転生した世界で鬼の末裔が生きていくもん   作:あまてら

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初任務


 

 

 

「どうぞ」

 

 居間にて座る鋼鐵塚さんと、少し離れて座るそよ婆にもお茶を出したわたしは、何とも言えない緊張感を持って鋼鐵塚さんと向き合う形で正座した。

 鋼鐵塚さんはさっきとは違って一人喋り出すでも無く静か。わたしに多分、目を向けたまま何も言わない。

 んん? 何で黙ってんのさ。

 同じくわたしもひょっとこ面の鋼鐵塚さんを見るんだけど、マジで何も言わない。

 

「で、まだかい?」

 

 威圧かけるようにそよ婆がこの沈黙を破る。

 

「……っうっるせぇーな木柳! わかってんだよォ!」

 

 やっと喋った。てかそよ婆の名前呼び捨てだ。勇気あんな。

 鋼鐵塚さんは言葉はヤケクソな物言いだったけど、刀を取り出す時は繊細に扱ってた。

 

「ほらよ」

 

 鋼鐵塚さんから刀を受け取る。ずしりと重みが手から伝わった。最終選別突破後に選んだ玉鋼がこの刀になったんだ。

 おもっ。これがわたしの日輪刀。

 別名、色変わりの刀。持ち主によって色が変わるってのは原作でもアニメでも見た記憶あるし、実際に自分がそれを見れるってのはもうドキドキです。

 色──、変わらなかったらどうしよ。

 そよ婆に散々才能無いって言われたし、自分でも思う。変わらないなら本当に剣士としての適性無いって事。

 って、何で色無いかもって不安なんだろ。むしろ色無い方が良いでしょうが。死に近い場所から遠ざかって最高じゃん。

 よし、早く見よ。長く躊躇したけど、スパッと見ちゃってスッキリしよ。ってことで、わたしは鞘から刀を抜いてみました。

 

「うっ……!」

 

 刀身の色が鉄色からゆっくりと変わってく。

 

「っす!!」

 

 水の呼吸は青色。わたしの刀身は、マジ薄い水色だった。

 

「キーーーーッ」

 

 突如の奇声に勿論ビビる。鋼鐵塚さんだ。頭両手で押さえて床に頭打ちつけ出したからホント恐。

 

「近頃のヤツァどいつもこいつも薄い色しやがってえエーーーッ! 俺は今回こそはと期待してたんだぞオオーーーッ!!」

 

 めちゃくちゃ勝手にキレるなこの人は。わたしは唖然というかなんというか、大の大人が癇癪で頭抱えて目の前で転げ回る姿に震えた。

 

「ウオオォイーーーッ!」

 

 え、ウソやば────。

 鋼鐵塚さんが怒りに任せてわたしへと覆い被さる様に立ち上がった。鬼滅主人公がボカ殴りされるみたいにわたしもやられるかも。

 理不尽。性別関係なしにくるんかーい。

 

「っヒェ……」

 

 咄嗟に身構えた。恐くて目を閉じたんだけど、一向に何も来ない。えって思って目を開けたら鋼鐵塚さんが、ビビって床に倒れたわたしの上に今にも馬乗りになってこようとする寸前だった。で、その状態で硬直して小刻みに震えてるのである。

 

「グッ、ぐぐうっ……!」

 

 歯を食いしばってんのかな。堪えてるっぽい。てか何なの恐いよー。

 

「暴れんならとっとと帰んなァ!」

 

 スパーンって良い音がした。そよ婆が鋼鐵塚さんの背中を濡れた手拭いでシバいたからだ。絶対痛い。

 

「イッテェじゃねぇかアアーー! ババアあああーー!」

「だーれがババアだってもういっぺん言ってみなぁ!」

「ババアにババアと言って何が悪い!」

「早く出てけぇ!」

 

 鋼鐵塚さんの怒りはわたしから離れてくれたみたい。うん。そよ婆のおかげで何とか助かったかもしれない。

 

「オイッ」

「はいい!」

 

 ひょっとこ面なのにキレ気味具合がわかる鋼鐵塚さんが再びわたしへと振り向いた。

 

「帰る!!」

「お気をつけてー!」

 

 鋼鐵塚さんは嵐のように去って行った。色々と癖強くてこれからが不安。違う人に変えてもらう事は可能なのでしょうか。

 

「……わたしの刀、薄いですね」

 

 静かになった居間で、薄い水色になった刀身を見つめてわたしは言った。

 

「アタシは色なんて変わらないと思ってたよ。でもまぁ、薄くても色があったんなら、お前でも少しは隊士として使えるかもしれないって事だろう」

 

 気持ち的には複雑寄り。鬼殺隊隊士を目指す道しか無いって言われてこの日までやって来たんですけれども、なりたくないなぁってのが心の隅にあった。だから色変わらないならそれで良いかも。なんて諦め感持ってた。でも実際この時になってちょいドキドキ胸高鳴ったし、薄いけど色変わったのを嬉しくも思った。

 この先恐ろしいのにねぇ。

 そよ婆は特別祝福はしてくれなかったけど、通常運転だしそれでも良いや。

 

「気を引き締めな。これでお前は鬼殺隊隊士になったんだ。直ぐにでも任務を知らせに鎹鴉が来るかもしれないし、いつでも行けるように準備しておくんだね」

「……はい」

 

 直ぐにでも来ちゃうんだ。なれって言われてから実際なったんだけど、実感がわきませんね。それと、これから任務が始まるとして、今後もこの家から通えるのかな。急にだけど、寂しくなってきた。

 

「あの、わたしこれからもお師匠様とこの家に、いられるんでしょうか?」

 

 自分でも変だなってなる。修練が辛くて何度も鬼みたいなそよ婆から逃げたいって思ってたし。でも他に身寄り無いからそよ婆頼るしかないし、我慢てしながらいたんだけど、いざ隊士になったらなったで任務で離れられる嬉しさがMAXにならない。

 全然優しくないし、良いのは美味しいご飯だけなのに。

 

「何言ってんだい。立派とは言い難いがお前はもう鬼殺隊隊士。アタシはお前を剣士にさせる為の"育手"。隊士になればアタシの役目は終わり、お前は此処から出て行くのが道理さ」

「え、これからもこの家にわたし住んじゃ駄目なんですか?」

「よしてくれ。他人の面倒見るなんてもうこりごり。アタシは一人が好きなんだ」

「でも他に頼る人も住むところも無いし……」

「それは安心しな」

 

 曰く、鬼殺隊隊士なればお給金が出るらしい。そのお金で宿場を転々としたり、藤の花の家紋の家が隊士を快く迎えてくれるそうだ。あー、確か藤の花の家紋が掲げられてる屋敷って衣食住タダで世話してくれるって見たなどっかで。

 つーかそよ婆に言われてちょっぴりショック受けてる自分がいた。

 

「じゃあ任務きたらお別れなんですね」

 

 物凄く寂しい。

 

「なら、また此処へ遊びに来ます」

 

 わたしの集落にはもう誰もいない。待ってない。でもそよ婆は此処にいる。それなら此処を実家みたいな感じに思っても良いいよね。勝手にだけど。

 

「来なくていい」

「来ます! 絶対絶対、ぜえーったい来ます! わたしには此処しか、わたしを知っている人は……お師匠様しかいません! だからまた会いに来ます。そよ婆に」

 

 拒否もめげずに返すと、そよ婆はわたしの顔を見返した。

 

「あーやたやだ。いくら拒否してもお前はどうせ来てしまいそうだね」

「はい来ます! そよ婆がどんなに拒もうとも、こんなんでへこたれません! 多少は鍛えられましたから!」

「へこたれない精神だけは認めてやる。ただ──」

 

 ゲンコツ一発飛んできた。

 

「っだああああ!」

「さっきから"そよ婆"って何だい! アタシの事はお師匠と呼びな!」

 

 鬼ババァ。わたしは頭を押さえながら悶絶した。さりげそよ婆の顔見たら、心なしか笑ってる気がした。多分、気のせいかもしれないけど。

 その日の晩、そよ婆が『来い』って部屋に招き入れてくれた。

 

「これは?」

 

 目の前に出されたのは、薄いグレーの生地の羽織りだ。見れば背中から右肩へ、そして左へ流れる様に何輪か咲いた拳ぐらいの大きさの百合の花の柄がある。

 

「別に大した事じゃないが、これは餞別みたいなもんさ」

「お師匠様がわたしにこれを……」

 

 その百合の柄は、母が塗った百合の刺繍と同じに見えた。したら涙流れ出てきた。そよ婆ったら、あんなに厳しい鬼みたいなのに、やっぱり優しいキャラじゃん。

 

「ありが……っ、ありがとうございます!」

 

 わたしは両手を付いて頭を下げた。

 

「お師匠様、今まで本当に──」

 

 最後の挨拶みたいなのを言う直前、どっからか『カァアァ』って鳴きながら鎹鴉が入って来た。わたしの鎹鴉ちゃんらしい。

 

「八重野ナツゥ、南東ニアル廃村へ向カイナアァサァイ! 鬼狩リナッテ初メテノ仕事ナンダカラネエェ!」

 

 あわわ。こんな時に来るなんて。涙が一気に引っ込んだ。

 

「ナツ」

 

 遂に出されました初任務に動揺していると、そよ婆が落ち着いた声でわたしを呼んだ。

 

「慌てるな。最終選別で少しは鬼を間近で感じてわかった筈、鬼との力の差を、人の脆さを。使えないにしてもお前はもう剣士、アタシが教えた通りにやれば良い。ただし油断はこれからもするんじゃないよ」

「お、お師匠様……ッ」

「支度しな!」

「は、はい!」

 

 わたしは急いで支給された隊服に着替えた。着心地は、うん。前世で初めて学生服着た時と同じ着せられてる感ある。今はね。背中の滅て字、自分が背負うの変な感じ。髪は軽くお団子にまとめた。鏡も無いし適当よ。今はね!

 で、そよ婆から頂いた百合柄の羽織りを羽織り、父親の手拭いを懐に入れ、わたしの日輪刀を左腰のベルト内側に差す。見た目だけならどっから見ても立派な鬼殺隊隊士だろう。

 

「お師匠様、ちゃんと挨拶出来ずにごめんなさい」

 

 土間で頭を下げて挨拶。使わせてもらってた部屋はいつも綺麗に整頓してたし、荷物は手拭いだけだから他には何も無い。

 

「実はお師匠様には言ってなかったんですけど、わたし特殊な体質でして、夜になると全部回復します。だから元気です。絶対死にたくないんで死にません」

 

 今更打ち明けます。もう厳しい無茶振りされる事も無いからです。

 

「そうかい」

 

 反応薄っ。もっと驚いてくれても良かった。

 

「さっさと行っちまいな」

 

 わたしの初任務の門出もクールな態度。まあ、そよ婆らしいや。

 

「手紙書きますね! それじゃあお師匠様、お元気で!」

 

 行って来ますって全力の声出して言ったけども、そよ婆は背中を向けて自室へ行っちゃった。ぴえ。

 三年間お世話になったそよ婆宅を出たわたしは、振り返って一礼してから鎹鴉ちゃんに付いて走った。見失わないように真っ直ぐ前を向いて。

 

「廃村ってこっから遠いの?」

 

 鎹鴉ちゃんに質問。もう真っ暗な夜なのに出発しなきゃだなんてコワス。幸いそよ婆住んでる山周辺で鬼を見た事は無かったんだけど、どっから出没してくるかわからないから恐くなる。

 

「コノ山越エタ先ニアル廃村ヨ! ソコヲ根城ニシテ鬼ガイル!」

 

 わぁ、廃村てだけでもアレなのに鬼が居るのはやだな。走りながら段々と嫌になってきた。

 コワイヨー。

 誰か他に隊士来てないのかなぁって考えながら山越え、暫くしてから鎹鴉ちゃんが『此処カラハ一人デ頑張リナサイヨ!』ってどっか飛んで行っちゃった。

 ああ、着ちゃった。

 わたしの走るスピードは自然とゆっくりとなり、警戒しながら獣道を進んだ。

 

「……っ!」

 

 廃村らしき場所が見えた時、足下に何かが当たった。千切れた誰かの手首。左脚。腰抜かしかけた。隊服っぽかったから同じ鬼殺隊隊士なのかもしれん。わたしは鞘から刀を静かに抜いて構えた。

 落ち着け。深呼吸よ。集中して。震えそうになる身体を抑えながら呼吸を整える。

 壊れた家屋をいくつか通り過ぎ、一番でかい、まだ原型を留めてる家屋に近付く。建物の中、更に暗闇奥から呻く声。

 

「またまた来た。人間、鬼狩りか?」

 

 ワアァ喋ったァ。怖すぎて刀を持つ手が震えちゃった。

 

「此の匂い……。稀血かァ?」

 

 マレチ。わたしの集落でも言われたやつ。

 

「キヒヒっ! こりゃあイイ! 喰って強くなってヤル!」

 

 建物の奥からのそりと現れた鬼は、月の光を浴びてその姿をはっきりと見せた。頭でっかちのヒョロガリ腹デブ鬼。

 

「ヒュゥゥゥゥ」

 

 よし。わたしの鬼殺隊隊士デビュー戦、一発目が始まるよ。

 

 

 

 

 

 

 

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