囚われの殺人貴   作:三和

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数時間前…

 

「…またですか、シエルさん?」

 

「……来る度に私への扱いがぞんざいになって行ってませんか?」

 

「そろそろまともに相手するのも面倒なので。」

 

あの"身内"の遠野秋葉ですら月に一、二度来るくらいだ…しかもこの人はあの日以来休みを出来るだけ取るようにしたのが顔を見れば何となく分かるが…それでも週に一回のペースでやって来る…まぁ通常の日程の時も休日もお構い無しに週に三回くらいのペースで続けて来てた時よりはマシとも言える…実際今日に至るまで彼女がそのペースで来ていたら…さすがに俺も本気でうんざりしていただろう…

 

「過去の話はしたくない、愚痴なら聞く…俺はそう言いました。でも、最近の貴女は特に愚痴にしろ雑談にしろ…貴女は早々に話を切り上げる…それならそれでも良いですが…その後も貴女は結局ダラダラと居座る…まぁ前みたいに毎回就寝時間直前に来られるよりはマシですが。」

 

最近のシエルさんは通常日の作業終了後の自由時間以外に休日の日中を選んでやって来る…そして話が終わり、面会時間を過ぎても中々帰らないのだ…最近の俺はもう話が途切れる前から…持ち込んだ文庫本のページに目を落としている…真面目な話ならこっちもちゃんと聞いてやらなくも無いが、最近はそんな話をする為にわざわざこんな所まで来たのかと呆れる内容も多い…

 

「もう…人と話をする時は「目を見ろ、ですか?正直あまりにもくだらない内容が多いんで…大体今俺は就寝前…一日の疲れを癒す自由時間の最中です…休憩中なんですよ。まぁ飯時とか、さっき言った様に就寝直前に来られるよりマシですけど」その…私にとっては深刻で「嘘ですね、俺が解決策出せなくても明らかに気にしてないし、次に来た時は貴女は別の話を始めますし」……案外私の話…ちゃんと聞いてたんですね…」

 

それに対して何と返答しようか考える…刑務所で受刑者がやる作業はテレビとかでも良くやる様に工場作業が主だろう…実際ここもその例に漏れない。工場での作業は基本的には自分の持ち場で自分の仕事を淡々と熟せば良いのだが…突然予定に無い指示が飛ぶ事は有る……もし、自分に割り当てられたその作業に没頭し過ぎて指示を聞き逃せば…俺、あるいは他の誰かが怪我をする事だって有るのだ…絶対に気は抜けない…

 

要は何をしていても人の声は認識出来る様に俺はなっているのだ…だからこの状態でもシエルさんの話を聞き逃す事は無い…そして、今彼女がしてるのは真面目な話では決して無い…だから…俺は本から顔を上げる事は無い。

 

……まぁそんな事をつらつら考えていた…実際これが真実なのだが、何となく言い訳の様に聞こえるし…かと言って他の理由を答えても…結局彼女が穿った見方をして、調子に乗りそうな気がしないでも無い(ほぼ冗談なのだろうが、何となくそれはそれで癪に障る…)

 

「……」

 

「もう…返事ぐらいしてくださいな。」

 

なので俺は沈黙する方を選んだ…もう好きに解釈すれば良い…そう思いながら。

 

「…まぁ沈黙は肯定と言いますし、思ったより私はと…七夜君に嫌われてないと「質問のつもりだったんですか?独り言だと思ったので黙ってました」……」

 

さすがに黙っていられなくなり、ツッコミを入れた……魔眼を使った覚えは無いが、何故か俺の前に居るシエルさんに軽く致命の一撃が入った様な気がする…いや、こんな事で凹むのか…?…面倒だなと思いながら俺は本を閉じ、椅子から立つとシエルさんに目を向けた。

 

「さて、そろそろ就寝時間ですのでお引き取…!」

 

ジリリリとベルの音が鳴り響く…

 

「…コレって…例の脱走者が出た時の警報音ですか?」

 

「あー…聞いた事無いんですね…コレは違います…コレは火災報知器に付いてる非常ベルの音です。」

 

「成程…何故知ってるんですか?」

 

シエルさんは現実感が無いのか、それとも"代行者"としての勘か…その場を動こうとはしない。

 

「以前…ここを脱走しようとして押した奴が居るんですよ…この音聞いたら、先ずは真っ先に刑務官たちが様子を見に行きますから…」

 

「その後は…どうなったんですか?」

 

「刑務官の動きが予定より早くて火災報知器から離れ切る前に捕まりました…まぁそもそも就寝時間中にどうやって房から出て、廊下の火災報知器まで来れたのかは謎ですけど。」

 

鍵を刑務官から盗んでも脱出するまでの間その鍵を房内に隠しておくのは至難の業だ…仮に鍵を複製出来たとしても同じだ、隠し切れるもんじゃない…何より夜は手薄にはなるが、刑務官が必ず交代で見回りをしている…刑務官がすぐに奴の元に辿り着けた所を見るに巡回時間だった筈だ…一体どうやって火災報知器まで辿り着いたのか……いや、そんな事は今はどうでも良いんだ。

 

「コレが誤作動とか、さっき言った様な事が原因でなってるなら良いですが…問題はそうじゃなかった場合です…」

 

「コレが鳴るべくして鳴っている場合…ここで出火した事になりますね…」

 

シエルさんの言葉に頷く…そう、正当な理由で鳴ってる場合…ここで火事が起きてる事になる…この場合俺がすべきは…

 

「取り敢えず指示が有るまで俺たちはここから動かない方が良いでしょう…ただし、三分経っても何も無かったら独自に動きま…!」

 

俺の後ろのドアが開き、誰かが入って来た…見た目は普通に顔馴染みの刑務官だがどうも様子が可笑しい…腹と首から血を流し、顔は…片方の目玉が飛び出し、顎の辺りまで垂れ下がってい…

 

「七夜君!伏せて!」

 

「っ!」

 

咄嗟にその場にしゃがんだ俺の頭上を何かが通過する…ザクっと生々しい音が聞こえると同時にドサッと大きな音が響く…俺は立ち上がり、さっきまで刑務官が居た方に目を向けた…

 

「黒鍵を…使ったんですね…」

 

「すみません、既に手遅れで…助けられませんでした…」

 

黒鍵の刺さった"ソレ"は砂…いや、塵になり…崩れて行く…

 

「…一体何処から死徒が入り込んだのか分かりませんが…何か心当たり…有ったりしませんか?"代行者"の…シエルさん?」

 

 

 

……元々彼女が首謀者とは考えにくかった。だが、顔見知りの刑務官の変わり果てた姿を見て俺は…自分でも思った以上にブチ切れていたらしい…自然と彼女を責めるような口調にはなってしまった…まぁ、今は特に反省する気にもならないが。

 

「ふっ!」

 

廊下に四人程居た自我の無い死徒擬きをナイフを振るい、一気に解体する…少しづつ…無駄が削ぎ落とされて行く…俺の肉体が全盛期のソレに戻って行くのが分かる…俺は俺のまま…身体だけが、嘗ての"俺"に還って行く…まるで…まるで俺が作り替えられて行くみたいで…気持ちが悪い。

 

『"タタリ"…それが今回の原因かも知れません…』

 

『祟り?祟り神とかのアレですか?』

 

『そちらでは無く、私たちの様なアレを知る者は皆便宜上そう呼んでいるんです…要は…』

 

『死徒の通り名…ですか?』

 

『ええ…奴は死徒二十七祖第十三位…ワラキアの夜とも呼ばれています。』

 

『二十七祖…ネロ・カオスやロアの同類ですか?』

 

『ええ…彼らを倒したのは貴方でしたね。』

 

『厳密には…"俺"じゃないですけどね。』

 

二人を殺したのは昔の俺で、今の俺じゃない。

 

『そう…でしたね…』

 

『まぁそんな話はどうでも良いです…奴の攻撃方法とか、何か情報が有れば聞きたいのですが。』

 

『攻撃は…恐らく既に行われています。仮に相手が本当に"タタリ"で有るならですが…』

 

『?…どう言う事ですか?』

 

『奴は…"タタリ"は現象そのもの…一定の人数が集まっているコミュニティに現れては…そこで流れてる噂を具現化させます…止める事は出来ません…アレに実体はありません…』

 

『…ソレを…死徒と呼んでいるんですか?』

 

『最早便宜上そう呼んでいるだけです…さっきも言った様に…元になった死徒そのものは既に実体を失っています…実体が無い以上、倒し切る方法は有りません…私たちに出来るのは発生する場所、タイミングを見抜き…出現の際の被害を少しでも抑え、次の発生タイミングを少しでも遅らせる事だけです…』

 

 

 

「シエルさんには殺し切れない、俺が殺すしか無い…」

 

何処に向かえば良いのかなんて分からない…だが、俺の足は自然と所長室に向いている…目に着く死徒擬きをバラしつつ最短で俺の足はそちらへ駆けて行く…間違いならそれでも良い…その時は残りの死徒を全て殺せば良い…俺とシエルさん以外動く"物"が無くなれば向こうは出て来ざるを得ないんだからな…

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