「さて…先ずはレベリングかな?」
僕は茅場晶彦の事を良く知っている。あいつが手を抜く筈は無い。どうせ、外部からの助けは来ないだろう…正攻法でゲームをクリアする以外脱出の方法は無いと考えて良いだろう…全く…ふざけた事を考える…常の状態なら迂闊にこんな世界には来なかった物を…!死んでも良いと思ってはいたけど…あいつが作った物で死ぬなんて冗談じゃない…!
「愚痴っても仕方が無い…運動にはあまり自信が無いんだが…そうも言ってられないか…」
奴が投げ出して、仕上げは僕がしたとはいえ…この世界の大半は奴が作った物だ…取り敢えず完成させる事だけを考えていたからこの状況を打破出来る様な裏コマンドみたいな物は用意して無い…そもそもGMとしての権限も取られてしまった訳だが…そう言えばあいつ、僕がログインするのを読んでいたのか…僕の事はお見通しって訳か…本当にムカつくよ。
「取り敢えずベータテスターに接触しよう…教えを請わない事にはどうしようも無い。」
僕はこのゲームの要とも言えるシステム、ソードスキルの使い方さえろくに分からないんだ…知識としては製作者の一人として知ってるけど実際に使う為にはどうやって身体を動かしたら良いか分からない…
「…ハァ…昔の僕だったら、他人になんて頼らないんだろうけどね…」
本物の天才が何時も傍にいたからか、僕は自分がそこまで優れた人間だとか思ってたりはしない…あいつの自殺を受け止められなかったのはそのせいだ…何が僕の才能に嫉妬した、だ…!それは僕のセリフだと言うのに…!
「まぁ良いか…取り敢えず片手剣を使うならホルンカまで行けば良いか…」
ホルンカの村で受けられる<森の秘薬>クエストの報酬アニールブレードは序盤の武器としては中々強い…強化の仕方にもよるが二層のフロアボスまでは前線で通用する武器の筈…ただ…
「場所が分からないな…」
こんな事なら、僕も他のスタッフの様にベータテストに参加すれば良かったか…あいつらスタッフ権限でベータテスターに混じってゲームに参加してたからな…完全に職権乱用だろ…まぁチャンスがあったのにやらなかった僕が悪いんだろうけどね…
「ん?おや…あれは…」
ほとんどのプレイヤーが混乱している中、迷い無くはじまりの街を走って出て行くプレイヤーを見付けた…背中に背負ってるのは片手剣か…そうだ、彼の後を着けてみようか。
「…速いな…レベルの差が原因か…」
僕がこの世界に来たのはついさっきだ。彼はちゃんと正式サービス開始直後からログインしてレベル上げをしていたのだろう…くそっ…置いていかれそうだ…!
「逃がすか。…僕はこんな世界で死ぬつもりは無いんだからな…!」
何としても見失わないようにしなければ…後で考えれば彼がホルンカの村に向かう保証は無かった訳だが…まぁ彼がベータテスターなのはほぼ間違い無いし、それ程損は無いだろうと思っていた訳だ。