篝火 始まりの街アクセル   作:焼酎ご飯

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あと11日


第4話

「よ、ようこそ…本日も依頼報告ですね」

 

 

貴方は慣れたように冒険者カードを提出する。

その黒い冒険者カードは数日前に作られたものにしては、擦り傷が多く見られる。

 

 

「前回討伐数から6体増えて…累計が72体ですね。報酬は前回同様お預かりということでよろしいでしょうか?」

 

 

貴方はうなずくと冒険者カードを受け取り、踵を返して冒険者ギルドを出ていく。

 

 

「えっと…冬将軍には気を付けてくださいねー…」

 

 

貴方は確かな意思をとり、再び意気揚々と出ていく。

扉をくぐると、雨どいから垂れた雪解け水をヘルムが弾いた。

幾分かマシになった冷たい風が吹き抜け、あなたはそれに続くように街の外へと駆けていった。

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

「所長ー!またあのヘンナノが雪精の討伐報告に来ましたよー!春の予算もまだ決まってないしまずくないですかー!」

「またか!?なんで死なないんだあのヘンナノのは!」

 

 

貴方が出て行った後のギルドでドン引きの罵声が響く。

実際は罵声ではないのだが、冬場で暇なはずのギルド職員はここ数日忙しいほどではないものの、

謎の冒険者の登場に頭を悩ませていた。

 

 

雪精

倒せば冬が1日短くなると伝えられている精霊系のモンスター

このモンスターは冬将軍という強力な、絶対的なモンスターに守護されたモンスターであり、

雪精は数体であれば討伐は楽だが常に冬将軍という死がちらつく非常に危険度の高いモンスターである。

 

 

 

小銭欲しさに命を落とす冒険者が毎年いるのだが、

そういった欲を出して深追いした冒険者であっても雪精討伐数は2桁には届かない。

 

だが先ほど提出された冒険者カードの雪精討伐数は72体

冬将軍がいくら寛大であっても十文字切りからの斬首、さらし首は避けられないだろう。

 

そんな常軌を逸した討伐数がありながら、彼の冒険者は何故首がつながっているのか、

というのが冒険者組合でのもっぱらの話題である。

 

 

「ほんとになんで生きてるんでしょうか…素人ではないのはわかっていましたが、冬将軍を避けて雪精を狩り続けることなんて不可能じゃないでしょうか」

「普通に無理だろうなぁ…相手は精霊だし対生物の戦法も効かないものが多い…とてもDOGEZAで許してもらえる範囲じゃない」

「今度報告に来た時に聞いてみましょうか?」

「そうだな。いずれにせよ調査は必要だろうし」

「…それで、予算どうしますか?この調子で狩りを続けられたら春の解禁日に破綻しちゃいますよ?」

「確かに懸賞金がついているモンスターではない以上、本部からの都合も今からじゃ難しいか…」

「幸い報酬の受け取りは後回しにされてますし、事情を説明すれば何とかー」

「それに期待するしかないか」

 

 

季節外れの予算繰りに組合からはいくつかの溜息が漏れる。

 

その音はこれまた季節外れの雪解けの音にかき消えていく。

 

 

 

 

冬の終わりは近い。

 

 

 

 

 

=====

 

 

 

 

 

貴方は何度も踏みしめた雪道を走り、ローリングし、目的の雪原にやってきた。

 

既にこの世界に飛ばされてから数日が経過しており、

かつては雪深かった雪原はその嵩を随分と減らしていた。

 

 

 

この積雪量の減少は、ただの季節の移り変わりというわけではなかった。

 

 

貴方がはしゃぎまわって討伐していた雪精というモンスター

このモンスターは説明を受けた通り、冬そのものを司る精霊のようだ。

30体近く討伐した頃には、辺りの積雪は見るからに減少していた上に外気温も僅かに上昇していた。

 

はるか遠くに見える山脈の雪景色が変わっていないところを見ると、

地域的な冬の支配権能を持っているようで、冬の総量から引き算され続けるというわけではなさそうだ。

 

 

 

「みー」

 

 

 

貴方は近くにいた手頃な雪精を切りつける。

何処から発声しているかわからないが情けない鳴き声と共に雪精が消え去る。

 

そろそろ来るだろう。

2体ほど手にかけた貴方は手に持ったカイトシールドに魔法をかける。

 

 

 

途端に穏やかだった景色は一変し、眼前に局所的な吹雪が吹き荒れる。

吹き飛ばされるほどではないにしろ、強烈な突風にあなたは構え踏ん張る。

 

 

「コーホー」

 

 

視界が晴れると、そこには白い巨躯の甲冑があった。

その甲冑は射殺すような青白い目で貴方を捉えるや否や、鞘を捨て去り即座に抜刀する。

 

冬将軍

東洋を思わせる意匠を凝らした鎧のそれは、

 

鎧と同じ真っ白な大太刀を上段に構え、その巨体からは想像もできないほどの速度であなたに接近し、

体躯を崩す前蹴りを放ち、身の丈ほどもあるような大太刀を振り下ろす。

 

 

蹴りを回避した貴方は"何度も見た"躱せない一太刀に、事前に魔法をかけた青白く発光するカイトシールドを構え、その攻撃を正面から受け止める。

 

 

岩が砕けたかのような音と共に、あなたは遥か後方へと吹き飛ばされ、雪煙を巻き上げながら無様に雪原を転がる。

だが既に転がり慣れていたあなたは杖に魔力を通し、雪煙を縫うように魔法を射出する。

 

 

 

 

 

【ソウルの結晶槍】

 

結晶により更なる鋭さを得た「ソウルの槍」

 

貫通するソウルの結晶槍を放つ

 

結晶の古老によれば

かの「ビッグハット」は神の書庫で蒙を啓き

神秘の結晶に魔術の真髄を見出したという

 

 

 

 

 

数々の強大な敵を幾度も屠ってきた、ある種最強の魔法を放ち、

杖を地面に突き刺すようにして勢いを殺す。

 

 

一直線に放たれた結晶槍は瞬く間に冬将軍に到達するーーーーーーが、

あろうことか再び振るわれた大太刀によって拮抗の間もなくあっさりと砕け散る。

結晶の破片がいくつも冬将軍に突き刺さるが、

まるで何事もないかのようにあなたへと歩を進める。

 

けん制で魔力が尽きるまで結晶槍を打ち込むが、

いずれもまるで霞でも払うかのように打ち払われる。

 

貴方は舌打ちした後、魔法盾を掛け直して灰エストを急いであおる。

その一瞬の間に距離を詰める冬将軍に、あなたはギリギリのところで盾受けに成功するも、またも無様に雪上を転がる。

"次"は突きの追撃がある。

何度も経験したその予測は的中し、勢いを殺さぬまま何とか転がる様に移動すると、先ほどまで自分がいたところに大太刀が突き刺さり、切り上げるように刃が振るわれる。

 

 

ふらふらと無様に立ち上がり冬将軍に相対する。

 

 

最悪だ。

とてつもなく強い。

天守での戦いを思い起こさせる強敵だ。

…なんだこの記憶は。

 

 

そのうえ、"どういうわけか"この強敵は"死ぬ前のこちらの動きを学習"しているのだ。

吹き飛ばされた後の魔法攻撃は最初のころは当たっていた。

だが死亡回数が5回を超えたあたりから、信じられないことに魔法を防ぐようになったのだ。

あり得るのか、こんな強敵が…

 

 

当然相手が学習している以上こちらも学習しているのだが、生存時間が遅々として伸びないこの現状に、

貴方は本当に倒せる相手なのかいよいよ疑問に感じていた。

 

 

 

 

 

だが希望が無いというわけではなかった。

 

 

 

 

貴方は走って相手から距離をとり、

大量の魔力を杖に流し込む。

 

 

即座に距離を詰める冬将軍だが、あなたは盾請けも回避も取ることなく一つの魔法を発動する。

 

 

 

 

 

【ソウルの奔流】

 

凄まじいソウルの奔流を放つ

 

ロスリックと大書庫のはじまりにおいて

最初の賢者が伝えたとされる魔術

 

最初の賢者は火継ぎの懐疑者であり

また密かに、王子の師でもあったという

 

 

 

 

 

冬将軍を中心に横薙ぎに放たれたその魔法は、かの闇喰らいを彷彿とさせる光線の軌跡だったが、

その威力はお世辞にも高いものではなかった。

 

ソウルの奔流はその奔流を終始相手にぶつけることで発生する多段ダメージと衝撃を与えるものである為、

横なぎのそれには大したダメージを期待はできない。

 

 

「!!」

 

 

だが俊敏に迫ってきていた冬将軍は、魔法が放たれた瞬間その動きを鈍くする。

 

 

「「みー」」「「「みー」」」「みー」

 

 

放たれた光線は冬将軍の遥か後方を浮遊する雪精を幾匹も薙ぎ払ったのだ。

 

これこそが貴方の狙いである。

 

まさか正々堂々と真正面からの決闘で勝てる相手だとは思っていないうえ、

貴方は己がそこまでの強者とも自惚れていない。

 

 

 

貴方はこれまでの巡礼においても数多の強大な化け物と戦ってきた。

とんでもなく劣悪な環境のもと戦わされたり、

相手にそもそも攻撃が当たらない、意味をなさない等、

あまりに理不尽な相手と何度も戦ってきた。

 

だがそれでもあなたは数多の死の果てに勝利を重ねてきた。

劣悪な環境であればその環境を事前に破壊し、

攻撃が当たらない、通らない相手にはその根源を事前につぶしておく。

 

要は相手の有利な環境をつぶしてしまえばいいのだ。

今回も同じであり、冬将軍は冬の権化であり、冬の力そのものであるといえるだろう。

このまま雪精を倒し続ければ、そう遠くない内に冬は終わりを告げ、

冬将軍は弱体化、ないしは消滅することだろう。

 

そうすればとてつもない賞金と経験値を得ることができる上に、

冬将軍がいなくなれば雪精を狩り放題になる。

貴方は奔流を放つ杖を振り回しながら、いつか訪れる未来に頬を吊り上げる。

 

 

「コーホー」

 

 

小さな風切り音、あなたは腹部に衝撃が走る。

かつて何度も感じた内臓をかき回されたかのような衝撃が走り、杖が手から離れる。

 

 

視線を下げれば腹部に大太刀が突き刺さっており、その刺さった太刀ごとあなたは冬将軍に持ち上げられる。

無造作に振り払われたあなたは、血と色んなものをまき散らしながら雪の上を血で汚しながらゴミクズのように転がる。

 

 

血が出た!

 

 

血が出たどころの話ではなく全身の骨と内臓がつぶれており、ソウルと汚物がだだ漏れしている状態である。

 

大太刀の投擲

これは今までになかった行動だ。

 

体中余すことなく激痛が走っているのだが、心情的には只人が椅子に小指をぶつけた程度に等しいものである。

貴方はその凄惨な見た目ほどの絶望は感じていなかった。

 

勢いが止まったところで、奇跡的に生きているあなたは全身からピューピューと血を吹き出しながらまだ見えている目を冬将軍に向ける。

 

 

血振りをしながらゆっくりとこちらに歩み寄る冬将軍。

 

 

前回、前々回と死因のほとんどが縦か横に真っ二つにされて即死していたので、死が迫ってくるというこの光景は死に慣れているとは言えなかなか恐ろしいものがあった。

 

大人しくダークリングを使おうかと考えていたところ、

冬将軍に変化があったのだ。

 

 

 

膝をついたのだ。

 

 

 

正確には片足の膝より先がなくなっていたのだ。

なくなった片足からは光る雪のような結晶が漏れ出し、徐々にその消失範囲を広げていた。

 

 

 

冬将軍は憎々し気にあなたを見ると、虚空を太刀で薙ぐ。

突如すさまじい吹雪が発生し、あなたの視界を塞ぐ。

 

最早動くこともままならないあなたは吹雪にされるがままに晒されながら、

不可思議な感覚に襲われていた。

 

吹雪で真っ白に覆われていた視界が雪の白さとは別に、

光のような白さに包まれ、思わず目を細める。

 

 

 

数秒後、光が解けると、

赤黒く染まりつつあるあなたの視界に色が戻ってきた。

 

 

 

辺りを覆っていた雪は一切見当たらず、

短い芝がかさかさとヘルムを撫で、一陣の風がその青い匂いを運ぶ。

芝の生えた平原の所々がえぐれ、土が露出しているところを見ると、

ここは激闘が繰り広げられていたかつての雪原で間違いないのだろう。

 

 

 

冬が終わったのだ。

 

 

 

まさかこれほどまでに劇的に季節が変わってしまうとは思いもしなかった。

視界の端々に映るすがすがしい春の気配に、深く息を吸う。

血反吐が出た。

 

ダークリングで自害する前に、

この春を招いた目的を確認するべく、なぜか千切れていない腕にカードを出現させる。

腕は全く動かないので、かろうじて動く首を動かしカードの方へと視線を向けようとする。

 

 

ヘルムが動くたびに草が擦れる音と、ミシミシ、ピシピシといったような、ガラスに亀裂が入るような音が聞こえる。

はて、耳も壊れてしまったのだろうか、それとも筋肉か神経が切れる音だろうか。

 

 

パキッ

 

 

ついには完全に何かが割れる音が聞こえた。

 

 

 

その瞬間、真下から発生した爆発と共にあなたは空中高くへと放り投げられ、

首と意識は遥か彼方へと吹き飛んでいった。

 

 

 

~~~

 

 

 

 

ボォーン

【】

 

「ーッ!!」

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

ボォーン

【アクセル城壁前】

 

 

何か悲鳴じみた絶叫が聞こえた気がしたが、

辺りを見渡しても別段驚いている人は見当たらない。

 

篝火に戻ってきたあなたはいつものように座り込み、

先ほど首が吹き飛び確認できなかった冒険者カードを確認する。

 

 

【雪精  討伐数:79体】

 

 

討伐欄には冬将軍の項目は増えていなかった。

貴方は態々立ち上がった後、再度膝をついてへたり込んだ。

 

 

 

 

 

あぁ、心が折れそうだ。

 

 

 

 

 

 

【爆発ポーション】

 

爆発することで敵にダメージを与える投擲武器。

小瓶に入ったこの液体が外気に触れることで爆発を引き起こす。

 

この薬液の発祥は回復ポーションにある。

謂わば失敗作である。

 

だがその爆発に魅入られた一部の錬金術師が

体系化させた異端のポーション。

 

取り扱いの難しさから、冒険者からは敬遠されているが、

その威力は高く、あらゆる耐性を持つ敵に通用する。

 

味も悪くない。




ランキング入りました。
ありがとうございます。
エルデンリング出たら更新止まるのであんまり期待しないでね。

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