囚われの殺人貴   作:三和

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漸くさっきまで目を引いていた死徒の一団が粗方片付き再び前に歩を進めようとした時、俺の耳に届くものがあった…

 

ポケットで存在を主張するソレを取り出した時、俺はついさっきまで完全に忘れていた人の存在を思い出した…そうか、仮に俺がここから居なくなったとしてもこの人が居る限りこの騒動は恐らく終わらないか…考えが甘かった…

 

俺は手に持った携帯を掲げ、七夜の方に示すが奴は無言で頷き…次に顎で促した。

 

最早その表情から『煩いから早く出ろ』と言われてるのが分かる…俺は携帯のボタンを押した。

 

「もしもし…シエルさん?」

 

『七夜君…今、何処ですか?』

 

「今ですか?今は…取り敢えず所長室へ向かう廊下に居ます。」

 

そこで『七夜』がまたジェスチャーをする…要は『のんびりしてる場合か?動きながら話せ』と言ってるのが分かったので、俺は走り出す……また奴が併走して来るが、もう慣れた…と言うか、コイツを七夜と呼ぶのは良いが…俺も今は"七夜"を名乗ってるしコイツもそう呼ぶんだよな…こんな事でややこしくなるとは思ってなかった…

 

『そうですか…何故、所長室に?』

 

…シエルさんにそう言われ、俺自身勘でそこを選んだが…一応の理由付けを考えてみる…

 

「…タタリとやらはあくまで噂を媒介に、限定的な場所一帯に現出するんでしょう?なら、本体はその一帯で噂の中心となる場所…要は、一番目立つ場所に現れる可能性が有るんじゃないか…そう思いまして…」

 

タタリとは、要は人間たちの知っているデマすら含む形の無い情報を、実際にこの世に現実化させる現象…とは言え、さっきのシエルさんの話から察するに…向こうが出現させるのは人間の恐怖の象徴ばかり…

 

「タタリは元は、一人の死徒が身体を失って現象化したモノ…あくまでも転じてなったソレを"現象"として捉えるから動機や目的が分からなくなる…だから、今までシエルさんたちが発生場所の予測は出来ても元凶そのものは押さえられなかった…違いますか?」

 

『ええ…耳の痛い指摘です…では、七夜君には奴の目的が分かったんですか?』

 

「動機については俺にもさっぱり…ですが、目的は分かりましたし…元凶が最後にどうするのかも分かりました。」

 

『…どう言う事ですか?』

 

俺の言っている事は矛盾している…一般的に動機と目的の意味として、過去何らかの理由が有って行動し始めるから動機…そしてそこに何らかのゴールが存在してそれが目的になるのだ…スタート地点は良く分からないのに、ゴールは見えている…通常それでは話も繋がらない…ただ、コレはとある傾向の有る犯罪者の視点から見れば極普通の事なのだ。

 

「タタリ…いや、今回の騒動を起こしてる死徒のやってる事は単なる愉快犯…つまり、一種の目立ちがり屋です…この類の奴は、世界を舞台に見立て…自分を舞台装置と考えて行動を起こす…自ら動くのと、他人を使う場合と有りますが…結果、やりたい事は同じです…そして、こう言う奴の根幹は結局目立ちたいに尽きる…捕まりたくない癖に騒動を起こした自分の存在は知ってもらいたい、そして…自分の作る作品がどれだけ素晴らしいかを特等席で見て、自画自賛もしたい…」

 

連続放火犯の心理がソレだ…怨恨も無く、縁もゆかりも無い場所に火を付けるのは単に燃え上がる炎が好きとか言う特殊嗜好の奴も居るが、結局はソレを一番見たいのは本人なのだ…なら、答えは簡単だ…

 

「向こうは自分の起こした結果を見てます…きっと、一番目立つ場所で、ニヤニヤしながらね…」

 

バカと煙は高い所が好きとか言うアレだ…もっと俗っぽい事を言うなら、魔王は自分の趣味嗜好を全面に押し出した城の最深部に居るとか言うヤツだ…

 

『だから、ここで一番目立つ所長室…ですか…成程。』

 

今気付いた様な言い方をしているが、一つ…俺としては思う所が有る…

 

「俺のは、思い付きが大半な荒唐無稽な推理ですら無い代物ですが…貴女なら、もっと早くに気が付いて良さそうなものなんですがね…」

 

埋葬機関が長らく奴を追って来た、と言う割にはここまで…それこそ、いくら俺にとって印象的な出来事が多かったとは言え…存在を忘れてしまうまで連絡が無い事自体が既に不自然だ…データが向こうに一通り揃ってる以上…事ここに至るまで、シエルさんが奴の傾向に気付いて放置していたとしか…俺には思えない…

 

日本に出現する、と言う所までは読めていたんだ…いくら島国でしか無く、地図上では国土はそう広くないとは言われても…総人口億単位が暮らせるくらいには実際は広さが有ると言われていてもだ…それなら、わざわざ俺の所にシエルさんが何度も足を運んでいた理由に説明が付かない…そんなに暇じゃない筈だ…奴は目立つのを好む…なら、この国でも華やかな大都市に潜伏してるべきで…そこから離れる事自体が不自然なのだ…

 

少なくとも、こんな…収容人数が全体的に見ればそこまで多くないと言える刑務所に何度も通うのが可笑しい…

 

「シエルさん、貴女はここに奴が現れるのに気付いていましたね?知ってて、放置したんだ…出現した際、俺に奴を殺して貰う為に…」

 

『…はい、私は知っていました…奴がここに現れる、と…』

 

「俺を…利用したんですか…?」

 

『……』

 

「それは、埋葬機関の総意ですか…?」

 

『…七夜君、私は…』

 

生憎、弁解は聞きたくない…俺は言葉を続けた。

 

「シエルさん、俺はここを出ます…出るしかない、もうここには居られませんから…貴女の望み通りです。」

 

『……』

 

「後は俺に任せてここを離れた方が良いでしょう『ですが…』…シエルさん、貴女は俺にとって明確なターゲットになった…まだ死にたくないなら、そうした方が良いと思いますよ?」

 

『私は…』

 

「この場で宣言します…七夜志貴は、今を置いて貴女方埋葬機関…いや、聖堂教会の敵となった…所属する者は、須らく首を取る…」

 

『本気、なんですね…?』

 

「ええ。…昔の好です…今回は見逃します…ですが、次に出会った時…俺は貴女を狩ります。」

 

『分かりました…七夜君?』

 

「…何ですか?」

 

『…身体には気を付けて…また、会いましょう…?』

 

「…敵である俺とまた会いたいなら…貴女も気を付けて…俺が殺す前に死なれても困りますから。」

 

電話を切った…近くの炎の中に携帯を投げ込む…

 

「…で、黙って聞いてたが…満足か?」

 

「ああ…中々面白い展開になったな…埋葬機関にケンカを売るか…」

 

「勝手に俺の居場所を消し飛ばしてくれたんだ…狩るさ…絶対に誰一人逃がさない…」

 

「ま、今は皮算用だな…先ずはこの騒動の元凶を殺してから、だろう?」

 

「分かっている…順番は間違えないさ。」

 

何処かで聞いているんだろう…あるいは、アンタの目的もそれか?何にしても、結果は見られない…俺は、この場でアンタも殺すからな…首を洗って待っていろ。

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