後方師匠面の転生者に『功夫が足りん!!』と言われ続けた噛ませ犬がバグった話 作:後方師匠ズラ
八極拳の武術家の語ったとされる言葉を胸に更に数年。フィルは17才となっており、この国に於いて始まる騎士団への入団試験を受ける事になっていた。
ただ、だからと言って家族間で激励の言葉があった訳じゃなく、一年前にフィルが父に騎士団へと入隊する事を告げた時も非常に淡白な反応であり、『そうか』の一言で憐れむ様な、不安そうな、そんな目を向けていた事を思い出す。
フィルは記憶の中の父親の姿に苦笑いを一つ浮かべると、馬車に揺られながら誰一人見送りが無い屋敷を一瞥しつつ、一年前に不意に居なくなった師匠面の男を思い出す。
(……突然現れたかと思えば、居なくなるのも突然だったな)
思えば十年近く認められていなかったと言うのに、よくもまぁ耐えた物だなと過去を振り返りながらそう自嘲するフィル。
居なくなる直前に『お前はもう一人前だ。教える事はもう無い』と言って颯爽と何処かへと去って行ったあのよく分からない男。小馬鹿にはして来たが、一度も憐れまれたり比較された事は無かった。
無論そう捉えているだけかもしれないが……と、フィルは懐かしさを感じさせるような表情を浮かべながら、一瞬だけ車窓から外に流れる風景の中に十年通った鍛錬場を見る。
(……ま、最後だし、礼ぐらいは言ってやるよ。––––ありがとうございました)
決して口には出さず。しかし心の内で素直じゃ無い礼を告げると、フィルは車窓から視線を切ってこれから自分が受ける試験へと意識を移していった。
▽
–––––この世界について軽く説明するのならば、転生者視点で言うところのゲームを元にした世界であり、『イアロス・パラミシア』と言うSRPGに酷似した世界観を持つ。
単語そのものを日本語に直訳すれば英雄の御伽噺。そのような世界観である為、この世界には数々の魔獣や伝説上の生き物が存在し、その中で孤児院出身の主人公『ルークス』が仲間達と共に武勇を天下に轟かせる、そんな内容の世界観。
時には一般人では太刀打ち不可能な魔獣を退治し、時には未開拓の地を踏破しながら開拓し、人類の繁栄の為にひたむきに努力する正統派なストーリーであり、それ故に人類同士の大規模な戦争やイザコザが起きていない時代。
––––さしずめ、開拓期と言った所だろうか。
巨大な魔獣や伝説上の存在を下す事は誉れであり栄誉、亜人といった自分達とは違う存在達と人間が交流し始めたのもこの時代。
そしてもう一つ。この世界には魔法が存在し、それ故に人類の技術史が科学では無くオカルトの方面へと傾倒してしまっている事も特徴だろう。
魔法の才は様々あれどその開花には研鑽を必須とし、それを怠れば余程の
ただし、この世界の魔法とはファンタジックな代物では無く、現実の物理法則の延長線上に魔素と呼ばれる素粒子を介入させる事で発生する事象の総称であり、不可能を可能にする事も理論上はできるがその分野に対しての非常に深い知識が必要とされている。
天才と称される者達はこれらの事を
向き不向きの傾向として生まれ持った属性という考え方もあるにはあるが、その辺りは鍛錬によって覆す事が可能である。
尤も、この時代ではまだまだ魔法に関する理論が感覚的な為、躍起になってそれらの研究を行う学者達の努力も虚しく、生活基盤はそれに支えられていても便利な
討った。討たれた。仇討ちをした。そんな人魔共に殺伐としながらもタフに生きる人々の世界。それがこの世界であり、同時に–––––––
転生者がこの世界にその身を置く。その為に神の手によって作り出されたゲームと酷似した世界。それは即ち
どう行動しても、運命がそう導く様に脱線した道筋を曲がりくねりながらも既定路線へと引き戻す。
中国武術を修め、十年の歳月を功夫の研鑽に費やしたフィルの内面が横暴な性格から変わらなかった事も、彼の承認欲求の矛先が何故か家族に向かなかった事も、家族との確執が残ったままな事も、
一種の強制力。しかし運命を強制されても
フィルは既に『原作』と言う『強制力』へ抗う力を無意識のうちに有している。それは功夫と言う異界の概念と、それを実直に十年間積み重ねた事による自分の重ねた人生を信じる精神力、その重みを一撃へと乗せる為の武術。
『原作』のフィルも騎士団へ入ろうとする。その理由は一族の者で騎士の肩書きを持てなかったと言う悪い意味の例外になりたくないと言うプレッシャーと、自分の実力は正しく評価されていないだけだと言う淡い希望による物だ。
実際、前者は兎も角後者は間違っては居らず、入団試験に於いては優秀な成績を残しており、親のコネクションを使わずとも合格ラインには届いている。更に付け加えるならば騎士団に入り、実力を発揮して無辜の市民を守れれば自分の評価は変わるんじゃないかと言う悲壮な思いもそこには存在した。
しかし、この入団試験の最後に今期入団希望者同士の実力把握と言う名目の模擬戦で当たってしまったのが
この出来事がきっかけでルークスの姿が才能の格差を見せつける家族と重なって見えてしまう様になった事に加え、後に合格通知を父に報告しに蜻蛉返りした彼に浴びせられた『お前の実力では口利きも無しに騎士団入りが出来る訳が無いだろう?
––––運命の旅路は寄り道を許さない。その証拠に、この世界でも既に根回しが済んでおり、フィルの入団試験は形だけの出来レースとなっている事を知らない。
––––そして、
––––『原作』と呼ばれる神の手によって敷かれたレールの上をゆっくりと動き出すのだった。