転生した世界で鬼の末裔が生きていくもん   作:あまてら

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流れる水の如く


 

 

 

 

 禰豆子ちゃんが太陽を克服してからというもの、あれだけ蔓延っていた鬼が一切姿を見せなくなった。嵐の前の静けさってやつ?

 鬼舞辻無惨がこのまま大人しくなるなんて絶対無いと思うし、禰豆子ちゃんを狙ってくるかもしれない。

 で、柱達が集められた緊急柱合会議で決まった事があった。

 それは特別な訓練。柱より下の階級の隊士達が、順番に巡って柱に稽古をつけてもらうんですって。その名も"柱稽古"。

 基本柱ってのは継子以外に稽古つけないし、普段から忙し過ぎるから下っ端にまで相手する間も無いの。めっちゃレアよ。

 それでね、冒頭でも言ったんだけど、鬼が出ないこの今、なーんにもしないってワケにはいかないのです。ならばどうするかって? 

 そりゃあ有効に活用しましょうってなりーので、柱稽古なんですよ。勿論夜の警備は欠かさずに、稽古は日中のみで行われるんだってさ。

 そうそう、蜜璃ちゃんや霞柱、炭治郎くんにわたしの血の治療をしなかった理由を蟲柱から後で教えてもらったんだけど、刀鍛冶の里での上弦の鬼との戦いで蜜璃ちゃん、霞柱の二人に独特な紋様の痣が出たんだって。

 霞柱の顔に一瞬見えた気がしたアレがそうだったのかな?

 戦国時代、始まりの呼吸の剣士達が鬼の紋様に似た痣を発現したって伝承があったみたいでね、曖昧だったり色々あってまあ大々的に知らされる事はなかったらしいよ。今回その伝承の様な痣が柱に発現したってので、あまね様から柱の皆さんに伝えられたそうです。

 

 "痣の者"が一人現れると、共鳴して周りの者にも痣が現れる。

 

 ってので、一番始めに現れたのは誰か。それが炭治郎くんなんだって。

 なので痣の者の三人の身体の様子を観る為に? 血の治療しなかったとさ。

 

「やっぱりやだああ! 俺は禰豆子ちゃんと一緒にいるうう!!」

 

 早速稽古へと向かわなきゃいけない善逸くんが、蝶屋敷の出入り口で嘆いてわめき散らす。さっき炭治郎くんのいる病室から出て来た時はニコニコだったのに。禰豆子ちゃんが『いってらっしゃい』って言ったらこうなっちゃったんだよね。

 カナヲちゃんと伊之助くんはというと、そんな善逸くんを無視してさっさっと先に出発しちゃいました。

 

「善逸さん、稽古頑張って下さい!」

「頑張ってくださーい!!」

「誰かの稽古場で会ったらよろしくねー!」

「が、がんばってー」

 

 でも結局は、三人娘とアオイちゃん、わたしと禰豆子ちゃんからエールを送られて、善逸くんは渋々稽古場へと向かって行きました。

 

「さてと……」

 

 そろそろ行きますか。当たり前だけど、わたしも隊士だから稽古はある。でもその前に、先に行っておかないといけない場所がある。それは────。

 

「ごめん下さい! 水柱がいらっしゃると聞いて尋ねて参りました! 八重野です!」

 

 わたしがやって来たのは水柱邸です。何で此処にいるかって? それはですね、伊之助くんが病室の窓からダイナミック入室してから蟲柱に怒られてる最中に、なんとお館様からお手紙が来たからなのです。

 お館様は御自分の身体が大変なのに、禰豆子ちゃん同様にわたしも無惨に狙われてる対象だから夜に出歩かないようにって気づかってくれてね、本当にそれは嬉しかった。

 で、そこからどうやって水柱の邸宅に行く事になるんだって話ですが、内容を大体で説明するとね、今回の柱稽古に水柱は何故か参加しようとしないで後ろ向きなんだって。

 だから動けなくなった自分の代わりに、水柱と話をして励まして前向きにしてほしいみたい。一丸となってやらなきゃって時だもんね、今は。

 でも何でわたしなの。接点ないよ。炭治郎くんなら同門の兄弟子でしょって思ってたんだけど、実は間接的にはあった。お館様のお手紙での情報によるとね、そよ婆と鱗滝さんて、その当時の水柱のもとで継子してたんだって。

 ほえー、知らなかったわあ。そよ婆ったら教えてくれないんだもん。

 だけども間接的過ぎる。

 

「すみませーん!」

 

 お館様の頼みは断れません。はあ、少しでも早く水柱が柱稽古参加してくれる気になれたら良いな。

 いやでもさー、マジで水柱の事わからなくて此処へ来る前に炭治郎くんに水柱について訊いてみたんだよね。そしたら『つかみどころの無い人』って教えてくれた。わあミステリアス。

 

「すみません水柱ーー?」

 

 着いて三十分位経ったけど、水柱は呼んでも出て来ません。

 

「ご在宅なのはわかっていますので伺いましたーー!」

 

 しーん、だ。マジで水柱出て来ない。中にいるのは確か。まさか居留守? 門扉を強く何度か叩いてみる。でも出て来ない。

 えー。どうしよ。数分考える。もしもわたしじゃなく炭治郎くんが来てたなら、めげずに門扉バァンって勝手に開けて中へ入っちゃいそう。

 わたしはそんな勇気無い。今もただでさえ緊張してんだから。

 

「はぁ」

 

 自然と溜め息。空は曇り空。あ、雨降ってきた最悪。小降りから強めになった。傘持って来てない。門の僅かな屋根の下に居るおかげでずぶ濡れにはならないけど、横殴りきたら濡れる。

 本日は諦めて近くにある藤の花の家に行こうかなって考えが過ぎる。 でも────。

 

「水柱あああ! 来てるのわかってるくせに居留守は酷いと思います!」

 

 気合いの声。取り立て屋の如く門扉を叩く。その手には力入ります。

 

「みーずーばーしーらああああ!! あーけーてー!! あーけてくーださいなあああああ!!」

 

 半ばヤケクソだった。でも、水柱は出て来ない。

 疲れた。わたしは叩く手を止めて門扉に背をもたれた。

 水柱と打ち解ける以前の問題。話の中弛みじゃん完全に。そういうものか。うん、上手い事進まないもんだね。

 それから一時間、立ちっぱなしでなーんも考えずにぼーっと雨上がるの待った。もう今日は良いやって切り替えたからだ。

 

 あ、小雨になって来た。藤の花の家行こうっと。

 

 漸く雨が上がりかけたから、そのタイミングで水柱邸から去ろうとしたその時だった。

 ゆっくりと脇戸が開かれると、顔を出した水柱がわたしを見て僅かにギョッとした。まだ居たのかっていう顔だ。

 

「あ、水柱」

 

 水柱はじいっとわたしを見て、空を見る。そしてボソリと一言。

 

「水柱は此処にいない」

「……え?」

 

 水柱の言ってる意味がわからなくて戸惑った。唐突だけど、もしかして謎かけみたいなのしてきたのかなって思ったりした。水柱だから、末端隊士のわたしに何かを試してるのかもしれないって。

 この頃曖昧になってきた前世の記憶での水柱って、『生殺なんちゃらの権を他人になんとか』って名台詞と、後に炭治郎くんが鬼殺隊へ入る切っ掛けになった人物。彼がいなければ物語が始まらなかったと言える、キーマン的存在。

 の、筈。それ以上はマジで薄れてきてて覚えてない。でも柱なんだから凄い人よ。

 

「水柱あの、」

「違う」

「いやあの水柱」

 

 試される自分がどう判断して良いか迷う。

 

「違う」

 

 あれー。返し失敗したって思った。謎かけなんて無理だよ。

 

「す、すみません」

 

 とりあえず謝る。正解がわからないけど。

 

「本日、水柱のもとへ来たのには理由があって──」

「だから俺は水柱ではない」

「────は?」

 

 呆気だ。目の前にいる水柱が『俺は水柱ではない』って否定するなんて、本当に意味がわからな過ぎる。しかし真顔だ。

 

「わたしを試してるとか、ですかね?」

 

 水柱は数秒黙ると、『試してなどいない』って返してきた。

 

「ですが水柱」

「聞こえなかったのか? 俺は違う」

 

 今度はこっちが数秒黙る。

 まてよ。これってさ、試されてなんていないのでは?

 水柱は本当に自分を『水柱じゃない』って言ってるのかな?

 

「雨も上がった今、お前がこの場に留まる理由も無い。去れ」

 

 いや去れって言われましても。わたしは困った。まあ、今日はもう期待薄で藤の花の家行こうとしてたところではあったけどね。

 ここは素直に去るべきか。いやでもお館様から頼まれてるからね、うーん。せめて何か弾む会話でもして……。

 

「……そうだ」

 

 わたしはふと思いついた。

 

「水柱、甘い物お好きですか?」

「俺は水柱では──」

「好きですよね? 多分好きだと思うんです。行きましょう、近くに美味しそうな甘味処があるんです」

「ことわ──」

「まあまあそう言わずに。行きましょー行きましょー」

 

 半ば強引である。わたしは水柱の腕を引っ張って脇戸から外へ出すと、背中を押して甘味処へと水柱を連れ出した。

 取り敢えずはどうにでもなれや精神だ。

 

「実は蜜璃ちゃんからこのお店の草団子が最高に美味しくて評判だっておすすめされてて、わたし一度来てみたかったんですよねー。あ、蜜璃ちゃんというのは、水柱もご存知恋柱の蜜璃ちゃんのことです。彼女とは同期でー」

 

 甘味処の二人席に、テーブルを挟んで(真顔で無口の)水柱と向き合う形で座りながらわたしは、何とか会話をしようと試みてる。日常会話的な感じから友好を築いていくってやつ。

 

「水柱のご自宅からわりと近いですけど、来たことありますか?」

「ない。後、俺は水柱ではないと言った筈だ」

「柱の皆さんお忙しいですものねー」

「ああ」

「お店人気だから繁盛してますよね」

「そうだな」

「久しぶりの甘味処だから食べるの凄い楽しみですー」

「そうか」

 

 水柱めっちゃCOOL!!!! 有無言わさず連れ出したものの、一方的で続かない会話に困り果てる。唯一の救い? は、水柱が拒否せずに甘味処にいてくれてるってことだ。

 

「お待たせしました。草団子です」

 

 わあ。来た。粒あんが上にのった大きな草団子三つ。これはテンション上がるうぅ。

 

「さあいただきましょう!」

 

 念願の草団子を前にすれば、表情無しである水柱との重い空気感など一気に吹っ飛んだ。美味しそう。

 お箸で団子一個を掴み、一気に口の中へ。実はわたし、甘味だけは食べるの早いんです。嗚呼、美味し過ぎる幸せ。甘味最高じゃないのー。前世はきっと甘党だったのかも。

 美味しさに震えるわたしから視線を草団子へと移した水柱も、草団子を口に運んで黙々と食べる。美味しいのか美味しくないのか、それすらもわからない程の無だった。

 

「お口に、合いませんでした?」

 

 草団子嫌いだったのかな。ごめん配慮が無くて。

 

「美味い」

「それなら良かった……」

 

 もしかしたら気をつかって言ったのかもって。でも今日の水柱の流れ的に嫌いならハッキリと否定しそうだから、食べ終わったということは美味しくいけたのだと思いたい。

 それなら美味そうな顔してほしいけどね。

 食べ終わって出されたお茶を啜りつつ、ふと周りの人の視線が気になった。普段からチラチラされるのには(超絶美少女だから)当たり前にもう慣れてきていて、全く気にもしてなかったんだけど、今日は何だか違うやつ。

 ああ、水柱にか。甘味処だけに客層が女性だらけのこの店内、異性の水柱はかなり目を惹いてた。確かに正統派イケメン。いやまあ音柱が飛び抜けてるけど、柱の美形率は高いよなー。

 などとくだらないことを考えてると、食べ終えた水柱が席を立つ。そして素早く会計を済ませ、さっさと一人で店を出ちゃった。

 

「ま、待って下さい!」

 

 わたしも慌てて会計をして店を出る。まだ水柱は近くを歩いてた。良かったー。

 

「草団子美味しかったですよねー!」

 

 水柱の数歩後ろを付いて歩く。早足で。てか柱ってさ、全員は知らないけど歩く速度速くない?

 

「流石評判通りでした! わたし甘い物大好きなんで、あの甘味処のお汁粉も気になっちゃいましたー! 水柱は甘い物お好きですか?」

 

 わたしの問いかけには答えない。無視だ。お館様の頼みじゃなかったら、もう良いやって立ち去るんだけどな。はあ、絶対水柱わたしの事『ウザってー早よ帰れ』って思ってるわ。

 

「水柱、この辺で他に美味しいお店知ってます?」

 

 ひたすら前を歩いてた水柱が立ち止まった。

 

「どうしました水柱──」

「何度も言わせるな」

 

 怯みそう。声のトーンが明らか低いから怒ってる、かもしれない。

 

「で、ですけど、わたしにとっては水柱は水柱なので、水柱とお呼びするしかないんですが……。あ、でしたらお名前で呼んでも?」

 

 恐る恐るで返してみる。また沈黙が流れた。

 

「好きにしろ」

 

 って言って水柱はスタスタと歩き出す。それはつまり、『水柱と呼ぶな。名前呼びなら好きにしろ』って事で良いんだよね?

 

「じゃ、じゃあ冨岡さん! 冨岡さんとお呼びしますね! もう一度訊きますけど、この辺で美味しいお店知ってますか?」

「知らん」

「ならお食事は何処で? もしかして冨岡さん自炊派ですか? わたしは両方です。美味しそうなお店見つけたらつい行っちゃいますし、作れそうなら作ったりもします。因みに何をお作りに? もしかして秘伝のレシピあったりします? 良かったら教えてくれませんか?」

 

 柱を蜜璃ちゃん以外で名前呼びした緊張のせいかもしれない。料理の事もだし、間断なくしゃべり続けてしまった。みず、じゃない冨岡さんは、なーんにも答えてくれなくて、わたしの数歩先を歩くだけだ。

 もしかしてウザ過ぎたから怒ってんのかも。

 自分なりの前向き作戦? で勢いに任せて冨岡さんに話しかけてはみたんだけど、上手くいっているとは思えないわこれ。

 

「あのわたし」

 

 もう単刀直入に柱稽古の事を話そうとした。そしたら冨岡さんが言った。

 

「お前が来た理由は大体察しがついている」

 

 え、察しがついてるの? じゃあ話が早いじゃないの。

 

「でしたらお願いします。冨岡さんも是非稽古をつけ──」

「つけない」

「どうしてですか? 冨岡さん水柱でしょう? 他の柱の皆さんと同じように、わたし達一般隊士に稽古をつけてもらいたいのですが」

「俺は水柱ではない」

「いやでも」

「帰れ」

「水柱じゃないって理由がわからないんですが」

「くどい」

「冨岡さん」

「帰れ」

 

 冨岡さんは頑なに自分を『水柱じゃない』って否定するばかりでアンサーくれない。

 

「まっ……」

 

 待って下さいって言葉が口から出ない。

 去って行く冨岡さんの背を見つめながら、わたしにはこれ以上なんて言って冨岡さんを止めたら良いのかわからなかった。

 

「冨岡さーん! 本日も来ましたよー」

 

 次の日。朝から声張り上げました。

 もうね、前世の自分なら諦めちゃってるよ。って事で今、水柱邸の門扉の前。

 拝啓お館様、何故わたしなのでしょうか? こういう大事なのって主人公がやるものだと思うんです。わたしと冨岡さんじゃあまともな会話も生まれません。もうギブしても良いですか?

 はい。心のポストに投函しました。

 

「はあ」

 

 何回か呼んでみるけど応答無し。うんともすんとも。

 

「やっぱ炭治郎くんなら気にせず中へ入るだろうな」

 

 この状況から発展させるんならだと思うけど、わたしには無理だあ。でもなあ。頭を抱えて唸った。

 

「かくなる上は……」

 

 ポケットから手鏡を取り出し、門扉の隙間から中へと入れる。

 

「あー! どうしましょう! 大事な手鏡が中へ入ってしまったわ! こうなってしまっては仕方ないわね! あー困った困ったわああ!」

 

 若干棒読みな台詞を吐き、脇戸に手をかけて開けて入ろうと試みる。よし、これなら理由つけて水柱邸へ侵入出来るわ。

 

「手鏡を取る為だもの〜〜ってあれ?」

 

 開きません。門扉も試しに押したけど無理だった。わたしは再び頭を抱えた。

 最悪だ。脇戸開かないじゃん。さりげ侵入無理じゃんこれもう。

 出て来るかわからない冨岡さんをひたすら待つしかないじゃん。わたしの手鏡が。泣きそう。

 

「はあ」

 

 何度目かの溜め息と共に、わたしはその場に座り込んだ。

 晴れてて良かった。

 

「冨岡さんさんさーん」

 

 時には適当に。時にはリズミカルに門扉をノックしながら呼びかけたりしてわたしは冨岡さんが出てくれるのを待った。

 でもその日は結局、冨岡さんが外へ出て来てくれる事は無く、夜になる前にわたしは藤の花の家に戻って一日が終わりました。

 

「冨岡さああん、今日もいますよわたしいい」

 

 今日も今日とて水柱邸(門扉前)。声を張り上げ門扉を叩き、ただひたすら時間を消費して冨岡さんを待ってます。

 

「冨岡さん、冨岡さんが出て来てくれるまで毎日来ますよ?」

 

 三三七拍子のリズムで門扉を叩き、同じ事を繰り返し呼びかけてはみたけど、それでも冨岡さんは無視だ。

 

 ああああああああああああああ。

 

 奇声を発したくなるくらいなーんにも無くて、わたしは門扉に背を預けて体育座り。既に二時間経った。

 もーやだ。もー無理。こればっかりはしんどい。柱稽古と比べたらとか思ったけど、どっちがよりどっちもツライ。

 藤の花の家戻ってぐうたらしたい。それか美味しいもの食べたい。あー、物凄いジャンクフード食べたいよー。てか外寒いよおおお。

 寒さで体育座りからの蹲ってたら、なんかほわああって急激に眠気来た。

 

「……おい」

 

 誰かに呼ばれてる気がする。

 

「起きろ」

「んが?」

 

 何処かで聞いた声に目を開けた。あれ。わたし寝てたみたい?

 

「おい」

 

 さっきから何度か呼ばれてんなあって声のする方へ見上げたら、冨岡さんがクールにわたしを見下ろしてた。

 

「ひ、と、と、冨岡さ……っ!?」

 

 いつからなのか。あれだけ待ってた冨岡さんが外へ出て来てるじゃないの。

 

「此処で寝るな。帰れ」

「ちょ、ちょちょっ、ちょま!」

 

 折角出て来た冨岡さんが邸の中へ戻ろうとしてる。てか『帰れ』言う為だけに出て来たの? いやそれよりも止めなきゃって立ちあがろうとした。

 

「待ってくっ……わああ!」

 

 ずっと同じ体勢でいたからなのか。物っ凄い全身が痺れてて、前のめりに盛大に転けてしまいました。

 間抜けだわ。おでこぶつけて痛い。

 

「何をしてる?」

「あ、あの! 寝方が悪くて、痺れて立てません!」

「そうか」

 

 冨岡さんは一言そう言ってから戻ろうとした。放置酷い。

 ちょーいちょい待ち!

 

「冨岡さん待って下さい! こんな状態で申し訳ありませんが、中へお戻りになるなら是非わたしも!」

 

 しーん。って感じの間が流れる。冨岡さんは地面に倒れた状態のわたしを見下ろした。

 このまま無慈悲に見捨てられる覚悟はあったよ。だけど冨岡さんはそうはしなかった。

 

「え!」

 

 なんか腕掴まれて、ひょいってな感じで冨岡さんに背負われた。つまり"おんぶ"ってやつです。

 

「あ、あの! す、すみません!」

 

 吃驚したのと、まさか冨岡さんにおんぶされる日が来るなんて予想外過ぎて頭パニック。しかもわたしをおぶったまま脇戸から中へ入ったの。

 

「何故謝る?」

「柱に、お手数おかけしてしまって……!」

「俺は柱じゃない」

「で、は、はい」

 

 余計な事言って落とされないようにしよ。わたしは痺れていない方の手で冨岡さんの羽織りをぎゅっと掴んだ。

 

「痺れが治ったら帰れ」

 

 玄関には入らずに庭を通って縁側に降ろされると、冨岡さんは玄関へと入って行った。

 

「あ!」

 

 止める間もなく置いてかれて、『しまった』ってなる。まあ中へ入れたならまだなんとかなるかもしれない。

 

「これはお前のだろう」

 

 そしたら冨岡さんが戻って来て、わたしに手鏡を手渡してきた。取りに行ってたのね。

 

「は、はい! わたしのです! ありがとうございます!」

 

 わたしが水柱邸の中へ(わざと)入れた手鏡を拾っててくれてたのか。鏡破れてなくて良かった。

 

「あの冨岡さん!」

 

 再びわたしを置いて玄関へ行こうとする冨岡さんを呼び止める。初日の続きをしなければ。

 

「どうして稽古をつけていただけないのでしょうか?」

「それは俺が水柱ではないからだ」

「何故冨岡さんはご自身を水柱ではないと?」

 

 内心ドキドキした。ここまで前回とほぼ同じやり取りだしね。面倒だけど、何にも訊かないで帰ったら絶対悔やむやつ。

 

「理由を教えていただけるまで、わたし何度だって来ます! 明日も明後日も!」

 

 冨岡さんは、どこか遠くを見つめて黙った。それを時間にすれば五分程。そして小さな溜め息を吐いて言った。

 

「俺は、最終選別を突破していない」

「どういう……?」

 

 えってなる。最終選別って藤の花の山でやったあの最終選別だよね。

 

「俺は、宍色の髪をした少年、『錆兎』と選別を受けた」

 

 その名前を聞いて朧げだけど思い出した。確かその少年ってさ、炭治郎くんに稽古つけてた、あの手の鬼に殺されてしまっていた子だよね。

 

「同じく身内を鬼に殺された錆兎とは育手の鱗滝のもとで出会い、身の上や同い年とあって直ぐに仲良くなった」

 

 錆兎は正義感が強く、心根の優しい少年だった。冨岡さんはまた、遠くを見つめながら言う。わたしが知る限り、こんなにも語り出す冨岡さんを見るのは初めてだ。

 

「あの年の選別で死んだのは、錆兎一人だけだ」

 

 錆兎少年は、あの山の鬼を殆ど一人で倒し、錆兎少年以外の全員が選別に受かったと冨岡さんは続ける。

 鬼に襲われて負傷してた冨岡さんを助けた錆兎少年は、別の少年に冨岡さんを預けて助けを呼ぶ声に行ってしまい、怪我で朦朧としてた冨岡さんはそのまま七日間意識を失ったそうだ。

 それが、錆兎少年との最後だったらしい。

 

「俺は確かに七日間生き延びて選別に受かった。だが一体の鬼も倒さず、助けられただけの人間が、果たして選別に通ったと言えるのだろうか」

 

 自分は水柱になって良い人間じゃない。柱と対等に肩を並べて良い筈もない。自分は彼ら柱とは違う。本来なら鬼殺隊に自分の居場所は無い。

 冨岡さんの言葉にずっしりと重みを感じて苦しくなった。

 わたしなんて、鬼倒せたの自分の血の能力だと思って突破出来て自分凄ってなってたのに。実際には無惨に生かされてただけっていうね。

 

「それが理由だ。稽古をつけてもらいたいのなら、柱に頼め」

「と、冨岡さん」

「俺のところへ来て時間を無駄にするな」

「あの……っ」

 

 この感じ駄目だ。冨岡さんは自分が死んで錆兎少年が生きてればって、水柱に相応しいのは錆兎少年の方だったって、今もそう思って苦しみながら生きてる。

 

「あの、冨岡さ、ん」

 

 どうにかして何か言って冨岡さんを励まさなきゃって考えるんだけども、わたしが軽く励まして良いもんじゃないよねこれ。お館様どうしてわたしを冨岡さんのもとへ遣わしたの。

 考えて、考えるのよわたし。

 この間にも冨岡さんは屋敷の中へ入って行っちゃう。

 駄目だ。駄目だ。全く良い言葉が思い浮かばん。そうだ。炭治郎くんならなんて言う? 次男だったら我慢出来なかったじゃなくてー。えーとえーと……。

 

「っってわかるわけねえええええ!! だってわたし炭治郎くんじゃないもオオオオオオオん!!!」

 

 これはマズイ。心の声が思いっきり口から出ちゃいました。

 冨岡さんもわたしのデカ声量に吃驚してか、目を最大限見開いてこっち振り向いちゃってるしマジで恥ずかしくて死にそうなんだが。

 

「あああ、の、うん……。わたしは炭治郎くんじゃないのは間違いないのでその、上手いこと言えないと申しますかー、素敵な言葉を伝えたいと考えているのですがー」

 

 どうしよう。焦りから自分が何言ってんだかわからなくなった。しっかりしろ自分。冨岡さんもこれで絶対わたしのことヤバい奴認定したって確実に。

 黙らなきゃと思いつつもこの場を何とかしないとって気持ちだけが先走る。

 

「何故わたしが此処へって思ったでしょうし、わたしもそうは思ってるんです。ええ。きっと此処へは炭治郎くんがおすすめなのではないかと正直に思うんです。彼なら人との絆、繋がりをより大事にしてくと──そう! つ、繋がりです! 錆兎少年との絆や繋がりを絶やしちゃ駄目です! 冨岡さんも繋げていきましょうよ! これからの未来の為に!」

 

 未来とかもう壮大。当てずっぽう──ではなく、炭治郎くんならもしかして言うかもしれない言葉、『繋がり』ってのを強調してみました。

 静かな時がまた流れた。冨岡さんは電流走ったみたいな表情で固まったまま動かなくなった。オワッタ。

 

「あのー、冨岡さん?」

 

 もう堪えられなくて呼びかけてみる。諦めムードだ。

 お館様、わたしには無理でした。

 

「すみません、あのわたし────」

「八重野」

 

 我に返ったらしい冨岡さんに名前呼ばれて一瞬びびる。

 

「は、はい!」

「遅れたが、俺も稽古をつけようと思う」

「え、はい?」

 

 唖然。冨岡さんが言った事を理解するのにちょっと時間が欲しい。

 まさかさっきの成功したの? マジで?

 

 何で冨岡さんが稽古を(前向きに)やる気になったのかわからないし、水柱云々のやつはどうなるんだろうかと気にはなったよ。

 でもまあ、終わり良ければ全て良しって事にしたのでした。

 

 

 

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