篝火 始まりの街アクセル   作:焼酎ご飯

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バレンタインは九郎様のおはぎでした。
旨う、ございました。


第6話

「また新しい魔法覚えたらよろしくお願いしますねー!」

「ありがとなー御大尽魔法騎士さんよー!」

 

 

手を振る冒険者の一団にあなたも振り返す。

 

アクセルに戻る彼らを見送った後、あなたは篝火まで戻り腰を据える。

 

たちまち火の粉が舞い上がり、何処とも知れぬ郷愁が押し寄せる。

このような異界であっても帰るべき場所があるというのは良いものだ。

 

 

 

貴方は懐かしい熱に焦がされながら新たな魔法について考える。

 

 

この世界の魔法は使用スペルとしてセットする必要が無い。

記憶力によるセット上限が存在せず、魔力さえあれば習得した瞬間からどれほどの種類であろうとも発動できる。

 

おまけにこの魔法はソウルの業によらない別の法則で発動している現象である。

にもかかわらずソウルによって編まれた魔力を燃料として業が発動している。

 

 

貴方は面白いことを思いつき、異端の杖を取り出し立ち上がる。

 

 

先ほど習得したファイアーボールを唱えると、杖先に火球が生成される。

魔術触媒である杖で呪術を発動しているような奇妙な様だ。

だが何故か懐かしいような気もする。

 

 

このまま射出すれば先ほどまで的にしていた丸太は最早消し炭以下になるだろう。

 

 

 

だがファイアーボールを発射する前に、左手に"魔術師の杖"を取り出す。

 

 

 

【魔術師の杖】

 

魔術の触媒となる杖

竜の学院ヴィンハイムで魔術師に与えられるもの

 

魔術を使用するためには、杖を装備し

篝火で魔術を記憶しておく必要がある

 

 

 

 

極普通な魔術師の杖を掲げ、

極普通なスペルである"ソウルの矢"を唱える。

 

 

 

【ソウルの矢】

 

基礎的な魔術

ソウルの矢を放つ

 

ソウルの矢は魔法属性の攻撃力を持つため

鉄の鎧や硬いウロコなど

物理属性に強い対象にも有効となる

 

 

 

 

 

普段なかなかすることのない並行思考にわずかな頭痛を覚えながらもスペルが発動し、杖に青白い光が集まる。

 

 

両手の杖を上方に掲げた不格好な構えのまま、発射の念を送る。

ソウルの矢とファイアーボールがそれぞれの杖から発射され、

かつて丸太だったものに着弾してソウルと炎が混じった小さな爆発を起こす。

 

 

的の丸太は木っ端みじんになった。

きっちりスペル二回分の魔力が消費され、微かな疲れと先ほどより強い頭痛が押し寄せる。

 

 

 

これは面白い業だ。

 

この世界のスペルはソウルの業との併用が可能なようだ。

スペルの発動燃料である魔力はソウルから練った同じ魔力を使用しているが、

ファイヤーボールはソウルの業を意識する必要はなく、ソウルの矢の発動に干渉しないといったところだろう。

 

白枝と変身の関係に似ている。

白枝を使えばだれでも変身を使うことはできるが、変身はその発動におけるソウルの操作が必要だ。

前者がファイヤーボールで、後者がソウルの矢だ。

 

その性質の研究を行えばソウルに由来するスペルであっても集中力を必要としない方法を編み出せるかもしれない。

 

差し当たってはこの不格好な構えはどうにかする必要があるが、戦術の幅がかなりものすごく広がることは間違いなく、

貴方はエイエイオーで喜びをまき散らす。

 

 

 

 

突き上げた手から杖が零れ落ちる。

手に力が入らない。

 

 

 

その直後頭が破裂しそうなほどの強烈な頭痛に襲われる。

とっさに頭を押さえようとするが、兜に阻まれ耳障りな金属音がなる。

 

兜を取り外そうとするがうまく手が動かない。

 

ついには血涙が兜の隙間から流れ出し、視界が真っ赤に染まっていく。

 

 

三半規管が壊れたのかまともに立っていられないあなたは、

もう一方の杖すらも手放し地面に倒れ伏す。

 

 

 

 

血と吐しゃ物にまみれた兜で必死に篝火を捉えた貴方は、

この苦痛から解放されたい一心で、蛆人よりもはるかに遅い速度で篝火に向けて這い進む。

 

 

 

 

 

=====

 

 

 

 

「爆裂魔法が使えるアークウィザード?!それはすげぇ!」

「ふふん!そうでしょうそうでしょう!」

「アクセルじゃ魔法使い自体少ないはずなのに最近はどうしちまったんだ?」

 

 

アクセルの冒険者ギルド

この時期にしては随分と早く活気を取り戻している酒場で、

数日前まで雪かきにいそしんでいた冒険者のリーダーと、

自分の身長程もある杖を携えた魔法使い然とした姿の少女が机を挟んで話し合っている。

 

 

 

「おや?私以外にもアークウィザードが?…もしや赤い瞳をしたちょろそうな奴では?」

「いや、全身鎧の騎士みたいなやつだよ。さすがに君みたいにアークウィザードってわけじゃなかったんだが…今日も見かけはしたんだが、さっさと出て行っちまった」

「全身鎧のウィザードですか。なかなかロマンのありそうな人ですね。まぁそんなウィザードより私の方が遥かに優秀でしょうけどね!!私という切り札があればどれほど強大な敵であろうと一瞬で爆ーーー

「ところで爆裂魔法以外には他にはどんな魔法が使えるんだ?」

ーーー殺でき…」

「…?」

 

 

 

 

 

アクセルの冒険者ギルド

そのギルド内で一人の少女が高々に杖を掲げた姿で目を泳がせている。

 

相対していたパーティーリーダーの青年は、先程の賞賛とは打って変わってその反応に訝しむ。

 

 

「なぁ君、良かったら冒険者カードを見せてくれないか?」

「いえ…その…ちょっとカードの調子が悪くて…」

「調子が悪い!?」

「昨日カレーをこぼしてしまいまして、それはもうカレー塗れでひどい有様です」

「いや拭けよ!…まぁいいや、この際カレー塗れでもいいから見せてくれるかい?」

「ぐっ…どうぞ」

 

 

ビッグハットで目元を隠した少女は取り出した冒険者カードを雪リーダーに手渡す。

 

 

「なんだやっぱり別にカレーなんて付いてないじゃないか。いやめっちゃカレーの匂いするわ!」

「ほらこれで疑いは晴れましたね!じゃあカード返してください」

「いやカレーについて疑っていたわけじゃないから!」

「じゃあいったい何について疑っていたんですか!!」

「ちょっと待ってよ…あった、やっぱりそうだ」

 

 

雪リーダーは冒険者カードの項目を確認すると、その項目を少女に見せつける。

 

 

「習得魔法欄に爆裂魔法しかない…」

「それがどうしたんですか!最強の魔法である爆裂魔法を覚えていることに何の不満があるんですか!」

 

 

雪リーダーから冒険者カードをひったくろうとした少女だったが

上に掲げられたカードには身長が届かない。

 

 

「いやまぁ爆裂魔法を取得していることは別にいいんだ。…ほかの魔法は?」

「爆裂魔法があればそんな有象無象の魔法なんて必要ありません」

「おいやべぇよこいつ!」

「やべぇとはなんだやべぇとは!喧嘩なら買いますよ!?」

 

 

思わず手放されたカードはテーブルに落下する前に少女がキャッチする。

ガルルと聞こえそうな威嚇の気配を出しているが、いかんせん威圧するには身長が足りていない。

 

 

「ダンジョンとか森とか、場合によっちゃもっとあるが依頼でそういうところに行くわけだが、その時はどうするんだ?」

「ふんっ、必殺の爆裂魔法なんですから丸ごと消し飛ばしてあげますよ」

「…悪いが恒常でうちのパーティーには入れられないな…そもそも俺らあんまり強いモンスター討伐に行かないし、他に合うパーティーがあると思うわ」

「ぐぬぬ…確かに私を使いこなすにはもっと別のパーティーの方がいいかもしれませんね…ですがきっと後悔しますよ!?」

 

 

「はいはい」といった具合にリーダーの男は席を離れる。

もう相手にされていない以上飛び掛かっても問題にしかならず、

魔法使いの少女"めぐみん"は恨めしそうな目でその背を追うしかなかった。

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

 

「まぁ?別に?5回パーティー加入を断られた程度ですし?寧ろ惜しいことをしたのは向こうな訳ですし?」

 

 

しかし5回である。

5回も先ほどのようなやり取りをしていれば流石にギルド内にいる人間に覚えられ始めるというものだ。

現に辺りを見渡すと慌てて目をそらすような輩が見受けられる次第である。

 

最初はアークウィザードの自分であれば簡単にパーティーに入れると考えていたのだが、

どうにも彼らは爆裂魔法のみしか使えないことが気に入らないらしい。

なんともふざけた話だ。

 

流石に5連続で断られていると自信家であれども多少はしょぼくれてくるものだ。

 

 

 

「癪ですがアプローチを変えてみますか…既存パーティーは難しそうですし、今ギルドにいる人もおそらく無理でしょう」

 

 

 

既に形成されているコミュニティへの参加はどの分野でも双方抵抗があるものだ。

今ギルドにいない人間をパーティーメンバーにしようと考え受付へと向かう。

 

 

「いかがされましたか?」

「えっと、依頼関係じゃないんですがお聞きしたいことが」

 

 

腫れ物に触るかのような気配を感じて少しムッとするがそれも当然だろう。

職員はこれまでのやり取りを凡そ把握しているだろうし、なんだったらさっきのやり取りも丸っと聞かれていただろう。

だからと言って委縮するのはもっと恥をかくので図太く質問する。

 

 

「今ギルドにいないソロの冒険者っていますか?できれば冒険者になりたての」

「いるにはいますが…パーティーの希望ですか?」

「えぇ、まぁ」

「住まいや宿泊場所についてはお教えできませんが今都合がつきそうな方であれば、ご紹介できないことも…」

「え?聞いておいてなんですけど、こういうことって教えてしまってもいいんですか?」

「冒険者ギルドと致しましてもパーティーを組んでいただくことは推奨しておりますので、あなたがスカウト主であるということであれば吝かではありません」

「スカウト…なるほど」

 

 

目から鱗とまでは言わないが、今までになかった考えだった。

これまではあくまで入れてもらうという考えしかなかったが、こちら側からスカウトするというのであれば、

以前よりもアークウィザードの肩書が活かせるかもしれないというものだ。

 

 

「今すぐにということであれば、あー、一人いらっしゃいますね」

「どんな人ですか?」

「数日前に登録されたウィザードの方でーーーーー

 

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

 

「ここがそのウィザードがいるハウスですか」

 

 

もちろんハウスではない。

アクセルの壁がそびえるだけで本当に何もない外区画である。

 

ギルドで紹介された全身鎧のウィザード

通称魔法騎士はこの近くで魔法指南の依頼を出しているとのことである。

 

なんでも魔法を一つ見せるだけで数万エリスを報酬として出すという破格の依頼を出している、かなり変わった人物のようだ。

未だパーティーを組んでいる様子もなく、ソロで活動しているとのことで依頼がてら紹介してもらった次第である。

 

「魔法一つに数万エリス出すなんて、きっと金持ちのボンボンでしょうね」

 

 

せっかくなので彼女も依頼を受けてやってきたのだが、まだ見ぬ魔法騎士の印象が少し下がる。

 

きっとピカピカの鎧を身にまとい、安全を確保した上で遠くから安全に魔法でモンスターをしとめる…

そんな甘い考えで冒険者になった貴族やら豪商の子供とかそんな具合の人物なのだろう。

本来はパーティーへのスカウトが目的であったが、今やただの依頼主程度にしか考えられない人物像であった。

 

 

「せっかくですし爆裂魔法で鎧を煤だらけにしてやりま…んん?」

 

 

魔法を見せるといっても見せ方は自由だ、と考えを巡らせていた少女の目に見すぼらしい鎧姿が写る。

倒れていた。

消え掛けのような小さな篝火に手を伸ばして倒れている鎧のそれは、どう見てもただ寝ているだけという様子ではなさそうだ。

 

 

「…金持ちのボンボンには見えませんね。そこの人―!大丈夫ですかー!」

 

 

推定依頼人をそのまま放置するわけにもいかず、小走りに鎧に近づく。

 

 

「高額報酬なんですから行き倒れとは考えづらいですがーーー

 

                ーーーッ!!!!????」

 

 

鎧姿の推定依頼人の元迄やってきたところでとんでもないものを目撃してしまう。

 

こちら側を見ていないそのヘルムからは、赤黒い血が流れ出しており、

そのすぐ下には小さくはない血だまりを作りだしていた。

 

今まで死体を見ることなど無かったが確信できた。

確実に死んでいる。

 

 

「ギョァァァーーーーーー!!!    

ガード!!ガード!!そこで人が死んでいます!!やばいです!!助けてください!!」

 

 

絶叫を上げながら門兵の方へと踵を返す。

私の初めて受けた記念すべきクエストは、

死体の発見というとんでもないイベントに塗りつぶされてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【紅魔の大帽子】

 

魔術師然とした顔を覆うほどの巨大な帽子

紅魔族の少女により特別な飾りが施されているが

特別な魔力は込められていない

 

魔術師たちは好んでビッグハットを被る

だが今やその意味は失われている

 


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