転生した世界で鬼の末裔が生きていくもん   作:あまてら

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蝶のように舞い、蜂のように刺す

 

 

 

 

 

 戻ってまいりました蝶屋敷。

 背負ってくれた隠の人と別れ、わたしは何日振りかに蝶屋敷へ入った。

 屋敷の敷地内では人が行き来。どことなく慌ただしい。それは竈門くんたちを治療しているからだろう。

 

「あ! 八重野さん!」

 

 前を横切ろうとしたアオイちゃんがわたしに気づいて立ち止まる。

 

「すみません! 炭治郎さんたちは今しのぶ様が治療中でして!」

「勿論優先していただいて! わたしはその辺で待機していますから」

「あ、でもあなたも……」

 

 そう伝えるとわたしも心配された。まあ、隊服破れてるけどもう治ってるし平気だ。

 

「わたしは大丈夫なんで、竈門くんたちお願いします!」

「大丈夫なら良いんですが。でしたら少しお待ちを」

 

 アオイちゃんに言われて待ってたら、三人娘の一人、おさげの子がわたしに向かって走って来た。

 

「お待たせいたしました!」

「こんにちは。先日はどうもお騒がせしました」

「いいえ! 気になさらないで下さい! あ! 私、中原すみと申します!」

「八重野ナツです」

 

 深くお辞儀をしたおさげの『すみ』ちゃんに、わたしも名乗りながらお辞儀を返す。

 

「あの、アオイさんから頼まれましたので、こちらへどうぞ」

 

 すみちゃんの案内で療養施設側ではなく、母屋へ。

 

「しのぶ様も炭治郎さんたちの治療してますから、暫くはこの部屋でお待ちください。後、隊服がやぶれておりますので代わりにこちらをどうぞ」

 

 渡された服は、蝶屋敷の療養者が着る患者服だった。

 

「ありがとう。お借りしますね」

「いえ! それでは失礼します」

 

 すみちゃんが部屋から出ると、わたしは直ぐに隊服を脱いで患者服へ着替えた。

 あー、隠の裁縫係に連絡しなきゃなあ。とか、藤の花の家に置いて来た私服頼んで持って来てもらおうかなって思いながら暫く経過。その間にアオイちゃんがわざわざお茶を出してくれたりした。

 

「お待たせしました」

 

 なんとも和かに蟲柱の胡蝶しのぶさんが登場。初対面です。一気に緊張感。

 

「は! 初めまして! 八重野です!」

 

 わたしは慌てて頭を下げて挨拶をした。

 

「初めまして八重野ナツさん。胡蝶しのぶです」

 

 蟲柱は微笑んで上座に座る。わたしの横を通った時、微かに藤の花みたいな匂いが鼻を掠めた。

 

「お忙しいところすみません!」

「いいえ。私があなたを此処へ呼んだのですから。八重野さん、お館様の御屋敷で話を聴かせていただいた時から私、あなたにとても会いたかったんです。耳にはしていましたが、とてもお美しい方だったんですね」

 

 蟲柱はわたしとは違った大人っぽい美少女だ。落ち着いた透き通る様な声でわたしを『美しい』と言った蟲柱に頬が熱くなった。

 

「む、蟲柱にそう言っていただけて、とても嬉し──」

「酷い怪我をしても病気になっても治せるって本当ですか?」

 

 蟲柱はわたしの片手を自分の両手で包んでぎゅっと力を込める。

 

「え、ああ、はい。首を折っても治りましたし、病気もした事がありません」

「わあ、凄い! 自分だけじゃなく他人も治せるとか、それに鬼の末裔って話も?」

 

 わたしの顔面ギリギリまで顔を近付けて来る蟲柱に圧倒されながら頷くと、蟲柱は美しく微笑んだ。

 あれ。表情は笑ってるように見えるんだけど、全く笑ってない感じがした。

 

「八重野さん! あなたの身体、是非とも私に切らせて下さいな!」

「え……?」

 

 切らせて? 身体を? 蟲柱の言ってる事に理解が追いつかなくて頭が働かなかった。

 

「身体を切ってみて調べたいんです。ね? 良いですか? 良いですよね? 切っても治るんだったら是非に! 何もその辺の鬼の様にしたりしませんし」

 

 握られた片手の力が強くなる。

 

「え、あの、そのっ」

 

 戸惑いつつ口篭ってると、蟲柱はわたしの片手を放して悪戯っぽく笑った。

 あれれ?

 

「ふふ。ごめんなさい。怖がらせちゃいましたか?」

 

 何だ、蟲柱の冗談か。ってホッとして笑い返したら、まだ続きがあった。

 

「でも私、半分冗談で半分本気なんです。鬼の末裔だと言うあなたの身体を調べたいのは嘘じゃないですから」

 

 美しく和やか〜。でもその笑みが恐ろしい。わたしは苦笑いを浮かべる。

 

「だから八重野さん、お願いします。暫く私に協力して下さいませんか?」

「えあの、蟲柱、わたし」

「勿論協力してくれますよね? だって鬼殺隊の為になるのなら断る理由なんて無いですし」

 

 『お館様にもちゃんと了承は得てますよ』って柔和な笑顔を向けてくる蟲柱から、無言の圧力ならぬ微笑みの圧力みたいなのを肌で感じ取ったわたしに拒否する勇気なんて微塵もありません。

 

「はい! こちらこそ! 是非ともご協力させて頂きます!」

「良かったあ。八重野さんなら絶対断らないって信じてました!」

 

 そしてわたしは、協力という名目で蟲柱の下で暫く働く事になりそうです。

 正直恐いけど、柱には逆らえないし。まあ刀の修理待ってる日数もあるしね。

 

「八重野さんに治療に関する協力をお願いしているので、少しの間ですがこの屋敷に居てもらうことになりました」

「皆さんどうぞよろしくお願いします!」

 

 蟲柱がアオイちゃんや三人娘に改めてわたしを紹介し、わたしが稀血であり、血で人を回復出来るという話も大まかに伝えられた。

 で、直ぐに何かするでもなく、お風呂をいただいて母屋に空いてる部屋を用意してもらい、一旦休んでて下さいと言われたので素直に休んでました。

 

「ナツ! ナツ!」

 

 部屋の外から弁天ちゃんの声が。急いで障子戸を開けたら弁天ちゃん入って来た。

 

「至急オ館様ノ屋敷ヘ行クノヨ!」

「え! 今から?」

「ソウヨ! 今カラニ決マッテルジャナイ!」

 

 やっぱ遊郭での任務報告も兼ねて呼ばれたな。

 で、弁天ちゃんに急かされて母屋から出たらもう隠の人が嬉々として待ってて、目隠しされて背負われてお館様の御屋敷に連れられて行きました。

 着いたら御息女のかなたちゃんの案内で部屋に通され、わざわざ藤の花の家に置いてきたわたしの私服まで持ってきてくれたみたいで、有り難くそれに着替えさせていただきました。

 

「ご、ご無沙汰しております!」

 

 わたしは今、久しぶりに会ったあまね様に深く座礼した。

 

「八重野様、お顔をお上げになって下さい」

「はい!」

 

 てかお館様はどうしたんだろって思ってたら、あまね様が訊く前に教えてくれた。この頃悪化で体調も優れず、あまね様が代理をしているのだそうだ。

 わたしの血を、とも一瞬考えたけど、お館様に拒否られた事を直ぐに思い出してぐっと堪える。

 

「音柱様から今回の任務報告の殆どを受けておりますが、八重野様からも是非お聞きしたいと」

 

 わかりました。ってなわけで、わたしも任務報告をする事に。

 遊郭で潜入してたざっくりな話とか、鬼舞辻無惨が多分わたしを直接殺める為に『生かして捕えろ』って上弦の陸に命令してたのとか、なのでわたしの血で鬼を倒せるんじゃなく、実は鬼舞辻に生かされてたってだけだった事や、腕が切れたけどくっついた話、追体験夢でご先祖のヒメミコさまが鬼舞辻と初対面して、何やら恨まれる様な因縁を感じたって内容を伝えた。

 

「ご報告ありがとうございます。耀哉様に必ずお伝え致します」

「よろしくお願い致します!」

 

 あまね様はその他にもわたしの身体の様子や、任務外での暮らしに不自由が無いかどうかの心配もしてくれた。いやぁ、こんな末端隊士にまで気を配ってもらえるなんて感涙。

 報告も済んで御屋敷を後にし、わたしは隠に背負われて蝶屋敷へ戻った。

 

 陽が落ちて夜。アオイちゃんと三人娘が、御屋敷から戻ったわたしを迎えてくれた。お館様に呼ばれた事は知らせ済みだったみたい。

 

「しのぶ様が呼んでます」

 

 って聞いて、呼ばれた診療室へ。

 

「あなたの血は夜にならないと効力が無いと耳にしましたので」

 

 椅子に座って蟲柱がにこりとして言う。手術用器具のメスみたいなのが机に置かれてて一瞬ドキってした。

 

「恐がらないで下さい。私がやるのではありませんから」

 

 って笑ってるけどなんか恐い。

 

「私の目の前で切って見せて下さい。これで」

 

 あ、あ、あ、で、す、よ、ね。

 わたしは諦めた様に器具を手にし、手の甲に刃を軽く押し当てて三センチくらい横へ引いた。痛いよ。うん。いつも血を出す時はさ、アドレナリンがドパァだから痛さ半減なんだよね。

 

「き、切りました」

 

 切った手を差し出せば、蟲柱はわたしの手を掴んで白い布で血を拭き取り、切り口の様子を見てた。深くは切らなかったから直ぐにスッと癒える。

 

「教えてほしいのですが」

 

 興味深く見つめている蟲柱からいくつか質問が飛ぶ。切った傷の治りの早さの違いとか、今までしてきた怪我の状態から治りの様子、他人に血を与えるやり方や、治してきた怪我がどういうものであったのかとか。

 なのでわたしは答える。昼間でも普通の人より治癒力が高い事、任務で先輩隊士を治したのと、炎柱の事や音柱の事を。あ、切断された部分がくっついた話は最新情報だ。

 

「成る程。益々あなたの血や身体に興味が湧きました」

「は、はあ」

 

 この流れから『切断して見せて』って言われなくて本当に良かったって思ったわ。

 

「あ、夜の内の血液を採取させて下さい。昼間にもお願いします」

 

 で、今世では初の注射器出ました。チクッとして懐かしみ感じましたね。

 

「はい。取り終わりました」

 

 血を取り終わると、『では今から竈門くんたちの部屋へ行きましょうか』って蟲柱は席を立つ。わたしの血での回復を見てみたいと言う。

 蟲柱の案内で入ったのは、いくつかベッドが並ぶ病室。手前から我妻くん、竈門くんと嘴平くんがベッドの上で寝かされ、皆んな包帯ぐるぐるで点滴をつけて眠ってた。

 

「三人共重症でしたが今は落ち着いてます。けれど意識はまだ戻ってないんです」

「そう、ですか」

 

 痛々しい三人の姿見て、あの上弦の鬼たちの戦いが如何に大変だったかを再度思い出された。あれで上弦の陸だものね。確かに上弦の参の猗窩座は震えるしか出来ない迫力があったわ。

 なんて心の中で身震いしつつ、意識を蟲柱へ向ける。此処へわたしを連れて来た理由は直ぐにわかった。

 

「彼等に血を飲ませて良いんです?」

「はい。是非お願いします」

 

 普段はどのように? って訊かれて、『自分の爪で傷つけたり、割れたガラス片などを使って血を出します』って答えたら、『衛生面を考えてみますから、一先ずこれを使って下さい』ってメスを渡される。

 確かに。咄嗟の判断だったし、日輪刀では切らない方が良いって考えしかなかったけど、綺麗が良いよねやっぱ。

 

「嘴平くんからやってみます」

 

 一番重症度が高そうな人から。

 

「手伝いますよ」

 

 蟲柱が嘴平くんの口を指で開いてくれたので、わたしはメスで掌を横に切り、握り拳にしてから流れ出た血を嘴平くんの口へ流し入れる。測った事が無いから量なんて曖昧だ。重症度によって自分の匙加減。多分計量カップ20か30ccくらい。

 嘴平くんが飲み込むのを確認して、次に竈門くん。そして最後に我妻くん。

 三人に飲ませ終えて数十分経過。我妻くんから意識戻り、次に嘴平くん。そして竈門くんも意識が戻った。したら蟲柱が慣れた手つきで三人の状態を確認し始めて、アオイちゃんや三人娘を呼んて大騒ぎ。それにカナヲちゃんも必死な感じで病室に入って来て竈門くんにかまってた。

 わたしはこの間、隅で棒立ち。暫く様子伺ってたら竈門くんたち三人が落ち着いてきてまた眠った。蟲柱が『脈も安定して顔色も良くなりました』って笑顔でわたしの両手を優しく包む様に握って来た。

 

「八重野さん、ありがとうございます。あなたの血、とても素晴らしいですね。私感動しちゃいました」

「いや、ハハ、それほどでもないです」

 

 蟲柱に褒められて口元緩む。

 

「身体の中全て切って調べたい欲が本当に出てきてしまいそうです」

 

 わたしは引き攣り笑顔で返す。蟲柱の笑みとは裏腹の闇的な何かを感じ取って背筋冷たくなった。誰よりも鬼憎しですものね。蟲柱は。いくらわたしのご先祖さまのヒメミコさまが鬼舞辻無惨とは全く違う鬼だって説明したところで、本心からはそうは思ってくれなさそうだ。なので、お館様という制御が無ければ即解剖祭りかも。

 で、竈門くんたちに話戻すんだけど、彼等三人は翌日元気に目覚めてご飯おかわりしてたよ。蟲柱が診察したら三人共に完全完治。午後から鍛錬し始めた。

 

 あ、そういえば三日後くらいにゲスメガネこと前田まさおが頼んでた隊服持って来てくれたんだけど、嬉々として超ミニのどエロ隊服渡されてね、わたしドン引き。そしたらたまたま近くにいた蟲柱が『集めた落ち葉を燃やすのに丁度良いですね』って、その破廉恥隊服マッチで燃やしてくれました。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

 

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