篝火 始まりの街アクセル   作:焼酎ご飯

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雪時々クレイドル03


第5話

2月

多くにとって突然にそれは起こった。正体不明の暖気と屋根から落ちる雪の同時襲撃。

その殆どは成功し、住民たちの多くはまだまだ続くと思われていた冬の装いを大きく揺るがされることとなった。

そして、冒険者ギルドよりごく短い声明が発される。

 

「皆さーん!春の依頼が来てますよー!」

 

それはアクセルに住む多くの素寒貧冒険者への、明確な福音であった。

 

 

冒険者たちは安全な冬籠りを放り出し、

季節外れの依頼に群がるのであった。

 

 

 

 

そんな賑わいを見せるギルドの中、

上質な全身鎧を身にまとった一人の不死だけが、

"う~ん…う~ん?"と羽ペンを持ちながら静かなる戦いを繰り広げていた。

 

 

「ようお前さん見ない顔だな!新人冒険者…ってわけじゃなさそうだが、何書いてんだ?」

 

 

するとどこから現れたのか、筋骨隆々のモヒカン男がジョッキ片手に話しかけてきた。

グレートアクスが似合いそうな男だ。

 

あなたはギルドからの依頼で雪精の討伐方法についての報告書を書いていることを伝えた。

現在あなたはギルド酒場の端のテーブルにつき、未記入の書類と睨みあいを続けているところだ。

 

 

「雪精の討伐方法?随分今更なことを書いてるんだな。もしかして雪精相手に物損でも出したのか?

 もしそうだとしたら気張りすぎだぜルーキー」

 

 

確かに地形破壊という物損は出した…が、それについての報告ではない。

 

あなたが首を振ると男はほどなく興味を失くしたのか、「ま、頑張れよ」と言い残して他の席に混ざっていった。

 

 

 

貴方が冬将軍との最後の激闘?を繰り広げた翌日、

いつものようにギルドに訪れてみたところ、職員のルナより指名依頼という形で報告書の提出を求められた。

 

報酬の良し悪しはわからなかったが、ギルドに対しての貢献度はかなり上がるとのことで、何と無しにうなずいてしまった。

本来依頼達成時にどのようにして遂行したのかを口頭にて報告するものなのだが、

今回の依頼は難易度が非常に高いにも関わらず、数日間に渡って連続達成されたという前代未聞の達成報告であった為に、

詳細の報告を文面にて求められている次第である。

 

 

 

 

 

ギルドとしては命を落とす冒険者を減らすことを目的としていたようだが、

はっきり言ってあなたの報告が役に立つことは無いだろう。

 

何せこの世界の住人は"1度しか蘇ることができない。"

それも他者から蘇生魔法をかけてもらい、100%成功するかわからない復活方法だという。

 

その摂理を聞いたあなたは、"世界はそうあるべきだ"としきりに頷いたものだ。

残念ながらこの法則は貴方には当てはまらず、依然として不死のままであった。

 

 

で、あればあなたが行った不死の戦いを真似できるものはおらず、同じ方法で雪精の討伐数を稼ぐことはできない。

ギルドに貢献できないのは仕方がないことなのだが、そのレポートの書き方にあなたは非常に困っていた。

 

 

この世界にはダークリングの呪いが存在しない。

己の不死性について記載すれば間違いなく討伐や迫害の対象になるだろう。

 

 

その結果、自分が何度も死んだことを隠して報告しなくてはいけないのだが、

そうすると途端に現実味が無い報告になってしまう。

 

 

 

 

とりあえず自身が使った魔法と装備について、

雪精・冬・冬将軍の能力的つながり、

そして戦いや立ち回りについては"体力や魔力が尽きたらアクセルに戻った"と記載しておくことにした。

 

 

中々うまく書けたのではないだろうか?

 

 

どのようにして帰ったのか聞かれれば、帰還の骨片を使ったことにしてもいいしこの世界には転移の魔法もあるという。

そういった適当なごまかしで上手く勘違いしてくれればよいのだが。

そのあたりは聞かれた時に改めて考えるとして、あなたは数枚の羊皮紙を持って受付へと向かうことにした。

 

 

「ーーーあ、報告書の提出ですね」

 

 

あなたは頷き数枚の羊皮紙を手渡した。

 

 

「はい確かに。報酬は内容確認後お支払いいたしますので、後日ご連絡いたしますね」

 

 

貴方は再度頷いた後、冒険者カードを確認する。

どうやらこの依頼まだ達成されていないようで、あなたの冒険者カードは未だ雪精駆除屋のままであった。

 

「そういえば、先ほどあなたの冒険者カードについてなのですが本部に確認が取れました。どうやらカード生成に異常は無いとのことです」

 

黒い冒険者カードをなんとなく持ち上げて眺める。

やはりリッチな気分だ。

異常が無いのであれば色は気になるところではない。

事実討伐欄の更新や依頼達成については問題なく動作している。

 

 

「イレギュラーですので今回は無料で再発行もできますがどうしますか?色が正常になる保証はありませんが…」

 

 

あなたはその提案を断ることにした。

人と違う物を持っているというのは希少性があって気分がいい。特別なのはいいことだ。

それにおそらく情報は引き継がれるのだろうが、一度手にした宝を一瞬でも手放すというのはあまり気分がいいものではない。

 

 

「わかりました。何か不都合が起きましたらいつでもご相談ください。今日はこれから依頼受注ですか?」

 

 

貴方は依頼ボードに目を向けた。

先日まで伽藍としていたボード前には数人の冒険者がたむろしている。

おそらく春になったことで依頼が増えたのだろう。

数秒考えた後にあなたは首を振った。

 

 

幸いにして金はあるのだ。

今度は依頼を出す側になってみよう。

 

 

「あなたが依頼を出すんですか?」

 

 

不思議そうにするルナに貴方は頷き依頼内容を告げた。

ルナがなるほどと頷いた後、報酬や条件についての相談を2、3行った。

特にケチがつくこともなく依頼は受領され、掲示板に依頼書が一つ追加されるのだった。

 

 

 

=====

 

 

 

 

「ファイヤーボール!」

 

 

杖の先端から射出された火の玉が丸太に命中して小さな爆発を起こす。

生木の丸太は吹き飛ぶように倒れ、しばらく表面が燃えた後に自然鎮火した。

 

 

「ふふん!どうでしょうか!これが私が初めて覚えた魔法です!」

 

 

杖を掲げて得意げに言う少女に貴方はパチパチと拍手を送る。

少女は冒険者であり、魔女らしくローブと杖を装備したそれらしい恰好をしている。

貴方と少女のすぐ近くには、少女のパーティーメンバーであろう数人の男女が所在なさげにたむろしており、

貴方と同様に乾いた拍手を送っている。

 

 

 

アクセル外壁のすぐ近く

入口から少し離れた芝の生えていない場所で、あなたは依頼である新魔法の教示を受けていた。

 

貴方が冒険者ギルドに出した依頼内容は取得外魔法の教示というざっくりとした内容のものである。

新魔法一つにつき最低5万エリスとし、一定取得難易度以上で報酬上昇というもので、

その他の細かい内容はギルドに一任している状態である。

 

ミッションを説明しましょう。

…なんだ今の幻聴は。

 

 

条件が良かったのか、依頼翌日の掲載からそれほど日を跨ぐこともなく受注者が現れた次第である。

 

 

魔法を放っている少女の他にたむろしている男女が数名いるが、彼らは少女のパーティーメンバーで付き添いで来ているという。

故も知らない不死への対応としては特におかしなこともない。

門兵が近くにいてまさか集団で襲い掛かってくるということもないはずだ。

 

 

「どうですか?取得可能になりましたか?」

 

 

貴方は冒険者カードを取り出し、取得可能魔法の項目を確認する。

取得可能欄にはファイヤーボールの魔法が追加されており、

所有しているスキルポイントで取得することができるようだ。

貴方は冒険者カードを見せて問題ないことを伝えた。

 

 

「おめでとうございます。ではこれで1回分完了ってことで…いいんですか?正直かなり破格の依頼だと思うんですが…」

 

 

まったくもって問題ない。

前の世界では1つのスペルを手に入れるのに数多の屍と冒涜、人間性を捧げ、

その果てにゴミのようなスペルを覚える等ザラにあったものだ。

 

 

その点この世界の習得方法は素晴らしい。

ソウルのように蓄積したポイントを消費して、詳しく見た魔法であれば簡単に習得できるというのだ。

加えて魔法への造詣を深めれば自ら魔法を開発したり、突然知らない魔法を覚えることもあるというではないか。

 

この土地にやってきて最も楽しみにしていたこと

それは新たなスペルの習得だ。

 

 

ーーー解呪は使命なので楽しみとはまた少し違う。

 

 

最初は難敵を打ち倒す為に習得していた魔法だったが、

今ではもはや生涯をかけた趣味となっている。

 

使える魔法を増やすこと。

その収集癖は貴方を貴方たらしめ亡者化を防いでいる欲望の一つだ。

 

 

別段ソウルの何たるかを極めたいとか、魔法の深淵を覗きたい等という大それたものではない。

研究そのものも楽しいが、ただ使える手札を増やしたいという癖なのだ。

 

 

満ち足りた気持ちに人間性を感じたところで、

貴方は逆に報酬は最低限の額となるが問題ないかと問いかけた。

 

 

 

「いえ、魔法一回で5万エリスも貰えるのであればこちらとしてもありがたいので…では次の魔法をお見せしましょうか?」

 

 

 

貴方は少し待ってほしいと伝え、冒険者カードを操作した。

 

異端の杖を取り出し少女の少し前に出ると、

表面が焼け焦げた丸太に向かってファイヤーボールを唱える。

 

すると杖の先端から火球が射出され、

丸太から少しズレた位置に着弾、爆発を起こす。

 

投射型の魔法で重力が働くタイプのスペルのようだ。

 

魔法触媒から発動できる呪術のような火球、

有用性はかなり高そうである。

 

 

「おぉー!すごいですね!私より威力も高そうで…あなた騎士っぽいですしちょっとへこみますね」

 

 

少女の賞賛に対して"連盟の誓い"で杖を掲げる。

何だこのジェスチャーは。

 

どうやらこの魔法は問題なく発動できているようだ。

それに当然といえば当然だが魔法触媒を使っている為理力による補正がかかっているようだ。

 

火に魅入られた大沼共が文句を垂れそうな事象だが、理力重視の貴方にとっては大変喜ばしいことである。

稀に取り出すことがあった呪術の火の出番がさらになくなりそうだが、そもそも取り出さなくて済むのであればそれが一番だ。

 

貴方は早速次の魔法を使うよう促し、その場をぐるぐると周り始める。

 

 

「うわ、そんなにぐるぐる回ると目が回りますよ?」

 

 

どうやらこの世界では待ち時間にその場を回転したり、ローリングしたりしないようだ。

一体彼らはエレベーターの待ち時間をどのようにして過ごしているのだろうと考えながら、

新たなスペルに心を弾ませるのであった。

 

 

 

 

 

 

【ファイヤーボール】

呪術とは異なる魔術の火

 

火球を投射し小さな爆発を引き起こす

 

かつての神の時代

魔術による火は確かに存在していた

 

だが廃都に巣食うデーモンを最後に

その業は失われた

 

この魔術はソウルに由らない

不死にとっては魔術ですらない得体の知れない業である

 

 


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