転生した世界で鬼の末裔が生きていくもん   作:あまてら

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衝撃

 

 

 

 

 ピンチをチャンスになんて余裕も無く、わたしは蟷螂鬼に顔面を鷲掴みされ、首元には赤黒い血鎌が当てられた状態だ。だから身動き取れない。こんな間近で上弦の鬼見るなんて思ってもみなかった。

 ギザギザの歯に潰れた鼻、ほぼ骨みたいに細い腰と手足。女鬼が『お兄ちゃん』って呼んでるけど、兄妹なんだ。美人な妹と違って、蟷螂鬼はとても不気味だ。

 

「お前を今直ぐにでも喰っちまいたいがあ、本当に残念だなあ」

 

 どうする。どうするよわたし。

 

 頭はきっと冷静だったかも。だから血を鬼に舐めてもらおうって考える。わたしは左手を握って爪で自分の掌を傷つけた。

 

「八重野さん!」

 

 建物の中から竈門くんと音柱が出て来た。それに一瞬気を取られた蟷螂鬼の隙を狙って、わたしは蟷螂鬼の顔に自分の血をなすりつける。

 

「テメェの相手はこっちだろうが!」

 

 音柱から攻撃を向けられた蟷螂鬼がわたしから離れた。その際に鎌がスッて当たって軽く首元切れたし、反動で尻餅ついた。毒が。でも別状何もなくてお尻が痛いだけだった。

 

 血、舐めた?

 

 気になって蟷螂鬼に目を向けるけど、何も変化無い。

 

 あれ?

 

 ちょっと変に思いながら、音柱の邪魔にならないようにその場から離れる。

 女鬼の奇妙な帯は、嘴平くんや我妻くんを相手しながら音柱も狙って攻撃してる。それプラスに蟷螂鬼の相手もしてて音柱は流石凄いってなった。

 元気になってる竈門くんは何とかして助太刀に入ろうとするんだけど、隙が無くて入れずにいる。

 

「こいつの攻撃には気をつけろ!」

 

 音柱は二人の鬼からの攻撃を交わしつつ、わたしたち否、竈門くんへ注意を促す。

 

「宇髄さん!」

 

 蟷螂鬼が血鬼術で鎌を使い、薄い刃の様なドス黒い血の斬撃を自由自在に飛ばした。音柱に当たる寸前、竈門くんが背後を守ってその攻撃を刀身で受ける。

 

「うおあああ!!」

 

 威力に顔を歪めた竈門くんは、水の呼吸の技でなんとか押し上げる様にして受け流した。

 

「音の呼吸 伍ノ型 鳴弦奏々」

 

 竈門くんの技で血鬼術が流されたと同時、音柱が音の呼吸の技を使って蟷螂鬼へ突進。鎖を使って二刀を高速で旋回させ、流れる様に連続で斬撃と爆発を浴びせた。

 

「そっちばっか集中してて良いの?」

 

 無数の帯がまた音柱に襲いかかろうとしたから、わたしもボケっとしてちゃ駄目だと思って水の呼吸の技を女鬼に放った。

 でも役には立たなかったんだよね。だって直ぐ避けられてその帯がこっちへ来たもん。

 

 危な!

 

 避けるのが間に合わない。慌てて自分の刀で防御したけど意味無かった。

 こういうのってめちゃくちゃスロー。わたしの刀身上下に真っ二つ。あ、鋼鐵塚さんに殺される。

 で、どっかの遊郭の建物にぶつかってダイナミック入店。半分倒壊した瓦礫の間にわたしは横たわった。

 

「八重野さん!」

 

 竈門くんがわたしを遠くで呼ぶ。

 息を吸い込んだら咳き込んで吐血したし全身痛いし動けない。肋骨と背骨折れたかも。

 

「考えてやれよなあ。死んじまったらどうすんだあ?」

「わざとじゃないもん! その女が悪い!」

 

 鬼二人が戦いながらの会話も耳に入る。

 ああ、痛い。徐々に回復してってるけど今回痛過ぎる。

 わたしが自分を回復させてる間、音柱や竈門くん、嘴平くんや我妻くんが其々に戦っていた。

 

 わたし超役立たずじゃん。

 

 いくら血チートでも自分の弱さには腹が立つ。

 左腕なんか痒くなって動かせるようになった右手で掻いてみたらスカってしたから、『ん?』って顔向けたら軽く悲鳴出た。

 

「ヒィッ!」

 

 だってわたしの左腕、関節から下スパって綺麗に無いんだもの。

 無い。サーって顔面蒼白。気が動転。あわあわする。わたしの腕何処よって瓦礫の下へ顔向けたらあったわたしの腕ぇ!

 

「へぐうぅ……」

 

 下半身まだ動かせないから上半身で蟹みたいに横歩きならぬ横這いずりして右手で掴んだ。

 嘘でしょわたしの腕が。切れた断面からは血がどくどく垂れ流れてて、余計に冷静さが無くなってきた。綺麗に切れてんじゃんよあの蚯蚓帯。怒り任せで断面と断面くっつけてみる。奇行に近い。

 

「ヒィッイィ!?」

 

 ありのまま起こった事を聞いてほしい。なんか知らんけど、切られた腕の断面と断面を試しにくっつけたら元に戻ったんだけど?

 戦闘中の音が色んな方向からしたり爆風きたり火薬の臭いしてるけど、わたしはそれどころじゃないくらい自分の中の血の能力に鳥肌。しかもちゃんと左手グーパー出来る。

 これは喜ぶべきだろう。うん、前向き。よし。でも全然よしじゃない。

 やっと全体的に身体動かせるようになったからわたしも戦わないとなんだけど、残念ながら刀は半分になってるしまともに使えない。後は血チートのみだ。

 瓦礫だらけのこの建物から離れて今の様子を確認しようとした時だ。

 蟷螂鬼の血鬼術による血の斬撃が、わたしの目の前を通り過ぎる。

 

「ひっ!」

 

 危うく顔面で受け止めそうになって避ける。ギリギリだったよ。

 

「炭治郎危ない!」

 

 そしたら我妻くんの声がして、斜め前の建物が無数の帯によって瓦屋根ごと叩っ切られて派手に崩壊。爆風みたいなの来た。なのでわたしは、再び家屋の瓦礫の山の上に吹き飛ばされてしまった。

 目を開けて、最初に聴こえてくるのは焚き火した時みたいなパチパチ音と、木造の建物が燃えてる焦げた臭いだ。

 皆んな無事なのかなって不安。慌てて起き上がったら激痛した。自分の太腿見たら、割れたガラスの大きな破片が深く突き刺さってるよ。ステンドグラスなのかな? キレイって一瞬だけ思ったね。マジ一瞬だけど。

 

「う、ひぐううっ! ぅあああ!」

 

 抜かなきゃって焦りから両手で引っ張るけど、深く刺さってて痛過ぎて抜けない無理。

 もう一度チャレンジ。少しだけ抜きかけたらマジで痛くて涙出た。しかも手も切れて血だらけ。直ぐ傷は塞がれるけどね。

 

「代わりに引っこ抜いてやろうかあ?」

 

 ヒエってなる。蟷螂鬼が目の前に立ってわたしを見下ろしていたからだ。

 

「お前を見てるとなんだか無性に腹が立ってくるんだよなあ。何でなんだろうなあ?」

 

 わたしは息を呑み込みながら、蟷螂鬼から目を離す事なく刺さっているガラスの破片で掌を切ると、その鬼の顔面へ向けて投げつける様にして血をかけた。

 

「さっきからそうやって俺に血を投げているがあ、意味ねえ事するんじゃねえよお」

 

 蟷螂鬼は口角をニタリと上げて、舌先で血を舐め取った。

 数秒経過。いつもなら弾けてる筈なんだけど、蟷螂鬼はニタニタと不気味に笑うだけで変化は全く起きない。どういう事なの。もしかして雑魚鬼限定だったのかって頭の中の思考巡らせる。

 

「残念だったなあ。その血で俺を殺せるとでも思ってたんだろお? あの方が特別に教えてくれたんだぜえ。お前は稀血だからあ、弱くて頭の足りない鬼は制御効かなくてお前を喰らおうとする。それを止めてたのはなあ、あの方だってよお」

 

 ちょ、ちょっと待って。考える為に一時停止したいんですが。けどそんな能力無いよ。

 

「匂いで直ぐにわかったぞ。俺たちはあの方に、お前が現れたら『生かして捕えろ』って言われてんだよなあ」

 

 ──はあ?

 

 生かして、捕えろだって?

 頭の中整理したいのにどっから手をつけて良いかわからない。

 えーとえーと、先ずは上弦の鬼が"あの方"って呼ぶのはさ、鬼舞辻無惨で間違いないよね。で、で、鬼倒せるチート血だと思ってたら実は違くて、鬼舞辻がわたしを他の鬼に殺されないようにしてた。

 こっから憶測というか推測。わざわざ助ける為に庇ったんじゃない筈。わたしは稀血だ。他の鬼に喰われないようにしたって事はさあ、自分が喰らう為だからだよね?

 夢では齧りついたところで終わったけど、今わたしが存在してるんだから鬼舞辻はヒメミコさまを食べ損ねてる。鬼経由でわたしがヒメミコさまの子孫だって知って、今度こそ喰べようとしてるのかな。

 でもさあ、そこまでして喰べたい価値あるのわたしに? 鬼舞辻ってそこまで粘着質だったっけ? ヒメミコさま何かしたの?

 この考えてる時間、秒である。

 

「絶対に! やだ!」

 

 邪魔だから殺されるってのも嫌だけど、喰われる為に捕らえられるってのも嫌。だってどっちもわたし死ぬじゃん。心の中で呟いたつもりが、なんか口に出ちゃってたわ。したら蟷螂鬼が反応した。

 

「あぁ? 嫌じゃねえんだよ、周りよく見てみろよお。死にかけの鬼狩り共、と死んだ柱をよお」

 

 え。死んだ?

 そんなわけないって。わたしはガラス破片が刺さった太腿を庇いながら反対の足で立ち上がり、痛む方を引きずって表へ出た。一番初めに目に飛び込んできたのは、地面にうつ伏せで倒れてる音柱だった。

 

「音柱! そ、そんな……っ」

 

 わたしは音柱の側で倒れる様に座り込む。毒によって顔の皮膚が爛れてるし、よく見たら音柱の左手首が離れて転がってる。背中に冷たい汗流れた。崩壊した家屋、炎上し、火の粉が舞う状況。嘴平くんや我妻くん、竈門くんの姿は見えない。

 蟷螂鬼が言うように音柱死んで、あの三人も死にかけなの?

 

「お兄ちゃん! 今はその女いいから、先にあのガキ早く始末してよ!」

 

 まだ崩れてない家屋の屋根の上から女鬼が言った。

 わたしから30メートル離れた場所で、竈門くんが起き上がる姿が見えた。

 

「アイツ、運が良いなあ」

 

 蟷螂鬼はわたしに『ガキ共が死ぬまでおとなしくしてろやあ』って言って、竈門くんのもとへと向かって行った。

 

「竈門くん!」

 

 わたしが声を上げると、竈門くんはわたしの声に気づいて急いで身構える。

 

「おいお前! 静かにしてな! 後、そこから動くんじゃないよ!」

 

 わたしに怒鳴った女鬼へ顔を向ければ、もの凄い眉間に皺寄せて睨まれた。

 

「ああ本当にムカつくその顔。少しでも動いたらただじゃおかないからね!」

 

 女鬼はわたしをマジで嫌ってんのか、心の底から憎いみたいな表情してた。恐ってなるけど、それよりも竈門くんが気になったわたしは、女鬼から目を逸らして蟷螂鬼が行った方向へ集中する。

 竈門くんは負傷してるみたい。でも重症って程でも無く見えた。刀を構えて蟷螂鬼と対峙。必死な竈門くんとは反対に、蟷螂鬼は全く本気じゃないというか、弄ぶ様に竈門くんを相手してた。それと一方的に蟷螂鬼が竈門くんに何かを言ってるのはわかったんだけど、途切れ途切れにしか聴き取れない。きっと凄く蔑んだ言葉だと思う。

 

「そんな塵、遊んでないで早く殺しちゃってよ!」

 

 痺れを切らした女鬼がそう言うと、蟷螂鬼は『それもそうだなあ』って声張り上げる。

 笑いながら血鬼術を放つ蟷螂鬼に、竈門くんが慌ててヒノカミ神楽と水の呼吸の合わせ技みたいなのを出して攻撃に対抗した。

 避ける、攻撃、避ける。一人でそれを繰り返し、再度技を出して蟷螂鬼が避けた隙を狙った竈門くんは、禰豆子ちゃんが入ってるであろう箱を持って逃げるように反対方向へ走った。

 

「何あれぇ、逃げてるんだけど」

 

 蔑み笑う女鬼。蟷螂鬼も『みっともねえみっともねえ』って嘲笑う。

 逃げたい気持ちわかるよ。なんにもおかしくない。だから鬼の笑いに腹が立った。

 でもわたし、何も言い返せなかった。

 悔しい気持ちはあるのに、血チートじゃなかったから強気でいけないなんて、なんというもどかしさ。苛立つ。

 竈門くんは蟷螂鬼に追われ、蹴られて飛んだ。

 

 主人公、死なないよね? てかきっとあれさあ、逃げてるんじゃないよ。多分どんでん返しあるよね?

 

 起き上がってまた蹴られて飛ぶの繰り返し。

 竈門くん死んだらこの先──。

 背筋ゾッとした。同時、わたしに触れる何かを感じて、倒れてる音柱に視線を落とす。

 

 動いた!

 

 微かに音柱の右手が動いたのがわかった。良かった生きてたんだ。

 蟷螂鬼は『死んだ』って言ってたけど、高度な死んだふりしてたのかな。

 わたしは急いで女鬼へ目だけを向けた。女鬼は竈門くんと蟷螂鬼へ気を取られててまだ気づいてない。でも派手に動いたら確実にバレる。

 わたしは女鬼を気にしつつ、少しずつ音柱へ近寄りながらガラス破片で手を切りつけ、僅かに開いた音柱の口へ血を流し入れた。喉が動いたから絶対飲んでくれた筈。

 

 音柱、実験台になって下さい。

 

 まだ気づかれてないのを確認して、離れた左手首をゆっくりと移動させる。わたしの腕がくっついたみたいに、音柱の手首くっつけてみよう実験だ。こんな時に正気を疑われそうだけどね。成功すればわたしの血の治癒力実績上がるし、お館様が褒めてくれると思う。

 地味にそっと、そっと。切れた側の断面と断面を合わせ、再度音柱の口の中へわたしの血を流し入れた。

 

「何やってんだよ、お前」

 

 身体がビクッてなる。ヤバい。女鬼にわたしがコソついてんのバレた。

 

「うぐぅああああああ!!」

 

 わたしは、咄嗟の判断で自分の太腿にささっているガラス破片を気合いで引っこ抜いて放り投げる。

 音柱がわたしの血で回復してるであろう時を邪魔されないように、わたしへ集中させる苦肉の策みたいなものだ。

 

「痛あああ!」

 

 マジ半端ない痛さの勢いでその場から立ち上がり、わたしは竈門くんのもとへ駆け走る。

 ガラス破片を抜いたから、傷はゆっくりと癒え、痛みや出血は止まった。よし。

 途中、瓦礫の隅に折れて半分になったわたしの刀身を見つけて拾う。

 

「動くなって言っただろうが! 手足切られたいの?」

 

 女鬼の帯がわたしを狙ったけど、間一髪で避けた。

 勇気あるなー自分。こういうの実際やってみるとめちゃくちゃに恐い。足震えちゃうし、稀血であってもやりたくない。でも出来ちゃうのはさ、『生かして捕えろ』って鬼舞辻に逆らえない命令されてるこの上弦の鬼たちが、わたしを殺せないって絶対的な保証があるからだ。

 

「やれるもんならやってみな!」

 

 女鬼へ向けてあっかんべーをして、竈門くんを蹴りまくる蟷螂鬼へと走る。

 わたしが蟷螂鬼を狙って、そいつがわたしへ気を向けば隙が出来る。そしたら竈門くんチャンス来るよ。

 

「竈門くん!!」

 

 精一杯の力で折れた刀身槍投げみたいに蟷螂鬼の背中へ投げつけようとした時だ。

 

「うっ!!」

 

 腹にとても熱い痛みを感じた。

 背後から横腹にさくりって女鬼の帯走って、わたしの胴体が半分裂けた。

 

 

 

 

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