとさせて立ち止まってたわたしたちに音柱が声をかける。マジで異世界過ぎて圧倒だね。

 

「先ずはこの店からな」

 

 つーて音柱が最初に入った店は"ときと屋"だ。

 

「いやぁ、こりゃまた不細工な子たちだね」

 

 ときと屋の女将がわたしたちを見てめちゃくちゃ顔引き攣ってるわ。

 

「ちょっとうちにはこの間新しい子が入ったばっかりで……」

「まあ、一人くらいなら良いよ」

 

 女将さんの隣にいた旦那さんが断わろうとしてだけど、女将さん、音柱見つめて頬染めてokした。見た目は物凄く男前よねー。中身はアレだけど。

 って事で、ときと屋が選んだのは竈門くんでした。頑張ってね!

 

「……ったくお前ら不細工過ぎんだろ。二束三文でしか売れねーじゃねーか」

 

 聞こえるくらいのデカい舌打ちする音柱に笑みで返すわたしと、完全無視を決める我妻くん、話聞いてないキョロキョロする嘴平くん。そんなわたしたちに音柱はまた舌打ちをした。

 

「オイ! なんかあの辺、人間がうじゃこら集まってんぞ!」

 

 突然、嘴平くんが興奮気味に走り出した。確かに人集りでざわざわしてる。

 

「ありゃ"花魁道中"だな」

 

 音柱が教えてくれた。さっき竈門くんが行った、ときと屋の鯉夏花魁だそうだ。一番位の高い遊女が客を迎えに行ってるんだって。凄い華やか。

 

「嫁? もしや嫁ですか!?」

 

 沈黙してた我妻くんが急に泣きながら音柱に掴みかかってぎゃーぎゃー言い出して、『嫁じゃねーよ』って音柱に殴られてた。

 

「ちょいと旦那」

 

 狐目の中年女性が、さっき一人で走って行った嘴平くんと一緒にやって来て音柱に声をかける。どうやら嘴平くんを引き取りたいって話だった。

 

「これはこれは、荻本屋さんではないですか。その娘をご所望とは……」

「アタシは荻本屋の遣手でござんすよ。この目に狂いはないんでねぇ」

「そりゃあありがたい!」

 

 そして嘴平くんは荻本屋へと売られて行きました。猪子ちゃんも頑張って!

 

「オイコラ。目を逸らすな!」

 

 ジト目の音柱から目を逸らしたら首根っこ掴まれた。我妻くんも。

 

「残りは京極屋しかねぇんだぞコラ。笑顔振りまいて買ってもらえるようにしろや。特にナツ、お前はな!」

 

 男前スマイルで怒る音柱に引きずられて着いた京極屋でも、わたしたちの不細工加減に楼主の旦那さんは固まってた。

 

「いやぁ、コイツら便所掃除でも何でもやりますんで貰ってくださいよ。いっそタダでも良いんで」

 

 結果から言うと、わたしたちは二人とも京極屋に貰われる事になりました。音柱が京極屋の遣手婆に色目使いまくったんです。タダ同然です。

 貰われるって決まって音柱が京極屋からの去り際、目で『お待らちゃんと任務な』って威圧してから去って行った。

 

「アンタたち! 早くしな!」

 

 遣手婆に奥へ連れられ、京極屋の中をあらかた説明された後、わたしたちは二手に分けられた。『得意な事は何かあるのかい』って初めに訊かれて、我妻くんは耳が良いって事で三味線をお姉さん方と習うんだってー。

 わたしはというと、すっごい不細工化粧を先ず落とせって言われて焦った。だから落としながら徐々に顎をしゃくらせ、完全しゃくれ顎にして見せた。しゃくっとけば別人に見えるらしいって前世で誰かが言ってたっけ。

 

「惜しい……んだよねえ、お前。折角期待したのに」

「へい……」

 

 顎しゃくれのせいでって残念がってた。年齢訊かれたから瞬時に頭切り替えて『14歳』ってサバ読む。ついでに身長163センチ成長盛りですってつけ足して女の子アピールすれば『そうかい』って溜息吐かれたけど、これで客相手させられるの遅まったんじゃないかな。長居しなければ。

 

「あーあ、不細工二人も引き受けるんじゃなかったよ。で、得意なのは炊事洗濯だって?」

「へい。何でもやりまふ」

 

 顎しゃくってるせいで喋りにくい。けどしゃくれでいないとだから我慢だ。わたしは雑用を頼まれ、花魁たちの脱ぎ散らかした着物を集めに部屋を回ったり、客を相手する部屋にお酒や料理を運んだりした。

 潜入任務、開始なのです。

 仕事は夜中迄。客と花魁が部屋で就寝する時間帯は静かにしないといけなくて、わたしら雑用する人や禿の女の子たちも寝に入る。個室なんて無いから一つ二つの狭い部屋で雑魚寝だ。善子に扮する我妻くんとは部屋が違うし、その日は会わなかった。

 次の日、朝を迎える前に叩き起こされる。これは別に辛くなかったし、雑用も苦じゃなかった。強いて言えば食事が質素過ぎて物足りないってくらい。あ、任務だって事忘れそうになってた。情報収集しなきゃ。

 京極屋には"雛鶴"さんが花魁としている筈だ。接触を試みたいけど、姿無し。どこにいるんだろう。てか京極屋って何か暗い。花魁の姉さんたちや禿、楼主までもが辛気臭い。何故なのか。

 わたしが雑用に勤しむ中、三味線のセンスが開花していた我妻くんはその才能を買われてこの二日間、団体客の前で三味線を披露してるみたいだった。お互い忙しくしてて二人になれる時が無いから、顔を合わせるくらいしかしてない。

 

 我妻くん、なんか情報手に入れられたかな?

 

 わたしの方は特に、だ。てか皆んな口硬い。でも得た情報もある。わたしたちが来る前に京極屋の楼主の奥さんが死んだとかって。だから此処は皆んな暗いのかな。

 

「大丈夫?」

 

 ある時着替える為に雑魚寝部屋へ入ったら、禿の女の子がメソメソ一人で泣いてた。髪はボサボサで着物はヨレてる。

 

「だ、大丈夫でござりんす。放って置いてくれなんし」

「うぇ、でも……」

 

 誰かに折檻でもされたんだろうか。心配で傍にいようとしたんだけど、雑用で呼ばれてから戻ったらもう居なくなってた。

 任務三日目。この遊郭での生活に少し慣れてきた頃かな。店を開ける前準備で慌ただしい中、上の階からパリン割れたりドカドカ凄い音がして、周りにいたお姉さん方や禿の子たちが顔を青ざめる。

 

「旦那さんー!」

 

 一人のお姉さんが楼主を呼びに走った。何かあったのかって思ってたら、誰かが『また蕨姫花魁が』ってボソって言ったのが耳に入る。

 

 "わらびひめおいらん"?

 

 そんな名前の花魁いるのね。三日目なのに初めて知ったわ。

 そしたら何かが吹っ飛ばされたみたいな激しい音がした。で、楼主が慌てた様子でバタバタと廊下を走って二階へ駆け上がって行ったんだけど、一体何なのか気になって近くにいた花魁のお姉さんに訊いてみた。

 

「すみまへん。二階で一体何があったんでふか?」

「ああ、アンタまだ入って間もないから……」

 

 ってやっと教えてくれそうなお姉さんがいた。二階の激しい物音がした部屋は蕨姫花魁専用の部屋で、時々こうやって暴れるというか、気に入らないことがあると禿に酷い折檻したり遊女を虐め泣かせたりしてるんだって。

 それを聞いて思い出されたのは、雑魚寝部屋で泣いてた禿の子だ。

 なるほど。って理由が知れた時、二階から誰かが運ばれて来たのが見えた。

 

 我妻くん!

 

 鼻血を流して気絶している我妻くんを見て驚いた。

 

「オイ! 誰か善子に手当てしてやれ!」

 

 楼主も一緒に一階に降りて来た。わたしはそれを買って出て、急いで我妻くんが運ばれた雑魚寝部屋へと向かった。

 

「あが、善子ちゃん……」

 

 布団を敷いてそこへ寝かせ、出た鼻血を手拭いで拭いて怪我の様子を確認する。怪我の程度がわからない。頬が赤いから殴られたんだ。

 蕨姫花魁に? てか我妻くん仮にも隊士だよ? そんな彼を殴って気絶させるなんて力強過ぎない? 酷い。

 

 大丈夫かな我妻くん。

 

 そしたら雑魚寝部屋にお姉さんがやって来た。

 

「ナツ! 準備に忙しいんだ! 善子は良いからこっちを手伝いな!」

「へ、へい!」

 

 我妻くんの様子が気になるけど今は仕方ない。後で見に来よう。そう思ってわたしは店の準備に走った。

 だけどその後、我妻くんは京極屋から忽然と姿を消してしまったのだ。

 一体何処へ──。

 

 わたしはその夜夢を見た。

 あの夢の、鬼舞辻無惨が出て来た夢の続きだった。

 

『この娘は口が利けぬのか?』

 

 高圧的なものの言い方だ。お婆さんは困り顔で『口数少ない娘でございます』って口もとを隠して笑ってて、一方のヒメミコさまは鬼舞辻を見つめ返したまま何も応えない。

 

『貴様、何者だ?』

 

 問いかけてくる鬼舞辻の瞳が、赤黒い爬虫類の様な目に変わる。

 

『本日の御用件はヒメミコの血ではないのでございましょうか?』

『ヒメミコ、何か申してみよ』

 

 鬼舞辻はお婆さんガン無視だけど、ヒメミコさまも一向に喋んない。

 

『ヒメミコと二人で話がしたい。退がれ』

『桂条院様、それは困りまする。ヒメミコは穢れの無い神聖な巫女ですぞ。血以外をお求めになられては──』

『退がれ! 今直ぐ!』

 

 お婆さんは鬼舞辻に怯え、慌てて外へと走って行った。

 

『今は私とお前だけ。さあ、申せ。お前は人にあらず者だろう?』

 

 ヒメミコさまは顎を上げられた扇子を払いのけると、やっと自分の口を開いた。

 

『わたくしは人にあらず。鬼神から生まれた"鬼の子"じゃ』

『鬼の子……? 何を申すかと思えばそのような戯言を』

『戯言などではない。そなたが申せというから教えてやったのだ』

『教えてやった、だと?』

 

 鬼舞辻はヒメミコさまを人睨みすると、手の甲で激しい平手打ちしてきた。マジいったーい感覚が怠い。

 

『"鬼"と呼ばれるのはこの世で私ただ一人! 貴様なんぞが鬼の筈が無いわ!』

 

 突然癇癪起こした鬼舞辻にわたしもう吃驚よ。ヒメミコさまは全く気にしてない様子で、平手打ちされたせいで乱れた髪の隙間から鬼舞辻を見つめてこう言った。

 

『救われたくて来たのではないのなら何だ。わざわざそれを言う為だけでは無かろう?』

 

 ひゃー、ヒメミコさま表情変えずに煽るー。だからまた平手飛んで来た。唇切れて口の中血だらけになるけど、傷は瞬で治る。

 

『それともわたくしの血の匂いに誘われてか? 哀れ子よ』

 

 鬼舞辻に無理矢理顎を掴まれたヒメミコさまは逸らす事無く、じっと深く探る様に鬼舞辻の瞳を見続けた。まるで全てを見透かすみたいに。

 

『黙れ、黙れ、黙れぇ!』

 

 ブチ切れ鬼舞辻は煽り耐性無いのか吠え上がると、掴んでいた顎を離さずにそのまま床へと頭を叩きつけ、ヒメミコさまの左側の首筋に齧り付いた。

 

「ぎゃああああ! 痛いいい!!」

 

 真夜中、わたしは首筋を押さえて飛び起きた。

 

「五月蝿いよナツ! 寝ぼけんじゃないよ!」

「す、すいまふぇん……」

 

 隣の部屋で寝てたお姉さんが雑魚寝部屋にやって来てめっちゃ怒られました。顎をしゃくらせてて良かったー。

 ていうかなんという追体験夢よ。夢なのにまだ首筋を齧られて血を吸われた様な生々しい感覚が残ってる。嫌だな。

 ふと雑魚寝部屋を見渡す。我妻くんに敷いてた布団は隅に寄せられたままで変化は無い。

 雛鶴さんいないし我妻くんもいなくなっちゃった。これはもう鬼に関係してるんじゃないかって不安が過ぎる。

 

 皆んなに報告しなきゃ。

 

 朝一でこっそり抜け出して伝えよう。そう思ってわたしは、粗末な布団の中で朝が来るのを待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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