体を誰かに揺さぶられ、名前を呼ばれた。
あれ、わたし確か──。
「八重野さん! 八重野さん!」
「────あ?」
目を開けると、ヒビ入ってて少し欠けたひょっとこ面の鉄穴森さんがいた。わたしを揺さぶってたの鉄穴森さんだったのか。
「八重野さん! 良かった! お怪我はありませんか?」
「は、はい。全く」
上半身を起こして首元を押さえながらポキポキ調整。うん、大丈夫だ。
「鉄穴森さんこそお怪我は?」
「私は……、平気ですよー! うん、この通り」
元気アピールでそう言うけど、鉄穴森さん息荒いし小刻みに震えてるし胸の辺り深く裂かれてて重症っぽい。絶対大丈夫じゃない筈。
小屋だった建物は完全に崩壊してて、わたしは離れた地面に寝かされてたワケだけども……。
あ、霞柱。それに小鉄くんと鋼鐵塚さんは? 後、刀は?
周りに目をやれば、霞柱と玉壺が対峙してた。で、少し離れた場所で小鉄くんがうつ伏せに倒れてる。
「小鉄くん!」
小鉄くんの安否が気になった。そしたら声にならない悲鳴を上げて鉄穴森さんが指差す。まだいた出目金が小鉄くんに向かって行ってるじゃないの。
マズイ。霞柱は玉壺と戦ってるから、直ぐにでも自分が動かなきゃ。
わたしの刀どこなの。ってこの数秒間で全力で見回してみた。
「あった!」
崩壊した小屋の側に、それらしき刀の柄部分が見えた。多分、うん、わたしのだ。
わたしはなんとか瞬時に動いて、壊れた小屋の下敷きになってた刀を引っこ抜いた。
「水の呼吸 弐ノ型 水車!!!」
この里に来てキレ良くする為にやってた成果なのかはわからないけど、今までで一番上手くいった気がする。体にくっ付いてる壺ごと叩き割るように頭を切れば、小鉄くんを狙ってた出目金が倒れて塵と消えた。
「小鉄少年!!!」
よろよろの鉄穴森さんに代わって、わたしが小鉄くんを抱き起こす。まだ息はある。
「鉄穴森さん、この場から離れましょう!」
「は、はいい!!」
霞柱がこっちを気にしていたのかはわからないけど、玉壺を誘導するかの様に移動し、わたし達から離れてくれた。今のうちだ。
背負った小鉄くんを戦闘場からちょい遠く離れた場の木の下に下ろすと、鉄穴森さんも傍の木に寄りかかりながら地面へ座り込んだ。
「小鉄少年の容体は、大丈夫なんでしょうか?」
「重症だけど、大丈夫。わたしがいますから」
清潔な器具なんて持って来てない。まさか里で血を使うなんて思ってなかったからね。隊士以外の人に飲ませて良いのかって一瞬だけ考えてみたけど、緊急事態だし、しょうがない。後で報告すれば良いでしょう。
「ごめんね。直ぐに良くなるから」
わたしは自分の手首を噛みちぎり(激痛)、気絶してる小鉄くんのズレたお面から覗く口の中へ血を流し入れた。
「八重野さん、な、何を?」
「これで小鉄くん元気になりますから」
「ええええ!?」
「わたし稀血なので。ささっ、鉄穴森さんも飲んで下さい」
「やややや! でも私、ちょ、ちょ、ちょっと!」
血を飲んでなんて言われて当たり前に戸惑う鉄穴森さんに『生きたいですよね?』って訊いたら、鉄穴森さんは数秒躊躇しつつ『の、飲みます!』って了承してくれた。
「おおお! これは面妖な!」
はい、鉄穴森さん完全回復。何度も傷があったところを確認したり、わたしを見つめて不思議がってる様子。
「ん……。あれ? 痛くない」
「小鉄少年!!」
意識を戻した小鉄くんが回復した自身に驚いてる。
「何で、俺……」
「驚いたでしょう? それはですねー」
回復した事を疑問に思った小鉄くんに鉄穴森さんが嬉しそうに説明しようとした時だ。
「あ! あの人は?」
ここで小鉄くんの言うあの人とは、霞柱だと思う。
「まだ玉壺と戦ってるよ」
わたしは戦いの場の方向を見た。上弦だからあのキモいのも強いんだろうけど、霞柱だって天才剣士なんでしょ。簡単にやられはしないって絶対に。
「大丈夫だから、此処で鉄穴森さんと一緒にいて」
様子を見てこようと立ち上がる。
「鋼鐵塚さんは?」
そうだ鋼鐵塚さん。鉄穴森さんに言われて再度鋼鐵塚さんを思い出す。
「え、一体何処に?」
「ええと、小屋が破壊された時に私達吹き飛ばされまして」
たまたま近くに倒れてたわたしを何とか草陰へ運んだ鉄穴森さんは、鋼鐵塚さんがまだ小屋付近にいるのではないかと言う。
「ああああ、鋼鐵塚さん無事だと良いのですが!」
「わたしが探して此処へ連れて来ますから、お二人は此処から離れないで下さい!」
主人公の刀鍛冶なんだから絶対生きてますように。そう祈りながら、わたしは柱と上限の鬼の戦い場へと戻った。
「それは貴様のオオオ! 目玉が腐っているからだろうがああああああああ!!! 私の壺のオオオ、どこが歪んでいるんだああああああアア!!」
なんか知らないけど玉壺が霞柱にブチ切れてる。わたしは邪魔にならないように身を潜めて鋼鐵塚さんを探した。
「あ、いた!」
戦い場からそんな離れて無い場所に鋼鐵塚さんを発見したんだけど、まだ刀研いでて吃驚したわ。
こんな状況で!? 直ぐ横で上弦の鬼と柱が戦ってるのに?
鋼鐵塚さん見たら衣服が切れてて血も滲んでるから怪我してるみたい。
「鋼鐵塚さん! 此処は危ないですから離れましょう」
後ろから呼んでも反応無し。ずっと研いでる。
「鋼鐵塚さん? 聞こえてませんか?」
表に向き直って様子を伺おうとしてわたしは唖然とした。
「────は?」
仮面が無い状態で刀研いでるその人は、多分鋼鐵塚さんだと思われるんだろうけど、初めて見るガチのイケメン容姿に驚愕しました。
えええ。鋼鐵塚さんの素顔ってイケメンなの? 音柱程では無いけどさ、まさかイケメン枠とは思いもよらなかったなー。
って今は面に注目してる場合じゃない。
鋼鐵塚さんは顔も身体も傷だらけで、左目に深い傷を負ってた。
「鋼鐵塚さん酷い怪我です! 早く逃げなきゃ!」
なのに鋼鐵塚さんは無反応。刀にどんだけ集中してるんだか。凄過ぎる。その集中力には尊敬したい。マジでうん。だけどもさあ、この場所は全然安全じゃない。霞柱と玉壺がこっちに来て戦い始めるかもしれないし。
「鋼鐵塚さん!」
何回肩を揺さぶってみても鋼鐵塚さんは刀から目を離さないしずっと研いでる。マジありえないんだけど。
わたしが困り果ててたその時。
「『血鬼術 "陣殺魚鱗"』」
玉壺の声が響いたと思ったら、周辺の木々が交互に倒れ始めた。なんか血気術の技が当たったのかも。
「だわああああ!! 鋼鐵塚さん危ない!」
こっちにある木まで倒れてきそうになって、わたしは鋼鐵塚さんを突き飛ばす。セーフ。判断が早かったおかげで下敷きは免れた。
「ぎ、ぎゃあごめんなさい!」
わたしに飛ばされて地面へ顔面から着いちゃった鋼鐵塚さんを見て顔面蒼白。
コロサレル。マズイ。
と思って身構えるけど、鋼鐵塚さんは鼻血を出しながら何事も無かったかのように研磨石を丁寧に置いて刀研ぎ始めちゃった。
マジか。ガチか。まだ研こうとするなんて異常過ぎるわ。
そしたらなんかもわっとした何かを感じた。直感的に『霞柱だ』って思った。
で、ゴロロって地面に首だけになった玉壺が転がって来てビビると同時に、珍しい柱の頚斬り観れなかったのが残念に思う。柱、やっぱ凄いや。
「くそおおおおお!!! あってはならぬことだ! 人間の分際でこの玉壺様の頚をよくもおぉ!!」
頚切れたっていうのにさ、玉壺はしぶとーく罵詈雑言を浴びせてくんの。本当に腹立つくらい聞くに堪えない暴言の数々。
「この下等な蛆虫共っ……」
その時、霞柱が玉壺の頚を木っ端微塵に斬り刻んだ。凄っ。
「もういいからさ、早く地獄に行ってくれないかな?」
塵になって消えていく玉壺を横目に、わたしは霞柱のもとへと走る。何も無かったような無っぽい表情してるけどさ、上弦との戦いで負った傷のせいで、霞柱の身体は今にも限界に見えたからだ。
あ──、痣?
徐々に消えてく。霞柱の顔に何か見えた。形は違うけど。まるであの時の、音柱と一緒に上弦の陸の蟷螂鬼の頚を斬ろうとした、あの炭治郎くんの痣みたいな赫い色の痣だった。
「か、霞柱!」
大丈夫ですかって聞こうとしたら、遠くから『ご無事ですかああ?』って鉄穴森さんが全力で走って来た。戦いをこっそり見てたみたいで、今なら行けるって判断してやって来たっぽい。待ってて言ったんだけど様子気になるよね。
「平気。大丈夫。凄く気分が良いんだ。それに直ぐ、炭治郎達の所へ行かないと」
そうは言うけど、霞柱はめちゃくちゃ顔色悪い。鉄穴森さんが心配しても『全然大丈夫』って口角上げて見せる。絶対大丈夫じゃ無い筈。
「霞柱、ヤバいです。顔真っ青だし身体震えてます!」
「いいから。君達はさ、こ、こて、つくんのところへ……」
「小鉄少年なら無事です! 八重野さんが助けて下さったので!」
「ほ、本当に?」
「ガチです! 小鉄くん無事に全回復しましたよ! わたしの血で! 霞柱もご存知ですよね? なのでほら! 霞柱も飲んで下さい!」
わたしが左手首を差し出してアピールすると、限界に達した霞柱は口から泡を吹いて倒れちゃった。
「うわあああー!! 時透殿ーーーーっ!!」
「霞柱!」
「泡が詰まって危ない! 八重野さんお助けを!」
「え! あ! ですね! あでも泡を何とかしないと!」
あたふたとするわたしと鉄穴森さん。ずーっと刀研いでる鋼鐵塚さん。いくら呼んでもガン無視だからもう放置で。
「横向きにしましょう!」
「こ、小鉄くん!」
「小鉄少年!」
遅れてやって来た小鉄くんが、慌てるわたし達の冷静救世主!
小鉄くんの指示に従って霞柱を横にすれば、泡詰まらせは回避された。
あー危なかった。よし、これなら霞柱に血を飲んでもらって回復を……。
「た、炭治郎が……」
袖で口を拭った霞柱が、抱き起こそうとしたわたしの手を振り払い、弱った身体を奮い起こして立ち上がった。
「まだ終わってない」
「霞柱?」
霞柱はさっきも炭治郎くんの事を気にしてた。そうだ。主人公は炭治郎くんだから、絶対炭治郎くんのとこにも鬼が出て来てるわな。主人公側が本編ならこっちは裏側ってやつ?
「まだ鬼が?」
鉄穴森さんの問いに霞柱は頷く。『まだ上弦の鬼は残ってる』それを聞いてビビる。まさかこの里に上弦鬼が二体も現れるなんて。
「だから、だからこんな所で休んでる間なんて無いんだ!」
「霞柱!」
気力を振り絞って向かったのは鋼鐵塚さんのもと。何すんのかと思ったら、霞柱は鋼鐵塚さんを押し飛ばして研がれてる最中の刀を奪い取っちゃった。
「え!!?」
わたし達は声を揃えて驚く。だって霞柱、まだ体力あったのかっていうくらいの速さで駆け走ったからだ。
「このやろおおおあああっ!」
何も発しなかった鋼鐵塚さんが慌てて立ち上がって霞柱を追いかける。
「わ、私達も追いかけましょう!」
「はい!!」
霞柱の行動に吃驚しながらも、わたし達は霞柱を見失わないように同じく続けと追いかけた。
「クソガキいいい! 返せえええ!」
鋼鐵塚さんの声が轟く。必死になって霞柱を追うその姿に背筋寒くなる。霞柱はっや。
「炭治郎ーーーーっ!」
霞柱が立ち止まるのは、荒れ果てた建物の近く。この先を進んだら宿があったと思う。
「時透殿!」
怪我人を運んでいた里の住人が二人いて、宿が崩壊しているのと、そこで蜜璃ちゃんが鬼と戦闘中ってのを知らせてくれた。大きな音がズドンズドンって地響き伝わってくるから、凄いデカいのと蜜璃ちゃん戦ってるのかも。やっぱ上弦二体なら柱二人も出番ですわな。そりゃ。
「竈門殿なら、あっちへ走って行きましたよ!」
指差す方向へ走ろうとした霞柱。でも鋼鐵塚さんが、羽交い締めして抑えた鉄穴森さんを投げ飛ばして霞柱に襲いかかった。
「待てやああああああ!!!!」
どんなに怪我してても柱ってマジで凄いや。霞柱は鋼鐵塚さんを避け、みぞおちを蹴って吹っ飛ばしちゃった。
「わわっ! 鋼鐵塚さん!!」
鉄穴森さんが鋼鐵塚さんを心配して駆け寄る。その間に霞柱は炭治郎くんがいるであろう方向へ向かって行った。
「霞柱追います!」
わたしは霞柱を追いかける。小鉄くんも一緒に。
途中、蜜璃ちゃんと鬼の戦いが少し見えた。気にはなるけど、霞柱が先だ。頑張って、蜜璃ちゃん!
ずっと先の方向で何かの音がする。きっと炭治郎くんだと思う。姿はまだ見えない。
「炭治郎ーー!!」
息の荒い霞柱にマジの限界遂に来た。足がもつれかけてスピードが落ちてる。
「霞柱待って下さい! わたしの血を飲めば!」
おっせー足で追いかけるわたしの足もへろつきかける。ふと空へ目を向けたら、明るい気がした。朝が近い。
「た、炭治郎!」
霞柱がへろへろになって立ち止まった。断崖になってて開けた場所が見えてきた。
「炭治郎ーーーー!! 使え! それを使え!!」
炭治郎くんを見つけたのか、霞柱は鋼鐵塚さんから奪い取った刀を下へ投げた。
やっと追いついた瞬間、誰かが走って叫んだ。
「返せえ! 殺すぞ使うな!! 第一段階までしか研いでないんだ返せ!!」
鋼鐵塚さんだ。執念だ。霞柱の首を掴む。鉄穴森さんの必死な抑えも抵抗して暴れてる。
「夜明けが近い! 逃げられるぞ!」
炭治郎くんがいた。遠くで禰豆子ちゃんも見える。走る鬼も。あれがもう一体の上弦なのかな。炭治郎くんは受け取った刀で鬼の頚を斬った。炎柱とは似て非なる凄い炎のエフェクト見えた。
「クソガキいい!」
「痛いっ」
したら鋼鐵塚さんがかなり強いグーパンで霞柱の頭を殴る。
「霞柱!」
「鋼鐵塚さん! 落ち着いて!」
わたしや鉄穴森さん、小鉄くんで鋼鐵塚さんを止めるけど、再びの霞柱の顔面向かって殴ろうとするから慌てて霞柱を庇おうと覆い被さる。
「駄目ーーっ!」
「わあああ! いけません! 鋼鐵塚さん!!」
殴られる覚悟したけど、間があって殴られる衝撃も無かった。
「離せえええーー!」
鉄穴森さんと小鉄くんが鋼鐵塚さんを二人がかりで抑えてる。それよりも霞柱だ。気にして見たら、霞柱は事切れたように気絶してた。
「霞柱!」
わたしは焦って手首を噛みちぎり、霞柱の口へ流し入れる。その間、空は明るみを増して日が昇りかけてく。
血の効力が。手首の噛みちぎった傷が消えそうで消えない。痛い。霞柱の傷も治ってんのかわかんない状態。荒い息はしてないからまだ大事にはなってなさそう。
あ。朝が。炭治郎くんたちの様子に目を向ける。忘れちゃいけない、禰豆子ちゃんが。
開けた場所には隠れる物が無かった。しかも上弦の鬼は頚を斬られたのに身体は動いてて、里の住人に向かって走ってる。頚が弱点じゃないの? これはマズイ。
「炭治郎く────」
炭治郎くんは禰豆子ちゃんの側にいた。覆い被さってる。朝日から守る為だ。
里の住人か妹か。炭治郎くんに無慈悲な選択が迫る。崖から下りようとする玄弥くんが見える。間に合わない。
「わた──っ」
わたしがって思って立ち上がろうとしたら頭がふらついた。傷口が塞がらない手首から血が流れ過ぎてて焦って手で押さえた。ヤバい。止血しなきゃ。焦る。
こんなので時間取られて、下りてもこのままじゃ間に合わない。
その時だった。覆い被さってた炭治郎くんが禰豆子ちゃんに飛ばされて、それで炭治郎くんが鬼に向かって走る。
「命をもって、罪を償え!!!」
炭治郎くんは、心臓を斬るように身体を叩っ斬った。
塵になる二体目の上弦の鬼。その場に崩れ落ちて座り込む炭治郎くんは、泣いてた。
「禰豆子ちゃん……。え?」
陽の光に塵となってしまう筈だった禰豆子ちゃんは、その場に立ってた。
他の鬼とは違うって禰豆子ちゃんは言われてた。確かにそうだ。主人公の妹だからってのもあると思う。
禰豆子ちゃんは、太陽を克服した。
「う……」
霞柱が目を覚ました。
「霞柱!」
わたしが抱き起こすと、霞柱と目が合う。少しだけでも血が効いたらしく、顔色はさっきより幾分マシに見えた。
「炭治郎は?」
「無事です! 上弦の鬼も倒しましたし、禰豆子ちゃんも太陽に当たっても平気みたいで!」
わたしの手を借りてよろりと立ち上がった霞柱は、どこかホッとした表情で抱き合って喜ぶ炭治郎くんと禰豆子ちゃんを見つめてた。
「うおおい離せええ!!」
忘れてた。鋼鐵塚さんは鉄穴森さんと小鉄くんからまだ抑えられてる。
「下りる」
霞柱がそう言うもんで、わたしは霞柱の身体を支えて歩き、炭治郎くんたちがいる崖下へと迂回して向かった。
「炭治郎、大丈夫?」
下で炭治郎くんと禰豆子ちゃん、玄弥くんと合流。禰豆子ちゃんに背負われた炭治郎くんは、額から血を流して疲れ切った顔してた。禰豆子ちゃんは変わらずで、いつもと違うのは太陽を浴びてる事かな。玄弥くんはぼろぼろだったけど、なんともないみたいで良かった。
「時透くん、良かった、無事で……。ナツさんも。あの、時透くん、刀、ありがとう」
「こっちこそありがとう炭治郎。キミのおかげで大切なものを取り戻したよ」
二人のほわほわしたあったかいものを微笑ましく思ってると、なんか悪寒した。
「おい、炭治郎! 俺の刀はどうしたああ?」
右手に刀を持って怒りに震えてる鋼鐵塚さんが現れた。側にはなだめてる鉄穴森さんと、やれやれと呆れてる小鉄くんもいた。
あ、多分持ってる刀わたしのだ。さっきの場所で霞柱支える為に刀置いて来てしまってたんだよなあ、しまったわー。
炭治郎くんの刀は助けた里の刀鍛冶の人が持って立ってたんだけど、鋼鐵塚さんは怒りで見えてなくて、炭治郎くんを背負う禰豆子ちゃんと共に追いかけっこみたいになった。
良かったーー。炭治郎くんに集中してもらってわたしの刀の事は隅に置いててもらおうって息潜めてたら、鋼鐵塚さんに『それと八重野!』って名前呼ばれて軽く悲鳴上げちゃった。
「お前よくも刀を勝手に使いやがったな!」
「ひいっ! それは仕方なく……っ。それにもう仕上がってるって聞いたんで」
炭治郎くんから方向転換してこちらへ向かって来そうだったので、わたしは霞柱を盾に身を縮こませる。
「誰から聞いたアア?」
「え、えっと、鉄穴森さんから……」
わたしや炭治郎くんから標的を鉄穴森さんへ変更した鋼鐵塚さんは、鉄穴森さんに締め技かけてた。犠牲にしてごめんなさい鉄穴森さん。
「みんなああああ!」
知った明るい声が。蜜璃ちゃんだ。勝利と皆んなが無事に生きてた事に涙して喜んだ蜜璃ちゃんは、わたし達をまとめて抱き締める。
本当に良かった。上弦二体を相手して生き延びる事が出来るなんて、マジでガチで凄い。嬉しいよね。
皆んなで涙して皆んなで大いに喜んだ。
刀鍛冶の里の襲撃は最小限に留まった。マジ上弦二体もいて奇跡みたいなものだってさ。復興して、別の場所に移転するみたい。此処は鬼に知られちゃったからね。
蜜璃ちゃんと霞柱は先に里を出て行った。蝶屋敷で治療するから、二人とはまた後で会う事になる。
重症度が高い炭治郎くんは少し休んでから出るみたいで、炭治郎くんとも『また蝶屋敷で』って一旦お別れ。
「どうもお世話になりました」
「いんやぁ、お嬢ちゃんが無事で本当に良かった良かった」
里を出る前に長や里の人にお別れの挨拶。
「蛍も見つかって、担当も継続で本当に良かった良かった」
「はははっ……」
苦笑い。替えてもらおうとしたけど、残念ながら鉄尾さんはお亡くなりになってしまったから、鋼鐵塚さんを続行せざるを得ない。それに他の刀鍛冶の人にそれとなく声かけるも(里から出る直前まで)謎の悪寒するし、切り出そうとしたら話逸らされたわ。はあ。
「鉄穴森さん、小鉄くん、お体はもう平気ですか?」
「八重野さん、あなたのおかげでとても元気です。どうもありがとうございました」
「あ、ありがとうご、ございます!」
小鉄くんはまだ恥ずかしそうに鉄穴森さんの背に隠れてる。照れ屋さんね。
「八重野さんこそ、手の傷は?」
鉄穴森さんが言うのは、包帯が巻かれたわたしの手首。痛いのは確か。
「こんなの、夜になれば直ぐ治りますから。それよりもお二人が無事で良かった。あ、鋼鐵塚さんは大丈夫そうですか?」
姿が見えないので具合悪いのかなって思った。傷だらけだったしね。
「ああ、あの人なら──うん、まあ大丈夫でしょう」
大丈夫なら良いや。鉄穴森さんがどっか隅見た気がするけどあえて知らないフリしよ。それに刀の件でやんや言われそうだから居なくていいや。仕上がった刀(早くも)ちょいかけちゃったらしくてさ、わたしマジコロ秒だったわ。後が恐い。
「それでは皆さん、お元気で!」
挨拶に集まってくれた里の皆んなに深くお辞儀してお別れ。目隠しされたわたしは、隠の人に背負われて里を後にするのでした。