「ハァ…取り敢えず座っても良いか…?こっちはお前ほどの体力は無いんだ。」
「軟弱だな。」
「何とでも言え…大体、生身じゃないお前に言われたくないね。」
日々普通の範囲の運動しかしてない俺と…人外を倒す事に特化した身体のコイツとじゃ根本的に違うんだ、全く……そんな事を考えながらその場に腰を下ろし、片膝を立てて座る…改めて奴の方を見る…基本的に俺は『魔眼殺し』はあまり外さない…常時魔眼を発動していた頃でどうせ俺は持て余すからな…だが、最初の交錯時に奴を斬り付けようとして、魔眼で奴を視た時…奴の身体に走る大量の線が視界に入っていた…それは…先の『遠野志貴』より遥かに多い量だった…こうして会話した感じ、自我はハッキリしてる様だが…仮に本当にコイツが何処かの世界で生きていたとしても…恐らくこっちに来る前から元々希薄な存在だったのだろうな……本当にコイツは何なんだ?
「…おっと、お前は魔眼持ちだったな。」
普通に考えたらこの場には居ない筈の『遠野志貴』と同じ存在だと言われていると考えるだろうが…どうやら俺の言いたい事はちゃんと伝わっているらしい…
「…お前の正体は気になるが…どうせ答える気は無いんだろう?」
「…ふむ、そうだな…アンタの話が楽しめるものなら考えてやっても良い。」
「それ確実に話す気無いだろ…」
「いや?あくまでアンタ次第さ。」
口から自然と溜め息が零れる……何やら最近溜め息ばかり吐いてる気がするのは気の所為か…?……少し考えただけで思い当たる節が色々有り過ぎて嫌になって来た…と言うか、このまま俺が口を開かなかったらこのバカはこのまままた飛びかかって来たそうだ…さっさと"過去"を振り返る作業にシフトした方が良さそうだな…さて。
「……」
「どうした?」
「…いや、本当に何処から語れば良いのか分からなくてな…」
自分の事を語るだけなのに何故そんな悩むのか、と言われそうだが…実際、本当に分からないのだ……別に後ろめたい事が有るから語れない訳じゃない…遠野秋葉やシエルさん…そして、『遠野志貴』…あいつらには少々刺激が強い話にはなるが、この場に居る暫定『七夜志貴』には語っても恐らく問題無いだろうな、と…何となくそうは思う…何故なら俺がそうである様に…奴にとっても"赤の他人"の人生の話になるだろうからだ…
……まぁ結局の所…コレは既に俺にとっては今も頭の中に有る誰かの生きて来た記録の様な物で…要はやっぱり他人の話だと言う事になる…それをどう纏めたら良いか…まるで分からない、が…今の心境として正しいか…
「…つっても所詮自分の記憶だろ?ソレを纏められないと言うのは…!…へぇ、成程…そういう話か。」
何やら『七夜志貴』が一人で勝手に納得した様な声を出し、ニヤニヤ笑っている…何かに気付いたのか?
「何だ?何を笑っている?」
「…いや、失礼…何となくだが…分かっちまったんだよ。」
「何をだ?」
「……アンタ、一回死んだんだろ?」
「!…ほう…どういう意味だ?俺は今もこうして生きてるだろ?」
俺は今、口角を上げて…きっと今奴が浮かべてるのと似た笑みを浮かべている事だろう…まぁ実際正直に言えば…奴の言ってる事はこの時点でもうほぼ正解に近い…俺は…今ここに居る『遠野志貴』は…確かに一度、死んでいる…
「『直死の魔眼』…それが鍵かな?」
奴自身、まだ確信が持てないのだろう…俺に質問をして来る…まぁ俺の考えが纏まるまで相槌を打ってやっても良いだろう。……そして、その答えはYESだ。
「フッ…良いぜ、着眼点は悪くない…だが、それだけじゃまだ不十分だな…続けてみろよ?」
「…今の様になる前にアンタは恐らく…まぁ内容は分からないが、何かに絶望でもしたかな?自殺をしようとした…そうだな…自分自身に走る線をなぞりでもしたのかな?」
「ククク…!合ってる合ってる!で、それから?」
「…本来ならそのままアンタは完全に死ぬ筈だったが…土壇場でしくじった…元のアンタの自我だけが死に…肉体は残ってしまった…そして、本来なら朽ちていくだけのその身体にアンタが何処からか入り込ん…いや…アンタがその身の裡に新たに"誕生"した…これで正解かな?」
「ハッハッハ…!いやはや…ブラボー!そうだ…確かに前の俺『遠野志貴』は…嘗て自殺を図った…が、失敗した…そして…新たに空っぽなこの身体に、この俺が誕生した!」
思わず両手を合わせ、叩いてしまった。ヒントこそ渡したが…こうしてハッキリ見抜かれたのはコレが初めてだ…遠野秋葉もシエルさんも…"俺"が最早『遠野志貴』とは完全な別人だと気付く事は出来無かった…いや…薄々そう思っていながら認める事が出来無かったんだろうな…何せそれを認めてしまえば…これまで二人は別人に何の意味も無い語り掛けを続けていた事になるからな…
こうして『遠野志貴』を知る者から別人だと言われた事が…今俺は堪らなく嬉しい!本当に嬉しくて仕方が無い!
「良いさ!話してやるよ!お前には知る資格も、権利だってもちろん有る!」
ちょうど考えも纏まった所だ!コイツに"俺"の知る全てを話してやるとしよう!