転生した世界で鬼の末裔が生きていくもん   作:あまてら

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汝、心に浮かぶ

 

 

 

 

 

 二週間。蝶屋敷での暮らしは、なんだか新鮮みあった。

 実家で甘やかされて暮らしてきたのとは違い、そよ婆宅で修行暮らししてたのとも違い、藤の花の家で数日過ごしたのとも違ってた。

 

「ふぁああ……」

 

 欠伸。誰よりも早く夜明けに起きたら布団畳んで身支度整え、借りた割烹着着て敷地内の療養施設に設置されてるお台所に。此処のお台所は都会らしくオサレだ。蛇口ひねったら水出るとか近代的で感動したもんな。

 はい。何故わたしが蝶屋敷のお台所にいるのかって?

 それは蝶屋敷三日目。蟲柱に協力という事でこの屋敷でお世話になってたんだけど、流石にお客様気分で毎日ご飯用意してもらったりってのが申し訳なく思えてね。自分がご飯作りますって言ってみた。集落にいた頃の自分ならそのままでいたんだろうけど、そよ婆のせい──じゃなくて、のおかげかな。

 勝手にはしない。ちゃんと蟲柱に許可済み。アオイちゃんは『他所様にしてもらうわけには』って難色ってたけど、そりゃそうよな。だから先ずは料理食べてもらおうってお台所お借りして、試しに作った料理をアオイちゃんに食べてもらった。そよ婆以外では初めてだからドキドキ。アオイちゃんは目を丸くして『美味しい』って。

 で、なら三食の内、朝食だけ主導お願いします。って事で決まったのよ。

 

「ヒュゥゥゥゥ」

 

 さてさて、そよ婆から習ったように全集中。これ、絶対。米研いで暫く水に浸し、その間にかまどに火をつけたり味噌汁の具の大根切ったり。

 

「おはようございます!」

 

 割烹着姿のアオイちゃんが台所へ現れた。

 

「おはようございます!」

「八重野さんより早く起きたと思ったのに……」

 

 アオイちゃんが手を洗い、ぬか漬け用漬物容器に手を突っ込みながら言う。

 

「早く目が覚めてしまうんですよ」

 

 任務中は殆ど昼夜逆転生活だったしねえ。

 

「お味噌ここに出しておきますね」

「ありがとう」

 

 出した漬物を水で洗ったアオイちゃんは、味噌汁の味噌を用意してくれた。朝食は任されたのでまだ寝ててくれても良いんだけど、気にかけて毎日手伝ってくれます。

 ある程度作り終えると、三人娘が台所に入って来る。

 

「おはようございますー!」

 

 合わせたかのように揃って挨拶が飛んで来た。

 

「おはよう」

「おはよう!」

 

 元気な女の子たちは食器を並べてくれて、綺麗に盛り付けもしてくれた。

 

「炭治郎さんたちを起こして来ます!」

 

 三人娘が竈門くんたちを起こしに行くと、アオイちゃんが配膳荷台にお膳を乗せて『しのぶ様とカナヲの持って行きますね』って出る。蟲柱とカナヲちゃんは自室で食事をするみたいで、いつもアオイちゃんが母屋に運んでるんだってさ。

 

「いただきます!!」

 

 食べ盛りの少年たちに朝ご飯を出せば、直ぐにご飯おかわりコール。

 

「朝からナツさんの作ったご飯食べれるなんて、ホント幸せだなああ」

 

 我妻くん、いや善逸くんは、わたしを見つめながらにへら顔で言う。

 

「勿論アオイちゃんの作るご飯も美味しいんだけどさあ、ナツさんの料理はなんか格別っていうかさあ」

「格別じゃなくてすみませんね!」

 

 おかわりのお茶碗を米盛り盛りにして、伊之助くんに手渡しながらアオイちゃんが善逸くんをジト目。

 

「や、アオイちゃんのご飯も格別なんだよお!」

「善逸、比べるなんてナツさんとアオイさん両方に失礼だろ」

「俺様はどっちも美味いぜ!!」

「あーん! 二人の裏切り者お!」

 

 わちゃわちゃ朝ご飯の三人を微笑ましく思いながらわたしは食堂を出て台所へ戻る。わたしたち女子の分の朝ご飯の用意の為だ。わたしやアオイちゃん、三人娘はお台所にあるテーブルで食事する。初めは『食堂でどうぞ』って言ってくれてたんだけど、折角だし、わたしも彼女たちの食事場にまぜてもらってます。

 とまあ、蝶屋敷での一日の始まりの一部をお伝え致しました。

 

 炭治郎くんたちがわたしの血によって目覚め、回復した次の日。わたしは彼等の病室へ行った。

 

「皆んな、元気になって良かったよ」

「八重野さん!」

「八重野さんのおかげです!」

「なんか知んねーけど、めちゃくちゃ楽になったぜ!」

 

 午後から鍛錬し始めるみたいだし、回復してくれて本当に嬉しくてさ、益々自分の血のチートさには驚かされるわ。てか心なしか三人から、特に善逸くんからキラキラした眼差しを向けられてるけどまぁいいか。

 因みに三人の名前の呼び方だけど、この日から二日後に下の名前で呼び合うようになった。遊郭での任務の一件から仲が深まった感じというか、慕ってくれてるみたいだから。罪作りな美しさのあまり人から距離置かれてたわたしには大変喜ばしいものです。

 

「あの子たちの身体はもう大丈夫です」

 

 蟲柱は念の為、炭治郎くんたちの血液を毎日採取して変化があるのか無いのを確かめてるみたい。でも今のところは何もないんだって。ある日に風邪ひいた善逸くんには数滴の血が効いて、試しに健康体で無傷状態のままの炭治郎くんに血を飲んでもらったんだけど、それは特に何も起こらなかった。

 

「八重野さん、あの方たちもお願いします」

「はい!」

 

 蝶屋敷で行う血を使っての治療は炭治郎くんたちが主にだったりした。でもたまに違う人たちにも飲ませる。鬼殺隊隊士に限られてるけど、酷い怪我の場合にわたしの血が役に立ってるみたい。遊郭任務で音柱に施したように、切断されたのをくっ付けるってのは、時間が経つと無理だった。新鮮が一番なのかもね。

 

「不思議なお話があるんですが」

 

 わたしの血で治療された人たちから、その後の経過を訊いていた蟲柱が教えてくれた。

 

「血を飲んだ方が皆さん揃って言うんですよ。死の淵、夢か現か、八重野さんにそっくりな人に自分の名を呼ばれるんだそうです」

 

 その声はとても心地良く、聴けば身体がふわふわになるんだって。わたしに似た人が抱き締めてくれるみたいで、まるで赤子を抱く母の様な母性溢れる表情を向けてくれるのだとか。

 成る程。だから炭治郎くんたち、血を飲んだ人たちからキラキラした眼差し向けられるのか。わたしに似た人って、絶対ヒメミコさまよね。マジ自分の血の能力不思議だわ。

 てかその不思議な体験は音柱もしててね……、そうそう、善逸くんから聞いたんだけど、遊郭任務に勝手に蝶屋敷で女の子調達しに来た一件で蟲柱はえらく御立腹だった様子でさ、怪我の様子を訊き出すってのは口実で、謝罪求める為だとか何とかで呼び出して一悶着あったらしいよ。

 

「では行って参ります!」

「気をつけてね!」

「いってらっしゃい!」

「頑張って下さい!」

 

 善逸くんが任務に発った。めちゃくちゃカッコつけて。背中は若干怯えてたけども。次の日には伊之助くんも。

 わたしと炭治郎くんはまだ任務に就けない。蝶屋敷に来てからひと月近く経とうとしてるのに、鋼鐵塚さんが現れないからだ。音沙汰も無い。──否、あったわそういえば。すみちゃんたちが『鋼鐵塚さんからです』って炭治郎くん宛に、恨み辛み呪い文が送られてきたっけ。

 

「え、わたし宛は?」

 

 って訊いたらきよちゃんが困り顔で『無いです』って。

 え、何でよ。

 

「どうしてナツさんが鋼鐵塚さんを?」

 

 炭治郎くんが質問してきた。ああ、言ってなかったっけって、わたしも『鋼鐵塚さんが担当してくれてるんだよ』って答える。わたしたち二人して鋼鐵塚さんの扱い大変だよねあるある話して多少は盛り上がった。にしてもさあ、呪い文は要らないけどせめてわたしにも何か文送ってくれてもよくない?

 それから炭治郎くんは『空いた時間は無駄にしない』って一人で鍛錬しに行っちゃって、仕方ないからわたしも昼間の間にアオイちゃんたちの看護の手伝いとかしたりね。機能回復訓練っていうの『やってみますか?』ってアオイちゃんがおすすめしてくれたんで、鍛錬の代わりに良いかなって有り難く受けたらボコボコにやられて夕方まで寝込んだわ。

 

「失礼します」

 

 日が暮れれば元気百倍。蟲柱に呼ばれて診察室へ入ったら、何故か蟲柱以外に風柱いて慌てて廊下へ飛び出た。

 

「し、失礼しました!」

「八重野さーん。入って下さーい」

 

 気が動転してつい出てしまった。だって風柱いるとは思わなかったんだもん。

 

「は、はい」

 

 気を取り直して診察室へと再び入った。

 

「お前かァ、八重野ってのはよォ」

 

 大きく見開いた鋭い目がわたしを捉える。何て言うんですか緊張感。この人もお館様の屋敷で聴いてたんだよなあそういやあ。

 

「はい! あの、その節はありがとうございました!」

 

 以前、偶然に助けてくれたらしい事のお礼をもう一度してみる。

 

「あら不死川さん、八重野さんとお知り合いだったんですね」

「知らねェよこんな奴ァよ。オイお前、誰かと勘違いしてんじゃねーぞ」

「え、あ、はい! すみません。は、初めましてですね……」

 

 勘違いですと。あの眼力や髪色を見間違えるなんてそうないけど、覚えてるワケないかあ。ま、良いや。怒られたらヤダからここは流すのが賢明な気がする。

 

「──で胡蝶、此処へ俺を呼び出して何か用があるのか?」

 

 風柱がわたしから蟲柱へ目を向けた。

 

「はい。不死川さんに是非とも彼女の血を飲んでいただきたいんです」

「断る!」

 

 蟲柱の言葉に若干被せ気味で風柱が拒否した。

 

「お館様はああ仰っていたが、俺は断らせてもらう。鬼の子孫だのなんだのぬかす得体の知れない奴の血なんざ虫唾が走る」

「それは残念です。不死川さんも八重野さんと同じ稀血ですから、どういう変化があるのかを確かめてみたかったんですよ?」

 

 蟲柱が残念そうに笑む。

 

「でも仕方ないです。強制は出来ませんし。あ、でも、深傷を負うような場合には飲んでもらいますから。八重野さんの血が炭治郎くんたちだけではなく、宇髄さんも救った事は既に耳に入っていますよね?」

 

 風柱は小さく舌打ちしてわたしをひと睨み。警戒心ひしひし伝わります。ひえ。

 信用度無いみたいですね、わたし。

 

「兎に角俺はこれで失礼する。悪ィな胡蝶」

「はい、それではまた」

 

 風柱が蝶屋敷を出て行った。妙な緊張感は解けた気がする。

 

「気を悪くしないで下さいね。不死川さんって普段から粗暴で天邪鬼なところもありますが、ああ見えて物凄く優しい方なんです」

 

 蟲柱の前では『気にしてない』って平然装って誤魔化し笑みしたけど、嘘。多少は傷ついた。でもお館様言ってたもんね、『鬼の末裔だという君は、その存在を否定されるかもしれない』って。だから自分の行動で示していくしかないんだよ。風柱が信用してくれるかは兎も角。

 

「蟲柱」

 

 二日後。重症の隊士を治療し終えたわたしは、診察室にいる蟲柱に声をかけた。

 

「どうしました?」

「あの、わたしもう一度血を飲んでいただきたい人がいまして」

「もう一度? それはどなたですか?」

「炎柱です」

 

 血の治療協力をしてく毎日に何度か過ぎる人がいた。それは炎柱の煉獄さんだ。拒否られたらそこまでだけど、もう一度飲んでほしいって思ってる。末端隊士が柱に会える機会なんてそう無いし、任務に勤しんでたら間も無い。蟲柱に協力する名目で蝶屋敷にご厄介になってる今なら炎柱を訪ねる事が出来るのでは。だからわたしは治療相手を炎柱にってお願いしてみたのである。

 

「そうですね。私からも是非に」

 

 蟲柱は賛成してくれた。一度目から日は経ってるし、間が空き過ぎた二度目の血に効果が有るのかどうかを確かめられるし、何より炎柱の回復を望んでくれてる。

 

「出来ればこの屋敷へ来てから治療してほしいのですが、呼ぶにしてもご自宅にはいないかもしれません」

「任務に出てるんですか?」

「時々は出ていると聞いています。鴉に訊いてみましょう」

 

 蟲柱が鎹鴉を使って居場所を訊いてみたところ、炎柱は現在、刀鍛冶の里とやらにいるんだってさ。

 

「刀鍛冶の里?」

 

 わからなくて頭にハテナ浮かべてたら、蟲柱が詳しく教えてくれた。

 刀鍛冶の里とは、日輪刀を鍛造する刀鍛冶たちが暮らす土地なのだそうだ。 里の場所は極秘も極秘。お館様の御屋敷と同等の厳重さで、行くにはお館様の許可が必要な程だとか。

 

「その里に炎柱が……」

「ええ。里には効能豊富な良質の温泉ありましてね、療養目的で行かれる隊士もいるんですよ」

「蟲柱、炎柱にもう一度血を飲んでくれるよう、此処へ来てくれるようにお願いしに里へ行っても良いでしょうか?」

 

 わたしの申し出に蟲柱は快く承諾してくれた。蟲柱が炎柱に頼んで蝶屋敷へ来てもらった方が早いだろうけど、やっぱこういうのは自分が直接行くべきだと思う。

 そして三日後に許可がおり、里へ行く当日になった。

 

「じゃあ炭治郎くん、先に行ってるね」

「はい! 俺も許可が降りたら向かいます』

 

 診察室後にして炎柱に会いに里へ行く事を炭治郎くんに伝えたら、すみちゃんたちに勧められて自分も鋼鐵塚さんを訪ねに里へ行こうと思ってたんだって。それなら里で炭治郎くんと合流してから一緒に訪ねてみようよって話になってね。まあわたしは炎柱優先目的だから、鋼鐵塚さん訪ねるのはついでになんだけど。

 

「ナツさんお気をつけて」

「いってらっしゃいですー」

「行ってきます!」

 

 炭治郎くんやアオイちゃんたちに見送られ、目隠しをされたわたしは隠に背負われる。

 

「では牡丹の君、出発致します」

「はい、お願いします」

 

 さあ、刀鍛冶の里へ。

 

 

 

 

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