「それで?アンタ迷い無く進んでるみたいだけど…その、タタリの発生源に目星は着けてるのか?」
「いや、取り敢えず勘で向かってるだけだ。」
コイツ…『遠野志貴』と会ってからシエルさんと連絡が取れない…恐らく、俺と同じく誰かに遭遇且つ…多分、足止めされてるんだろうな…
「勘って…またそんな「そう馬鹿にしたものじゃないさ、当てにしすぎるのはいけないが」…そう言う物なのか…?」
「魔眼にこそ頼り過ぎるな…脳が破壊されても良いなら、好きにしたら良いけどな。」
コイツは"タタリ"によって創り出された幻に過ぎない筈だ…ただ、もしかしたら本当に過去の俺なのかも知れない…そう思ったら…柄にも無くアドバイスをしたくなってしまった。
「それは困るな「死にたくないならそれ以外の人としての感覚器官をもっと磨け、そうすれば自ずと勘も鋭くなって来る」…そんなに当たるのか?アンタの勘…」
「いや?そうでも無い…割と普段は外す事の方が多いな「いや駄目だろ!?」…そう慌てるな、普段から当てる必要は無い…有事の際…本当に必要な時に当たるくらいの精度がちょうど良いのさ。」
まぁ例えばココで良くやってる将棋以外…ポーカーなんてゲームやったら俺の勝率はせいぜい四割位だからな……ココでこの手のゲームやると段々ヒートアップして来て、イカサマ何でもござれの酷い内容になるから最早運や勘だけの話じゃないが。
「…ハァ…それで?アンタの勘は何処を示してるんだ?」
ちなみに会話してる間も俺たちの手際は変わらない…死徒擬きたちを順調に屠って行く…中身は変わっても俺の身体に染み付いた『七夜』の体術、ナイフの腕前はそう変わらないし…何より俺たちには『直死の魔眼』が有る…
ただ本能で生者に食らいつくだけの連中に負ける事は無い。
「所長室だ。」
「…何で場所が分かるんだ?普通の受刑者は所長室になんて行かないだろ?」
最もな質問だ。
「まぁ色々と、な…元々ココ自体普通の刑務所じゃないしな…」
「そりゃ、普通の刑務所は他にろくに人の居ない島には作られないだろ。」
まぁ確かに。
「元々特殊な経歴で表に出せない連中が収容されてたんだ…ココはな。」
「……アンタも、か?」
「ああ。」
そこで俺は口を噤む…別に俺の経歴なんてこの場では関係の無い事だ…仮にここに居るコイツが本当に過去の俺だとして…同じ運命を辿るとは限らないしな。
「…随分歩いてる気がするが…まだなのか?」
「ここ広いんだよ、もう少し掛かるな…止まれ。」
先頭を歩く俺の更に前…向こう側から足音が聞こえて来る…いつの間にかこの辺りの照明はやられてしまっているらしく… 姿は見えて来ない…が、窓からの月明かりがその正体を照らす…っ!
「チッ!」
そいつの姿より先に銀閃が視界に入り、咄嗟に身を捩って躱し…体勢を崩しながらも俺もそいつに蹴りを入れた…手応えは無い…奴は繰り出された俺の足に手を着いて、逆立ちし…そこから前宙に移行して俺の背後に回った…!
「くそっ!志貴!」
俺が振り向いた時…そいつはもう『遠野志貴』に斬りつけていた。が、心配するまでも無くアイツは俺と同じく身を捩って斬撃を躱し…奴の脇腹に蹴りを入れる…今度は当たった様に見えたが、奴は意に介す事も無く衝撃を利用して飛び…天井に張り付くとそのまま今度はこっちに飛び掛って来る…相手の身体…天井までもを利用した三次元戦闘を行うその凄まじい身の熟し…間違い無い…コイツは…!
「クッ…!」
咄嗟に突き出されたソレ『七ッ夜』を例のガラスの破片で受け止める…が、すぐに離れた…強度が違う。まともにやり合ったらそのままコイツを破壊されかねない…そして逃げた俺をそのまま奴は追い、すぐに懐を取られる…『七夜』の体術の一つにその凄まじい足捌きが有る…どんな体勢からでも予備動作をほとんど取る事無くいきなり最高速を出し、任意に止まれるその足こそ奥義の一つと言っても過言では無いだろう…
「調子に乗るな!」
左手で魔眼殺しを取り、ガラスナイフを振るうが…
「おっと、魔眼か。」
今度は逃げられる…全く面倒だ。
「コイツ一体…」
「さぁな…さしずめ、魔眼を持たない『遠野志貴』ってところじゃないか?」
とは言え魔眼を持たない遠野志貴に関する記憶など俺の中には…いや、一度何処かで…見た様な気が…
「俺が三人、ね…何の冗談だ?」
俺が考えてる内に奴は『七ッ夜』をポケットにしまった。コイツも学生服を着ている…顔はそれこそ俺の後ろにいる『遠野志貴』にそっくりだ…だが、奴は眼鏡を掛けてないし…何よりその目は、独特の色合いこそしているが直死の魔眼特有の濃い蒼さは無い…直死の魔眼を持っていないのは確かだ…
「お前…何者だ?」
「さてね、死人に名なんて必要無いだろう?」
「…その言い方、自分がどう言う存在かは分かっているらしいな…」
「何となく、だけどね…」
さっき会った『遠野志貴』とは違う…コイツは警戒レベルを上げないとならない…!そう、俺の勘は告げている…
「さて、続きと行こうか…」
まだやる気なのか。
「何の為に?ここで俺たちが戦う理由が何処に有る?」
「お仲間だろ?アンタら。」
「…別に俺は見境無く殺す訳じゃない。」
「俺だってそうだ!」
「人殺しには違いないだろ?人殺し同士楽しく殺り合おうじゃないか…吾は面影糸を巣と張る蜘蛛。 …ようこそ、この素晴らしき惨殺空間へ…」
奴が目の前から消え…!
「アンタの足元だ!」
「なっ…!?」
「遅い…!」
脇腹を斬り付けられ、奴が俺をすり抜け前に出る…いや、あんまり俺を舐めて貰っては困るな…
「ん?」
「っ…ナイフを振るう右手には追い付けなかったが…左腕は殺させて貰った…」
俺を仕留めて無い癖に前に出て行くその瞬間…俺は奴の左腕の線をなぞり、殺した…足を殺すべきだったが…あの瞬間…俺の状況ではアレが限界だった。
「傷も浅い…俺の勝ちだ。」
「感心しないな…勝ち名乗りは殺してからするものだろう?」
「お前の理屈なんて知るか、大体こっちはお前に用は無いんだよ…さっさと退いてくれ。」
俺は改めてガラスナイフを構え、奴を睨み付けた。