相変わらず残っている死徒を狩りながら、俺たちは長い廊下を走っている…
「今更になるが、左手を殺されてお前は戦えるのか?」
「…本当に今更だな…まぁ、出来るか出来無いかで言えば、多分出来るさ…別に身体に制限の有る殺し合いは初めてじゃないんでね……ん?」
「?…どうした?」
七夜が足を止めたので、仕方無く俺も相手をしていた死徒を殺してから奴の方へ向かう…
「…いや…今のアンタにとっては良い報せでも有るし、悪い報せでも有る……どっちを聞きたい?」
「勿体振るな…さっさと言え。」
「…ふむ、どっちを?」
「…普通両方に決まってるだろ?」
正直急いでいる時にこの回りくどい喋り方はイラッと来る…本当に人の神経を逆撫でするのが好きだな、コイツは…
「では良い報せから…俺の左手が生き返った。」
「!…何?」
「聞こえなかったのかな?アンタに殺された筈の左手が復活したと「聞こえてないとは言ってない、どう言う事だ?」…どう言う事も何も、普通に使えるんだよ…左手が。」
そう言って奴はさっきまで下ろしたままだった左腕を自分の顔の横まで持ち上げ、表裏を見せて来る…あの時は咄嗟だったとは言え、確かに奴の左腕の線をなぞった筈だが…特に問題無く動く様だ。
「…どうなっている…?」
「さて…考えられるとすれば、アンタがしくじって殺し損ねたか…あるいは…そもそも、今の俺を殺す事は直死の魔眼でも不可能なのかもな…つまり悪い報せは…アンタの魔眼がどこまで例のバケモノに有効か、分からなくなったって事さ…」
「…俺がお前の言う通り、鈍ってて殺し損ねただけなのか…もしくは、そもそも今回の一件でこの場に現れてる連中を俺の魔眼では殺せないかも知れない…そう言う事か?」
「ああ。」
成程…確かに、それは悪い報せだ…だが…
「…それは、あくまでさっきお前が言った様に…俺がしくじっただけかも知れない…その証拠に、今殺した連中は復活「アンタ、忘れたのか?」…何を?」
「アンタと俺がさっきまで仕留めてた奴らは恐らく…俺や遠野志貴の様に呼び出された訳じゃない…服装を見るに、コイツらはアンタと同じ元はここの受刑者…あるいは看守たちだろ?アンタが今回の妙な馬鹿騒ぎを起こしてる奴や、そいつに直接呼び出されたモノを殺せる…と言う証明にはならない…」
「…俺には、無理だって言うのか「それは俺にも分からない…だからと言って、諦めるつもりは無いんだろう?」…そうだな。」
もちろん、無理だと言われたからと言って…今更ここでやめるつもりは無い…と言うか、戻る場所はもう無い…俺の居た房は元より、既に我が家と言うべきこの刑務所自体が焼け落ちる寸前だ…俺以外の生存者が存在する可能性が最早絶望的で有る以上…俺がここから脱出すれば、あるいは"噂"が現実になったこの"現象"は死人に口無しと言う事になり…収まるのかも知れないが…俺の仲間も恩人も…皆死徒になるか、あるいは焼け死んだと言う事実は恐らく消えない…そうで有る以上、今の俺に戦わない…と言う選択は取れない…
「仇は取る…暗殺者としては既に有り得ない話なんだろうが、もう俺にそうなるつもりは無い…ただ、この騒動の発端となった人外を殺す…俺は一人の殺人者としてケリを着ける…それだけだ。」
「ふむ…腑抜けるかとも思ったが「仮にそうなったら、お前は俺を見逃してくれたか?」いや?見るに堪えないからな、当然その場で殺したよ。」
「ふん…だろうな…」
お前の魂胆は分かり切っている…
「安心しろ。俺はもう奴の元まで行くまで止まらないさ…と言うか、所詮奴は通過点でしか無い…奴は、既に過去の俺の因縁の相手でしかない…今回の仇…元凶は俺が必ず殺す…まぁ、どうしても俺と殺し合いたいなら…先ずは例のバケモノを殺してからだ…その後やりたくなったら、また向かって来たら良い…」
その時はもうしくじらない…今度こそ、俺はコイツを殺す…
「…分かってるさ、それまでは休戦だ…その後は知らないがな…」
「なら良い…さっさと行くぞ。また邪魔されたら面倒だ…」
「そうだな……七夜。」
「…何だ?」
走り出そうとした俺を呼び止める…これ以上何の用が有ると言うんだ…
「…結局…この件が済んだらお前はどうするんだ?」
「…今まで通り好きにやるさ…」
死ぬも生きるも、全ては俺の自由…俺は、今が良ければそれで良い…