転生した世界で鬼の末裔が生きていくもん   作:あまてら

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 ページをめくるように一年、ナツは14歳になりました。はっぴーばーすでい。

 心なしか身体がシュッとした気がする今日この頃。

 そよ婆に課せられた料理の腕は形だけは何とかイケてるものの、『不味い』判定しかされてなくて呼吸も未だ掴めずです。

 まともに出来るようになったのは井戸の水汲みくらいで、たまにやらされる山下り(走り込み)は、あいも変わらず転げ落ちてます。

 

 ねえ、ねえねえねえ! 大丈夫これ?

 

 よくある転生作品ものでもさあ、一年くらい経ったら出来るようになってるよ、主人公てのは──。あ、わたし主人公じゃないや。この鬼滅の刃の世界じゃただの、ちっとばっか能力持ってるモブだわ。てか鬼の末裔が鬼殺隊士目指すってそもそもウケる〜。この世界じゃ前代未聞〜。

 

「あのー、そろそろ技とか刀の使い方覚えなくてもいいんですかね?」

 

 なんか心配になったんで逆に聞いてみた。

 

「あ? 呼吸もままならない、体力も無い、料理は不味い。今の状態のお前が直ぐに刀振れるとでも思ってんのかい? 次へ行きたきゃもっとやる気出せ。さあ、今日も山で下ってくるんだね」

「えー! またですか?」

「黙って言われた事をやりな!! 明日の朝まで、アタシが良いっていうまでね!」

 

 まさに鬼。鬼ババァだわ。

 わたしは半泣きで山の頂上へと走った。雑木林、デカい岩、藪、草、木、草、木。もう見慣れた景色。迷わない為に木に帯紐みたいなのが結ばれてあって、それを頼りに昇り降り。あー、エベレストみたいな山じゃなくて良かったー。

 しかし今の季節は夏。いくらそよ婆の家が山の中腹にあっても暑いは暑い。そりゃ21世紀の現代と比べたら涼しいかもしれないけどさぁ、昔も暑いわ。

 

「って!」

 

 走ってる途中で小枝が跳ね返って頬に傷が出来た。でもきっと夜になったら治る。だからこれくらいなら気にならなくなった。んー、心臓に毛が生えた程度の強さはついたかも。

 

「ハア、ハア、ハア」

 

 あー、体力無さ過ぎ。こんなんで剣士目指すの無理だろ。自分でも嫌になる。で、暫くして頂上ゴールに辿り着いた。息切れ汗ダラダラっすわ。

 

「……帰りたい」

 

 下りる前に山林の景色見ながら呟く。方角合ってるかわかんないな。一年経ってやっと戻って来た寂しい感情。あの集落、みんながいた、あの集落に帰りたい。前世の家族との別れの寂しさより勝るのは、今の自分が八重野ナツとして生きてるからなのかもしれない。それはそれで前世寄りの思考だから前世の家族にも二度と会えないって悲しい気持ちはあるけど、段々と前世の記憶が消え始めてるし、現に友人の顔や名前なんかはもうわからなくなってる。

 いずれは前世の事全てを忘れてしまうんだろうか。

 

 ヤダな、恐い。

 寂しい、恐い。

 会いたい、会いたい。

 

 今更ホームシックかな。

 

「っふうっ……」

 

 涙で視界が歪んだ。そよ婆は集落への戻り道を教えてくれるだろうか。──いや、教えてなんてくれないよどうせ。

 涙を袖で拭い、下ろうと駆けた時に小石につまずいた。

 またいつものように転げ落ちちゃうわこれ。腕脚骨折して元々無いやる気がもっと無くなっちゃうなーって思ってたけど少し違った。

 ボキャって鈍い音。転げ落ちた場所にたまたま落ちてた崩れ石。そのデカ石に直撃して首が折れた音だ。

 あ、死んだ。ってなった。でもまだ死んでなかった。首から下は全く動けなくなったけどね。

 で、そのまま気絶しました。

 

『せーの!』

 

 前世のわたしの最後の誕生日会。両親と歳の離れた三つ子の弟二人と妹が、テーブルを囲んでお祝いソングしてくれる。歌が終われば勿論、真ん中に置かれたケーキのローソクの火を吹き消すのだ。

 

『──、お誕生日おめでとう!』

『お姉ちゃんおめでとう!』

『──、20歳おめでとう!』

『ハッピーバースデーお姉ちゃん!』

『おめでとうー!!』

 

 家族は笑い、わたしも笑う。来年もその次もまた次もね。家族一緒に、やがて来るいつかまで──。

 それまでだったけど。

 暗転。

 

『ナツ』

 

 切り替えスイッチを押したみたいに、生まれ育ったあの集落に場面が変わる。わたしを呼んだのは母だ。

 

『ナツ』

 

 父だ。

 

『ナツ!』

『ナッちゃん』

 

 兄と姉だ。

 

「お母さん! お父さん! 兄ちゃん! 姉ちゃん! 辛いよ! 嫌だよ! なりたくないよ剣士なんて! 聞いてよ、酷いんだ! 帰りたい、家に帰りたいよ!」

 

 甘やかしてくれる家族の元へわたしは走った。

 

『ナツ』

 

 もう少しって時、母は前に手を出して『来るな』とわたしを止める。

 

『わかってるだろ? まだ来ちゃいけないって』

「何で? 疲れた! もうヤダ! 出来ないもん全然!」

『ナツ、本当に良いのかい?』

 

 自棄だったのかな。わたしの中で諦めモードになってた。だから『良いよ』って言いかけた。でも、言いかける途中で止めてしまった。だって、母が、お母さんが、とても哀しい顔をしていたからだ。

 

『お前には生きていてほしい』

「お、お母さん』

『この先どんなに苦しく、どんなに辛く寂しくても』

「お母さん!」

『お前だけは生きていて』

「何で、何で!」

『あたし達はずっと一緒だよ』

 

 家族の後ろに、集落のみんなが笑顔で現れた。

 

「ヤダ! わたしも、わたしもみんなと一緒に!」

 

 したらみんなとの距離が離れてって、段々と姿が消えてった。わたしは手を伸ばして走るんだけど、全く追いつけなくてつまずいて転んだ。

 

「お母さん!」

 

 がばりと起き上がる。夢だったのか、わたしは気絶から目を覚ました。

 木々の隙間から星が見えた。夜だ。だから身体は物凄く元気。

 

「う、うっ、うう……っ!」

 

 わたしはしゃくり上げて泣いた。小さな頃のように。

 あの日からやっとだった。

 大きな声でひとしきり泣いた後、わたしは山の走り込みを再開した。

 

 何がまだ来ちゃいけないよ! 何が生きていてほしいよ! 何がずっと一緒だよ!!

 

 奥に引きこもって出て来なかったやる気みたいなものが、誰にもぶつけられない怒りと共にやって来たみたいだった。

 

「わたしは! 今直ぐに!」

 

 抱き締めてほしかった。『大丈夫だよ』って慰めてほしかった。

 ただ、今まで通りの日々を願っただけなんだよ。

 

「……寝るんだったらちゃんと身綺麗にして寝な」

 

 夜が明け、日が差してからそよ婆の家に戻った。そよ婆からはオッケー貰えたかわかんなかったけど、『寝ろ』って言われたんなら山下り(走り込み)は終了って事だろう。

 寝て良いんよね? って気になったけども、そよ婆はその日一日中何も言ってこなかった。

 わたしは久々に変な夢を見た。気絶した時を除けば、13歳になって初めて見た以来である。

 

『ヒメミコ、ヒメミコや』

 

 御簾が下された向こうで誰かが、お婆さんがヒメミコさまを呼ぶ。

 何で御簾って思って周りを見れば、平安絵巻にあるような貴族っぽい部屋づくり。斜め後ろには油使用の照明器具。薄暗いから夜なのだろう。てか百合の花の匂いもするし。マジリアル。

 わたしは十二単に身を包んでて、めちゃ着苦しい。

 で、鈴を転がすような声で応えた。『はい』って。

 

 ──はい?

 

 この声は、あの日聞いたヒメミコさまの声。なんでわたし──、しかも身体が自由に動かせない。まるで、他の体の中に自分の意識だけがお邪魔してるような感じだ。

 あれ、この体ってヒメミコさま?

 

『八音寺院道永様がご子息と共に参られたぞ。さあさあヒメミコ、いつものように頼みますよ』

 

 嬉しそうに弾んだ声のお婆さんは御簾をそっと上げてこっちに入って来ると、まるで雑面みたいな、細い帯紐が付いた長方形の布をわたしの、いやヒメミコさまの顔に被せ、紐を頭の後ろで丁寧に結んだ。

 

『八音寺院様、これがヒメミコでございます』

 

 少ししてからお婆さんが誰かを招き入れる。布や御簾のせいで顔はわからないけど、恰幅そうな男と、お付きの者達によって運ばれて入って来た少年の姿が何となく見えた気がした。

 

『これなる息子は二週間程前、牛車に乗る際に足を踏み外して打ち所を悪くし、立つ事も歩けなくもなりましてなぁ』

 

 色々試しても歩けず、諦めかけていたところにヒメミコさまの事を知って訪ねて来たらしい。

 

『後継として可愛がっていた息子ゆえ、藁にもすがる思い。どうかヒメミコ様にお助け願いたい。勿論御礼は弾みます』

『ホホホ。八音寺院様、ヒメミコは必ずご子息様を救いなさりますよ。さあ、ヒメミコ』

 

 お婆さんがヒメミコさまを呼んで御簾を上げる。顔に布をしているので、相手からは一切見えてない。でもわたしの方はさっきよりも薄らと視界が見える。直衣姿。お貴族さまかな。はいはい、確か前世での高校の授業で資料として見たわこんなの。

 

『ヒメミコ様、どうかお願いします』

 

 弱々しくわたしを見上げる少年。少年って言ってもこの時代である。既に彼は成人迎えてるんでしょう。

 

『八音寺院様、今から行いまするは決して恐ろしい事にあらず』

 

 お婆さんはそう言って部屋奥から短刀みたいなものを出すと、少年の前に座ったわたし(ヒメミコさま)へと両手で差し出した。

『歩けるようになりたいか?』

 

 ヒメミコさまが問うと、少年は弱々しく頷いて見せた。

 で、ヒメミコさまはお婆さんから短刀を受け取り、左の手のひらを刃でスッと引いて切る。

 

 痛っ──。

 

 夢の筈なのに切った瞬間リアルに痛かった。当たり前に血溢れ出るよな。

 その手をぐっと握り拳にして盃を下に置き、それへポタポタと血を流し入れて少年の前へ。切った手のひらの傷は、白い布で血を拭った時にはもう消えてた。

 少年は血の入った盃を見てちょっと躊躇する。そりゃあまあうん。

 

『さあ、飲まれませ』

 

 お婆さんが言うと、少年は勇気を振り絞ったように血を一飲みした。で、『ん?』みたいな、なんか少し拍子抜けしたみたいな表情をしてこっちを見る。

 何よ。と中のわたしが思った次の瞬間、少年は心臓の辺りを押さえて息を荒くした。

 

『こ、これは!?』

 

 そりゃ八音寺院さんも焦るわな。

 

『ご案じなされませ』

 

 落ち着いてってな感じでお婆さんが微笑む。

 

『ち、父上……!』

 

 したら急にクララが立った。否、少年が立った。

 生まれたての子鹿みたいに脚を震わせながら。

 そっからはもう『ヒメミコ様のお力じゃあああ』みたいな感じで物凄く興奮した八音寺院さんがわたし(ヒメミコさま)に拝み倒したり頭垂れたり、少年の方は嬉しさのあまり部屋の周りを歩いて見せたり軽くジャンプして見せたりした。

 いやぁ、それほどでも〜みたいには一切ならないヒメミコさまは、二人して頭垂れる姿から目を逸らし、立ち上がって廊下奥へと静かに去ろうとする。

 

『お婆殿!』

 

 去り際、八音寺院さんがお婆さんに金の饅頭……、金銀財宝っぽい物を渡してるのをヒメミコさまが布の隙間から見た。

 お婆さんは上品そうに笑おうと手で口元押さえてたけども、分かり易くめちゃくちゃ下品な笑顔が溢れてた。

 なんか、なんか知らんけど、少しだけ哀しい気持ちになった。

 それからは時々、ヒメミコさまの中に入って追体験みたいな夢を何回も見るようになった。不思議にリアルなね。

 ヒメミコさまの血を求めに、人が訪ねて来るループみたいに。来る人は皆お金持ちなのか。きっとお金持ってる人だけを限定にしてるのか。お爺さんが豪華な造りの建物、鳥居の前で誰かを門前払いみたいにしてた。貧しそうな人々に対して邪険に扱い、対価が払える人だけをお婆さんが中に招き入れてる。

 んだよこれ。最悪じゃないの。このお年寄り達、ヒメミコさまの血を利用して金の亡者になってんじゃん。

 わたしはめっちゃ腹がだった。

 てもヒメミコさまは哀しそうに二人を見てるだけ。多分きっと哀しいんだと思う。わたしも何でか哀しかったから。

 そんな夢を見ながら現実ではというと、謎のやる気アップで料理の腕が上がっていった。見た目なら完璧だけど、そよ婆の味評価は低い。

 

「見た目は良いとしてやろうじゃないか。呼吸の使い方、少しはマシになったらしいね」

「え!?」

 

 味評価低くてコンチクショーってなってたから、そよ婆の急なお褒めにビビった。

 

「でも下手くそに変わりない。夕方まで山下りでもしてきな」

「え! は、はい!」

 

 不味いからのお許しあるまで山下り(走り込み)往復地獄が夕方まで……だと……?

 いやそれでもキツイけどさあ、今までがよりキツかったから意外過ぎて嬉しかった。キツイよ、うん。

 一週間二週間三週間、わたしはがむしゃらだった。そよ婆の呼吸のやり方を真後ろで細かく真似て、『違う』ければ何度も教えを乞うた。しつこいくらいにね。

 自分でも驚きだ。腹が立ってからのチクショウめからのやってやろうじゃねーのでなんか自分の気持ち的にも変化あったのかも。

 山下りも慣れてきたのか全く転げ落ちなくなったの凄い進歩。絶対最初より体力とか身体能力上がったに違いない。

 

「次、刀を使いこなせるようになりな」

 

 ひと月後。木刀持っての素振りが追加になった。次のステップに移ったって事で走り込みが一時的に無くなり、刀を扱う為の修練が始まりましたでございますよ。やっと。

 あー、千本ノックかな。腕逝くわ。てかいきなり本物じゃなくて良かった。

 素振りは主人公もやってたし、剣士になる皆んながやんなきゃいけないんだろうね。やってみて腕は逝きかけたけど、薪割りのお陰で多少はマシだった。それから三ヶ月には木刀素振りが本物に変えられてマジビビる。重みがヤバイ。色々腕とか手首に来る。

 因みに刀はそよ婆のだ。大事にしろって。だから折ったらボコり確定らしい。折れやすいんでしょ? ひぇー。

 こっからは原作で見た流れだ。そよ婆に常に見られながら刀を扱う。木刀素振りとはわけが違う。

 

「かかってきな」

「え!」

「早く!」

「は、はい!」

 

 そよ婆が木刀を構えてわたしに向けてる。わー、きたきた。こっちは刀でえいやーって立ち向かうけど無理。そよ婆強。てか木刀で本気殴り痛過ぎんか。肋骨何回か折られたんですが。

 

「脇が甘い! 余所見すんじゃないよ!」

「ひぐぇええ!」

 

 直接指導が料理よりも更に厳しくて草も生えない。水の呼吸法も習い始めたんだが難し過ぎ泣き。全集中の呼吸も料理の時みたいにやってみたけど、『それは違う』って何度もやり直させられた。

 あれれ? 思ってたよりも大変で笑けてくる。

 心折れそ。

 ていうかもう何で、何でこんな事、しなきゃいけないんだよ!

 

「っにゃろおおおおおお!!」

 

 どうやら、わたしのやる気の源は怒りから……らしい。

 

 

 ──で、明治が終わって大正が始まった。

 

 

 







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