篝火 始まりの街アクセル   作:焼酎ご飯

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もう7日


第9話

「おはようございます。さて、さっそくパーティーの加入試験といきましょうか」

 

 

未だそれほど人も多くないギルドにて、

貴方はめぐみんと共にクエストボードの前に立っていた。

 

これから貴方の力量を図る為に、モンスター討伐を主としたクエストを二人で受注する予定だ。

そのクエストでもって貴方の能力がめぐみんの要求に沿うものかを見極める次第だ。

 

昨日貴方はめぐみんにソウルの業について凡そで話していた。

初めは懐疑的な目を向けられていたのだが、その疑いもすぐになくなった。

ソウルによるアイテムの実体化と消失、それらの実演解説を行ったこともあるが、

なによりめぐみんの聡明さにより思いの外簡単に説明が済んでしまった。

 

 

ソウルの比重が非常に低いこの世界において

ソウルとは何かを断片的にではあるが理解する彼女はまさに大魔術師と呼ぶにふさわしい知性の持ち主だ。

 

それにソウルの業について説明している中で「ソウルに満ちた土地というのは地続きの場所ではなく異界じみた場所なのでは?」と見事に言い当てられ、自発的に話してはいないのだが貴方は暫定異世界人として認定されている状態だ。

巡礼の中では次元渡り等ありふれていたので、貴方は元々異世界人だったとも言える。

 

聡明な彼女が一点突破の変態でなければ、貴方等なんの利用価値もないゴミクズもいいところだっただろう。

変態万歳!

 

 

 

「せっかくクエストを受けるのであれば、私の爆裂魔法を使えるようなモンスターがいいですね」

 

 

 

そんな敵がホイホイいてはたまらない。

数日前までは冬将軍という強敵がいたのだが、今のところそれに並ぶ強敵は見受けられない。

別の積雪地域を探せばいたりするのだろうか?

 

もしかしたらめぐみんがいれば冬将軍にも勝てたかもしれないが、

たらればな話な上に不死以外が冬将軍に挑むなど頭亡者である。

 

 

 

「とりあえずこのジャイアントトード討伐というやつにしましょうか。考えてみればあなたも私も冒険者初心者な訳ですし、魔法を試すだけなら初心者向けクエストでちょうどいいでしょう」

 

 

 

はがされた依頼書を受け取り目を通す。

 

討伐対象は冬眠から目覚めたジャイアントトード

このモンスターは身の丈を超える程の大きさを持つカエルである。

例年繁殖期を軸に牛や豚等の家畜から、果ては人間迄に被害を及ぼしており、

害獣として討伐依頼が絶えないモンスターだ。

 

今回とんでもない早春により、通常よりも冬眠期間が短い個体が発見されているとのことで、

早い段階での討伐依頼が出されている次第である。

 

 

群れとの遭遇の可能性も少なく、通常の冒険者が苦戦する相手でもないでしょう。

説明は以上です。

ギルドの覚えをめでたくする好機です。

そちらにとっても悪い話では無いと思いますが?

 

…なんだこの幻聴は。

 

 

 

「異論は有りませんね?まぁ危なくなれば私がまとめて蹴散らしてあげますので安心してください」

 

 

 

なんと頼もしい言葉か。

言葉通り彼女の力があればまとめて蹴散らせるだろう。

 

貴方が頷くと意気揚々とめぐみんは依頼書を持って受付へと向かった。

 

だが受付で何度か言葉を交わしためぐみんはプンプンし始めたかと思うと、何やらげんなりした具合で戻ってきた。

 

 

 

「クエストは無事受注できました。それでー、そのー…先日の爆裂魔法についてなんですが…」

 

 

 

どうやら先日発動した爆裂魔法が街近郊における甚大な地形破壊として罰金の対象となってしまったとのことらしい。

 

 

 

「魔法教示を目的とした術行使だったのに、街中で発動されなかっただけマシと思ってほしいところなんですけどね。

 あ、ちなみにあなたが以前起こした罰金は修繕がまだらしかったので、支払われた分は今回の費用から差し引かれるそうです」

 

 

 

貴方が作った戦い跡と罰金も爆裂魔法によって諸共吹き飛んだとのことだ。

だがそれでも3割減程度らしいので、残り罰金はめぐみんとの折半でどうかと提案する。

 

 

 

「ではそれでいきましょう。幸い貴方からの報酬で多少懐が温かいので問題はありません。あれが無ければ私は怒りのままにギルドを更地にしていたかもしれません」

 

 

 

依頼の契約通りめぐみんには爆裂魔法の難易度分の追加報酬を支払っている。

実のところ全額貴方が支払っても良かったのだが、仲間になるかもしれない相手である以上あまり負担を偏らせるのもよろしくないだろう。

 

何やら最近は支払ってばかりだが、ありがたいことに貴方の資産が底を突くのは未だしばらく先になるだろう。

雪精駆除屋は儲かるのだ。

 

それに貴方の浪費癖は今に始まったことではない。

ソウルなど使えるときに使っておかなければ碌なことにならないものだ。

 

 

 

「しかし報酬や罰金の件も財布に響いている様子がありませんし、随分お金に余裕がありますね。やっぱりもともと裕福だった感じですか?」

 

 

 

貴方は数秒考えたが首を振る。

蓄えるということを知らない不死である貴方が裕福だったということはおそらく無い。

 

この先呪いが解かれることがあろうとも、貴方は出自を思い出すことは無いだろう。

無限とも思える時間の中で、貴方という存在はあまりにも擦り切れすぎてしまったのだ。

 

 

 

 

 

=====

 

 

 

 

 

「いました。あれが目標のジャイアントトードです」

 

 

 

数十メートル先

名前の通り巨大なカエルが何もない草原にいきなり現れた。

縮尺が狂ったようなそのモンスターは、唄うデーモンを思い起こさせるほどの巨体であった。

依頼の説明に合った通り家畜や人等、易々と丸のみにできてしまうだろう。

 

住処のようなものは一切見当たらないが、この草原が狩場なのだろうか。

 

 

 

「フフフ…驚いているようですね。…私も思った以上にデカくて驚いています。一応聞きますがアレ倒せますよね?」

 

 

 

もちろんである。

貴方は盾と杖をソウルの業により取り出し、前へ一歩踏み出す。

めぐみんに少し離れているように伝えてスペルを発動する。

 

 

めぐみんに貴方の能力を見せつけるにあたって、彼女の関心を最も惹く要素は何より"カッコよさ"に尽きるだろう。

 

スペルが発動されると、貴方が握る杖は翡翠の憐光を放ち巨大な剣を形作り始める。

 

 

 

【古き月光】

 

ミディールの深層にあった古い剣の記憶

それをソウルにより形作り、攻撃する魔術

 

攻撃は光波を伴い

攻撃前の構えを継続することで

その威力、速度が増す

 

古い剣の名は、これもまた月光であるが

白竜シースのそれとは、少し姿が異なる

その記憶は、よりはじまりに近いようだ

 

 

 

光の黒竜

あぁ…これはもう忘れてしまったよ。

 

 

 

このスペルは貴方が習得しているものの中で最も眩く麗しく、古いスペルである。

貴方は時折このスペルを使い、その月の光に脳を蕩かしている。

 

 

 

「ほあぁ…これはまた一段と魅せる魔法ですね!!

 これがあなたの言うソウルの魔法ですか?」

 

 

 

貴方は頷く。

スペルによって形作られた大剣はその光を増し、奔流を纏い形を確かなものへと変える。

 

その光に気づいたのか、はたまた詠唱阻止が目的なのか、

今まで微動だにしなかったジャイアントトードはこちらに向かって跳躍を始めた。

 

だがちょうどいい。

間合いにまで接近したジャイアントトードは、こちらを押しつぶす為か一段と大きな跳躍をする。

巨大な影が覆う。

 

だが貴方はその頭上の影を切り裂くように古き月光を振り抜き光波を放つ。

 

 

 

放たれた光波はジャイアントトードの腹に突き刺さり、半ば程度まで肉を切り裂いたところでその光を炸裂させる。

完全な切断には至らなかったものの、光波の直撃を受けたジャイアントトードは内側から破裂したかのような無残な肉塊へと変貌し地面へと墜落した。

 

貴方は古き月光を血振りするかのような動作で空を切り、スペルを解除する。

 

運も重なったおかげか、最高の演出ができたのではないだろうか。

貴方はジャイアントトードから吸収した微量のソウルに頷き、

未だ微かに残る燐光を纏いながら自信満々にめぐみんの方へと振り返る。

 

 

 

「横!!右です!!」

 

 

 

振り返った先でめぐみんが指を指して叫んでいる。

何事かと其方に目を向けた瞬間、貴方の腹部に衝撃が走りその場から吹き飛ばされる。

口いっぱいに血の味が広がる。

 

 

 

「大丈夫ですか!?近くの地面からジャイアントトードが出てきてます!」

 

 

 

転がりながら衝撃を殺した貴方は素早く態勢を立て直す。

攻撃が仕掛けられた方向に向き直ると、今まさに地面から出てこようとしているジャイアントトードがいた。

衝撃を受けた腹部に触れると粘液のようなべた付いた何かが付着している。

どうやら伸ばした舌によって攻撃を受けたようだ。

大したダメージではないが嫌な予感を感じて装備耐久値を確認する。

この粘液に装備破壊効果は含まれていないようだったので安心する。

 

 

 

完璧な勝利の余韻に横やりを入れてくる空気にもなれん屑カエルに腹を立てた貴方は、

未だ完全に地上に出てきていないカエルにファイアーボールを数発叩き込みカエルの黒焼きを作り出す。

 

過剰攻撃だがこれはファイアーボールの試し打ちであって仕方のない事だ。

 

 

 

「うっわ黒焦げですよ。最初めちゃくちゃかっこよかったのに今のすっごい小物っぽいですね」

 

 

 

小物結構

貴方はヘルムを取り、口に溜まった血を地面に吐き捨てる。

この動作がより小物感を演出しているが、かっこつけてるところを吹き飛ばされるという醜態をさらしている以上あまり取り繕っても仕方ないだろう。

 

ついでに2体ほど地面から這い出てこようとしているカエルがいたので最高火力の結晶槍を放って適当に処理する。

どうやらこのカエルは冬眠の為に地面に何匹も潜っているようだ。

やはり地中にいる敵は糞だ。

 

 

 

「めちゃくちゃ投げやりに戦ってる割に一撃ですか。ちなみに今の魔法は魔力消費的にどんなものですか?」

 

 

 

せいぜいあと一回の発動が限界だろう。

だが貴方にはFP回復手段である灰瓶に加え、魔力強化した武器もあるのだ。

何ならカエルをたたき起こして数匹細切れにしようかと提案する。

 

 

 

「いえ、それは結構です。さっきの剣?の魔法を使った死体も結構な惨状ですし、あなたの能力もどの程度のレベルなのかなんとなくわかりました。なんだか熟達の魔法戦士って感じですね。職業ウィザードでアクセルにいるのが不思議なレベルですが…」

 

 

 

 

今のところ冒険者職業の目標はめぐみんと同じアークウィザードだ。

先日めぐみんに聞いた話によると、爆裂魔法を含めた上級魔法はアークウィザードにならなければスキルポイントが足りていようとも取得できないとのこと。

新たなスペルを使う為にソウル稼ぎに励んでいた懐かしい気持ちになる。

素晴らしい大目標だ。

 

しかしパーティーを組むとなると、ウィザードとアークウィザードで魔術師が被ってしまう。

巡礼ではスペル使いがいくら被ろうと楽しいだけだったが、ギルドでの様子を見るにこの世界では一人で十分なのかもしれない。

 

 

 

「いえ、その辺の雪かきばっかりしている冒険者よりもよっぽど近接の腕もたちそうですし問題もないでしょうし…では改めて、コホンーーー

ーーー月光の魔術師よ!汝の秘匿は我が夢幻を焦がすに能った!我が深淵は汝の魂を響かすに能った!だが未だ至高は遠く、力への渇望が我らを満たすことは無い。この果てなき飢えを満たすべく共に存分に暴き、喰らおうではないか!汝、我が手を取る覚悟はあるか!」

 

 

 

一拍置いためぐみんはジェスチャー【紅魔族のポーズ】を取りながら高らかに唄う。

 

貴方は【古き月光】を発動させた後、ジェスチャー【紅魔族のポーズ】のポーズを取る。

 

 

するとジェスチャーは変化し、月光を上向きに構え半身を隠すかのような構えを取る。

それはかつて暗い導きを得た、哀れな聖者の成れ果てを思わせる構えだ。

…なんだこの記憶は。

 

 

そのジェスチャーにめぐみんはあからさまに興奮しており、

彼女の赤い瞳を比喩抜きで輝きを放ち始める。

赤成り玉でも決めてそうなほどの輝きだ。

 

 

 

「(ふおぉ!わかってますね!!)ならば契約だ!この手を取り引き返せるとは思わぬことだ!!」

 

 

 

めぐみんは勢いよく手を差し出し、貴方は感傷たっぷりにその手を握り返す。

 

この握手は儀礼的なものだ。

なんの拘束力もないだろう。

だがめぐみんはこの世界で初めての仲間だ。

戦力としての期待ももちろんだが、それ以上に仲間という存在そのものがかつては得難いものであった。

 

定命であるめぐみんのその生が何にも捻じ曲げられることなく、そして本懐を遂げられるよう貴方は命を賭して彼女に協力するだろう。

 

 

 

「今ここに契約は成された!!…ーーーってイタタタタ!!挟まってます!!鎧の隙間に手の皮が挟まってます!!」

 

 

 

誓約【紅魔の杖】を交わしました。

 

 

 

 

 

 

=====

 

【白いサインろう石】

 

オンラインプレイ専用アイテム

召喚サインを書く

 

サインから他世界へ霊体として召喚され

召喚されたエリアの主を倒すことができれば

人間性を得ることができる

(召喚は亡者では行えない)

 

世界の境界が淀んだこの地で

貴方に係る人々がお互いを助け合うための手段

 

このアイテムは本来他世界へ向けたアイテムである

だがこの世界ではどういうわけか使用できる

 

知らぬ間にめぐみんのポケットに入っていた

 

 

 

 

【紅魔の杖】

 

竜が巻き付いた剣を象ったメッキのペンダント

 

装備することで【紅魔の杖】の誓約者となる

 

紅魔族は竜や剣に由来する種族ではない

だが彼らの多くはこういった装飾品を好む

 

【紅魔の杖】は紅魔族の理解者である。

彼らが趣味に走るとき誓約霊としてそれに同調する使命がある。

 

 

 




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