後方師匠面の転生者に『功夫が足りん!!』と言われ続けた噛ませ犬がバグった話 作:後方師匠ズラ
そしてルーキー日刊一位ありがとうございます!!
※2/10加筆修正。
フィル達が住むこの国は『アルケー皇国』と言い、始まりの地とも呼ばれる人類最初の国家として歴史を刻んでいた。
その為、皇国の守護者たる『アルケー騎士団』は国内外からの人気・名声共に高く、その入団試験の倍率は非常に高いとされており、この時期は皇国の城下町は人でごった返している。
城壁に囲まれている所為か、心なしか人口密度による精神的圧迫感を感じるフィルは人混みの中を酷く鬱陶しそうな表情を浮かべながら歩いて行く。
家庭環境によって人間嫌いの節がある彼にとって、この街中の移動は存外にストレスが溜まる物であり、
『原作』ではこのストレスがとあるキャラクターに対してかなりキツめに当たる要因になるのだが––––十年の功夫の為か此処でほんの少しだけ運命が変わった。
試験場までの通り道。例年通り入団希望者達によって活気が湧くこの場所は試験前の腹拵えを目的とした簡単な出店が出回っており、道行く者達に売り子達が呼び掛けを行なっている。
その声は四方八方から聞こえており、それがまた彼のストレスを増やして行く。その為に集中力が散漫となり
この時彼女は手にパンに溶かしたチーズを乗せて薄切りの焼き肉を乗せたファストフードの様な物を握っており、それをフィルの服にべったりと貼り付けてしまっていた。
当然、彼女に悪意があった訳では無い。人と人がすれ違う時に肩がぶつかりそうになるくらいには場が賑わっており、棒立ちしているだけで邪魔になるような状態だ。この様な事が起きたとしても仕方の無い事だろう。
『原作』では、この事に腹を立てたフィルはいきなり彼女の頬を張り飛ばすと、そのままあしざまに罵ってから試験場へと向かう。それはストレスの発散と同時にピリピリしている所に物見遊山な人間がいる事へ対しての苛立ちから来る物だったのだが、この世界のフィルはいきなり手を挙げる事はしなかった。
じっと自分の服に張り付いたファストフードと、きょとんとした顔の少女を鷹の様な鋭い目で交互に見やる。
赤眼赤髪のセミロング、非常に整った顔付きだが間の抜けた様な顔をしているが、何処となく飢えた獣の様なギラギラとした雰囲気を纏っており、一目見て自分とはタイプが合わない人種だとフィルは悟った。
一瞬。
「……この程度のアクシデントでイラつくなんて、功夫が足りないね」
「……………よくわからない。けど、ごめん?」
深い深呼吸と共に零した一言。それは誰かに対して言ったセリフでは無く、自分自身に言い聞かせるような物であり、目の前のタイプの違う少女に向けた物では無い。
だからこそ独り言だったのだが、それが却って会話を生むだけの時間を作ってしまう。
小さな『イベント』しかし強制力は働いており、彼の目に映る少女は愛らしく見えるが、どこか感情の起伏が乏しい様にも見えて、人間嫌いである彼からすれば張り倒したいほど自分に『合わない』と感じていた。
その為、フィルは謝罪を無視して会場まで向かおうとしたのだが、その前に先程の少女がその袖を引く。
「何だよ? 生憎僕はお前みたいなヤツと関わってる暇が無いんだ。謝罪ならもういいからどっか行ってくんない? 邪魔だからさ?」
「…………貴方に、用は無い。忘れ物、取りたいだけ」
間を置いて言葉を区切りながら話す独特な喋り方のその少女は、そう言って
なんだかんだで良いところのお坊ちゃんであるフィルはその行為が全く理解出来ず、思わず棒立ちしてしまう。
そして再起動した頭が下した判断は–––––他人の服に張り付いて道ゆく人の土埃で汚れた焼き肉を食べようとする少女を止めると言う至極真っ当な事だった。
▽
この世界に於ける貨幣は原作設定を引き合いに出すならば銅貨・銀貨・金貨のオーソドックスな物であり、日本円換算で銅貨10円・銀貨10万円・金貨10億円と言う物となり、物価もそれ相応。従って金貨や銀貨は中々見る事は無く、基本的には銅貨を持ち歩く事になる。
各硬貨も多少の区分けがされており、10枚分の一乗硬貨、100枚分の二乗硬貨、1000枚分の三乗硬貨と言った風にある程度は硬貨の重さを緩和させられる様にはなっているのだが……フィルの財布はそれらの意味とは別の理由でその重みを失っていた。
あの後、頑なに焼き肉を口にしようとする彼女を止める為に『腹が減ってるなら僕が奢ってやるからそれを捨てろ』と言った事が運の尽き。
乏しい表情ながらも目を若干輝かせた彼女はその言葉に従った…………のだが、彼女は一切遠慮する事なく出店の料理を片っ端から食べて行く。
『原作』ではフィルは親から貰える小遣いで散財祭りだったのだが、この世界の彼は『そんな暇あるなら功夫を積む』な思考だった為、それなり以上にお金は持っていた筈だった。
流石に全額持ってきている訳じゃ無かったが、銀貨が3枚は入っていたから少なくとも倹約すれば数ヶ月は生活出来る、それがこの少女一人に食い潰されたとあっては苦笑いしか浮かばないだろう。それほどの
「……満足」
「銀貨3枚分食って満足してなかったら今この場でお前を殴り殺してるよ」
若干––––いや、かなり殺気を込めた物言いで疲れた様にため息を溢すフィル。
試験にはまだ余裕があるから遅刻の心配は無いが、精神的な疲労感がフィルを襲っており、万一遅刻しない為にも今は会場の側に生えている木の根本に腰を下ろしている。
それもその筈、周りから見れば年若い男女がこの時期に出店を周り、男が女の食欲の赴くままにお金を出す。恋仲、或いは気を引こうと貢ぐ男に見えたのか、店員に幾度となく謎の励ましや憐れみを受け続けていたのだ。途中から反論するのが面倒になり、好きに言わせていたが過去の辛い鍛錬の日々を振り返ったとしても彼は今日この日の疲れには絶対に勝てんと断言出来た。
「……ノーヴァ」
「はぁ? 何それ?」
「名前、私の。貴方のは?」
「何で僕が今日この日限りの関係の人間にそんな事教えなきゃいけないんだよ。しかも奢りだからって遠慮無しに食うヤツだぞ? 万一今後があるとしてもお引き取りください、だっての」
ヒラヒラと手を払いながら嫌味を含めてそう言い放つフィル。彼からすれば彼女は確かに見目麗しく、体付きも出るとこは出ており、肉体美も整っているものの、単純に苦手な性格・手合いであり、関係をこれ以上持ちたくなかった。
…………のだが、チラりと鷹のような鋭い目でノーヴァの顔を見ると、何処となく悲しそうな顔をしており『……そう。ごめん』と小さな声で謝っており、その姿を見た彼は苛立ちを発散するかの如く、舌打ちをしながら頭をガシガシと掻く。
「–––––フィル」
「……名前?」
「何で僕が僕以外の奴の名前を名乗んないといけないんだよ。ま、今日限りの関係になるだろうし、覚えなくて良いよ」
–––––そんな風に刺々しく自分の名を名乗った彼だったが、ノーヴァはその態度に気を悪くする事なく、名前を覚える為か何度もフィルの名前を口にする。
そんな彼女の様子を見て、同年代の見ず知らずの少女に名前を呼ばれている事に気が付いたフィルは思わず気恥ずかしさから顔を逸らす。
その為、彼は見落としてしまった。そんなフィルの横顔をまるで好奇心丸出しの動物の様な雰囲気で彼女が眺めている事を。
無表情系無垢大食い少女ノーヴァさんがエントリーしました。
身長は主人公より頭一つ分低く、胸もそれなりに出ています。へそとか肩とかもガッツリ露出する露出強な服装ですが、フィル君はガン無視。
『原作』ではビンタされた後ぽけっとしてるところを
イベントの『内容』が強制力を越えて地味に捻じ曲がった瞬間である。