囚われの殺人貴   作:三和

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「まぁ、それで目覚めた俺だが…不思議と自分は死んだ筈じゃないか?と言う感覚は有った……が、直後に別の異常に見舞われるんだがな…」

 

「異常?」

 

「…突然俺の頭の中に流れこむいくつかに分かれた『遠野志貴』の記憶…自分がソイツとして一度死んだのは確かなんだろうが、生憎その尽くに自覚が無かった…ソイツが、自分だとは決して思えなかった……たまたま部屋の中に有った鏡を確認して結局同一人物だと気付くんだがな…そして、鏡を見ている時に更に俺の中で異変が起きる…俺の中に実質もう一人分の記憶…『幼少期の七夜志貴』の記憶だ…こちらも断片的な内容だったがな…先程までの遠野志貴とは似つかないその子供が…不思議と、今の俺に一番近いのでは無いかと感じた…」

 

「…その後に俺の居る部屋に入って来た老夫婦…少なくとも日本人では無かったな…ただ、幸い俺は世界各地を巡った『遠野志貴』の経験も有しているからな…言葉が分からないと言う事は無かった…で、どうやらその二人が…自分たちの住んでいる村の前に倒れていたと言う俺を…部屋まで運んでくれたらしい…」

 

「…その後はまぁ…多分半年くらいかな、俗世から離れていて暦も無い様な村だったからハッキリとは分からないが…その家で俺は暮らしてたんだ…日本で言う限界集落って奴かな…若い奴が居ないもんだから色々頼りにはされた…都会での生活の記憶をほぼ他人の物として認識しているとは言え、有している俺には退屈では有ったが…その村での生活は…時折俺の脳裏に過ぎる血なまぐさい光景を薄れさせて行った……まぁ要はお前の感覚で言えば鈍った、あるいは腑抜けて行ったんだな…」

 

「居場所を得た、と…逆に暮らしやすかったんだろうな…アンタの事を知る者は、そこには誰も居なかったんだろう?」

 

「ああ、基本的にその村の生活は一切外部に頼らず完結していたからな…外から人が来る事も無いし、俺の正体を知られる事は無かった……何より俺は…異形のモノが目の前に現れない限りは正常に近かったからな…幸い、お前の様に刃物に執着する事も無かった…」

 

「…で、半年間そこで生きていたのに…今、アンタはこんな所に居る…何があったんだ?」

 

「退屈なのは分かるが、そう慌てるな…今話す。」

 

俺はそこで目を閉じる……あの村での生活は酷く退屈で平穏だった…それが壊れた日の事は、今でも昨日の事の様に思い出せる…

 

「ある日の事だ…"外"から身なりの良い男が村に入って来た……当時の俺よりは歳上だろうが、それでもまだ若いと言って差し支えの無い男だ…30代前半くらいかな「それは若くないんじゃないか?」…あの村には老人しか居なかったからな…格好も相まってかなり浮いていたよ…」

 

「俺は村から出ないから知らなかったんだが…村を出て少し行った所に遺跡が有ったらしい…ソイツはそれを求めてやって来たんだ…」

 

「村の長に、報酬は出すからその遺跡まで案内して欲しいと言う男に…村の連中は渋った…曰く、あそこは聖地で我々が崇める神が眠っている、と……まぁあの脅えようと、崇めていると言いながら村の奴らは基本的に近付こうともしてなかったのは日常的に村に居た俺には分かるからな…ほとんど忌み地について語っている様だった…」

 

「何でも望む物を渡す、ここから外に出す事も出来ると言うその男に我々は長年ここで生きて来た…今更外に出るつもりは無いと長が答えた辺りでその男の雰囲気が変わる……まぁ…元々生活全てが産まれてからずっと村内で完結していた上に、あそこに居たのは既に先の無い人たちだ…出て行った所で今更外での生活に馴染める訳も無いし、外に出ないんだから金銭的報酬に意味は無い。交渉が決裂するのは当然と言ったところだな…」

 

「それで?雰囲気が変わったと言うのは?」

 

「奴から急に漂い始めたモノ…今まで良く隠していたと褒めるべきかも知れんな…それは濃密な死の気配だ…俺はその時確信した…コイツは…要は俺と同じ、裏の人間だと……当時平和ボケしてなかったら、もっと早く気付けてたかもな…」

 

「近くで見ていて、さすがに不味いと感じた俺は二人の間に割って入り…怯えている長の爺さんを背にして俺は男の前に立った…いざ目の前まで近付いた事で先程より更に濃くなった吐き気がする程の強い死の気配…その時の俺はそれに耐えつつ頭をフル回転させていた……この場に使える武器は無い…今の鈍り切った俺では、恐らく素手でコイツに勝つ事は出来無い…七ッ夜は俺を拾ってくれた老夫婦の家に有る…取りに行くとコイツから目を逸らす事になる…それは駄目だ…俺は生き残れるかも知れないが、後ろの爺さんは確実に死ぬし…何なら追加で他の奴も死ぬ……俺の出した結論は…ソイツの事を只管に睨み付けて牽制する事しか…この場では出来無い、だった。」

 

「そんな奴が本当にふらっと現れたのか?」

 

「信じられなくても無理は無い…俺だって今ならアレは本当に有った出来事なのかと思ってしまう…だが、あの日俺たちの前に確かに居たんだ…」

 

「ソイツは何者なんだ?死徒じゃないのか?」

 

「死徒でも真祖でも無い…ソイツは吸血鬼なんかじゃない…ましてやそれ以外の人外の化け物とも違う…アレは間違い無く人間だ…何故なら、異形に対する殺害衝動が出なかったからな…ただ、殺気とは違う…死、そのものとしか言えない気配…まるで本物の死神を見たかの様な気分だった……あるいは、殺し合いから離れて久しい俺が、実に半年ぶりに出逢った裏の住人に対して感じた恐怖が…そう錯覚させたのかも知れないが…だが、全てが間違いでは無いと確信出来ていた…コイツから感じる死の気配…ソレは、数え切れない程の同胞を殺したせいだと…あの時の俺には分かったんだ……まぁ、何故って聞かれても理由は分からないけどな…」

 

「未だ気配を放ったまま動かないその男…最も、その気配に当てられた俺も動く事が出来無かった…動けば、死ぬ…それも恐らく俺以外の誰かが…何があっても死なせたくないと思ってしまうくらいにはそこの村人に俺は恩が有ったし、情も移っていた…」

 

「だが、そのまま動かなければアンタは為す術も無く殺されて…結局村人も殺されるんだろう?」

 

俺は頷いた。

 

「奴に先に攻撃させる訳には行かない…お前が言った通り、俺が死ねば…結局村人も死ぬ…牽制しているだけでは駄目だ…俺は人1人分くらいは空いていた距離を詰めようとして、擦る様に…僅かに足を前に出した…次の瞬間、俺の首が飛んだ…」

 

「……幻覚だな。」

 

さすがに察しが早い…俺はまたも頷きを返す。

 

「俺が足を前に出した瞬間に、奴から発せられた殺気が俺にほんの一時、死の幻を見せた…一瞬意識が暗転して、即座に光が戻る…幻視してしまったソレは…本当に極一瞬の出来事なんだろうが…俺にはもう少し長い時間に思えたな…視界に飛び込んで来た奴から目を逸らさない様にしながら、咄嗟に喉元を押さえた…首が付いてるのが確認出来たが、安堵は出来無い…俺は視界から外さない様にしながらもう一歩足を踏み出そうとした……そこで老夫婦の内、旦那の方が俺と奴との間に入って来て、『儂がそこに案内をする!』と叫んだんだ……情けない話だが、奴の姿が視界から消えると同時に…俺は膝から崩れ落ちそうになったよ。太腿を叩いて喝を入れて、踏ん張ったがな…」

 

「気付けば奴からの気配は消えていた…そして爺さんは奴の横を通り過ぎて、先導するように村を出て歩いて行く…もちろん、他の村人以上に世話になっていた爺さんを放っておく気は無い…俺はすぐ待ったを掛けて、俺も行くから少し待ってくれと行ったんだ…そして老夫婦の家まで走った……七ッ夜を取りにな。」

 

「何処が退屈なんだ…中々ワクワクする話じゃないか。」

 

「ニヤニヤするな、あの時は…こっちは生きた心地がしなかったんだ…」

 

まぁ二人について行った後…最終的に事態は俺の手には到底負えなくなってしまう…そう言う意味では…退屈で下らない一件だったと言えるだろう…あの時俺がもう少し上手く立ち回れていれば、あるいは…今とは違った道を歩んでいたのだろうか…

 

「で、二人について行ってどうなったんだ…?」

 

「待て、一旦休憩させろ「拒否する…殺し合いの続きなら乗ってやるし、何なら続きを話さなくても良いが?」……分かったよ。」

 

まぁ、奴には時間が無いからな…最も『遠野志貴』ならまだしも…どうして俺の話を聞きたいのか分からんのだがな…

 

「爺さんを守る為に、俺は爺さんの横を歩く…二人で歩く間爺さんは一度も口を開かなかった……まぁ、俺からも話掛けようとはしなかったがな…何せ、後ろにあの男が居る…」

 

その時後ろに居たソイツの気配は…一般人のソレと大差は無かった…まるでさっきまでの事が嘘だった様に…だが、アレは間違い無く現実だと…俺の本能が告げていた…

 

「黙ってついて来るソイツを俺はずっと警戒していたが…特に何かを仕掛けて来る様子は無かった…まぁ村に来た時ベラベラ喋っていたのが嘘の様に静かになっていたがな…ま、本来はそれが奴の本当の姿なんだろう…やがて俺たちの前に一軒の大きな屋敷が見えて来た…不思議な気分だったな…荒野の中にポツンと建つその屋敷は…造りこそ古くは見えたが……そうだな、何て言うのかは俺は知らないが…少なくともその屋敷は村に有った家屋に比べてずっと近代的な造りだった……まぁ、普通で有れば文化遺産にでも登録されてそうなソコは…荒れ果てて見る影も無かったがな…」

 

嵌め込まれている窓ガラスは無惨に割れ、破片の多くは砂に塗れ、大半が埋もれており…入り口のドアに至っては外れて地面に落ちている…

 

「ただ、更に不思議だったのはその屋敷は恐らく、内側から破壊されていたと言う事だ…少なくとも経年劣化で自然に壊れた訳じゃない、と言うのも判別出来た…当時の痕跡が見て取れた辺り、建ったのはそれ程昔では無いのも間違い無いだろうな…最も、それにしてはやけに造りが古いな、とは感じたが…まぁそもそも…街からは確実に離れた所に有るだろう、荒野のド真ん中に近代的な屋敷が建っている時点で既に可笑しいが。」

 

「…そして…爺さんはその屋敷の入り口側まで歩き、屋敷をしばらく眺めていたが、やがて後ろに振り向いた…」

 

『案内は終わった…儂らは帰らせて『貴方は屋敷の中がどうなっているのかご存知で?』!…しっ、知らん…!』

 

「……最早、知っているとしか思えない言葉だったな…直後に一気に距離を詰めた男に爺さんが蹴飛ばされ、後ろに吹っ飛び…地面に倒れた爺さんに慌てて駆け寄った所で…俺は動けなくなった…」

 

「動けなくなった?男が何かしたのか?」

 

「……いや、違う。アレが出たのさ…」

 

「アレ?」

 

「俺たちに掛けられた一種の呪い…人外に反応する殺害衝動だ…」

 

「ん?男は人間だろ?……まさか、爺さんが人じゃなかったのか?」

 

「それも違う…何よりそれなら、爺さんに最初に会った時点で俺は気付けた筈だ…反応の元は爺さんのすぐ横に有る屋敷の入り口だ…戸惑いつつも俺は首を横に向けた…」

 

「……感じたんだ…中から人外の気配を…そして、明らかにソイツは…目の前の男を遥かに超える脅威だと判断出来たんだ…」

 

本当なら…あの日の事はもう思い出したくない…だが…アレを忘れる事など…これから先、一生出来無いだろう…

 

「男の方も中の奴に気付いたらしくてな…俺たちの横を走り抜けて屋敷に入って行った…俺はすぐに奴を追った…爺さんが何か叫んでいた様な記憶も有るが…あの時の俺にはそんな事どうでも良かった…あの男より危険なアレをすぐにでも排除すべきだと…あの時はそれしか考えられなかったんだ…」

 

あの日、爺さんと奴について行かなければ…いや、男が来た事自体は俺にはどうしようも無い事だった…あの時俺は…命を懸けてでも男を村に現れたあの時に始末すべきだった…それさえ出来ていれば…アレは防げていた筈だった……それでも出来無かったのは、きっと奴にビビっていた事だけが理由じゃない…

 

俺の本当の姿を知られて、村の連中に嫌われる事が怖かった…その俺の恐れが、全ての引き金になった…

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