寝不足では有っても…ここは一応刑務所だ…余程体調が悪いとかでは無い限り、勝手に布団広げて仮眠を取ったりとかは出来無い…いつもの様に本を読んでいるとそのままうたた寝してしまいそうだし、ちょうど誘われた事も有ってこうして俺は爺さんと将棋を打っている。
「おっしゃ!王手!」
「…ん?では王を逃がしましょう……ここにしますかね。」
「んなっ!?そこじゃ取れねぇだろ!?」
「取られたら負けるでしょ?」
まぁ眠かろうがどうしようが…手を抜く気にはなれない。遊びでは有ってもコレは勝負なのだ…
「クソ!んじゃあ取り敢えずここに「ハイ、そこはアウト…飛車…貰いますよ?」あっ!?テメェ!」
「騒がない騒がない……怒られますよ?」
さっきも言った通りここは刑務所だ…休日とは言えあまり騒げば当然刑務官から注意される事になる…まぁ休みでは有るし、多少多めに見ては貰えるが。
「……いや、そこも駄目ですって…桂馬も頂きます。」
「クソが!」
「……そろそろ後が無いみたいですけど…まだやります?」
「っ!当然だ!」
「……既に、俺の駒がそっちの陣地に三枚入ってるんですが… 」
俺の駒は完全に爺さんの陣地を侵食しつつ有る…何なら普通に次手で王手に出来る…仮に手心を加えても…後二手で完全に王は取れるだろう…
「…次の対局に移りませんか?」
「待て!ちょっと考えさせろ…」
「どうぞ。」
まぁ、良いか……どう頑張っても負けるなら俺だってそう言うが…実は爺さんは後一手で俺の王を追い詰める事も可能だ…一件完璧に見えるこの鉄のカーテンにも穴が有る…問題は気付けるかどうか、だ…とは言え、ただ待つのは退屈だ…
この爺さん、最初は強気でガンガン打って来るが…今みたいに追い詰められた際に長考に入ると長い……何なら一時間近く悩む事も有る…
「俺は本でも読んでますから、次の手が決まったら呼んで下さい。」
寝てしまいそうだが、このまま何もせず待ってるのも辛い…
「チッ!余裕の表れかよ…絶対吠え面掻かせてやるからな!」
「ええ、出来るなら是非……あ、人に聞いたり駒を勝手に動かしたら駄目ですよ?」
「なっ!?俺がそんな事すると「つい数日前の勝負でどっちも実際にやったじゃないですか」ぐぬぬ…!」
ぐぬぬって…実際に口に出す奴居るんだな…それはそうと、この爺さんは本当に油断も隙も無い…実際分からなかったらこの房の他の受刑者に聞きに行く(基本的には教えないが、ちょっとした賄賂を出せば答える奴もいる…もちろんバレたら懲罰物の話になるが)最もそれだけならまだ良いが、駒をズラすのは俺もさすがに許容出来無い。一応人生の先輩に当たる訳だが、そこまでして俺みたいな若い奴に勝ちたいのかと呆れてしまう…
そんな事を考えながら自分の私物を入れてるロッカーまで行き、本を取り出す……おや、後100ページ程しかページの残りが無いな…この爺さんは俺が読み終わる前に手が浮かぶんだろうか?……まぁ良い、最悪他の奴に一冊借りれば良いか。