転生した世界で鬼の末裔が生きていくもん   作:あまてら

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人の恋路に世話を焼く①

 

 

 

 

 

 次の日の朝。炎柱はわたしと蜜璃ちゃんに見送られながら、先に里から去って行った。

 

「ねえねえナッちゃん。煉獄さんて、とっても強くて頼り甲斐あって、優しくて素敵な良い殿方よ」

 

 わたしの部屋で一緒に朝食中の蜜璃ちゃんが、二十杯目の大盛りご飯を食べ終えてから言った。ついでにおかわりも頼んで。

 

「うん。そうだね。昨日話して少しだけどわかった気がする」

「私が煉獄さんのお家で師範と継子として過ごした日数は短かったんだけどね、修行の日々は厳しくも楽しかったの」

「そうだったんだ」

「だからね、きっと煉獄さんとなら幸せな──ありがとう!」

 

 途中でおかわり来て食べる始める蜜璃ちゃん。わたしは既に食べ終えてて、温かいお茶をゆっくりと飲みながら話半分に聞いてる。

 

「ああんもう! 良いところでおかわりが来てしまったわ! 困るなあ〜〜」

「ゆっくり食べて良いよ。ご飯は何処へも逃げないし」

「食べたいけど、でも言いたいのーー」

 

 蜜璃ちゃんが言わんとしてることは、わたしには何となくわかってしまっていた。昨晩、炎柱が責任を感じてわたしを妻に云々というのを聴いていた蜜璃ちゃんは、人の恋路というものに大興奮しているのだ。知らない間柄でもなく、師範と慕った炎柱と友人のわたしであるからかな。

 いやさ、恋バナわたしもずっと女友達としたいって憧れ持ってるよ? だからって炎柱を相手にってお勧めされてもさあ。炎柱は責任を感じての発言だし、それにね、そもそもわたしの気持ち的にきゅんとはしなかったし、前世での感情が恋かと問われても違うしねえ。

 

「蜜璃ちゃんにはさ、特別な人ってか気になる人っているの?」

 

 うん、そうだ。朝からもう恋バナしちゃおって訊いてみたら、蜜璃ちゃんが頬をピンクに染めて恥ずかしそうにくねり出した。

 よし、わたしから蜜璃ちゃんに話を変えるの成功。

 

「私のと、特別な人? きゃあ。そ、それはねー」

「え、いるの?」

 

 流石恋柱だなあ。蜜璃ちゃんは『皆んなには内緒にしてね』って耳打ちで教えてくれた。

 

「伊黒さん、かなあ」

 

 ってどなた? 聞いても直ぐにわからなくて思い出そうとする。えーと確か確か……。

 頭の中でぴこーんって来た。あ、思い出したわ。伊黒って名前、一人しか聴いたことないや。

 

「伊黒さんって、もしかして蛇柱?」

「きゃ、きゃあナッちゃん! 声に出しちゃ駄目よ!」

「ご、ごめん。でも意外だね」

 

 蜜璃ちゃんがまさかあの蛇柱に好意持ってるとは驚きだ。

 

「好きになったきっかけとかってあるの?」

「え? す、好きに?」

「うん」

「うふふっ。知りたい?」

「知りたい!」

 

 そうそうこれこれ。こういうやり取りしたかったんだよー。遂に実現しました。

 

「えっとね、伊黒さんは物凄く優しくてね、いつも私がご飯を食べるの遅くてもニコニコ笑って待ってくれるの。ある日に伊黒さんが、私に縞々の長い靴下を贈ってくれて、私本当に嬉しくて。その時にすごーく胸が高鳴ったわ」

 

 蛇柱との思い出を振り返りながら、蜜璃ちゃんは恥ずかしそうに──否、嬉しそうに教えてくれた。

 しかしあの蛇柱が優しいってマジか。想像つかないや。しかもプレゼントって。

 

「手紙のやり取りをしてても素敵な文章で返してくれるしー」

「え、文通してるの?」

 

 これまた意外だ。

 

「うん。伊黒さんから始まってね、そのお返事を送ってから続いてるかな」

「二人は恋人同士なんだね」

「え!?」

「え? 違うの?」

 

 したら蜜璃ちゃんは顔を真っ赤にしてきゃあきゃあバタバタとし始めた。

 

「わわわわ私と伊黒さんは、まだそんな素敵な間柄じゃないわ!」

「でもいつもって、二人でよくご飯食べてるんでしょ? デートじゃなくて? それにプレゼントまで貰ってて、文通までしてるし」

「でででででぇと! ち、ちちち違うわよぉ〜〜! 伊黒さんと偶々空いた時間にお食事しただけなんだからああ! 伊黒さん優しいからあ、私に気を配ってくれただけなのよおお!」

 

 蛇柱が特定の相手、しかも女性に優しくしてるイメージ湧かない。絶対蜜璃ちゃんだけに優しいやつだこれ。

 

「そうかなあ?」

「絶対そうよ!」

「じゃあさ、蜜璃ちゃんの片想いってやつ?」

 

 蜜璃ちゃんは真っ赤な顔から頬をピンクに染め、眉尻を下げて頷いた。

 

「その想いは告げなきゃね」

「え! だ、駄目よそんな! 急に! だってだって!」

 

 恥ずかしそうに両手で顔を隠しながらも蜜璃ちゃんは、『ナッちゃんたら大胆な事を言っちゃうのね!』って口元を緩ませてる。両想いだと思うんだけどなあ。

 って。恋バナときたらさあ、お節介したくなっちゃうんだよねえ。でも我慢我慢。

 

「も、もう! 私の事よりも、今はナッちゃんの話が聞きたいなあ!」

「わたしは、そういう相手いない、からさあ」

「どういう方が好みなの?」

「どういうって……」

 

 自由恋愛したい。好きな人と結婚したい。ヒメミコさまみたいな出会い方も理想。なんて思いながらも、わたしにはそんな相手すら見つかってなかった。

 今まで色々な人と会ってきたけど、一目惚れをされたりはあっても逆は無い。折角女子トークで盛り上がりたいところ、自分の相手がいないという。でもこういうのは無理につくるものじゃないよね。自然に身を任せるしかない系。

 というわけで、恋愛話は早々に切り上げちゃいました。

 朝食後。蜜璃ちゃんの案内で里を見学しつつ、お互いの刀を打った相手を教え合いながら軽い昼食を挟み、休憩してから二人で再び温泉へ入る事になった。

 炎柱との一件があって躊躇してたけど、蜜璃ちゃん曰く『滅多に殿方と鉢合わせにはならないのよ』って、『私がいるから大丈夫』という謎理論で押し通された。

 

「はー、温泉最高!」

 

 温泉に浸かりながら大の字で背伸びする。やっぱ温泉は気持ちが良い。

 

「本当に最高ね。私温泉大好き」

「わたしもー」

 

 初めてこの里の温泉入った時は、後の騒動でゆったり感ゼロになったけど、今回はマジでゆったり温泉に浸れましたわ。

 あまりにもまったり感過ぎて、鬼と戦う日々を過ごす隊士であることを忘れてしまいそう。

 すると何処からか、『ありがとうございました』ってやまびこみたいなのが聴こえて来た。

 

「あら、誰か来たのかしらね? 感謝のやまびこだわ」

 

 何だかドキドキしちゃうって言って、蜜璃ちゃんが岩に腰を下ろした。

 

「身体も温まったし、もう少ししたら出ようか?」

「そうしましょうかね」

 

 すっかり長湯したなあ。もう陽も落ちかけて来てる。ほかほか気分です。温泉から出たわたしたちは浴衣に着替え、元来た道を歩いていた。しかし蜜璃ちゃんの謎理論が通じたのか、本当に男性と温泉の中で鉢合わせになる事は無かった。不思議ね。

 

「ん?」

 

 狭い小道、誰かが温泉へと向かって来るじゃないの。

 

「きっと隊士の誰かじゃないかしら?」

 

 蜜璃ちゃんが小走りにその人へ近寄って行ったから、わたしも自然と右へならえした。隊服を着てるから鬼殺隊隊士なのは間違いない。しかし背が高い男子だ。しかも目つき鋭い。特徴的なのは、鼻面を横一文字に走る大きな傷跡だ。

 

「こんにちは! 初めましてかな? 私、甘露寺蜜璃!」

 

 蜜璃ちゃんはにこにことしながらその目つき悪男子に話しかけてる。

 

「背が大きいね! ねえ、お名前は何ていうのかしら?」

 

 その男子は蜜璃ちゃんに睨みを利かせつつ黙ったままだ。

 

「あれ、確か蝶屋敷で──」

 

 ふとこの男子、いつだったか蝶屋敷ですれ違っていたのを思い出した。わたしがそう言ったら、その男子はわたしにもギョロリと睨みを利かせ、何も応えずに足早に温泉方向へと去って行った。

 

「えええぇ!? 何で何で? どうして? 私に気づいてたよね? 聞こえてたよね? 見てたよねこっち! 何でなのお!」

 

 無視されたショックなのか、蜜璃ちゃんは半泣きになった。

 

「無視だなんて悲しい! あんまりだわ!」

「まあまあ蜜璃ちゃん、そんなに悲しまないでよ。確かに無視は酷いけど、世の中にはさ、そういう人もいるから」

「でもでも! だってえ!」

 

 めそめそと泣く蜜璃ちゃんを慰めつつ、段になった坂を降りてく。

 

「あ! あの子は!」

 

 蜜璃ちゃんがまた誰かを発見して駆ける。その人は炭治郎くんだった。

 

「炭治郎くーーーーん!! 聞いてよおお!」

「わああ!」

 

 炭治郎くんは駆け降りて来た蜜璃ちゃんに気づいて吃驚してて、顔を赤らめながら蜜璃ちゃんの浴衣の掛け衿を掴み、必死に何かを隠そうという動作をしてた。多分、蜜璃ちゃんのおっぱいが揺れて溢れてきそうになるのを阻止しようとしてたみたい。

 

「聞いてよ炭治郎くんーー! 私たち今そこで無視されたの〜〜。挨拶したのに無視だよ〜〜」

 

 泣いて訴える蜜璃ちゃんからわたしへ視線を移した炭治郎くんは、わたしに軽く会釈しながら『誰にですか?』って問う。

 

「わかんないの〜〜! だから名前聞いたのに無視なの! 酷いと思わない?」

 

 私は柱なのに。って、折角の温泉で良い気分が台無しだと蜜璃ちゃんは嘆く。

 

「悲しいわ〜〜! ね? ね? ナッちゃん!」

「う、うん」

 

 わたしにしがみついて涙流する蜜璃ちゃんの頭をぽんぽん撫でてると、炭治郎くんが何かを思い出して言った。

 

「もう直ぐ晩御飯出来るみたいです! 確か松茸ご飯だって言ってましたよ」

 

 それは魔法の言葉みたいだった。

 

「えーーーー! 本当ォ!?」

 

 今の今まで泣いてた蜜璃ちゃんは、表情をパァァって明るくさせて笑顔になっちゃった。何も無かったかのようにるんるん気分。歌を口ずさみながら宿へとスキップで戻る蜜璃ちゃんの後ろ姿を、何とも言えない顔で見つめたわたしと炭治郎くん。

 

「食いしん坊さんですね」

「だね」

 

 晩御飯は炭治郎くんも一緒だった。箱から禰豆子ちゃん出て来てて、わたしを見てにこにこと笑ってくれたし癒されたわ。

 それにしても美味しそうな松茸ご飯。涎出そうです。後で作り方教えてもらおうかな。

 

「お二人は同期だったんですね!」

 

  わたしと蜜璃ちゃんが仲良くいるのを不思議に思ってた炭治郎くん。説明してあげたら、『だからかあ〜〜』って納得してた。ま、接点無さそうに見えるよね。柱と一般隊士だし。 里で再会したばっかだし。

 因みに、蜜璃ちゃんと炭治郎くんとの関わりは柱合会議からってのは前世の記憶にあるので知ってたけど、知らないふりしておいた。

 

「しかし凄いなあ」

 

 何が凄いのかは蜜璃ちゃんの食欲だ。次々と重ねられてく食器に炭治郎くんも驚いてる。禰豆子ちゃんは二人の間に入って不思議そうに蜜璃ちゃんを見つめてた。

 

「そうかなあ? いつもより食べてないけど」

「俺もいっぱい食べて強くなります!」

 

 流石炭治郎くん。傷つかせない優しい回答だな。否、素かも。

 

「あ! そうだ。同期で思い出したんですが、お二人が温泉で会ったのは不死川玄弥という俺の同期でした」

 

 なんとまあ。炭治郎くんはあの後温泉へ向かったみたいで、そこでその当人と一緒になったみたい。

 あれ、苗字が不死川てまさか。と思ってたら、蜜璃ちゃんが『不死川さんの弟でしょ?』って言った。風柱の弟か。確かにあの目の鋭さには血の繋がりを感じるわ。

 

「でも不死川さん、弟はいないって言ってたの。仲悪いのかしら。切ないわね」

 

 へえ。不仲なのか。知らなかったわ。蜜璃ちゃんは仲良い五人姉弟なのだそうで、仲悪い兄弟の複雑感を理解出来ない様子。かくいうわたしも兄姉と仲良かったので、どちらかといえば蜜璃ちゃんと同じくらい理解出来てない。前世でも然りだった。

 で、その不死川玄弥くんなんだけど、晩御飯の席に彼は現れなかったのよね。聞いた話によると、この里へ来てから全然ご飯食べてないんだってさ。なので炭治郎くんが心配して『後で握り飯でも持って行こうかな』って言って、『じゃあそうしてあげよう』ってなった。

 

「玄弥くんいないわね」

 

 晩御飯後。おにぎり持って、蜜璃ちゃんが鬼殺隊へ入った恋柱らしい乙女理由を聞きながら風柱の弟の部屋へと着いたわたしたち。その部屋には不死川玄弥くんの姿は無かった。

 どこ行ったんだろ。

 

「甘露寺様」

 

 そこへ隠の人が現れた。どうやら蜜璃ちゃんの刀がもう直ぐ研ぎ終わるんだそう。

 

「あらー。もう行かなきゃいけないみたい」

 

 少し寂しい気分。現実忘れかけてた。一気に引き戻された感じ。見送ろうとしたけど、里から出るのは真夜中になりそうだからって、この場で暫しお別れする事になった。

 

「ナッちゃん、炭治郎くん。今度また、生きて会えるかわからないけど、頑張りましょうね」

「蜜璃ちゃん……」

 

 ほろりとさせるようなこと言っちゃうんだもん。哀しく思ってたわたしを察して、両手をぎゅっと握ってくれる蜜璃ちゃん。『ナッちゃんにお手紙を出すわ』って可愛い笑顔で言うものだから、わたしも笑顔で『わたしも出すね』って握り返した。

 

「炭治郎くん、あなたは上弦の鬼と戦って生き残った。それって凄い経験なんだから。実際に体感して得たものは、これ以上無い程の価値があるの。五年分十年分の修行に匹敵するわ。今の炭治郎くんは前よりももっと、ずっと強くなってる」

 

 甘露寺蜜璃は竈門兄弟を応援してる。蜜璃ちゃんはわたしたちをほわほわにさせました。なんかこう説明しにくいんだけど、やっぱ柱の器だわって感動しちゃいました。

 

「ありがとうございます! でもまだまだです俺は。宇髄さんに"勝たせてもらった"だけですから」

 

 わあ謙虚。炭治郎くん主人公してるわ。てかわたしのモブ感凄い。大した台詞浮かばないや。そんな主人公に蜜璃ちゃんもきゅんとして、炭治郎くんにこっそり耳打ちすると、『じゃあね!』って明るくきらきらしながら隠の人と一緒に去って行った。

 

「行っちゃったね、蜜璃ちゃん」

 

 禰豆子ちゃんと二人で蜜璃ちゃんに手を振ってたら、固まって動かなかった炭治郎くんが盛大に鼻血を出して吃驚した。

 

「だ、大丈夫?」

「だだ! 大丈夫れす!」

 

 持ってた手拭いで鼻を押さえる炭治郎くん。一体蜜璃ちゃんは何をこそったのか。鼻血が出る程の内容なのか。わたしは敢えて聞かないでおいた。

 

「あ、炭治郎くん。鋼鐵塚さんの事聞いた?」

 

 ふと、炭治郎くんが里に来たら一緒に鋼鐵塚さん訪ねる件を思い出す。

 

「行方不明、って聞きました」

「まだ見つかってないんだね」

 

 長は『ゆっくり待ってて』って言ってたけども、いつまで待てばいいのやら。

 

「もし見つかっても鋼鐵塚さんが拒否したら、新たに違う刀鍛冶を紹介してくれるそうですよ」

「え、そうなの?」

「俺としては是非とも鋼鐵塚さんにやってもらいたいんですが」

 

 炭治郎くんは鋼鐵塚さんを凄い信頼してるみたい。まあそうだろうね。わたし刀の事は全然わからないけど、主人公の刀鍛冶なんだもん。絶対凄いんだろうと思う。だから尚の事、わたしの刀も担当してんの何でよってなる。

 喜んでるって長は言ってたけども、それはマジなんだろうか。炭治郎くんと比べて色もうっすいのにさ。

 本人に会って拒否展開あればラッキーという事で、新しい刀鍛冶紹介流れを願おう。

 

「鋼鐵塚さん見つかるまで炭治郎くんどうするの?」

「俺はこの里で鍛練をさせてもらおうと考えてます」

「そっか。だよね」

 

 ぐうたら里に居たらマズイよねそれは。仕方ない。わたしも体力落とさないように鍛練しよ。

 ってな感じで、明日からわたしと炭治郎くんは、この里で鍛練しつつ鋼鐵塚さん待ちをする事にしました。

 

 

 

 

 

 

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