後方師匠面の転生者に『功夫が足りん!!』と言われ続けた噛ませ犬がバグった話   作:後方師匠ズラ

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 感想返信ですが、作品に集中したい為に今後は控えます。申し訳ありません(土下座


以下用語集

 『アルケー皇国』

 この世界に於いて人類初の国家。最初の竜殺しの尽力によって建国されたと言われており、今の時代では唯一の国家とされている。

 王都周辺には何故か弱い魔獣しか近寄らない為に、皇帝の足元のみ治安が安定しており、それ故に騎士団の大半が遠征に出かける事が多い。一説では嘗て討ち倒された竜種の骨がこの地に存在するが故に、それが一種の縄張りとして機能している為、エサになり得る弱小の魔獣以外が近寄れないのではないかと言われているが真偽は不明。

 非常に謎多き国家であり、皇帝は民の前に姿を現さず、臣下の前ですら布ごしのシルエットで会話する。

 徹底した正体の秘匿が行われているが、治世としては魔獣の絶滅政策を中心とし人類の発展となるであろう事柄に終始尽力したとされる。

 ただし、後世ではあまりにも個人に関する記載が存在していない他、家系図すら存在していない為に存在が疑問視されている。
 


功夫之玖

 

 

 騎士団の花形の部隊への編入が決まったフィルは、正装に身を包みながら兵舎へと向かっていた。

 

 今回は初日のように服を汚される事のないように周囲の音や道行く人々の動きなどにしっかりと注意を払っており、街に着いた時点でどうやって見つけ出したのか、犬のように寄ってきたノーヴァにも食い物を買い与えて対策もしていた。

 

 ……尤も、使わない貯金から支払っているとは言えそれなり以上の金額を持ってきたのでフィルとしても痛い出費なのだが。

 

 とりあえず横でヘタクソなコミュニケーションを試みられるより食わせて黙らせた方が全然マシであるし、面倒くさい人間に絡まれるよりは金で解決する方が楽だとフィルは思っており、彼も適当なところで別れるつもりだった。

 

 横目で両手一杯の食べ物を次から次へと頬張っていくノーヴァへ対して一種の異常性を感じはするが、彼もまた両親や二人の兄といった異常な人間のカテゴリーを身近に持っており、無意識に彼らを基準に人間を判断していた為に、判断基準が少々歪んでいる。だからか、彼は彼女を邪険に扱いはするもののなんだかんだ言って面倒を見てしまう。

 

 その優しさは、家庭環境に起因する孤独感を埋める為に無意識の内に他人との繋がりを求めてしまっているが故の行為なのか、或いは性格が歪んだ為に見えづらくなった生来の優しさなのかは分からない。

 

 ただ、ノーヴァはフィルへ対する視線にラント家のフィルターを通していない様な素振りをしている、そう言った意味では彼女はフィル自身をしっかりと見ている人間だと言えるだろう。異常な人間の一人ではあるが、フィルにとっては数少ない『自分を見ている人』でもある。

 

 と言っても、一回会ったきりの人間ではあるし、そもそも人間不信気味の彼がそう簡単に他人を信じれる訳では無いので、これもまた無意識に行なっている様子見の段階に近いのだが。

 

 そんな風に歩いていると、周囲へ気を張っていたからか少し先の方で見た事のある顔を見つけてしまう。

 

 それは先日模擬戦で派手にやり合った相手であり、反射的に不完全な絶招を打たされた為、勝ちは拾ったがその内容は負けたとしか思えないという、そんな見たくも会いたくも無い男だった。

 

 彼も自分と同じ部隊に入った事をフィルは知ってはいるが、どうやら孤児院の経営者が昔の礼服を彼に渡したらしく、その衣服が少々草臥れているのが見てとれる。

 

 服装に対して嫌味の一つでも言ってやろうかと思いはしたが、屋敷で荒れに荒れた後であり、部屋で散々父親を罵倒していた気疲れからか、絡むだけ疲れると思い直す。そうで無くとも孤児院の子供達らしき幼子達に囲まれている、その内へ絡みに行くのは––––––フィルにとって家族の差を見せ付けられるような、そんな気持ちを抱かせる行為でもあった。

 

 ––––本来ならば、フィルはマニュス隊に入っておらず、ルークスのみが彼の部隊に編入されていた。その事についてフィルが絡みに行っていたのだが、これもまた運命が一つズレた結果である。

 

 フィルは、子供達に引き留められ或いは送り出しのエールを各々に受けながら困った様に、しかし何処か嬉しそうに笑うルークスを横目に見ながらその後ろを素通りして行くのだった。

 

 

 ▽

 

 

 ノーヴァと別れ、予定の時間よりも早く指定の場所へと向かったフィルを待っていたのはマニュス隊の副隊長であるミセリアによる出迎えだった。

 

 彼女の服装は極端に露出が少なく、手袋も付けている。顔立ちは整っており、金髪碧眼の美女と呼べる見た目だが、唯一露出した顔色から色白と言うには些か白過ぎるとフィルは感じた。まるで病人や死人のような、そんな白さ。

 

 フィルはその顔色の悪さに怪訝な表情を浮かべそうになったが、部隊に所属する人間である以上体調管理は行われているはずであり、こうして自分を出迎えている事からも隊内で問題視されていないと考え、脳裏に浮かびそうになった疑問を霧散させる。

 

 

「……お早いですね、フィル・ラント。ようこそマニュス隊へ、私はこの部隊の副隊長を任されているミセリアと申します。以後よろしくお願いします」

 

 

 ミセリアは歓迎の意を表す様に握手を求め、フィルもまたそれに応えるように手を握った。

 

 ラントの名に恥じない働きをしなければと、そう思っているが故に自然とその手に力が籠っていたが、此処で予定よりも早くフィルが来てしまった事によって厄介事を生んでしまったらしい。

 

 

「副隊長。そいつが例の新人ですかい?」

 

 

 背後から投げかけられた声。それは歓迎の意味合いの篭った声色では無く、寧ろその逆の雰囲気を孕んでいる事が容易に理解出来た。

 

 フィルもその手の対応をされる事を予想しており、特に何の感情もなく背後を振り返る。

 

 見ればそこには訓練帰りなのか他の騎士もチラホラと遠巻きに彼を見ており、ある意味では()()()()()()状況でもあった。

 

 

 ––––––ラント家は皇国最強の名を欲しいがままにする名門であり、人類の防波堤とも言われる最終兵器。当代はその異常とも言える戦闘能力によって多くの者から英雄視され、多くの信者を作り出しているが、光があれば影も存在する。

 

 個人の戦力単位が桁外れな彼らは竜種やその他の()()()()()()()()()()()()主な任務としており、一般的な騎士達では達成困難な任務を常日頃から解決している。しかし、それは皇国の為に命を賭している者達からすれば、自分達の無力さを見せ付けられるような物に等しかった。

 

 基本的にフィルを除いたラント家の人間は、家族以外の他人を()()()()()()()と一括りに認識しており、その思想が性格や人間性へ影響を与えている。

 

 誰にも期待しない。何故なら自身を基準にすれば他者は全て弱者であり、庇護すべき存在。故にその強さに英雄の背中を見てしまった者は信者染みた人間となる、だがそうでない者は彼らを怪物と呼び、その性格や人間性を嫌悪する。

 

 それは実力主義の部隊であればあるほど傾向として強くなり、強者に対する警戒心を生む。

 

 勿論この部隊もその一つであり、隊員全てがそうであるとは言わないが、しかしながら目の前でフィルと対峙する男はその類の者だったのだろう。

 

 ジロジロと睨め付けるような視線を向ける男に不快感を感じつつも、実力主義の隊である以上喧嘩を買って打ちのめせばある程度は認められる。暴力的ではあるが、明日をも知れぬ生活に身をやつしているが故の判断基準。フィルはそれを理解しており、敢えて挑発するように男を鼻で笑った。

 

 

「そうだよ? 僕はフィル・ラント。ラント家の末弟さ」

 

「出涸らしの方か、箔付けの為に入隊したんなら出て行きな」

 

「出涸らし……か。別に有象無象に何を言われても気にならないんだけど、どうやら喧嘩を売りたいらしいね。センパイ?」

 

「だったらどうした? 出涸らし」

 

「実力を教えて差し上げますよ」

 

「フィルさん。これから貴方には隊長に会っていただかなければならないので勝手な私闘は許可しかねます。バッツさんも思う所はあるでしょうが彼は貴方の出会ったラントの次兄ではありません。個人的な感情を向けないでください」

 

 

 貴方の不信を利用した自身への侮りの払拭。フィルはそれを狙って売り言葉と買い言葉で私闘を成立させようとしたが、ミセリアが間に入って止めに来る。

 

 その表情からは面倒事を起こすなという思いが容易に伝わってくるが、フィルとしても早い内に自分の立ち位置を安定させておきたい為、この絶好の機会を逃したくは無かった。

 

 正式に入隊してからでも手合わせする機会はあるかもしれないが、鉄は熱い内に打たなければ良い形にはならない。少なくとも私闘を行える程度の自由を得る頃にはフィルに対する視線はある程度固まってしまうだろう。

 

 それ故に彼は思考を回す。ミセリアの口から出たラントの次兄と言う言葉。それが意味する事は即ち––––。

 

 

「ああ、センパイは新大陸で亜人に殺されかけたんだ? もしかしてその時に兄上に『役に立たないから下がってろ』とでも言われたのかな?」

 

「……副隊長。退いてください、やはり我々はラントの末弟を隊に入れる事に納得が出来ません。せめてその実力を目で見ない事には飲み込まなければいけなくとも、飲み込めない」

 

 

 腰の訓練用の剣を引き抜き、バッツと呼ばれた男はフィルに向けて構えた。対するフィルも礼服の上着を脱いで肌着になると、受けて立つと言わんばかりに拳を構える。

 

 二人の様子に止めても無駄だと判断したミセリアは、盛大にため息を吐いてから一歩後ろに下がった。

 

 その瞬間バッツは身を低くしながら踏み込み、フィルへと刺突を放つ。

 

 剣の向きは縦では無く横。所謂平突きと呼ばれる物であり、刺突を回避されたとしても横薙ぎの斬撃へ切り替える事の出来る二段階攻撃である。

 

 彼はラント家への個人的な思いはあれど頭は冷静であり、自分の八つ当たりを口実に実力を測る事を目的にしている為か、一切容赦はしていなかった。

 

 少なくともミセリアの体によってある程度視界が塞がれた状態からの不意打ち気味の一撃であり、万が一回避や防御をされたとしても二の太刀で斬り返す事が可能である。

 

 だからこそ、フィルが半身体をずらす様にしてそれを回避した瞬間、その場で軸足を踏み締めて横薙ぎに切り掛かった彼の動きに澱みは無かった。

 

 しかし––––フィルはそれ以上に疾い。

 

 天才を基準とすれば確かに彼は才能が劣る。しかしそれは相手が災害級の天才であるが故であり、決して無能では無いのだ。

 

 即座に放たれたのは鉄山靠。拳や頂肘を打てば加減したと言えどタダでは済まない為、フィルは回避と同時に鉄山靠を放つ事でバッツを弾き飛ばす。

 

 彼はミセリアが退いた瞬間に放たれた刺突の意味を瞬時に理解していた。それ故に回避直後の切り返しを狙うほんの僅かな硬直へ合わせ、身体に染み付いた動きを反射的に放つ。

 

 カウンターを合わせられるとは想定していなかったのか、バッツは受け身こそ取る事が出来たものの、フィルに踏み込まれて立ち上がる前に顔面へ拳を寸止めされる。

 

 

「……ま、参った」

 

「––––功夫が足りないね」

 

 

 得意そうにフィルはそう言うと、この瞬殺劇に呆気に取られた者達を『これで文句は無いだろう?』と言わんばかりに一瞥するのだった。




 『亜人』

 エルフ・ドワーフ・獣人など、人間以外の人類を一括りにした言葉。

 アルケー皇国が存在する大陸にはドワーフが存在しており、人間とは比較的友好的である。

 エルフ・獣人は新大陸に存在し、人間には敵対的となっている。これは彼らの生まれと育ちが新大陸であるが故に、その地が自分達の物であると言う考えが強く、外海からやってきた人間の事を侵略者と見なしている為である。

 この為、第一次調査隊はエルフによって全滅。第二次調査隊は獣人によって壊滅し、第三次調査隊にラント家の次男を投入する事で両勢力の襲撃を退けている。

 現在はラントの次男が有する異常な戦闘能力を以って両種族との争いは膠着状態となり、対話のテーブルが作られる事となった。ただし、あくまで対話が可能になっただけであり、政治的な取引や友好関係を築く事が可能か否かは別の話である。
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