転生した世界で鬼の末裔が生きていくもん   作:あまてら

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立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花

 

 

 

 

 

 立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。

 

 何故だか不明だけど、隠含めた鬼殺隊一般隊士の間でこっそりとそう言われているらしい。……わたしが。

 それを知ったのはついこの間の事。任務で一緒になった隊士の女の子が、めちゃくちゃ緊張した面持ちでわたしに話しかけてきたのよ。しかも何人かでこそこそと、『お前が訊いてこいよー』とか、『えーなんでよー』っていう罰ゲームやらされてるみたいなやり取りしてから。

 

「あ、あの、あなたが噂の"芍薬の君"ですか?」

「はあ?」

 

 何言ってんだってなる。何なの"しゃくやくのきみ"て。

 

「噂通りの芍薬の君に会えて……、きゃー!」

 

 女の子はそれだけをわたしに告げると、急いでさっきのやり取りしてた人達のとこへ走って行った。

 全く意味不明。初めは悪口みたいなものかって思ってショックで落ち込んでました。その他にも、宿屋で一緒になった隊士と距離置かれるとか、目を合わせてくれないとか話しかけても逃げられるとかあったな。

 名前もさぁ、八重野ナツじゃなくて『芍薬の君』って呼ばれて、他にも『牡丹の君』や『百合の君』って呼ばれもしてた。せめて統一してもろてください。

 これは問題ありなのでは?

 なんて意味わからず憤慨しつつもある疑問持って三ヶ月。

 

「お嬢さん、お綺麗だね。これ、どうぞ」

 

 任務終わって宿屋目指す道中で、人気の多い街を通ってた時だ。知らない人に薔薇の花一輪渡された。

 

「あの! よろしければ絵のモデルに!」

 

 絵描きの青年が目を輝かせて頼む。

 

「美しいキミは罪だ! 是非私の伴侶に!」

 

 うどんの店で食事中に知らん大人の人に唐突公開求婚。この前は団子屋でも似たような事あった。

 どういう事よ……。って思ったけど、やっぱりなって気付いた。

 わたしは超絶美少女なんだって事。

 何度か『思い込んでるだけ』って、宿屋とか藤の花の家紋の家で借りた鏡で自分見た時にそう言い聞かせてた。でも鏡の中の自分はどう見ても、夢の中で会ったヒメミコさまと同じなのだ。

 チート無双気味(多分)の血持ちの超絶美少女。転生したって忘れかけてたけど、最高じゃねーの! 自然と某アニメ幼稚園児みたいな笑いが出て来た。

 初のお給金で買った可愛い手鏡を取り出して自分を見つめ、笑ったり怒ったり泣いたりの表情作ってみる。……うはっ。どの角度から見ても"美"だわ。

 だからかぁ。隊士の皆んなから距離置かれたり話しかけたりしても避けられたりすんの。だからかぁ。近寄り難い美しさっての? 

 罪よな〜、この超絶美少女度。調子乗っちゃうよ?

 

「だからかぁ…… 」

 

 一喜一憂。わたしはぼっちだ。この世界で生まれて友と呼べる人なんて一人もいなかった。集落にいた時でさえ、愛されアイドルだったけど、他の子達からはちょっと間置かれてたわ。そういえば。

 別に友達作る為に隊士になったんじゃないし、生きるか死ぬかの鬼との戦いで友達なんて探してんじゃねーよと言われるだろうけどさあ。でもそんな中で切磋琢磨出来る仲間というか、鬼滅主人公と黄色と猪の子たちみたいな身近な仲間がいてくれたらなぁ、欲しいなぁって思ってるんだけど。なってくれる人なんていないんだよなぁ。

 この前、よくあるいじめキャラガールみたいな女子隊士に、

 

「あんたが例の何とかの君だっけ? 男たぶらかしてる場合かっての!」

 

 って絡まれた。だから『たぶらかしては無いです。すみません』って顔合わした瞬間、わたしの顔見るなり『え!』ってなって、バツが悪そうに急いで離れてった。それから女子隊士に絡まれなくなりました。

 ちょい期待したのよ。こんな感じで突っ掛かりーの喧嘩しーの仲直りしーので友情芽生えるのではって。

 もう吹っ切って美少女である事をドヤるキャラチェンするべきか。でも中身が美少女慣れしてないんよなぁ。

 折角美少女に生まれたんだから贅沢言っちゃ罰当たるかもしれない。

 でもさ、心許せる友みたいな人は欲しい。

 

「はぁ……」

 

 あそうそう、チート血を使って無双チャレンジだけども、あの巨鬼の件以来慎重になりました。初っ端に闘牛士みたいな誘き寄せはせず、鬼の出方で様子見る事に決めました。けどあまり使う機会に無いというか、それ程苦戦する鬼退治にならないといいますか、単体での任務が無く、今のところずっと複数による任務ばかり行ってます。

 それにわたしの出番が無いワケで……。

 

「おい! 牡丹の君が見てる! うおお! 絶対倒す!」

「憂い顔も美しいいいー!」

「そこどけオレが倒す!」

 

 というのがあり、男性隊士達が勝手に盛り上がって『我先我先』っつーて率先しまくって必死に鬼滅してるんです。

 

「他では亡くなられる方々が多いのに」

 

 処理に来た隠の人が言った。

 

「八重野さ──、百合の君とご一緒した任務での隊士の生存率は高いです」

 

 名前はツッコミたいけど流した。

 どうやらわたしの存在が隊士の士気を上げてるようです。わたし何もしてないけど。

 でもこれは鬼殺隊にとっては良い事じゃね? って思ったんです。だって隊士になるのだって大変で、なっても生き残るのが大変だから隊士不足にはなりますでしょ? だからわたしが任務にいる事で隊士の強さがアップし、鬼倒し且つ、生き残る。WINでしょどう考えても。わたし本当に何もしてないけど。

 それでも雑魚鬼とは違ってレベルが高過ぎる鬼はどうしようもなく、鬼の血鬼術によって隊士がいなくなったらわたしが血チートで倒すか、柱の出番となるしかない。

 因みに鬼の血鬼術、わたしに向けてくる場合の能力は一切効きません。凄い自分の中の血! 十二鬼月にはまだ遭遇してないからわかんないけどね。

 

「生き残りはお前だけか?」

「は、……はい」

 

 つい先日はあの……、蛇柱来て炎柱よりも緊張だわ。おかっぱにオッドアイが特徴なんで直ぐに思い出してわかりました。なるべく目を合わせないようにして去ろうとしたけど、呼び止められてしまった。

 

「階級は?」

「庚、です」

「名は?」

「八重野です」

「倒したのはお前か?」

「は、はい」

「フン……、庚如き階級で倒せる鬼だとは。わざわざ俺が出向いた意味が無い」

 

 ネチリ感ある。ピリピリしてる。一般隊士がズタボロになって死んでる中で、無傷なわたしが一人生き残ってるのを疑問視してるワケじゃなさそう。柱が出されるくらいだから十二鬼月クラスかって思われてたのかもしれない。だから庚のわたしが倒せるレベルの鬼なのかよクソ雑魚(鬼、隊士共に)がって苛立ちのが強かったのかな。

 

「で、ではお先に失礼します!」

 

 取り敢えず先に離れようってした。うん。怖い。柱はやっぱ緊張するから。

 しかしまあ鬼は後を絶たない。倒しても倒してもいる。増えるワカメみたいに。

 

「あ、刀結構欠けてる!」

 

 ある日気づいた。そこまで鬼を日輪刀で斬っては無いんだけど(首はまだ無い)、それでも刃こぼれしちゃうみたい。

 やだなぁ。

 憂鬱なのは鋼鐵塚さんだ。きっと、いや絶対ブチ切れコロされる。

 やだなぁ。

 でもそのままにしておくのは出来なくて、仕方ないから隠の人呼んで刀を修理に出してもらった。

 はあ、やだなぁ。

 ってなワケで、刀が無いので任務はお休み。藤の花の家紋の家で暫く滞在しながら待ってる事にしました。本当はそよ婆の家に訪ねて行こうとしたけど、案外距離あるから断念した。さて、この空いた日数をどう過ごそう。久しぶりの休日で嬉しいんだけどね。

 

「あ、そうだ」

 

 飲食店でグルメしよかなって思いつく。折角だし美味しい物でも食べて癒されよって。服装は隊服から私服の着物へ(買いました)。髪型はギブソンタックのゆるふわ三つ編み。最近のお気に入り。前世で歳の離れた妹によくしてあげてたのをなんか手が覚えてたみたい。任務中はちょっときつくするけど。

 よし、先ずは近くの蕎麦屋。ここのお蕎麦屋さんお出汁が甘味あって天麩羅さくさくで幸せ。無限さくさくしたい。

 昼にはうどん屋。麺が連続でも全然平気。ネギが沢山入っててこれまた美味。お魚の出汁かな?

 次の日から珍しい洋食屋見つけてワクワクでコロッケやトンカツ、ライスカレー、オムライス。舌が懐かしくて涙出たわ。

 それから一週間くらい洋食屋に入り浸って外食三昧。何回か通って遂には自分で作ってみよって思ってお店の人にレシピ聞き回って自作したメモ帳に記してニマニマする。明日は材料買って藤の花の家紋の家で台所使わせて頂こうかなって考え中。

 

「おお美しい人!」

 

 凄い腹から出てる声がして一瞬ミュージカル始まったのかなって思った。

 

「いやぁまさにこれは運命としか言いようがない!」

 

 洋装した知らない男の人がわたしに向けて言ってる。

 

「申遅れしました。私は美味な洋食屋を見つけては食べ歩くのを趣味とし、各地を旅する者です! 本日たまたまそこの店に入ったところ、運命的に貴女と出逢いました!」

「え、あ、はあ」

 

 こんな人いたっけってなる。出された料理にしか目がいかなかったし。

 

「貴女は洋食屋がお好きと見える。ええ。私もです。絶対間違いなく運命です。是非とも私と共に日本中を巡る洋食屋の旅に出ましょう。嗚呼、お金のご心配はなさらずに」

 

 日本中を巡る洋食屋の旅には惹かれるけど。またかぁってげんなりする。

 初めは『こんなにモテてわたしすご』ってぐへへしてたけど、定期的にこう何度も来ると嫌になってくるのよ。

 

「あの……、すみません。お断りします。では」

 

 通りすがりの人々がわたしたちを見ては去る。わたしも早く立ち去りたい。

 

「待って下さい運命の人よ!」

 

 諦めが悪い。男の人はわたしの前に立ち塞がるように片足を跪いた。

 

「こ、困ります。やめて下さい」

 

 やだなぁ。こういうの。公開処刑みたいで。わたしが本当に迷惑そうに断わると、『仕方ないですね』としょんぼりした顔で男の人が立ち上がった。

 

「仕方ありません。洋食屋の旅は諦めましょう。私もつい舞い上がってしまいました。嗚呼、貴女に無理強いをさせるつもりは無いのでこれで私は去ろうと思います。ただ──」

 

 諦めてくれたとほっとしてたら、男の人はある場所を指差して言った。10軒先くらいになんか老舗っぽいお高そうなお店が見える。あれかな。

 

「貴女にご迷惑をかけてしまったお詫びと言ってはなんですが、あの鰻屋の店へ行きませんか? ご馳走致します」

「鰻屋?」

 

 わたしは『鰻』に反応した。そうか。鰻屋ってあるんだこの時代って。

 

「ええ。あの鰻屋は一度食べたら忘れられない味として有名らしいですよ」

 

 鰻かぁ。わたしの脳内ではふわふわ美味しそうな鰻が浮かんだ。

 

「でもなぁ、知らない人と行くのはなぁ」

 

 鰻につい揺らいじゃったけど、いくら奢ってくれるからって素性の知らない男の人と行くのは躊躇われるわ。

 

「折角ですが、すみません。それもお断りします」

 

 丁寧にお断りして去ろうとすれば、ガッと急に左手首掴まれて吃驚した。

 

「いやいや、すぐそこなんです。美しい人よ。鰻屋行きましょう? 遠慮なさらずにさあ!」

「え、あちょっとやめて下さい! 離して!」

 

 これは強引。怖いわ流石に。なんで洋食屋はあっさり退いたのに鰻屋はこんなに必死なん。

 

「怖がらないで良いんです! 美味しい美味しい鰻食べるだけなんですから!」

「断わるって言いましたよね? 行きませんから離して下さい!」

「さあ行きましょう!」

 

 通行人が『何だ何だ』と足を止め始めたら、男の人は焦りから掴む手に力込めてわたしを無理矢理引っ張って行こうとした。でもわたしも抵抗の意思で踏ん張ってるから、なかなか連れて行けない綱引きみたいな感じになる。

 やば、何なのコイツ。

 いい加減腹が立ってきたので急所でも蹴ってやろうかな。

 

「おい」

 

 したらなんかドスのある声がしたから、反射的にそちらを見て心臓止まりかけた。

 

「テメェら道の真ん中で邪魔なんだよォ」

 

 大きく見開いた鋭い目は血走り、非常に長い上下の睫毛と無造作な白髪。そして痛々しい傷だらけの強面。

 絶対人何人かヤッテマスみたいな人キター。

 あれ、この人どこかで見たような。

 誰だっけって思い出しながら服装注目したら鬼殺隊の隊服じゃないの。

 

「じゃ、邪魔とは失礼な! 私は今大事な局面なんだよ? 邪魔なのはそちら。真ん中を通らずに端を通れば良い!」

 

 突如現れた凶悪顔のこの人が怖過ぎてビビってる男の人は果敢だったけど、怖いのか凄い屁っ放り腰になってる。ていうかこの強面隊士って、もしや────。

 

「んだとテメェ。何が大事な局面だってェ?」

「ひ、ひいいっ」

 

 強面の人が男の人の胸倉掴んだら、男の人は堪らずに掴んでいたわたしの手首を離した。良かったー。

 

「わた、私はね、ただ鰻屋に彼女をお誘いしてただけなんだよ!」

「どう見ても無理矢理に連れて行こうとしてるじゃねぇか。アアァ?」

「は、はなせぇ!」

 

 思い出したわ。この人。確かたん…たん…じ、──鬼滅主人公の頭突きをくらった風柱だ。絶対そうだ間違いない。

 わたしがこの強面を風柱だと思い出したと同時、風柱は男の人を突き飛ばす様に離した。

 

「鰻屋はテメェ一人で行ってろォ」

「ぐぅっ……くそおお!」

 

 男の人は砂埃だらけの薄汚れた姿で鰻屋に走って行った。ぶざまねー。

 これで一安心だなって、わたしは風柱にお礼を伝える事にした。

 

「あの、ありがとうございました」

 

 深く頭を下げてお礼したら、風柱はこの時やっとわたしへと顔を向けた。やっとね。

 

「あ? 礼なんてされる覚えは無ェ。邪魔だったから邪魔だと言ったまでだ」

 

 風柱はぶっきらぼうに言い放ってそのまま踵を返して行こうとした。

 あ、行ってしまう。どうしよう挨拶した方が良かったかな?

 少し考えだけどわたしは敢えて呼び止めなかった。一般隊士から挨拶されても『わざわざ呼び止めんじゃねェ』って怒られそうだし、任務でこの街にいるなら邪魔しちゃうかもだし、 何より怖いし。それにわたしを隊士だと気づいて無いならこのままスルーしてもらってた方が良い気がする。

 さ、またあの男の人に遭遇したら嫌だし藤の花の家紋の家に戻ろーっと。

 風柱と逆の方向に足を進めたその時、『カアア!』って頭上から鎹鴉の声がした。

 あ、弁天ちゃんかな。

 

「ナツ! 藤ノ花ノ家紋ノ家ニ刀が届イタワァァ! 早ク戻リナサァイ!」

 

 わたしの肩に乗って弁天ちゃんがお知らせに来た。

 

「えぇ! 刀だけ?」

 

 刀戻ってきたのは喜ばしいけど、誰が持って来たのかとか、刀だけ置いてもう鋼鐵塚さんはいないのかとかってのが気になる重要。

 

「早ク早ク! 怒ッテル!」

「わぁぁ! それってもう絶対いるじゃん! 怖いぃ!」

 

 わたしはビクビクしながら戻って来た。玄関先にはいなかったし、きっとわたしが寝泊まりさせてもらってる部屋に通されているんだろう。

 やだなぁ。そよ婆もいないし止めてくれる人もいないし。マジツラァ。

 

「お……お待たせしました」

 

 部屋に入ると真ん中で背を向けて寝っ転がっている鋼鐵塚さんがいた。冷や汗出た。

 

「あ、あの」

 

 取り敢えずその場で正座して恐る恐る声をかける。応答無し。

 

「あのすみません鋼鐵塚さ────」

「遅い!」

「え!」

「遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅い遅いイアアアアアアアアアア!!」

 

 素早く起き上がった鋼鐵塚さんが奇声を発した。

 

「ご、ごごごめんなさああああい!」

「八重野ナツウウゥ! よくも俺の刀をぼろぼろにしたなアアアァ!」

「だっ大事に使ったんですけど欠けちゃったんです!」

「言い訳無用だああああ!」

「ひぃいっ」

 

 鋼鐵塚さんはぶんぶん腕を回して振り上げた。

 来た。

 身構える。でもいくら待ってもその腕は振り下ろされない。

 

「っぐううんっ……」

 

 前回と同じく、鋼鐵塚さんは小刻みに震えながら堪えてるっぽかった。

 もしかして鋼鐵塚さんて、一応は女隊士相手には我慢してる説ある?

 他の人にはどうしてるかわからないけど。

 

「ぐううううっ!!」

 

 振り上げた腕を下ろして頭を打ちつけ始める鋼鐵塚さん。怒りをぶつける先が畳しかないからか。にしてもその姿はドン引きです。

 

「八重野!!」

「はっはい!」

「次はぶち……無いぞ!!」

 

 ひょっとこ面から滲み出る怒りに身体震えました。後、次は『ぶち』って何なのか怖くて訊けない。

 たらり。面下から血が流れてくのが見えた。畳に頭を打ちつけたせいでしょうね。

 

「あの鋼鐵塚さん、血が出てます」

「五月蝿い! 受け取れ!」

「はいすみません受け取ります!」

 

 刀を繊細に渡されてわたしも両手で大事に受け取った。

 

「帰る!」

 

 障子をパァンって怒り任せに開けた鋼鐵塚さんを見送る為に廊下を通って追いかけたわたしは、考える間なく自分の胸元に仕舞っていた父の手拭いを取り出した。

 

「あああの鋼鐵塚さん、これを」

「アアァ?」

 

 玄関先で慌てて呼び止め、それを鋼鐵塚さんへ差し出す。

 

「何だこれは?」

「手拭いです。良かったらこれで拭いて下さい、血を」

「こんなものは要らん!」

「毎日綺麗に洗ってますから大丈夫です! それに拭いたら捨ててもらって結構です!」

 

 鋼鐵塚さんは無言でその手拭いを見つめた後、わたしの手から奪い取る様にして掴んで去って行った。

 

「お気をつけて!」

 

 鋼鐵塚さんの姿が見えなくなった時、わたしはやっと解放されたという気持ちで深い溜息を吐いた。

 

「欠けただけでこれって、折ったらどうなっちゃうの?」

 

 マジで替えてもらう方向考えよ。

 

「それと……」

 

 形見の手拭い渡しちゃった。他に持ってなかったから。

 今頃渡したの後悔しても遅いよなぁって凹んだ。

 部屋にとぼとぼと戻りながら過る。

 

「無限列車編っていつなんだろ」

 

 

 

 

 

 

 

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