「エクスプロージョン!!」
鬱蒼とした森の一部が閃光と共に穿たれる。
全方位に広がる衝撃波は森の野生動物たちを一斉に恐慌状態に陥れ、
数多の生態系を修復不可能なレベルで破壊し尽くす。
これが一人の少女によって引き起こされた人災であるところが殊更恐ろしいところである。
「ふいぃ~!見事ゴブリンの撃破が完了しましたね!」
その天変地異をもたらした張本人であるめぐみんは
未だにバラバラと木や土、果ては何かの肉が降り注ぐ中、貴方のとなりで地面に倒れ伏す。
幸いなことに無数にあった"ゴミクズ"のふわふわした部分で作った簡易クッションのおかげでノーダメージである。
あったかふわふわ!
しかし上からのダメージは容赦がないので貴方はめぐみんに影を作るように移動する。
フルプレートの為あらゆる破片をはじくが時折気色悪い何かの肉がぶつかったりする。
だがそういうのはもう慣れっこだ。
今回請け負ったクエストは亜人ゴブリンの巣の壊滅。
近隣の村々における家畜被害はジャイアントトードによるものだけではなく、
ゴブリン等の低級モンスターによっても引き起こされている。
このモンスターの厄介なところは、人への被害が悪辣なところである。
人間に近い文明形態を持っていることから、家畜被害だけではなく物品の盗難等も発生しており、
時には計画的に冒険者を襲ったりすることもあるという。
要は気づかれずに倒すか、
一体ずつ引いて倒すかってことだ。
特に込み入った話でもないさ。
こんなところか。
悪い話ではないと思うぜ。
連絡を待っている。
…なんだこの幻聴は。
「なんだかあっけなく終わってしまいましたね。クエストというのはもっとこう苦難の果てに勝利をつかみ取るものを期待していたのですが…これはこれで気持ちいいからいいんですけどね」
それはそうだろう。
めぐみんのビルドにおいては苦戦を強いられた時点で負けが確定するようなものだ。
それに一個体が弱いとは言え、集団というものを侮ってはいけない。
数とはそれすなわち力であるのだ。
幾度となく雑魚共に袋叩きに遭ってきたあなたが言うのだから間違いない。
貴方はそれとなく先輩風を吹かせながらめぐみんに釘をさしておく。
「えぇもちろんです。学校でも集団の恐ろしさと、それを一掃した時の決めポーズは勉強しています。貴方もやってましたけどライトオブセイバーで血振りやカッコいい魔法解除は絶対に教えられますよ」
貴方が古き月光でやっていたやつだ。
ちゃんと教えることは教えている学校で安心する。
貴方も今から通えないだろうかと妄想してみるが、在籍しているのは皆めぐみんぐらいの年齢であるとのこと。
自分の年齢すら忘れてしまった不死はさすがに受け付けていないだろう。
「流石に浮きすぎて入学は難しいでしょうけど、貴方ならきっと里で人気者になれると思いますよ。この前教えてくれたアイテムテキストでしたっけ?あれの本でも出版すればベストセラー間違い無しですね」
そんなめぐみんの提案に貴方は唸る。
以前めぐみんにソウルの魔法を実演した際に杖や魔法の由来を説明したところ、
またも赤目めぐみんになり異様な食いつきを見せたのだ。
なんでも貴方の口から発されるアイテムや魔法の由来説明は紅魔族のソウルを捉えて離さないとのことらしい。
霊体召喚もされていないのに既に三つほど誓約のペンダントが溜まっている。
貴方がもし本当に本を出版しようものなら【紅魔の杖】の誓約はとんでもない速度で進むだろう。
だが誓約主はめぐみんではなかったようなので、早いうちに捧げ先を見つけなくては仮に出版したところで持ち腐れになってしまう。
もしかしたらそれに誓約を進めることによって新たなスペルが手に入るかもしれない。
「あぁあのドラゴンのペンダントですか。あんなカッコいいの貰っちゃっても良かったんですか?魔力とかは感じませんが早速装備しちゃいましたよ」
貴方は構わないと頷き、ああいったものを捧げられる場所があればぜひとも教えてほしいとめぐみんに伝える。
貴方の予想ではめぐみんの故郷である紅魔の里という場所に誓約主がいるものと思われる。
「捧げ場所…奉納という意味では猫耳神社とかが思いつきますが、あの神社も別段歴史が古いものでもありませんしね。何か思いついたら教えますが、もしかして紅魔の里に行くんですか?」
凄腕アークウィザードの総本山
いつかは行ってみたいものだが、その時はアークウィザードになってからでも遅くないだろうと貴方は考えている。
アークウィザードでなくては取得できないスペルがある為、ウィザードのまま突撃すれば習得不可スペルの数々に眠れぬ夜を過ごすことになってしまう。
「ほっ、直ぐにじゃなくてよかったです。里を出てきてそれほど経っていなかったので根性無し扱いされるところでした」
学校を卒業後めぐみんは一念発起して冒険者になったとのこと。
それほど時間が経たないうちに戻っては、確かに早々に折れてしまったと思われても仕方がないかもしれない。
ましてや彼女は爆裂魔法しか習得していないのだ。
折れる理由は余りある為、経験と実績を積まないままには戻ることはプライドが許さないのだろう。
巡礼を行う不死はほとんど根性のみで動いている生き物なので、
めぐみんの気持ちはよくわかるところである。
「もし里に行くとなったら一声をかけてくださいね。さて、そろそろ破片も止みましたかね?では街までよろしくお願いします」
キリっとした顔でそんなことをほざくめぐみん。
貴方は軽い溜息を吐くと、めぐみんの背中に"愚者のメイス"をスリングでぶら下げる。
そして貴方は杖を取り出しスペルを一つ唱える。
【追尾するソウルの結晶塊】
結晶により鋭さを得た「追尾するソウルの塊」
追尾性の高いソウルの塊を浮かべ、放つ
結晶の塊は貫通する
結晶の古老によれば
かの「ビッグハット」は神の書庫で蒙を啓き
神秘の結晶に魔術の真髄を見出したという
めぐみんを背負って移動するというリスクを軽減する為、
索敵と先制攻撃に優れた結晶塊を展開する。
頭上に5つの青白く発光する結晶塊が現れ、
貴方の小さな機微にも併せて追従する。
貴方一人で移動するのであれば"擬態"や"見えない体""隠密"等
取れる手段はいくつかあるのだが、いずれも自分にしか効果を及ぼさない為攻性のスペルを使うに至っている。
「この魔法綺麗ですけど、前に放ってた結晶槍って魔法の小型版ですよね?あんなとんでも威力の魔法が顔の横に来ると考えるとめちゃくちゃ怖いんですが」
敵対しない限りめぐみんに突き刺さることはないので安心しなさいと伝え、貴方はめぐみん+愚者のメイスを背負う。
貴方はめぐみんを運ぶにあたり一時的に"ハベルの指輪"を装備している為、重量を苦とすることなく立ち上がる。
「流石異世界人、便利なアイテムを持っていますね。良ければそのアイテムについても由来を教えてもらっていいですか?背負われておいてなんですが、街までの道のりって結構退屈なんですよね」
聴き手としてなかなか盛り上げ上手なめぐみんの提案に貴方は頷く。
ハベルの指輪について、そして"岩のようなハベル"とその信奉者について語りながら、貴方はアクセルに向けて歩みを進める。
「イダダダダっ!!また鎧の隙間に皮挟まってます!!」
貴方は慌ててめぐみんを背負ったまま装備を付け替えるのであった。
【ハベルの指輪】
重厚をもってよしとする戦士たちの指輪
最大装備重量を増やす
最古の王グウィンの戦友として知られる
「岩のような」ハベルに由来するという
戦いは古くからその姿を変えず
ハベルの信奉者が絶えることはなかった
=====
「という訳で、修繕費用を差し引きしましてー…こちらが報酬となります」
貴方とめぐみんはギルドで報酬を受け取っていた。
めぐみんは愚者のメイスの効果で既に歩ける程度には回復しているが、何やら辛そうな顔をしている。
それもそのはずで、既にめぐみんとは何度かクエストを受注しているのだが、その報酬のほとんどは爆裂魔法の地形修繕費に持っていかれており、日銭をつつくような生活を送っているのだ。
「あのーお姉さん。私たち毎回報酬がほとんどない状態なんですが、これ何とかならないんでしょうか」
「爆裂魔法を使うのをやめてください」
「それはできません」
めぐみんは返された正論に対して悪びれることもなくバッサリと切り返す。
めぐみんから爆裂魔法を除けば、魔法の使えないアークウィザードの出来上がりである。
つまり無である。
100%のアイデンティティである爆裂魔法を取り上げるというのは確かに酷というものだ。
今までの依頼でも貴方が矢面に立ち戦ったりしていたが、止めに関してはめぐみんの爆裂魔法に任せていた。
正直なところ貴方だけで殲滅可能なものもあったが、爆裂魔法の行使を見たいということもあり特にやめさせるようなこともしていなかった。
「ではそうですね…街の近郊ではなくある程度離れた場所での依頼であれば、別段修繕費も発生しません」
「遠方の依頼ということですか?」
「遠方というほどではありません。少々お待ちください」
ギルド職員は引き出しをいくつか開けると、大き目の地図を取り出した。
「アクセルの管轄エリアはこの線の範囲になります。この範囲を出るものであれば補填費用は発生しませんが…まさかこんな説明が必要になる日がこようとは思ってもいませんでした」
「なるほど街道付近や村が近くにある場所は管理区域になっていると…里では上級魔法がしょっちゅう飛び交っていたので、こんな制約がついて回るなんて想像もしていませんでした。ほら見てください、さっきゴブリンの巣を木端微塵にしたところも近くに農村がありますね」
「えぇ紅魔族の里って…」
地図を見てみると確かに近くに農村があることがわかる。
もしかしたら村では爆裂魔法の余波に阿鼻叫喚になっているかもしれない。
改めて爆裂魔法がこの世界においてもいかに規格外であるのかを思い知らされるものである。
そしてめぐみんの口から発せられた紅魔の里の様子にウキウキになる一方、
その発言が偶然聞こえていた他の冒険者は全裸ヘルムでも見るかのような目でめぐみんを見ている。
「エリアのことは大体わかりました。次回はこの範囲外を対象としたクエストを受けましょう」
「あの~お伝えしづらいんですが、現状受注可能な依頼の中でエリアを出るものとなりますと、上級冒険者難度のものしかない状態でして」
クエストボードに貼られている用紙と同じものが数枚出されたので手に取る。
【一撃熊の討伐(上級冒険者死傷者多数)】
【つるつるですべすべな物の交換】→【巨大カラスの討伐(拉致被害多数)(交換希望地付近に出没の為討伐依頼に変更)】
【初心者殺しの討伐(亜人の群れ混成)】
【山賊の討伐(対人殺傷許可、規模十数人程度)】
確かに現在張り出されている依頼に対してみると数は少ない。
貴方は依頼にある山賊討伐について質問した。
"山賊に知性はあるのか"と。
「知性ですか?普通の人間なのでもちろん知性は有りますが…こちらを受注されるんですか?正直あなたは兎も角めぐみんさんには…」
「ぐぬぬ…確かに受けられる依頼が少ないのは理解しましたが、敢えて対人の物というのはちょっと」
もちろん貴方とて好んで人殺しをしたいわけではない。
話が通じる人間とは貴方にとって宝にも等しい存在である。
だが相手が知性無き亡者であるのなら、その限りではないだけである。
そうなると消去法で残り三つになる。
正直貴方一人であれば一撃熊という、危なっかしい警告が記されているクエストでもいいのだが、
めぐみんが同行するとなると死ぬことがわかっているようなクエストは避けるべきだろう。
「一撃熊は除くんですね。わかりました」
「フフフ、我が爆裂魔法であれば恐れる敵はありませんが…ちなみにその熊の殺傷数ってどれぐらいなんですか」
「王都からの冒険者も含めると、二桁に届く犠牲者が出ています。幸いなことに人里に降りてくるようなことは滅多にありませんが」
「よぉーし!あとは2択ですね!どちらがいいですかね!!」
冷や汗を一つ掻いためぐみんは残り2枚の依頼書をひっつかみ貴方に見せつける。
さて、残り二つ
【巨大カラスの討伐】
なんとなく既視感があるが、この相手については少々問題がある。
めぐみんの爆裂魔法は起点発動であることに加え、発動までに時間がかかる為、
空を素早く移動する敵には有効打を与えにくいと思われる。
貴方の魔法もソウルの性質により若干の追尾性はあるものの、
空を飛んでいる相手にぶつけるのは難しいだろう。
鷹の目のような巨人に撃ち落としてもらえるのであれば是非とも依頼を受けたいところだが、
そのような支援はさすがにあり得ないだろう。
もう一方の【初心者殺しの討伐】
こちらはどのような依頼なのか検討もつかない。
デーモンの一種だったりするのだろうか。
「"初心者殺し"というのは大型の肉食獣のようなモンスターですね。名前の通り冒険者初心者がよく被害に遭うモンスターと聞いたことがあります」
「こちらの依頼を受注されますか?」
大型の肉食獣…
獣は貴方が苦手とする敵の一つである。
貴方はこれまでドラゴンスレイや神殺し等、英雄のような偉業を成し遂げてきたが、
その一方でその辺の野良犬に食い殺されたりすることも日常茶飯事である。
奴らの強みはその機動力と、人間とはテンポの違う連撃の繰り出しにある。
貴方はスペルを得意とする魔術士である為、彼らの素早い動きにはいつも苦渋を舐めさせられている。
やはり犬はデーモンである。
とりあえず依頼の内容を聞いてからめぐみんと相談することにする。
「ミッションの概要を説明します」
「おぉ!ミッションっていい響きですね!」
「ミッションターゲットは初心者殺し。初心者殺しはアクセルから北東にある輸送路にて目撃され、その近郊の森林エリアに潜伏しているものと思われます。初心者殺しは十数からなるゴブリンで構成された群れに属しており、既にその群れによる被害は報告されているだけで3件にも及んでいます」
「受付のお姉さん何か雰囲気変わりましたね」
所謂仕事モードというやつだろう。
何故か聞き覚えの有るような無いような口上になつかしさを感じる。
「なお、依頼は群れの壊滅にボーナスを設定しております。パーティーで協力して、討伐漏れがないように留意してください。ミッションの概要は以上です。ギルドは今回のミッションを重視しております。成功すればあなた方の評価は更に高いものとなるはずです。よいお返事を期待していますね」
「どうしますか?報酬もかなりいいですし、修繕費のことも気にする必要がありません。ですが往復や索敵のことを考えれば1日には収まらないでしょう。私としては受けてみたいところです」
貴方も依頼自体は悪くないと考えている。
だがそれは貴方が不死であるが故に来る楽観が混じっている気もするが、所詮は獣、やりようはいくらでもあるだろう。
異存は無いことをめぐみんに伝える。
「ではこれを受けるということでお願いします」
「わかりました。本来こちらのミッション受注にはある程度の信頼が必要ですが、雪精討伐の実績から考えて特別に受け付けます。お二人とも実力はおありのようですが、くれぐれも無茶の無いように」
「楽勝でしょうがもちろん油断はしませんよ。ところで雪精討伐の実績って何のことですか?あれってめちゃくちゃ弱いモンスターですよね?」
めぐみんは小首をかしげて貴方を見る。
なるほどギルドは貴方の提出した報告書を基に許可を出したようだ。
であればテレポート等の転送手段があると考えての受諾なのかもしれない。
そういえば、不死に由来するアイテムはめぐみんにも使用可能なのだろうか。
貴方は試しに後ろ手に"帰還の骨片"を取り出し、めぐみんに手渡す。
「なんですかコレ?骨?コレのおかげで冬将軍から生きて帰れた?」
実際は違うがそういうことになっている。
貴方はめぐみんにそれを使ってみてほしいと伝える。
上手く作用すればめぐみんは篝火に転送されるはずだ。
これを利用すれば動けないめぐみんであっても緊急脱出手段として使えるかもしれない。
「使うってどうやって使えば…というかコレ人骨ですよね?燃えカスみたいになってますが突然人骨を手渡すって私でもさすがにドン引きしまアァァァァァァァァァァ!?!?!?ーーーーー」
骨片を強く握りしめためぐみんの周りに灰と細かな火の粉が舞い上がり、
驚愕の悲鳴を上げるめぐみんの姿は一瞬のうちに搔き消える。
上手くいったことに頷いた貴方は、駆け足でギルドを後にする。
「え…えぇ~」
嵐のようなやり取りに呆然とする受付であったが、
貴方が提出した報告書に"テレポート系アイテムの使用"という文言を書き加えて、
通常業務に戻るのであった。
【帰還の骨片】
燃え尽き、白い灰となった骨片
最後に休息した篝火に戻る
篝火の薪は不死人の骨であり
その骨は稀に帰還の魔力を帯びる
骨となって尚、篝火に惹かれるのだ
【ゴミクズ】
何の価値もないゴミクズ。
何を考えてこんなものを持ち歩いているのか常人であれば理解に苦しむだろう
だが不死の巡礼において意外にも使い道は多い
ゴミクズの製法書
エルデンリングコメントについてはプレイ中ですのでご勘弁願います。
でもコメントは嬉しいです。