篝火 始まりの街アクセル   作:焼酎ご飯

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あと7日


第7話

「あの人です」

「あいつがなんだって?」

「あの人が死んでいました」

「…生きてるな」

「…生きてますね」

 

 

篝火から立ち上がった数秒後

ビッグハットを被った少女と、件の門兵が貴方のもとへとやってきた。

何やら貴方が死んでいるか生きているかでもめているようだ。

何をもって生きているのか、難しい問題である。

 

 

「そこの!えぇっと、魔法騎士!あなたさっきここで倒れていましたよね!?」

 

 

ビシッと指を突き立てた少女

魔術師のような恰好をしているが、なんとなくソレっぽくない少女だ。

 

そんな少女の問いにあなたは頷く。

どうやら彼女は先ほどの醜態を目撃してしまったようだ。

しかし不死であることがバレるのはまずいので、それとなく嘘をつく。

 

 

「えぇ…魔法の使い過ぎで鼻血って、魔術師って魔法使いすぎるとそんなことになるのか?」

「私も魔力の枯渇で倒れたことは何度もありますが、鼻血で貧血を起こすほどに搾り取ったことは無いですね。

 というか貴方魔力どころか生命力まで犠牲にしてるんじゃないですか?」

「魔術師怖っ」

 

 

魔術師怖っ

この少女の話だと魔力を使い切ると倒れるらしい。

確かに魔力を使うと気だるさのようなものはあるが、動けなくなるようなことは無い。

そんな体構造では巡礼でスペルを使う者などないだろう。

もしかしたら不死だから動けているだけで、本来そういうものなのかもしれない。

 

 

 

 

今回貴方を襲った事象は実際よくわかっていない。

 

魔法を行使した直後に訪れた、強烈な頭痛。

意識が飛んでしまっていた為どうなったかわからないが、

もしかしたら脳が爆発したりしていたのかもしれない。

 

記憶している限りでは発狂に近い感覚だったような、

脳喰いに脳を吸われて、また戻されたような、

そのような今までに味わったことが無い恐ろしい感覚であったのは間違いなかった。

…なんだこの記憶は。

 

この死因については要検証が必要だろう。

人目につかない篝火があればいいのだが…

 

 

 

 

「まぁ流血沙汰はあったが無事ってことでいいんだな?」

「うーん…あれは間違いなく死んでいると思ったんですが」

「あんまり死んでるって言ってやるものじゃないぞ?ほら見てみろ、なんか飛び跳ねてるじゃないか」

 

 

"跳ねる歓喜"で控えめに元気をアピールしたところ、

「元気そうだから門に戻るわ」と、門兵はあっさりと帰っていった。

 

流血沙汰はもちろんのこと、脳液沙汰だったのだがうまく誤魔化せたようだ。

 

 

「貴方本当に生きてますか?実は幽霊だったりしませんよね」

 

 

無論霊体ではない。

透けていないことを証明する為に兜を脱いだりグルリと体を回してみるが、

少女は未だ唇を尖らせて不満そうにしている。

 

…ところで彼女は何か用があるのだろうか。

装いからして依頼を受けてここに来たというのが妥当なところだろうか。

 

 

「う~ん、妬みから生まれた幻だったんでしょうか?」

 

 

だがしばらく訝しむような視線を向けた後、意を決したように貴方に向き直り帽子のつばに触れて指をさす。

 

 

 

「我が名はめぐみん!!アークウィザードを生業とし最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者!あまりの強大さ故に世界に疎まれし"禁断の力"を汝も欲するか!」

 

 

ローブを翻し、少女"めぐみん"はジェスチャーには存在しないような奇抜なポーズを取る。

御霊降ろしに似ている気もする。

…なんだこの記憶は。

 

 

貴方は頷く。

禁断の力は果たして5万エリスで足りるのだろうか。

 

 

「フフフッ…では10万でお願いします。ーーーならば我と共に究極の"深淵を覗く"覚悟をせよ!人が深淵を覗く時、深淵もまた人を覗いているのだ!」

 

 

未だ謎のポーズと謎の風にローブをはためかせているめぐみんに、

貴方は感傷たっぷりに杖を持ち上げ"剣の誓い"のジェスチャーをとる。

 

かの英雄アルトリウスですら屈した"闇"を操る少女だ。

礼を失せない方が賢明だろう。

 

 

 

 

ジェスチャー【紅魔族のポーズ】を入手しました。

 

 

 

 

彼女はどうやら"闇術使い"のようだ。

それも"深淵"に対しての知見も有している暗く深い術者と見て間違いないだろう。

彼女の言葉から考えてみると、マヌスのような存在と対峙したことすらあるのかもしれない。

そのうえで正気を保っている彼女は、善悪は別として間違いなく強者と言える存在であろう。

 

 

「あなた…もしや過去に紅魔族に会ったことが?いえ、無粋でしたねーーー

ーーー故も知らない騎士よ!我が力は強大!ここで放てば街に被害が出るので場所を変えるとしましょう!!」

 

 

街に被害が及ぶほどの大規模スペル。

かの闇喰らいが使うような術なのかもしれない。

そのような術の使い手がこんな平和な街にいるとは末恐ろしい話である。

 

貴方はいい場所を知っていると伝え、期待にソウルを弾ませながらローリングするのであった。

 

 

「うわっ、何やってるんですか気持ち悪いですね」

 

 

ローリングによる感情表現は控えた方がいいのかもしれない。

やはりうら若い少女に気色悪がられるのは人間性がすり減る。

全裸木目等使おうものなら、あなたはモンスターとして討伐されていたであろう。

 

 

「さっきのいい感じのやり取りが台無しじゃないですか。

 まぁいいです。ところで先ほどの10万エリスもらえるっていうのは本当ですか?」

 

 

もちろんである。

街を破壊する規模の闇術を見れるというのであれば、いくら払ってもまだ足りないだろう。

貴方は魔法の次第によっては更に色を付けることを約束した。

 

 

「ふふん言いましたね!私の爆裂魔法に財布が吹き飛ばされないことを祈ることです!!」

 

 

爆裂魔法…いったいどれほどの闇術なのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

=====

 

 

 

 

ボォーン

【雪原跡地】

 

 

かつて冬将軍と激闘?が繰り広げられた雪原

今や積雪は無く、魔法と斬撃による破壊跡だけが残る荒野のような様相を呈していた。

そんな荒地には今にも消えそうな篝火と、二つの人影があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エクスプロージョン!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬の静寂

次の瞬間、視界を覆うほどの爆発が巻き起こる。

荒れ狂う衝撃波に貴方は思わず盾を構える。

 

全ての感覚を埋め尽くす閃光と爆風はまさに暴力の権化と言える有様であった。

これほどまでの爆発は、たとえスペルでなくとも経験したことが無い現象だった。

 

これっぽっちも闇術には該当していなさそうだが、決して期待外れというわけではない。

寧ろ彼女が偉大な大魔法使いであるという認識が一層強まった。

 

 

 

 

このような強大な魔法も習得できるのかとウキウキで賞賛しながら振り返ると

 

 

 

そこには倒れためぐみんの姿があった。

 

 

 

「…」

 

 

 

 

誰か!!この中にアンバサを使える人はいらっしゃいませんか!?

 

 

 

 

貴方は急いでめぐみんに駆け寄った。

この上なく取り乱した貴方は即座にエスト瓶を取り出し、倒れ伏した彼女に中身をぶっかけた。

センの古城で勝手にダメージを受け始めたローガンを助けるために疾走した時のような焦燥具合である。

 

 

「ちょ、ちょっと!?うわっぷ、ーーー何を掛けたんですか!?何ですかこのほんのり暖かい光は!?」

 

 

エストで回復した様子はないが、どうやら命に別状はないようだ。

冷や汗を一つかいた貴方は安堵から"へたり込む"。

これほどの大魔術師から他の魔法を学ぶ前に分かれる等、あってはならない損失だ。

 

 

「答えてください!今のは何ですか!!私動けないから何されたかわからないんですけど!!」

 

 

倒れ伏しためぐみんはその様相からは想像もできないほど元気に吠えている。

あなたは回復アイテムを使った旨を伝え、彼女に見えるようにエスト瓶を置く。

 

 

「いきなりぶっかけられたんで何かと思いましたがポーションのようなものでしたか。わざわざアイテムを使わせてしまったようで…あれ?もしかして報酬から引かれたりします?」

 

 

そんなケチなことはしない。

エストは基本全2種飲み放題なのだ。

篝火前でよく太陽の戦士達と飲み交わしたものだ。

 

それによくよく考えてみるとエストは不死にしか効果が無かった気もする。

 

 

「ならよかったです。これは単なる魔力切れです。明日には動けるようになるので心配しないでください」

 

 

城壁前で聞いた

この世界の魔術師は魔力が切れると倒れるらしい。

なんとも恐ろしい話である。

この世界にダークレイスがいなくて本当に良かった。

 

…深淵についての話があったのでいるかもしれない。

 

 

「それで、どうですか?我が禁断の力"爆裂魔法"は取得できそうですか?」

 

 

倒れてるわりに割と平然としているめぐみんに言われ、

冒険者カードを取り出す。

 

どうやら取得できるようになったようだ。

だが取得に際して必要となるスキルポイントが全く足りていない。

雪精駆除屋である貴方にはこのスキルポイントがどれくらいの苦労を要するかいまいち判断できない。

いつかはあの強大なスペルが使えるという事実はあなたを奮い立たせる。

 

とりあえずカードを見せて問題ないことを伝える。

 

 

「おめでとうございます、と言うにはまだ早いですね。

 しっかしあなたのその冒険者カードなかなかかっこいいですね。カードの色を選べるなんて知りませんでしたよ」

 

 

鋭い眼光でカードの色を捉えるめぐみん。

まったく恰好がついていない。

残念ながらこの色はカードの不具合によるものである。

再作成したとしても再現性は乏しいだろう。

 

 

「イレギュラーで黒色になったってめちゃくちゃかっこいいじゃないですか!」

 

 

そうだろうともと貴方は自慢気に頷く。

 

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

 

倒れ伏した少女に黒いカードを見せびらかすのは一先ず置いておく。

 

いつまでもめぐみんをこのまま放置するのも忍びないので、

灰エストを試してみてもいいか聞いてみる。

 

 

 

「またポーションですか?残念ながら私がぶっ倒れているのは魔力切れなので体力回復でどうにかなる問題ではないんです。ですので依頼人に頼むのは忍びないんですが、アクセル迄運んでくださるとありがたいです」

 

 

 

貴方は魔術師なのでハルバードより重たいものは持てないのだ。

…めぐみんなら持てそうな気もする。

 

だが転送を使えない以上、人を運ぶという危険はできればおかしたくないものだ。

 

 

 

 

 

【エストの灰瓶】

鈍い灰色のガラス瓶

火の無い灰の宝

 

篝火でエストを溜め、飲んでFPを回復する

 

篝火の熱を、冷たく変える灰瓶は

火の無い灰にこそ相応しいだろう

 

 

 

 

 

これはFP、いわゆる魔力を回復する灰の秘宝である。

正直彼女は不死でも灰でもないので効果があるとは思えないが物は試しである。

 

 

 

「魔力を回復するポーション?そんなものがあるなんて聞いたことがありませんが…あんまり言いたくは無いんですが会って間もない相手から渡された謎のポーションというのはちょっと」

 

 

 

会って間もない相手の前でぶっ倒れるような相手がとんでもない正論を投げてきた。

しかし確かに言う通りでもあり、反論できないのも事実。

ハルバより重いものを持てない箱入り不死の貴方であったが、

仕方なく彼女を背負おうかと考えたところでもう一つの手段を思いついた。

 

 

 

 

【愚者のメイス】

愚者の貴石によって魔法強化が施されたごく一般的なメイス。

ごく微量のFPを持続的に回復するメイスは予備の武器であるものの、

多くの霊体を排除してきた優秀な武器である。

 

 

 

 

火の熱に由らないFPの回復手段

愚者派生の武器であれば経口摂取の必要もなく、不死や灰でない彼女にも効果があるのではないだろうか。

 

そう思いついた貴方は早速ソウルの業によりメイスを取り出す。

 

 

 

「え?今どうやって武器を持ち換えたんですか?」

 

 

 

やってしまった。

目の前で持ち替えをしてしまった。

言い訳も思いつかないので、とりあえずめぐみんを無視してメイスを握らせる。

 

 

 

「え?いったい何をーーーなんか…あーなんか、じんわり魔力が回復する感じがありますね」

 

 

 

どうやら愚者は効果があったようだ。

なんとなく嫌な言葉である。

 

 

 

「しばらくすれば歩けるようにはなるかもです。いいアイテムですねコレ、私には重すぎますが」

 

 

 

確かにめぐみんが振るには筋力が足りないだろう。

 

魔術師にメイス、ステータスは合わない。

だがそういった一見合わない装備をあえて身に着けるというのは中々かっこよく見えるものだ。

重鎧が持つ技量武器、軽鎧が持つ特大武器、etc.

 

上級騎士装備やこのメイスは実用面ではもちろんだが、多少そういったロマンに惹かれている部分もある装備の一つだ。

 

 

 

「いいですね、それすっごいわかります。重装備が武器を捨てて魔法主体で戦い始めたり、魔術師が物理武器を取り出して自己強化で戦ったりーーー」

 

 

 

中々話が分かる。

話が盛り上がりそうな気配を感じた貴方は、めぐみんが回復するまでしばらく話そうと提案する。

 

 

 

「構いませんよ。私も依頼人に運ばせるのは忍びないと思っていたのでーーー

 ーーーっぶえっくしっっっ!!…ちょっと冷えますね」

 

 

 

そういえば数日前まで冬だったのだ。

積雪は無いにしろ、まだまだ肌寒い風が吹いている。

 

貴方はすぐ近くの【雪原跡】の篝火まで歩き、"注ぎ火"を行う。

人間性をくべた篝火は大きく燃え上がり、貴方はひどく懐かしい気分になる。

 

 

 

「なんでこんなところに焚火があるのかと思っていましたがあなたが起こしたものでしたか。

 すみませんがもう少し近くに運んでもらえませんか?」

 

 

 

めぐみんを篝火の近くに運んだ貴方は"いつものように"座り込む。

貴方は魅入られたように火を見つめる。

ぼんやりと見つめる火の先には爆裂魔法によって穿たれた悲惨な台地が写っていた。

 

 

 

土地ごと消し去るような尋常ではないスペルを行使する大魔術師めぐみん

 

貴方は彼女に出会ってから最も気になっていたことを聞いてみることにした。

 

 

 

 

 

"他にはどのようなスペルが使えるのか"と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェスチャー【紅魔族のポーズ】

 

取得方法:この素晴らしき世界で紅魔族の名乗りを聞く。

 

 

紅魔族に使用することで会話分岐あり。

又、使用する紅魔族毎にポーズが変化する。

(紅魔族以外では変化無し)

 

 

 




動けない少女に何かぶっかけたり何か握らせたりする最低の不死

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