囚われの殺人貴   作:三和

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結局あの後爺さんは二時間悩み続け、房仲間に借りた二冊目の本を半分程読んでいた所で俺に声を掛けて来た……正直、将棋の展開より今はこの本の続きが気になるんだが…まぁ仕方無い、か。

 

「どうだ!?」

 

「おお…」

 

とは言え実際に爺さんの打って来た手には驚いた…二時間悩んだだけ有り、爺さんの打った手はちゃんと俺の王にまで届いていた…この爺さん、時々こう言う奇跡を起こすから侮れないんだよな……まぁ勝率は俺が高いとは言え、普通に俺が負ける事も有るから元々爺さんが弱いと思った事は実は無いんだが…

 

「…分かりました、俺の負けです。」

 

「おっしゃ!」

 

俺よりずっと歳を重ねてる癖に、こうやって遊びに本気になって且つ勝ったら子供の様にはしゃぐ爺さんに何処か微笑ましい物を感じる…まぁここまで邪気無く喜ばれれば負けても俺もあまり悔しさは感じない。負けて失う物が無いと言う事も有るが…と、そこで俺に本を貸してくれた奴が声を掛けて来る。

 

「おい、志貴。」

 

「ん?」

 

「……お前、アレまだ勝つチャンス有ったろ。」

 

……声は潜めてくれているからまだ良いが、それでも言わなくて良いだろ…

 

「…向こうが散々悩んで出した答えだ、失礼だとは思うが…さすがに花を持たせてやりたくはなる……と言うか、ここで引かないとまた煩くなるからな。」

 

「お前それが本音だろ…つか、多分無駄じゃないか「おい志貴!何こそこそ喋ってやがる!もう一回やるぞ!」…ほらな。」

 

まぁそりゃもう一回挑んで来るだろうな…ただ…

 

「負けて根に持たれた状態でやるより遥かにマシだ。」

 

「確かに。」

 

結局次の勝負では余裕ぶちかましてた所為か、普通に俺がストレートに負けた…いやはや…本当に色々な意味で油断ならない爺さんだ……で、その後の三ゲーム目は本を貸して来た奴に押し付ける事にした…この爺さんの将棋熱は凄いからな…あまりに執拗い所為で付き合ってくれるのが俺だけのパターンが多いだけで、別に爺さんは俺に拘ってる訳でも無い…すぐに俺からそいつに矛先を変えた。そいつは初めこそ断っていたが、あまりの執拗さに結局折れた。

 

……いや、俺にそんな恨めしそうな視線向けられてもな…大体、俺より強いんだからさっさと終わらせれば良いだろうに。

 

結果…爺さんは何度か挑んだがそいつに結局一度も勝てなかった…(まぁコイツに爺さんはいつも負けてるが…)とは言え本人は元はプロで、そこからアマチュアの賭け棋士に堕ちたとか言ってる奴だから…それが事実なら趣味でやってるだけの爺さんが勝てる道理は無い。

 

……本当の事を言っている保証は無い。こんな場所だ…俺の様に素性を隠そうとする奴が大半の中で、ペラペラ自分の経歴を話す奴なんてほとんどが嘘吐きだ…まぁ一つ言える事が有るとすれば、コイツはこの房の中で一番将棋が強い…それだけは確かな事実だ(そもそも賭博が厳しく取り締まれるご時世にそんな生活が続けられる訳も無い。最も…だからこんな所に居る、とも言えるかも知れないが。)

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