篝火 始まりの街アクセル   作:焼酎ご飯

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あと16日


第2話

「これで冒険者カードが作成完了しました。しかしこれは…」

 

 

あなたは冒険者カードの登録を行うために未記入のカードに触れたのだが、

受付のルナはなぜか渋い顔をしている。

カードには己の能力値が記されるということなのだが、

あまり数値が良くなかったのだろうか。

数多の不死と比べれば理力だけはそこそこ高いはずである。

 

 

「う~ん、なぜか普段生成されるカードと色が違うんですよね。こんな現象は初めてでして、少々お待ちいただけますか?」

 

 

本来カードは金に近い色をしているそうだが、違う色で生成されてしまったようだ。

貴方は頷くと、ルナは黒い金属板をもってカウンターの奥へと去っていく。

彼女は間もなく戻ってくると、その顔は笑顔に戻っていた。

 

 

「お待たせいたしました。通常生成されるカードとは色が異なるのですが、機能的には問題ないということですのでこちらをご利用ください。情報複写したものをギルド本部で検証いたしますので、後日修正されたものをお渡しすることになると思います」

 

 

差し出された黒いカードを手に取る。

なぜかすごくリッチになった気分だ。

 

黒い金属の板には白い文字で様々な情報が記されている。

レベル、筋力、生命力、魔力、器用度、敏捷性、知力、幸運

見たことが無い項目がいくつかあるが、凡そどのような能力か予想がつくものばかりだ。

 

 

…だがなぜだろうか、初めて手に取るアイテムなのだがどこか懐かしさを感じる。

 

 

カードは触れるとページをめくるように他の項目を見ることができたりと本当に多様な情報が記載されている。

このちっぽけな一枚の板がまるで大きな本のような情報量である。

これがあれば公爵の書庫も随分小ぢんまりとしたものになるだろう。

 

 

「生成された際にステータスを拝見させていただきましたが、魔力はかなりの数値ですよ」

 

 

カードをふんふんと鼻息荒くいじくりまわしていたあなたにルナは声をかける。

魔力、予想するに記憶力や理力を統括した能力値と思われるが、やはりこの世界で見てもそこそこの高さがあるようで安心する。

他の能力値の度合いも気になったのでどの程度に位置しているのかを聞いてみる。

 

 

「冒険者になりたてと考えてみると他の数値も平均以上です。見たところ初心者というわけではなさそうですが」

 

 

なるほど確かに冒険は初心者ではない。

不死の巡礼者であるあなたほど冒険に慣れている者もいないだろう。

その旅路のいくつかは忘れてしまったが、未知に飛び込むことだってどんとこいである。

 

 

「立派な鎧を身に着けられていたのでてっきり戦士系の能力値が高いものだと思っていたのですが、この能力値でしたらアークウィザードになることも夢じゃないですよ」

 

 

ウィザード

魔法使いだろうか。

 

 

「アークウィザード、上級魔法使いは魔法系職業の最上位に位置しています。すべての魔法を習得することができるということで、この職業を目標にされている方もたくさんいらっしゃいます」

 

 

すべての魔法を習得できる。

素晴らしい響きである。

話を聞くとどうやら冒険者とは何かしらの職業を選択しなくてはいけないとのことなので、あなたは迷うことなく魔法使いの職業を取ることにした。

 

「いいんですか?魔法戦士といったような近接系スキルも習得しやすい職業もありますが…」

 

新たな魔法を覚えることこそが生きがいの一つであるあなたは構わないと伝える。

剣を振れなくなるのではという問題があるが、どうやらそういうわけではないようだ。

この世界ではレベルとスキルポイントによって技や魔法を習得することができ、

自分の職業によって上昇しやすいステータスや習得できる能力が決まるという話のようだ。

 

であれば魔法的な能力が最も上がりやすい魔法使いになる以外あまり魅力は感じられない。

 

 

 

「わかりました。ではカードを」

 

 

少々の時間の後、あなたは魔法使いの冒険者として正式に登録が完了した。

 

 

~~~

 

 

 

「えぇ…ノーカウントだろ」

 

 

かくしてあなたは冒険者となった。

席に戻ると雪かき冒険者がにやにやとした顔で結果を聞いてきたので冒険者カードをどや顔で見せびらかした。

もちろんヘルムで顔は見えない。

どうやら彼らはこの上級騎士の鎧に騙され賭けに負けてしまったようだ。

 

ビッグハットのようなわかりやすい恰好をしてもいいのだが、

貴方は回避に絶対の自信があるわけではない。

何より上級騎士の鎧は見てくれがいいのだ。

 

 

「糞、この詐欺師め…まぁ約束は約束だからな。新人祝いで俺らが奢ってやるよ」

「俺ら祝えるほどベテランってわけじゃないけどな」

 

そうして賭けに一人勝ちしたあなたは彼らが食しているメニューと同じものをごちそうになることになった。

もちろんヘルムは外して食べる。

 

 

 

 

ふと貴方はかつて出会った狂った闇霊を思い出す。

 

彼はヘルムのバイザーを上げることなく緑花草を貪っていた。

一体どのようにして口にしているのかと気が散ったところで、

顔面に糞団子が命中し悪臭のなか命を絶たれたことがあった。

 

緑花草を食べる前にも糞団子を投げていた気がするが、きっと気のせいだろう。

 

 

食欲が失せそうなことを思い浮かべていたが、長い間食欲とは無縁の生活をしていたためその心配はなかった。

それどころか彼らが不貞腐れながら飲み食いしている姿を見ていると、枯れ果てていた食欲がじわじわとわいてきた。

この世界に来てからというもの人間性の回復が著しい。まこと素晴らしいことだ。

 

早速料理に手を付けようとしたところ、先ほど書き残したメッセージが邪魔で食べにくいことこの上ない。

あなたは怒りのままにメッセージを削除した。

 

 

「ほーん、ウィザードって言ってもあんまり頭良さそうな顔じゃないな。どっちかってと戦士顔だな」

「お前のアホ面よりは数倍強そうな顔してるな」

「お前にはまだわからないだろう…流れる星をすら律し命の灯を高らかに輝かすこの面貌を…お前には見えないのか」

「やかましいわこのへちゃむくれ」

「魔剣のなんとかさんほどのイケメンがいない以上この争いは無益だ。ところであんたはこの後どうするんだ?」

 

 

食事は大事

食えば食うほど元気も出るだろう

そんな原初の本能に支配されていたあなたは、その問いかけに少し思い悩む。

 

 

とりあえず思いつくのは冒険者として活動することだ。

話によればモンスターを倒すことで経験値やスキルポイントというものを得て、

新たなスペルを入手することもできるらしい。

 

 

新たなスペル!魔術万歳!

 

 

そのほかには他者からスキルや技を学ぶこともできるらしいのだが、

今のところこの地で言葉を交わしたことがあるのは雪かき冒険者たちと玉ねぎソウル門兵しかいない以上、

他者からスペルを学ぶのは難しいだろう。

 

ビッグハットのような魔法について師事できる人物を探すのもいいが、

とりあえずはモンスターを倒すなりなんなりして冒険者の生業をこなしてみることを伝える。

 

 

「モンスター討伐か~、今は冬だから難しいのしか無いと思うぞ?」

「そもそも依頼数自体が少ないからなぁ。冬眠できなかった一撃熊とか雪精くらいか?」

「前に冬眠中のジャイアントトードを掘り起こしたら、楽に討伐できるんじゃないかとか考えてひどい目に遭ったことがあったな」

 

 

 

どうやらこの地は年中雪に包まれているわけではないようだ。

冬は冬眠する生き物が多く討伐任務には向かない季節で、冒険者も動物と同じで巣籠りするか、彼らのように雑用をこなすものが少数いる程度とのことだ。

そういえば、彼らは何故か巣ごもりの時期に仕事にいそしんでいたようだ。

 

 

「それは…ほら、アクセル特有の…あれだよ…げふんげふん」

「そらもうあれよ」

「世の為人の為、困っている人がいたら放っておくわけにもいかないだろ?」

「そうそう!俺らは世の為人の為、それどころか人に限らず困ってるやつらを見逃せないんだよ」

 

 

なんと彼らも玉ねぎや太陽的な人間性をもっていたようだ。

尊く眩しい彼らの活動理由に敬服し、自分もその輝きにあやかる為彼らにアドバイスを乞うことにした。

貴方は世界を左右するような決断以外はかなりの指示待ち人間である。

 

 

「冬を越せるだけの金を持ってるんなら宿で籠もっているのも手だけども…冒険者になるやつってだいたい金持ってないよな?」

 

 

金などない。

ソウルもない。

金貨の余裕もそれほどない。

 

新たなスペルがあなたを待っている以上、籠るなど論外である。

 

 

「そうだなぁ、腕っぷしには自信ありそうだし討伐が一番いいんだろうけど…ちょっとついてこいよ」

 

 

彼らの一人が立ち上がるとあなたもその後に続く。

向かった先は羊皮紙がたくさん張り付けられた掲示板のような板の前だった。

 

 

「今ある依頼は~っと、冬場はだいたいある雪精討伐、あとやっぱりあった冬眠できなかった一撃熊の討伐、近くの村への輸送護衛とかもあるけど…そうだな」

 

 

羊皮紙にはそれぞれ依頼の内容が記載されているようだ。

 

・雪精討伐 歩合制 討伐数に応じて報酬が決定

・一撃熊討伐 受注後一定期間内での討伐 危険度"高"

・近隣村への護送任務 往復任務の為所要二日

・つるつるですべすべな物品交換 実物確認後応相談

・パーティーメンバー募集 一緒に冒険に出てくれる人、話を聞いてくれるetc.

 

 

 

等々、まばらに張られた羊皮紙には任務の難易度や注意事項が記載されている。

 

どうやらここから依頼を受けて任務をこなすようだ。

 

幾つかの依頼を眺めていると、どうにも雪精討伐という依頼が高い報酬をしているように思える。

記されている雪精の討伐難易度もかなり低いようだ。

 

 

「雪精の討伐?あれはなぁ…いや、でも日銭っていう点なら最高価格だし、来たばかりで金がないなら…注意点を守って欲をかかなきゃそうそう死ぬようなことは無い…か?」

 

うんうんうなっていた雪かきAは無理やり飲み込むように雪精の羊皮紙をはがし、あなたに手渡した。

 

「多分ルナさんからも説明があるだろうけど、一応説明しておくわ」

 

 

曰く雪精討伐は討伐対象の雪精そのものの危険性はほぼ皆無であるとのこと。

 

雪精は冬云々 春がはよくる 望む人が多い

 

だが雪精を取り巻く環境が非常に危険であり、高額依頼でありながら常に張り出されている状態のようだ。

その危険というものがーーー

 

 

「冬将軍、超高額懸賞金がかけられた災厄級のモンスターだ。雪精を倒しすぎると下手人のもとに現れて一刀のもとに成敗する。冬将軍も雪精と同じ精霊らしいけど、その強さは計り知れんとのことだ」

 

 

なるほどとあなたはうなずいた。

要は冬将軍なる強力なモンスターに出会う前に雪精を討伐して帰るということなのだろう。

報酬が高くて楽な仕事だ、気楽にやろう。

 

 

「まぁそうだな。出くわすことなく帰れるならそれに越したことは無いんだが、もし出くわした場合も対処方法はある。冬将軍は寛大だからな、土下座して許しを請えば見逃してくれる…こともあるらしい」

 

 

有情なモンスターだ。

土下座をされても許さないのがかの世界では当たり前のところなのだが、どうやら冬将軍はノーカウントにしてくれるそうだ。

絶好のバックスタブの機会とも思えるのだが、おそらく簡単に倒せる手合いではないのだろう。

貴方はAの忠告に感謝し、依頼を受けることにした。

 

 

「ほんとに気をつけろよ?知り合っちまった以上死なれたら寝覚めが悪いからな」

 

 

貴方はうなずいた。

死にはしないと




【糞団子】

乾いた排泄物。大便
その割れた内は瑞々しい

敵に投げつけ、猛毒を蓄積させるが
自分にも猛毒が蓄積していく

臭いも強く、あまり持ち歩きたくない類だが
かつて生贄の道で出会った狂った闇霊は
糞団子を投げつけたのちに緑花草を口にしていた

狂った闇霊は衛生観念すらも狂っていたようだ

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