囚われの殺人貴   作:三和

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俺は…この場所に愛着は有った。今の"俺"として目覚めてから自分の物とは思えない記憶から読み取った俺の力…暗殺者一族『七夜』としての高い身体能力はまだしも…視界に入るこの線…ただ手や刃物などで軽くなぞるだけで物体を完膚無きまでに破壊出来る『直死の魔眼』…魔眼殺しとやらだっていつまで使えるか分からない…自分の事を恐れ、逃げる様に各地を放浪していた俺はある日…とある村で遭遇した死徒を狩り(その気は無かったが俺は人外から目を逸らせない…コロシたくて…堪らなくなる)生き残りの通報で殺人罪で牢にぶち込まれる事になる…が、警察の捜査によりそもそも俺が殺していた連中が明らかに人間では無い事が判明。

 

それどころか俺が国内の人間でない以上、この国の法律では裁けないと言われる(相手が人で無かったとは言え、仮にも殺人罪として捕まってるんだからそんな訳無いと思うのだが…まぁ俺の気にする事じゃない)そして…俺は恐らく数年振りに日本に帰って来る事になる…まぁ久々の母国を見て回るなんて事が出来る訳も無く…さっさと牢にぶち込まれる事になるんだけどな。

 

入る前は…そこは重犯罪者や特殊な事情の犯罪者など、表に出せない連中の収容場所とか聞いたからそれこそごみ溜めの様な場所を想像していた…結果、その予想は比較的良い意味で裏切られた。

 

房自体はそれなりに騒がしいが悪い雰囲気は無く、配給される物資だってさすがにそう多くないが…少ない中、刑務官まで含め…皆で協力して少しでも良い環境を作ろうとしている節が有った…と言うか、休業日や自由時間なら多少騒いでも多めに見られると言う時点でここは刑務所なのか?と不思議に思った。最も…それにもちゃんと理由が有る。

 

ここは島一つを使った監獄…要は基本的に外出が一切出来無いのだ(そもそも色々訳有りで表に出せない奴が収容されてるんだけどな)

 

映画とかなら外界から隔離されたこう言う場所は治外法権扱い…それこそ無法地帯にだってなりかねないここで受刑者たちが率先して秩序を守る理由、それは…それだけ内部の規律が緩いからだ…変に贅沢したりワガママを言わなければある意味で娑婆より天国…直接聞いてみた事は無いが、きっとそう思ってる連中も一定数居るだろう…

 

……長くなったが、今の俺にとってここは楽しい楽しい"我が家"なのだ。だからもし…

 

……ここの"平穏"を乱す奴が居たら…俺は…仮にそれが誰であろうと決して…決して俺は許さない…地の果てまでも追い掛けて…泣き叫び、命乞いをするそいつが事切れるまで手指から一本一本切り落とし、その行いを後悔させながらゆっくりと…絶命させるだろう。例え、それが誰であろうとだ…

 

地位や性別、年齢など関係無い、俺の拠り所はここなのだ…自分の家で意味が有ろうと無かろうと…暴れる馬鹿に容赦する理由は無いからな…だからさ…

 

「どんな存在だろうと関係無い…俺は…」

 

足元に目をやる…そこには物言わぬ骸となったあの爺さんが転がっていた…俺が…殺した…この手で。

 

……いっそ死徒にもならず死に至っていたなら…まだ幸せだっただろう…成り損ないのまま…しかも自我を残したまま…吸血衝動に抗いながら爺さんは懇願した…俺に、殺してくれ…と。

 

吸血鬼は普通の方法では殺せない…何故俺に殺れると思ったのか…藁をも縋る想いだったのか…あるいは…俺が普通の人間じゃないと気付いていたのか…それは分からない。だが、今はもうそんな事はどうだって良い。

 

「仇は…ちゃんと取りますから…ここで死ぬ気はもちろん有りませんけど…何れ…何れまた会えたら…また将棋でもやりましょう。」

 

その場で屈み…両目を見開き、苦悶の表情のまま逝った爺さんの目を何とか閉じさせる…裂ける程大きく開いた口と舌は…どうしようも無いな…俺に出来るのは"殺す"事だけだからな…俺は爺さんから視線を離し、立ち上がり…房内の窓に近寄る…相変わらず格子の無いその窓は割られ、唸り声を上げてウロウロする元受刑者たちと炎に包まれる俺の愛した場所の姿が見える…

 

「こちらにも何れ火が回る…早い所決着を着けないとならないな…」

 

生き残りが何人居ようとここはもう壊滅する…それは確実だ…現在別行動中のシエルさんの話によるとコレは…"タタリ"と呼ばれる有る吸血鬼の仕業で有る可能性が高いらしい…(そもそも俺に会いに来ていたのも、日本でタタリの調査をしていたついでとか言っていた…)そいつは元々実体を失っている吸血鬼で有り、一定のコミュニティでこうして事を起こすとか…何より厄介なのはタタリは自然現象であり、発生その物を防ぐのは不可能で、被害を抑える事は出来るが犠牲を出すのは避けられないし…何より、どうやっても"殺せない"らしい…

 

「……俺向きの相手じゃないか。」

 

綻びの無い物など…この世に存在しない。俺のこの眼なら何であろうと…この世に在る物なら全て…殺せる。

 

「報いは…受けさせる…何があろうとな…っ!」

 

後ろで気配を確認…眼鏡を取って振り向きつつ…割れたガラスの破片に囚人服のズボンに使われていた紐を巻いて持ち手にした手製のナイフを繰り出す…幸か不幸か、綺麗に線をなぞり…そいつは崩れ落ちた。

 

「…また、顔見知りか…」

 

帰巣本能か知らないが、どうも自我を失ってもここに戻って来ようとする奴が居る様だ…廊下を進み、この房に戻って来る時も二人程…殺している。爺さんと今の奴を含めてコレで四人…この房の残りの人数は俺含めて後四人…せめてあの三人には…生きていて欲しいんだけどな。そんな事を考えながらも俺はその場で再び屈む…

 

「なぁ、お前…自分の書いた小説が賞を取った!出版もされる!…そう言って騒いでいたじゃないか…こんな所で死んで…本当に良いのか?」

 

何の因果なんだろうな…そいつこそ例の将棋の強い奴だった…自分をモデルにして小説書いたとか言っていた…応募するまでずっと見せてくれなかったから結局内容は分からない…

 

「……」

 

色々言ったが、結局"殺した"のは俺だ…そんな俺が何を言っても仕方無い…ん?

 

「もしもし?」

 

シエルさんから渡された携帯が鳴り、俺は出る(仕事用とプライベート用の二台を持ち歩いているらしい…)

 

『と…七夜君、今何処ですか?』

 

「…今は自分の房の方に居ます…タタリとやらは見付かりました?」

 

言ってから笑ってしまいそうになる。自然現象であるそれが目に見える訳が無い…発生源は何処かに有る筈との事だから適切な聞き方では有る筈だけどな…

 

『いえ、まだ…』

 

「そうですか…俺の方でも引き続き探してみます…この眼なら…恐らく見つけられるでしょうから。」

 

目に見えない筈の物…幽霊なんかでさえ、見えてしまうこの眼なら…見付ける事はきっと不可能では無い筈だ…火のない所に煙は立たない…それが現象で有る以上、必ず"起こり"が有る。

 

『はい、お願いします……七夜君?』

 

「…何ですか?」

 

『その…こんな事に巻き込んでしまって「さっきも言いましたが…謝らないでください。それは…貴女の責任じゃない」七夜君…』

 

「報いはこの現象を起こした張本人に受けさせます……俺は…割とここが気に入っていたんですよ……滅茶苦茶にされて…正直俺は今腸が煮えくり返っています。何が何が何でもこの件の報いは…絶対に受けさせる…!」

 

「…なので貴女が気に病む話じゃない、貴女は引き続きタタリの発生源を探してください…俺の眼はあまり乱用出来ませんし、タタリを殺す時に使えないと意味が無い。貴女が見付けるのが一番話が早いんですよ。」

 

『……分かりました、私も…全力を尽くします。…七夜君?』

 

「何ですか?」

 

『あまり…あまり無茶はしないでくださいね?』

 

「善処はしますけど、約束は出来ません…無理をしないと見つけられそうにないですし。」

 

俺は…この眼が無ければ…単に身体能力が高いだけのただの人間だからな…人外相手に何処まで迫れるか…怪しい物だ…

 

「まぁとにかく、俺も動ける内は動きます…何か進展が有ったらまた連絡してください。」

 

『……分かりました、頑張ってください。』

 

電話を切る…ポケットにしまうと同時に新たな闖入者の気配…俺は咄嗟に魔眼殺しを外す…

 

「…お、七夜じゃねぇか…無事だったか。」

 

そう言って開け放たれたドアから中に入って来る顔見知り…俺は身を低くし、滑る様に移動して奴の懐に入る…そして…同時に自分の得物を突き出した…奴が後ろに飛んで躱す。

 

「…何の真似だ?「惚けるな、俺には分かるんだ…何人の血を吸った?」参ったな…」

 

大抵死徒化する奴は自我を失い、血肉を求めるだけのバケモノになる…ただ獣の様に暴れ、生者の血を吸い、肉を食らうだけのそいつらはハッキリ言って雑魚だ…何なら特別な力を持たない奴でも殺す事こそ出来無いかも知れないが、動きを封じる事だって可能だろう…だが、自我を持っている奴はまた違って来る…

 

「何だ…その目は…俺を見下してやがんのか…?」

 

「見下す?まさか…哀れんでいるんだよ…吸血鬼になっても血を吸うのを嫌がり、人として死んだ奴を知っているからな…」

 

俺は爺さんに目をやる…歳が歳である事を思えば吸血鬼にはなれずに死ぬ可能性の方が高かった…だが、この爺さんは吸血鬼になり、血を吸うのを厭い人として死んで行った…だからこそ…俺はコイツを認められない。

 

「そんな目で見るんじゃねぇ!俺はあのバケモノ共とは違「同じだ…お前は人の生き血を吸うバケモノだ」テメェ!」

 

「来いよ、せめて俺が…お前を終わらせてやる。」

 

雄叫びを上げて俺との距離を一気に詰めるそいつをすり抜ける様にして避け、俺に向かって突き出された左腕を切り落とす。

 

「んなっ!?」

 

「大した事無いな…俺が嘗て戦った奴らは…もっと歯応えが有ったぞ?」

 

厳密に言えば戦ったのは"俺"じゃないし、奴らは…自我を持つだけで無く、二十七祖と言う色々超越した連中だ…死徒として目覚めたばかりのコイツがあいつらと同クラスな訳は無いけどな。

 

「全力で来い…死にたくないならな。」

 

バケモノで有ろうと"生きていたい"…その想いまで否定しようとは思わない。だが、心までバケモノで有ろうとするコイツがただ気に食わない…ただそれだけの事だ。

 

 

 

「時間を食った…急がないとならないな…」

 

房内に有ったタオルで顔に付いた返り血を拭き取る…正確に線をなぞり、"殺せて"いれば問題は無かったが、何度か線をなぞれず出血させてしまった…やはり、今の"俺"ではムラが有るな…

 

「……」

 

既に事切れたそいつを見る…もう何の感情も浮かんで来ない…悲しむのは後にするとしよう…

 

俺は持っていたタオルを投げ捨て、房を出た……何故か、獣の様な唸り声やけたたましく今も鳴り響く警報の音に混じって…あいつらの…俺の房の仲間の…いつも通りの楽しそうな声が後ろから聞こえた気がした…

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